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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第46話 タイタンズハンド


 キリトとリュウキは、橋の先を見ていた。
 いや、見ていると言うよりは、睨みつけている、と言った方がいい。表情がとても険しくさっきまでの2人とは思えないから。
 シリカは、そんな2人を見て 戸惑いを隠せられなかった。

「え……? ど、どうしたんですか?」

 2人が睨んでいる方を見ても、シリカは何も感じないから 不安だった。
 これまでよりも、このフィールドに来た時よりも遥かに。
 シリカ自身も索敵スキルは持ち合わせているけれど、別段何も感じない。ここのモンスターだったら、判っていたのだが。

「そこで待ち伏せている奴……出てきたらどうだ?」
「えっ………?」

 キリトがそう言った。2人が睨んでいる場所。橋を少し超えた先にある木立。
シリカもその辺に目を凝らした。だけど、何も見えないし、感じないのだ。

「……そうだ。さっさと出てきたらどうだ…? 赤髪の女」

 リュウキも……腕を組みながらキリト同様に言う。
 どうやら、誰がいるのか、もうはっきりとわかっているようだ。

「あか……がみ……?」

 シリカはその言葉に驚きを隠せない。
 《赤い髪》《女》
 そんなプレイヤー……今は、1人しか思いつかなかった。とても、嫌なプレイヤーだけしか。

 そして、シリカの その嫌な予感は的中した。
 リュウキが言った直ぐ後に、木立から出てきたのだ。

 そのリュウキの言うとおり炎の様な真っ赤な髪。同じく赤い唇。黒いレザーアーマー、そして槍を装備している女プレイヤーを。

 会いたくも、見たくもないプレイヤー。

「ろ……ロザリアさん……!? なんで……こんなところに……?」

 瞠目するシリカの問には答えずロザリアは薄ら笑いを浮かべていた。

「ふふ、アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、お2人さん。少し侮っていたかしら?」

 そこで、漸くシリカの方へと視線を移していた。

「その様子だとどうやら、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね? おめでと。シリカちゃん」

 シリカは、ロザリアの真意がわからない。シリカは、思わず本能的に後退っていた。
 その表情に、言動に 嫌な気配を感じたからだ。

 それは、モンスターのそれを遥かに凌駕する様な歪な気配だった。そう、1秒後その直感を裏切らないロザリアの言葉が続き、シリカを絶句させることになる。

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
「なっ……!? 何を言っているの……?」

 シリカは、その言葉にもそうだが、ロザリアの全身から得体の知れない恐怖感に襲われていた。あの時は正面から啖呵を切れた筈だった。なのに、今は全く言葉が出て来ない。
 本当に、何も出来ないのだ。あの時とは気配がまるで違う。
 ロザリアから心底嫌な感じがするんだ。

 そんなシリカの肩を掴み……自分の後ろへと隠すリュウキ。シリカを庇う様に、あの女から遠ざける様に。

「それはいかないな。これはこのパーティで得たものだ。無料(ただ)でやるわけないだろ?……まあ、アンタにゃ 何言われても渡さないがな」

 リュウキは、ロザリアにそう言い放った。あくまで余裕のある表情を全く崩さないリュウキ。

「へぇ……。そう」

 ロザリアは、その怪しい笑みを崩さなかった。
 だが、次のキリトの言葉を訊いた後は、そうはいかなかった。

「そう、リュウキの言うとおりだ、このアイテムは、今 この子に必要なものなんでね。ロザリアさん。いや――、犯罪者ギルド≪タイタンズハンド≫のリーダーさん、と言った方がいいかな?」

 キリトのその言葉で笑みが、完全に消え眉がピクリと上がった。


 SAOにおいて、盗みや傷害、あるいは殺人といったシステム上の犯罪を行えば、通常緑のカーソルからオレンジへと変わる。
 それ故にその色を持つ者は、《オレンジプレイヤー》と呼ばれる……即ち犯罪者の名称だ。

