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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第二話

「…なんで俺なんですか?」


俊司は何かを悟ったのか、ため息をつきながらそう言った。


「生前は作戦を考えるのが上手だとうかがっていましたが?」

「上手って言うわけじゃないんですけど……俺が提案するのは、外の世界でも頻繁に使われてるような作戦ですよ。皆さんでも簡単に考えられますし」

「でも、私たちは普段そんなことをしないでしょ?だから、あなたが考えたほうがいいんじゃない?」

「それもそうだねぇ。あたいらが勝手にやっても、完璧にやり切れる保証なんてないし、ある程度知識を持ってる人がいれば、成功率は上がるからねぇ」

「はあ……」


軽く相槌をうった俊司だったが、もう俊司が作戦を考えると決まっているらしく、そんな雰囲気を作り出していた。


「……わかりました。少し時間をもらってもいいですか?」

「五分でいいですか?」

「十分です」


断ることもできず俊司はため息を出しながらも承諾すると、その場に座り込んで作戦を考え始めた。


「ほんとにいいのかい? あの子だけで」

「はい。霧の湖・再思の道での攻略戦は、すべて彼が作戦を考え成功させています。永遠亭を襲撃された時でも、彼は勝利に導いていましたから」

「へぇ。なら、少しは期待させてもらおうかな」


そういって俊司を見ていた勇儀は、じっと見つめた後なぜか笑みを浮かべていた。







(まずは情報の整理か)


とりあえず、情報の整理を行わないと話は進まない。俊司は、今自分たちが置かれている状況を考えながら、作戦の土台を作り始めていた。

まず、ここにいる仲間は俊司を含めて十一名。霧の湖に行ったときよりかは、若干多い人数になっている。

地霊殿およびその周辺の旧都に滞在している兵士は、今のところ確認ができていない。だが、主要な拠点であれば、大規模な施設とそれなりの兵力は必要になるはずだ。

問題は軽率な行動ができないということ。地霊殿に捕らえられている妖怪は人質となっているらしく、行動がばれてしまえば彼らを盾にされる可能性もないことはない。そうなってしまえばなすすべもない。


(やっぱり潜入して工作するしかない……)


潜入の作戦は霧の湖で一度行っているため、ある程度骨組みは組みやすい。問題は当時と面子が違うということと、前科があるということだ。

前科があれば、相手側もそれ相応の対応をしているにちがいない。となれば、多少無理をして突破しようとすると、発見されてしまうリスクが高まってしまう。これまで以上に慎重に行動しないといけないだろう。

そうなれば、人数も最低限で行ったほうがいい。大人数だと、やれることは増えるだろうが、今回はリスクが大きすぎる。

となると、潜入する面子を選出しないといけないのだが、ひとつ大きな問題点があった。


(人の能力を受け付けない相手……か)


パルスィが言っていた能力を受け付けない兵士。そいつに見つかってしまえば、潜入はかなり困難になってしまう。

だが、それ以前に気になる点があった。


「パルスィさん、ちょっといいですか?」

「……なに?」

「能力を受け付けない敵と実際に会ったのは誰ですか?」

「私とあの子だけよ。二人とも能力を使ったけど……対処できなかった」

「……そうですか。ありがとうございます」


確かに能力を受け付けないのは事実らしい。だが、俊司にはひとつ疑問が浮かび上がっていた。


(本当に……全員の能力を受け付けないのか? もしかしたら……)

「俊司君」

「えっ……あ、はい」

「五分経ちましたよ。どうなりましたか?」

「もう五分ですか……一応できてます」

「わかりました。じゃあ、説明してもらいましょうか」

「はい」


俊司は全員が集まるなり、作戦の説明を開始した。


「とりあえず……少人数で潜入して安全を確保してから、一気にたたく形で行きたいと思います」

「安全……人質を解放するってことですか?」

「具体的にはそうですね。あと、少人数で行くのは、これだけの人数だとすぐにばれてしまう可能性があったからです」

「まあ妥当ね」

「はい。それで、潜入のメンバーですが、俺と小町さん・萃香さん・メディスンさん・こいしさんの五人で、後の人は付近の見つからない場所で待機しておいてください」

「じゃあ、待機してる間は何をすれば?」

「騒動が起きたら暴れてください」

「ざっくりね……でも嫌いじゃないわ」


と言って幽香は笑っていた。


「とりあえず、見つからないことを優先的に行動してください。見つかった場合は作戦を中断してここに戻ってきましょう。潜入チームはとにかく人質を解放することを目標にします。余力があれば、さとりさんとの接触を試みたいですね」

「わかったわ」

「では、はじめましょうか」


一通り説明を終えると、俊司たちはすぐさま行動を開始していった。






そのころ、地霊殿では例の部屋で男が誰かと連絡を取っていた。


「紅魔館で戦闘? 相手は? 八雲紫ですか……。援軍? 馬鹿言わないでくださいよ。こちらも警戒を最大限にしてるんですから」


どうやら男は地上と連絡を取っているようだった。


「前にも報告書を送ってあるはずですが、別行動をしている勢力があると言いましたよね? そちらに八雲紫が向かっているのであれば、こちら側もかなり危険なんですよ。援軍を呼ぶなら天界の本拠地からお願いします。では」


男はそう言うと、半ば強引に電話を切った。


「上層部も自分の拠点さえよければどうでもいいんですかねぇ。この施設が落ちれば、兵器やチップの開発もままならないと言うのに」


男も、上層部の無茶苦茶なやり方に頭を抱えているようだった。

そうこうしていると、ノックとともに一人の兵士が中に入ってきた。


「失礼します。霊烏路空と火焔猫燐の配置が完了しました」

「ごくろうさまです。主さんは?」

「以前と部屋の中に引きこもってます」

「彼女も動いてくれると助かるんですが、まあいいでしょう。予定通り、両二名の戦闘準備は整えて置いてください。あと、人質の見張りは少なくしておくように」

「よろしいのですか?」

「かまいません。もし彼らが来るのであれば、真っ先にそこに向かうでしょう」

「了解しました……」


兵士は一礼すると、そのまま部屋をあとにした。


「さて、問題は報告にもあったEMPについてでしょうかね」


男は一枚の書類を見ながらそう呟いた。


「……再思の道で起きた戦闘では、クルト大尉の殉職と引き換えに里中俊司の殺害に成功したと聞いていましたが……どうもひっかかりますね」


再思の道での出来事は、地霊殿まで届いていた。そのときの報告にはクルトの死体は確認できていたが、里中俊司の死体は発見できず、彼に関する遺品すら発見できなかったという内容だった。

だが、今回地上で風見幽香の捕獲作戦の際、EMPが使われたことがどうも引っかかっていた。相手の外来人には元革命軍の兵士もいるが、彼は普段前線に出ていないうえEMPを作り出す技術があるわけでもない。

ほかの外来人がいたと考えるのが妥当だが、男はそれ以外の可能性を考えていた。


「……確信はないのでわかりませんが、もしそうだとすると……厄介ですね」


そう言って男は、また書類を整理していた。







地霊殿付近


別行動をはじめて数分後、俊司たちは地霊殿のすぐ近くまで来ていた。

幸い道中で革命軍との接触を避けることはできたが、どうやらここから先は接触なしでの行動は難しそうだった。


「さて、ここからですね」

「どうするんだい? ここからはあいつらが見張ってるようだし」

「潜入自体は難しくなさそうですけどね……準備はいいですか?」


俊司がそう尋ねると、四人はなにも言わずにコクリとうなずいた。
 
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