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大人の階段登る君はビアンカ……

作者:あちゃ
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心からの安息、押し寄せる不安

<山奥の村>


私達一家がこの村で暮らし初めて6年の歳月が流れ過ぎた。
この村の名前は『山奥の村』……
思わず『変な名前ね!』と言った事がある。

そうしたら村の人が教えてくれました。
正式な名前は『温泉で超有名な山奥にある村』と言うらしいのだが、皆さんも長いと感じたみたいで、いつの間にか省略されていたと言う……

こんな事を思う私が変なのかしら……
名前が長いと思った時点で、『アルカパ』とか、『サンタローズ』とか、それらしい名前を付ければ良かったのでは?
……私の考え方が間違っているのかしら?


そんな山奥の村にも馴染む事が出来た我が家。
出来上がったばかりの水門管理を率先して行ったのが効果的だったのだろう。
とは言え、体の丈夫ではないお父さんだけで水門管理をするのは無理な為、最近では殆ど私が管理している。

今日もこれから水門を開けに行く……
空の様子を見ると、近々雨が降りそうなので上流の水位を下げておく必要があるのよ!
水門までは私の足で片道3時間弱……
水門での作業時間を入れても、往復8~9時間かかるの。

村から外に出ればモンスターも現れるし、最初の頃は家族総出での大仕事だった……しかし、私も随分と成長した。
今では1人でこなしているのだから。
そんな訳で、別に1人でも問題ないのだが、今日に限ってイディオタが一緒に行くと言い出したわ。

『イディオタ』とは、この村で生まれ育った私と同い年の男の子。
初めて会った時は、私の事を都会育ちの世間知らずとバカにしてきた……
当時の私はそれどころでは無かったので、完全に無視をしていたのだが、温泉宿のおばさんに『イディオタはアンタに気があるんだよ。許してやってね』と言われて、初めて惚れられている事を知った。

正直そんな想いを寄せられても、迷惑以外の何物でもないので、釘を刺しておこうと思い『アンタ、私の事好きなの? 私、心に決めた男の子が居るから、諦めてね! アンタより可愛くて、アンタより格好良くて、アンタより強いんだから……私の事は諦めてね!』と言ってやったのよ。

そうしたら泣きながら『ふ、ふざけんな! だ、誰がお前みたいなブスに惚れるかよ! 自惚れてんじゃねーよ!』と逃げていってしまった……
それ以来、村で出会っても視線を合わせず、挨拶すらしてこなかったので、諦めた物だと思い放っておいたのだが……
ここ2.3ヶ月して向こうから話しかけてくる様になったのだ。

話しかけられて無視するのも失礼な事だし、礼儀知らずな娘と思われるのは嫌だし、すれ違う度の挨拶とかはしていたのだが、今日急に『1人で水門まで行くのは危ないから、俺が一緒に行ってやるよ…俺は強いからな!』と、強引に付いてきたのだ。


さっきも言ったが私の足で片道3時間弱……この数字は、モンスターと戦闘する事を考慮に入れての数字だ。
だがイディオタと共に水門まで向かうと、5時間はかかるという不思議な現象が起きたわ!

『俺は強いからな!』だと!?
『ランスアーミー』の集団に追い回されたり、『笑い袋』のメダパニにアッサリかかったり、居るだけで足を引っ張る邪魔な男……

私の手伝いをする為に付いてきたはずなのに、私の仕事を増やしてどうするんだ!?
途中で『帰れ!』と言いたかったが、私と別れたりしたら生きて村まで帰れないろうと思い、言うに言えず5時間かけて水門まで連れてきてしまった……
因みに到着した時イディオタは『どうだ…俺と一緒だったから何時もより早く到着しただろ! ふふふ…礼には及ばないぜ!』と言いやがった!

さらにコイツの役立たずっぷりは続いた。
1日仕事の為、お弁当を用意して水門まで来る必要があるのだが、あろう事か奴は手ぶらだった!
最初は現地調達をするのかと思っていたのだが、このバカにそんな事が出来るとは思えない。

何時もなら到着して直ぐに水門を開け、放水している間に昼食を1人で取るのだが、今日は予定が変わった……
無理矢理付いてきた男はお弁当を持ってきてないので、私のお弁当を分けてやる事に……
一応言うが、水門を開ける作業は私1人で行った……奴はボーっと見てただけ!
なのに私のお弁当を分けてやるのだ…

放水には時間が掛かる。
一気に放水すると、下流の町に被害が出てしまうので、少しずつ上流の水位を下げるしかない。
つまり、水門を少しだけ開けて水位が下がるのを確認しながら、ただひたすら待つしかないのだ。

私1人の時はそれでも良い。
今日の晩ご飯を考えたり、成長したリュカの事を想像したりして時間を潰せるから……因みに、大自然の中でリュカの事を妄想して行う一人エッチは結構良い!

だが今日は違う……
邪魔な男が意味無く居る。
私のお弁当を半分以上食べた男が、必要ないのにココに居る。

コイツ何なの? 何で付いてきたの?
私が放水の見える岩に腰掛けて、この事態について考えていると、イディオタは私の隣に勝手に腰掛け、自身の事を語り出した。

「俺……来月になったらサラボナへ行こうと思ってるんだ。向こうで仕事を探して、でかい男になるつもりなんだ!」
でかい男って何!? 来月とは言わず、今すぐどっか行ってほしいわね!