 そして、その集団をオレンジギルドと通称する。その知識はシリカも知っている。以前にも大きな事件があって、その情報は出回っていたからだ。
 だが、自分自身は実際に見たことがない。だけど……、眼前にいるロザリアのカーソルはどう見てもグリーン。そもそもオレンジであれば、街に入る事さえ出来ないのだ。

 リュウキは、シリカのそんな気持ちが判ったのか。

「……ああ言う連中は、ずる賢さだけは人並み以上だ。全員が犯罪者カラーじゃない場合がある。グリーンメンバーが街で獲物を品定めする場合がある」

 リュウキが説明をした。ロザリアのカーソルが緑だから、シリカが混乱したのが判ったからだ。そして、キリトが続く。

「パーティで紛れ込んで待ち伏せポイントに誘導するんだ。昨日のオレ達を盗聴してたのもアイツの仲間だろう」

 そう答えていた。
 そして、それを黙って聞いていたロザリアの顔。それを見て、シリカは、何処か、頭の何処かで考えていた事が 間違いない事に気がついた。
 
「まさか……、この2週間同じギルドにいたのって……?」

 そう、ギルドに所属している様な人物が、それもリーダーをしている様な人物が別のギルドにいるなんて、有り得ない。だが、そのギルドが犯罪者ギルド(オレンジギルド)であれば、話は変わってくる。

 ロザリアも、シリカの考えが判った様で、怪しい笑みを見せながら言った。

「そうよォ。あのパーティの戦力を評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金が溜まって、美味しくなるのを待ってたの。本当なら今日にもヤっちゃう予定だったんだけどー」

 シリカの顔を見つめながら、ちろりと舌で唇を舐めた。行動の一つ一つが嫌悪感を呼ぶ。

「一番楽しみな獲物だったアンタが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテムを摂りに行くって言うじゃない? それに、今が旬だからとってもいい相場なのよね。《プネウマの花》は。情報はやっぱり命よね~」

 そこで、言葉を切りリュウキ、そしてキリトの2人の顔を見た後。

「でもさぁ……そこまで気がついててノコノコその子に付き合うなんて……馬鹿? それとも身体でたらしこまれちゃったの? アイドルちゃんだからね~?」

 そのロザリアの侮辱に シリカは視界が赤くなるほど憤りを覚えた。思わずシリカは、短剣を抜こうとしたが、リュウキに肩を掴まれた。

「いや……どっちでもない。本当は1人での筈だった。だが……この男とオレはどうやら、仕事がバッティングしたようなんだ」

 キリトの方に視線を向けるリュウキ。

「はぁ? 仕事?」

 ロザリアはその意味、それがわからないようだった。

「そうだ。アンタ、10日前に≪シルバーフラグス≫って言うギルドを襲ったな? メンバー4人が殺されて、リーダーが、そして街で待機していたプレイヤーだけが生き残った」

 それは、思い出しても胸糞悪い事件だった。
 泣きながら……必死に頼み込んでいた彼女を考えると更に憎悪を呼ぶ。

「……ああ、あの貧乏な連中ね?」

 ロザリアは頷いた。

「オレは、街に残っていた彼女から。コイツはリーダーから、其々依頼された。泣きながら毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で仇討ちをしてくれる奴を探していた」

 シリカはこの時……リュウキのその凍てつくかのような言葉の雰囲気にゾクリとした。それは、隣にいるキリトの表情からも感じる。2人に触れるものは全て切り刻む鋭利な刃物の様な気配を感じる。
 
 あの優しかった、そして初々しいとまで思った姿はもう何処にもなかった。

「……それにな、そいつらは共に言ったんだ。アンタ等を殺さず、黒鉄宮の牢獄へ入れてくれってな。―――あんたに奴の気持ちが解るか?」

 仲間達を殺されたのに、相手は殺さないでくれ、と言った。例え、許されない相手でも、殺したいとまでは思わなかった様なのだ。

「わかんないわよ」

 めんどくさそうにロザリアは答えた。

「何? マジになっちゃって馬鹿みたい。ここで人を殺したって ホントにその人が死ぬ証拠なんてないし。そんなんで 現実に戻ったとき 罪になるわけないわよ。だいたい、戻れるかどうかもわかんないのにさ。正義? 法律? 笑っちゃうね、アタシそう言う奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈を持ち込む奴がね」

