| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

銀河英雄伝説~悪夢編

作者:azuraiiru
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十六話 たまには無力感を感じてくれないかな



帝国暦 487年 1月 4日  ティアマト星域  旗艦ブリュンヒルト エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



旗艦ブリュンヒルトの艦橋は戦闘中とは思えないほどの静かな沈黙に包まれていた。クライスト、ヴァルテンベルクに対して三度に亘って出された後退命令は全て無視された。それ以降は一切ブリュンヒルトからは命令を出していない。抗命罪まで出して命令に従う事を求めても従わないのだ。これ以上は何を言っても無駄だろう。

クライスト、ヴァルテンベルクからも連絡はない。後は連中を処罰するだけだ。司令部要員もそれが分かっている。だから誰も命令違反について話そうとしない。ただ黙って戦況を見ている。第十一艦隊に叩きのめされるクライスト、ヴァルテンベルク艦隊を……。そしてヴァレリーは時々俺の顔色を窺うが敢えて俺は無視している。予想が当たっても全然嬉しくない。

皆冷たい視線で戦況を見ているな。どう見てもあれが味方だとは思っていないだろう。まあ仕方ないな、命令無視で損害だけを出しているんだ。馬鹿共が馬鹿をやっている、そんな気持ちだろう。リップシュタット戦役で貴族達が負けたわけだよ、まともな脳味噌を持っていれば一緒に戦うのが嫌になるだけだ。俺なら絶対に御免だな。

グリンメルスハウゼンも指揮官席で大人しく座っている。爺さん、大丈夫か? 無力感とか感じてるんじゃないか。まあ今回は特別だからあまり気にする必要は無いさ。いや、無力感を感じて軍を退役してくれても全然良いぞ。それならあの馬鹿共も存在価値が有ったと言えるだろう。俺だけじゃない、帝国軍三長官も認めてくれるはずだ。

クライスト、ヴァルテンベルクは同盟軍第十一艦隊の馬鹿踊りに躓きながら一緒に踊っている。そして無意味に叩きのめされている。ホーランドは自信満々だろうな、帝国軍を一方的に叩いているのだから。帝国征服の夢でも見ているかもしれん。そしてビュコックは顔を顰めているだろう。彼にとっては刻一刻と敗北が近づいている気分の筈だ。

馬鹿げているな、自分の能力とは関係ないところで勝敗が決まってしまう。不本意の極みだろう。俺も不本意だ。本当ならもっと楽に勝てた、それなのに……。グリンメルスハウゼンでは統率力に期待が出来ない。ミュッケンベルガーの半分でもいいから総司令官としての威が欲しいよ、そうであればもっと楽が出来るのに……。

愚痴っていてもしょうがないな。そろそろ開戦から四時間か、準備をした方が良いだろう。グリンメルスハウゼンの傍から離れ参謀達の傍に寄った。参謀達が何事と言った表情で俺を見た。
「短距離砲戦の準備をした方が良いかと思うのですが卿らは如何思いますか?」

参謀達が顔を見合わせた。言葉は無い、目で会話している。ややあってアルトリンゲンが答えた。
「宜しいかと思います」
うん、まあ当然の答えだ。参謀連中の傍を離れグリンメルスハウゼンの傍に戻った。

「元帥閣下、短距離砲戦の準備をしたいと思います。許可を頂けますでしょうか?」
「短距離砲戦?」
爺さんが不思議そうな表情をした。頼むよ、今俺が皆に訊いてたろう。指揮官席からでも十分に聞こえたはずだ。少しは俺のやる事に関心を持って聞いててくれ。

「あの跳ね回っている艦隊を攻撃するには短距離砲戦に切り替えた方が得策だと思います」
「おお、そうか。分かった短距離砲戦の準備を」
「はっ」
無力感感じて辞めてくれないかな。いや、その前に俺がもう辞めたいんだけど。最近無力感が凄いんだ……

オペレーターに指示を出したけど参謀連中は皆呆れていた。これって問題あるよな、そろそろ限界だ。何とかしてもらわないと……。オーディンに戻ったら上に直訴してみるか。この状態で総参謀長は全くもって罰ゲームだ。いかんな、埒もない事ばかり考えている。この後の手順を考えよう。

ホーランドの艦隊の動きが止まった時点で主砲斉射三連だ。原作では二回だがこっちは三回だ。ホーランドの艦隊を完全に叩きのめす。そしてクライスト、ヴァルテンベルク艦隊に追撃は不要だと命令しよう。多分無視するだろうな、そして追撃してビュコックから逆撃を喰らうに違いない。そこを助ける。その時にはもう一度長距離砲戦に切り替える必要が有るな。早めに切り替えるか……。