「なぁビアンカ……俺と一緒に来ないか?」
「はぁ!?」
何で私がコイツと一緒にサラボナに行かなきゃならないんだ?

「あんな田舎は俺達には似合わないと思うんだ! 俺と一緒にサラボナに行って結婚しよう! 今日、俺の勇姿を見ただろ!? 都会に行けば兵士や警備の仕事があると思うんだ……俺なら直ぐに偉くなれる。そうしたらお前にも楽な暮らしをさせてやるよ! なぁ、どうだ? 俺とお前ならお似合いだし、きっと上手くいくと思うんだ!」

何なのコイツ……何でそんなに自己採点が甘いの?
アンタの今日の行動を見て、惚れる女がこの世に居ると思ってるの? まぁ思っているから言ってるんでしょうね……

「おいビアンカ、そんなに恥ずかしがらなくたっていい「あんたバカなの?」……え!?」
私の肩を抱いてきたイディオタに向け、冷たく言い放つ私……
以前(まえ)にも言ったでしょ! 私には心に決めた男の子が居るの! (リュカ)の方がアンタより100万倍格好いいし、1億倍強いのよ! ランスアーミー如きで逃げまどい私の足を引っ張る様なアンタなんかより、ずっと魅力的なのよ!」

私はイディオタの手を振り払い、立ち上がり離れて言い放った。
往路の疲労と空腹により、些かキツイ口調だったとは思うが、このバカにはこれくらい言わなきゃ分からないだろう。

「な、何だよ……お前だって俺に惚れてんだろ? ツンデレぶるのはよせよ……似合わないぜ!」
ダメだ、バカには何を言っても伝わらない……
何で自分の都合の良いようにしか考えられないんだろう?

「アンタ言葉の意味を知ってるの? 私が何時アンタにデレたのよ!? ツンしかないでしょう!」
「おいおい……俺に自分の弁当を分けてくれたじゃんか!」
それが“デレ”かよ!?

「はぁ!? アンタがお弁当を持ってこないからでしょ! 私、今空腹で苛ついてんのよ! 馬鹿な事を言ってないで、さっさとサラボナにでも行きなさいよ!」
もういい加減苛ついてきた私は、メラミでコイツを消し去りそうな欲求に駆られている。

「ふっ……そんな空腹は、俺の愛で満たしてやるよ!」
全く持って面に似合わない台詞を吐きながら、私に近付くと力任せに押し倒す!
「ちょ……ふざけないでよ! 今すぐ退きなさいよ!」

「安心しろ……最高の一時にしてやるよ!」
そう言い、私にキスをしようとしてきた!
私は慌てて奴の顔を両手で押し返そうと試みる……が、流石に力では敵いそうになく、奴の顔が近付いてくる…
ぐっ……こ、この!!
「メラ!」

「ぎゃぁぁぁ!!!!」
遂に私は魔法を唱えてしまった。
だが我慢できなかったのだ!

私の上に覆い被さり、私の唇を無理矢理奪おうとするこの不男(イディオタ)が!
顔面に私のメラを喰らい、地面をのたうち回るイディオタ……
その隙に私は奴から離れると、ある程度距離をとって身構える。

「て、てめー……何しやがる!」
「それはこっちの台詞だ馬鹿!」
顔に大火傷を負ったイディオタが、苦しそうに立ち上がり私に向けていきり立つ……だが私も、両手にメラミを灯して、このバカに向かい怒りを露わにする。

「うっ…」
イディオタはあからさまに、私の怒りに怯んでいる。
「な、何だよ! 何時までも死んだガキの事を妄想しているイタイ女に、同情で告白してやったんだろ! ふん、そうやって何時までも男を遠ざけてろ……○○○に蜘蛛の巣が張って、誰も相手にしてくれなくなっても、もう俺は知らねーよ! オ、俺はサラボナに行って大物になるんだ。あん時、俺の女になっとけば良かったと後悔したって遅いんだからな!」
イディオタは火傷した顔を押さえ、泣きながら私に対し喚き散らす。

「あ゛!? うるさいわね……何処の誰だか分からなくなるくらい、黒こげの死体にしてやりましょうか……あぁ?」
両手に灯したメラミの威力を強めて、奴に対して睨みを効かす。

「今すぐここから失せろ! 村にでも、サラボナにでも、どっちでも良いからこの場から失せろ! 私はお前みたいなバカの相手をしている程、暇人じゃないのよ!」
私は言い終わるより早く、1歩踏みだし威嚇する。

「く、くそー! い、一生男と縁遠く生きていろバ~カ! この行かず後家!」
イディオタは知能の低そうな捨て台詞を吐いて、泣きながら村の方角へと逃げていった。
いっそモンスターに襲われて、そのままくたばれば良いのに…



そして私は1人きりになった……
放水の見える岩に腰掛け、自分の膝を抱き抱え涙する。
リュカは死んでない…リュカは必ず生きている……
その事が、私の心の支えなのだ。

あの馬鹿(イディオタ)は、私の事を『何時までも死んだガキの事を妄想しているイタイ女』と罵った……
でも私は……世界中で私だけは、リュカの無事を信じなければならない。
リュカの死体をこの目で見るまでは、私だけは信じ続けなければならないのだ。

私はリュカが大好きだから…
リュカの事を愛しているから…



 
 

 
後書き
ジャイー、ナール、オーリン、そしてイディオタ……
この4人でチーム組んで大冒険して欲しい。
名付けて「おバカルテット」
きっと素敵な夢を見れる。 
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