占術師速水丈太郎 ローマの少女
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第九章
第九章
「放っておけば普通の人達にまで犠牲者が出ます」
「ですから」
「すぐにでも動くべきだと思いますが」
「それはいいと思います」
アンジェレッタはまずは賛同の意を示してきた。
「ですが」
「ですが?」
そのうえで異を呈してきた。そこに何か考えがあるといったふうであった。速水は彼女の次の言葉を待つことにしたのであった。
「迂闊に動くことはかえって事件の解決を妨げることになると思います」
「事件のですか」
「はい」
そのうえで応えてきた。
「それはどうされますか」
「一つ手段があります」
「それは何でしょうか」
「これです」
応えると懐から何かを出してきた。それは軽くて薄い、アンジェレッタにも、いや多くの者が見覚えのあるよく知られたものであった。
「それは一体」
「カードです」
速水はこう答えた。
「カードですか。まさかそれは」
「はい、思われる通りです」
その返答にも淀みがない。声には笑みすら感じられた。それは彼が生業に使っているタロットカードであった。今懐から出してきたのである。
「これを使います」
「占われるのですか?ここで」
「いえ」
だが今度は否定した。そのうえで動く。
「御覧下さい」
そのカード達が自然に舞い上がる。そして一枚一枚それぞれの方角に飛び隙間から消え去っていく。そのまま全てのカードが何処かへと消えてしまっていた。
「大アルカナと小アルカナ、どちらも使いました」
全てのカードを放ち終えたうえで述べた。
「それでローマを御覧になられるのですか」
「はい、まずは網を張ります」
速水は言う。
「それがカード達なのです」
「貴方の目というわけですね」
「はい」
速水はこくりと頷いた。
「彼等が必ずあの少女を見つけ出してくれることでしょう」
「では私も」
アンジェレッタも彼の動きを見てから動きはじめた。
「見るとしましょう」
「貴女も目をお持ちですか」
「ええ、貴方のカードとは少し違いますが」
アンジェレッタの前に何かが浮かび上がってきていた。それは丸い、透明な球体であった。これもまた多くの者が見覚えのあるものであった。
「水晶ですか」
「私の占いはこれを使います」
彼女は述べた。その独特の声域で。
「これが全てを私に教えてくれるのです」
「成程」
「魔性を感じて。その場所を」
「私のカードより便利なようですね」
「そういうところもあるでしょうね」
速水の言葉を否定も肯定もしなかった。そこにも彼女自身の何かしらの考えがあるようであった。二人は今慎重に言葉を選んでいた。
「ですが一つしか見られないので」
「一度には無理ですか」
「そちらのカードは全部見られるんですよね」
「はい、彼等が教えてくれます」
速水は答えた。
「何かあれば」
「左様ですか。ところで」
「はい」
ここでアンジェレッタは問いを変えてきた。
「貴方はこのローマにこの少女が間違いなくいると考えられていますね」
「他には思いつきません」
真摯な顔と声でそう述べた。実際にそれ以外は今の彼には考えがつかなかったのだ。
「何故なら事件の全てがこのローマで起こっているのですよね」
「その通りです」
「ならば。そうではないのでしょうか」
彼はそう答えた。
「やはりここにいると」
「確かにあの少女はこの街にいるでしょう」
アンジェレッタもそう見ていた。速水と同じ見解である。
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