宇宙暦796年 1月 4日    ティアマト星域  総旗艦リオ・グランデ   ヤン・ウェンリー



戦場を無原則に動いて帝国軍に損害を与えてきた第十一艦隊の動きが止まった。恐れていた攻勢限界点がついに来たのだ! 早急に第十一艦隊を撤退させそれを援護しなければならない。
「第十一艦隊に後退命令を出せ、急げ! ウランフ提督に援護を!」
「帝国軍右翼部隊、攻撃してきました!」
「何!」

ビュコック司令長官の命令とオペレーターの報告が交差した。これまで動きを見せなかった帝国軍右翼部隊が第十一艦隊に対して主砲を斉射していた、三連! 総旗艦リオ・グランデの艦橋に悲鳴が上がった。
「馬鹿な!」

たちまち第十一艦隊が火達磨になった。スクリーンが白い光点に包まれた。そしてさらに右翼部隊からの攻撃が続く、もう一度斉射三連! さらに白い光点が第十一艦隊を飲み込む、止めに近い一撃だった。統制を失った第十一艦隊はもう艦隊としての態をなしていない。やはりあの艦隊こそが帝国軍の本隊、グリンメルスハウゼン元帥、いやヴァレンシュタイン総参謀長の率いる艦隊か……。

「第十一艦隊旗艦ヘクトル、爆散しました! ホーランド提督、戦死!」
オペレーターの悲鳴のような報告にリオ・グランデの艦橋が凍りついた。そして艦首を翻して遁走に移ろうとする第十一艦隊の残骸に帝国軍右翼部隊が無慈悲なまでに主砲を三連斉射した。猛烈なまでの爆発がスクリーンを白く染め上げた……。

潰滅……、完膚なきまでに第十一艦隊を叩きのめした。時間にして僅か三分程だろう。帝国軍右翼部隊の攻撃で一瞬にして第十一艦隊は潰滅状態になった。半数以上を失い、残存部隊もバラバラな状態だ。呆然とする総司令部にオペレーターが警告の声を上げた。

「帝国軍中央、左翼部隊、前進してきます!」
「これ以上の攻撃を許すな、第十一艦隊を収容するのだ!」
「はい!」
ビュコック司令長官の叱咤に皆が答えた。これ以上は好きにさせない、皆が気力を取り戻した。

「前面の帝国軍に攻撃、撃て!」
第十一艦隊を追って押し寄せる帝国軍に同盟軍の砲撃が襲い掛かった。たちまち帝国軍が混乱する。その姿に歓声が上がった。“見たか”、“思い知ったか”、そんな声が艦橋に上がった。

第五、第十艦隊が後退しつつ押し寄せる帝国軍中央、左翼部隊に攻撃をかけ足止めする。そして第十一艦隊の残存部隊を守りつつ後退する。混乱を収めた帝国軍中央、左翼部隊が攻撃を仕掛けてくる。そしてそれをまた撃退する。撃退する度に歓声が上がった。帝国軍に出血を強いつつ撤退する。それを数回繰り返した時だった。

「帝国軍右翼部隊、前進しています!」
オペレーターの報告に瞬時にしてリオ・グランデの艦橋が緊張に包まれた。それと時を同じくして第十艦隊のウランフ提督から通信が入って来た。スクリーンにウランフ提督が映った。表情が硬い、明らかに緊張している。理由は言うまでもないだろう。

『厄介な敵が動き出しましたな』
「うむ、しかし今になって動き出すとはどういうつもりか」
「帝国軍右翼部隊は迂回しています!」
オペレーターの声が響いた。確かに帝国軍右翼部隊は遠回りに迂回している。こちらの側面、或いは後方に出ようとしているのか。しかし……。

『随分とゆっくり動いていますな』
「そうだな、我々に遊んでいないでさっさと後退しろと言っている様だ。何時までも遊んでいると後ろを遮断するぞと脅しているのではないかな」
その言葉にウランフ提督が苦笑した。

『どうやら向こうも言う事を聞かぬ部下がいるようですな、随分と手を焼いている様です』
「そのようだ」
『如何します?』
ビュコック司令長官が“フム”と考える姿勢を見せた。

「折角の警告だ。素直に後退しよう」
ビュコック司令長官の言葉にウランフ提督が頷いた。
『では一気に?』
「うむ、一気に」
『はっ』

通信が切れるとビュコック司令長官が新たな命令を下した。
「全軍に命令、主砲斉射三連、目標、帝国軍中央部隊、続けて左翼部隊、撃て!」
同盟軍から帝国軍に向かって光の矢が降り注いだ……。