 ロザリアの目は凶暴そうな光を帯びた。

「んで? あんた、その死に損ない共の言う事真に受けたの? それでアタシらを探してたわけだ。それもたった2人でギルド1つを? ははっ、随分と暇なんだねー。それに……」

 ロザリアはリュウキへ視線を送ると

「そう言えば、以前のアンタのあからさまな挑発。あれって、この時の為だった訳だ。万が一、アタシがシリカちゃんを狙わなくならないように、自分にも憎悪を植え付けようとしたわけ? ふぅん馬鹿だけど、割と計算高いわね~? 可愛い顔をしてさぁ。 まあ、アンタ達2人のまいた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど、たった2人で何とかなると思ってんの? あたし達、《タイタンズハンド》をさぁ……?」

 ロザリアの唇が歪む。
 そして、卑しい笑みを浮かべ……右手の指先が素早く二度中を仰いだ。それが合図だったようだ。途端に向こうへ伸びる道の両脇の木立が激しく揺れた。その瞬間には次々と人影が現れた。

 その殆どのプレイヤーのカーソルがオレンジ。

シリカから見れば、禍々しい色だった。その数、総勢15人。絶望的だと、頭を過ぎった。

 その殆どの男は、ニヤニヤと卑しい表情を浮かべていたのだ。これから行う事、それがどうしようもなく好き。他人の不幸が大好きで快楽。
 まるで、人を人と見ないような表情だ。

「に……人数が多すぎます……脱出しないと……」

 2人に挟まれるように守られているシリカが小声でそういった。
 この距離なら……直ぐに転移結晶を使って……テレポートまでの時間、何とか逃げれば……と思っていたのだ。だけど。

「大丈夫だ」

 リュウキは、そう言うと、キリトの方を向いた。

「……キリト、こいつらオレにやらせてくれ」

 リュウキは、キリトにそう言った。表情は全く変わらない。でも、その内に内包しているモノは、全く別モノだった。
 それはシリカには、はっきりと判ったし、見えた。

 キリトは頷く。

「シリカと、あいつらの逃亡防止だけ、警戒してくれれば良い」

 そう言うと、剣を取り出した。それは、さっきまで使っていた片手剣じゃない。それは両手剣だろうか? と思える程、凄く長い剣だった。
 シリカは見た事がない武器だと目を見開いた。でも、それでも不安は高まるばかりだ。

「そ……そんなっ! たった1人でなんて……無茶ですっ!」

 シリカは小声を心がけていたんだけれど、ここではつい大声になってしまっていた。

「……大丈夫だ」

 そう言うリュウキの表情。その瞬間だけ……優しさが出ていた。いつもの優しさが。

「何かあったら、オレも行くから安心してくれ。ただ、転移結晶だけは準備していてくれよ?」

 キリトもシリカの頭の上に手をぽんと置く。

「で……でもっ!」

 シリカは、まだ心配だった。
 相手はオレンジ。口ぶりから察するに、プレイヤーの命をなんとも思っていない凶悪な相手。そして人数が人数だったから。

「あいつ……たった一人でオレ達を相手しようってか?」

 その会話を1人聞いていた聞き耳スキルが高いグリーンの男が薄ら笑いを上げながら皆言う。その1人で相手をするということを聞き、皆が笑い上げていた。脱出の方法を必死に模索するのがいつものパターンだったけれど、囮なんて行動をとるなんて、今までなかったからだ。

 歩み寄っていた男達は脚を止め、1人で歩いて来るリュウキを見て暫く下衆な笑みを浮かべていのだった。


 
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