帝国暦 487年 1月 4日  ティアマト星域  旗艦ブリュンヒルト エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



クライスト、ヴァルテンベルクの艦隊が同盟軍の攻撃を受け混乱している。そして同盟軍は後退を始めた。それを見てオペレーターが報告の声を上げた。
「反乱軍、急速後退をしています」
酷く冷めた声だな。クライスト、ヴァルテンベルクをどう見ているかが分かるような声だ。もっとも司令部の人間は皆白けた様な表情をしている。似た様な思いなのだろう。

「元帥閣下」
「う、何かな、総参謀長」
「これ以上の戦闘は無意味と思います。全軍に集結命令を出すべきかと思いますが」
俺の言葉にグリンメルスハウゼンがスクリーンを見た。スクリーンには遠ざかる同盟軍が映っている。

「そうじゃのう」
気が抜ける声だ。分かっているのかな、爺さん。これからの方が厄介だという事に……。分かってないだろうな。内心でウンザリしながらオペレーターに集結命令を出すように命じた。

「総参謀長」
「はっ」
「勝ったのか? それとも負けたのか?」
「……反乱軍は撤退しました。我が軍の勝利と見てよろしいかと思います」

何を言い出すのかと思ったら……、皆が呆れているだろう。まあ兵の損害は五分五分かな、いや少し向こうが多いか。だが向こうはあの潰走振りからするとホーランドは戦死しただろう。それに向こうが撤退したのだ、六分四分で勝った、そう見ても的外れじゃない。上出来だよ、最初は負けると思っていたのだからな。それからすれば大勝利と言っても良いくらいだ、口には出せないが……。

「元帥閣下、クライスト、ヴァルテンベルク両提督は戦闘中再三再四にわたり総司令部の命令を無視しました」
「ああ、そうじゃのう」
ブリュンヒルトの艦橋の空気が変わった。皆が俺とグリンメルスハウゼンを見ている。

「これは抗命罪に該当します。軍法会議はオーディンにて行うとしても彼らに艦隊をこのまま指揮させることは出来ません。司令官職を解任し拘束する必要が有ります」
俺の言葉にグリンメルスハウゼンは眼を瞬いた。

「あー、総参謀長」
「分かっております。元帥閣下は余り厳しい処分を御望みではない、そうですね」
「ああ、そうじゃ」
また眼を瞬いでいる。溜息が出そうだ。

「残念ですがこれは軍の統制の根幹にかかわる問題です。閣下の御意に従うことは出来ません」
「……」
「これからの事は小官が致しましょう。お任せいただけますか?」
「あー、良いのかのう」
本当に良いのかと眼で訊いている。良いんだ、爺さんが居ると反って混乱しかねない。

「はい、閣下は自室にて少しお休みください。全て終わりましたら御報告いたします」
「うむ、では頼む」
爺さんがよたよたしながら自室に向かった。一仕事終わった気分だ。司令部要員が皆軽蔑した様な表情をしていた。もう限界だな。

戦術コンピューターを見ると艦隊は徐々にだが集結しつつあった。流石に諦めたか、世話を焼かせる連中だ。参謀達を見た
「混乱を起こしたくありません。陸戦隊を用意してください」
「はっ」
アルトリンゲンが答えた。他の連中は顔を見合わせているが驚いている様子はない。必要だと思っているのだろう。

「それと全員ブラスターの携帯を命じます」
「……」
「どうしました、用意しないのですか」
「直ぐ用意します」
何人かが慌てた様子で席を立った。他の奴は携帯しているのだろう。俺とヴァレリーは常に携帯している。俺を嫌っている奴は結構多いしヴァレリーは女だからな。携帯した方が安全だ。

「オペレーター、クライスト、ヴァルテンベルクの両名にブリュンヒルトへの出頭を命じなさい」
「は、はい」
俺がクライスト、ヴァルテンベルクを呼び捨てにした事、そして来艦では無く出頭と言った事に気付いたようだ、オペレーターは蒼白になっている。ところであの二人、生きているよな? 殺されたとか自殺したとか無いよな?

「直率艦隊に命令、クライスト、ヴァルテンベルク両艦隊には不審有り。別命あるまで警戒態勢を取れ」
「は、はい」
今度はオペレーターだけじゃない、参謀連中も顔を強張らせた。場合によってはここで帝国軍同士で戦闘が始まる、そう思ったかもしれないな。まあそんな事にはならないだろうとは俺も思う。だが帝国というところは有り得ない事が頻繁に起きるのだ、油断はしない方が良いだろう……。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