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緋弾のアリア 一般高校での戦い

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第4話 昼休み

 
前書き
二日連続投稿です。 

 



 教科書を受け取り、数時間の授業を終えて昼休み。
 また音のせいで何回も反応しそうだったのだが……そんな中、後ろからかなめがモールス信号で話しかけてきた。
 しかし、授業中なので後ろを向くわけにはいかない――なので、かなめに音を鳴らす指の動き(実際は鳴らしてないが)を見せて話していた。
 お互いに音を気にしない為とはいえ、一般高校に来てまで妹とモールス信号で話しを授業中にするとか、やはり普通じゃないな。
 ちなみに授業の(あいだ)に合った休み時間に、クラスメイトが何回か話しかけてきたのだが……かなめのおかげでなんとかコミュニケーションが取れて、一応(いちおう)会話は休み時間が終わるまで続いた。
 かなめも俺と同じくらいの知識のはずで話す話題が無いのだが、人の話しを聞くのと話題の返し方がやたらと上手かった。
 そしてそんなことがあり、多少は疲れたが……アリアに一日中(いちにちじゅう)追われた時よりマシな疲労感を抱えながら昼飯をどうしようか考えていると――
「お兄ちゃん、一緒にご飯食べよー」
 後ろから可愛らしい声をかけられた。
「別に良いが……何を食べるんだ?」
「えへへー、実はお弁当作ってきたんだー」
 そう言ってお弁当を出そうとするかなめを俺は、
「他の場所で食べないか?」
 食べながらかなめに聞きたいことがあった。それには場所が悪すぎる。
「じゃあ屋上に行こうよ。さっきの案内の時にお昼は使っていいって言ってたし」
「ああ」



「はい、お兄ちゃん。愛妹(あいまい)弁当だよ」
「なんだ愛妹弁当って……、そんなことよりさっきモールスで話した通り、かなめがこの東池袋高校に転校してきたのかを教えろ。お前結局、『あとでね』の一言で終わらしただろ」
「お兄ちゃん、非合理的ぃー。せっかく兄妹水入(きょうだいみずい)らずなんだから、そんな些細(ささい)なこと気にしないものだよぉ」
 かなめと一緒に屋上へ来てみると人が少し()たが、なるべく人のいない所にある椅子に座った。
 レキも誘おうと思って、レキのクラスにも行ったんだが……なんとレキの奴、クラスの女子たちに囲まれて『カワイイカワイイ』なんて言われていた。
 とてもじゃないが、そんなところに誘う勇気は無く、しかたなくかなめと二人で昼飯を取ることにした。
 そしてかなめが作ってきた弁当を広げたんだが……また非論理的な造語(ぞうご)を声高らかに喧伝(けんでん)しやがって。
 今のセリフで何人かの生徒がこっちに振り向いて見てきたじゃないか。
「誤魔化すなよ、かなめ」
「もう……分かってるよ、お兄ちゃん」
 かなめはさっきまでの声のトーンと大きさを他の生徒に聞こえないほどにして、真面目な顔になる。
 俺もかなめの転校してきた理由を話すのを、少しからず緊張して待つ。
 もしかしたら、何らかの依頼かもしれないからな。
 そしてかなめの可愛らしい口が開き――
「大好きなお兄ちゃんが転校するから、あたしもついてきちゃったんだよ」
「…………は?」
 なんの依頼を受けたのかと待っていたのだが……あまりに信じられない言葉が出てきて、一瞬耳を疑った。
 いや、もしかしたら他の意味があるのかもしれない。
「えっと……どういう意味だ?」
「いやだから、そのままの意味だよ、お兄ちゃん。――お兄ちゃんのいない武偵高にいる意味なんか無いし、一緒に転校してきたんだよ」
 こいつ……マジで俺が転校するからってついてきたのか……まったくレキといい、なんで俺について…………ん?
「おい、かなめ。なんでお前、俺が転校するって分かったんだ?」
 俺とレキは武偵高では、教務科(マスターズ)から長期の特秘任務(シールドクエスト)を受けた事になっているはずだ。
 まさか教務科の奴らがそんな簡単に情報漏洩(じょうほうろうえい)するとは思えない。……それなのに、かなめはいったいどうやって……
「あ、それはね。あたしが武偵高に入る時に出した条件に『遠山キンジが長期クエストなどに行く際は、遠山かなめを同行(どうこう)をさせる』っていうモノを(つく)ってたんだよ」
「な、なんでそんな条件を……!」
「だってあの時のあたしはお兄ちゃんから離れたくなかったし……長期クエストを受けて逃げられても困ったからね」
 な、なるほど……確かにあの時のかなめは、俺からどんな事をしても離れない覚悟だったんだろう。
「武偵憲章2条『依頼人との契約は絶対守れ』――まあ、あたしは依頼人じゃないけど……まさか武偵を育てる武偵高の教師が、契約を守らないわけにはいかないしね」
 まあ、条件や約束も両人(りょうにん)の了解を()た時点で、言うならば契約だしな。
「しかし……あの教務科がよくそんな条件を了解したな。どうやって了解させたんだ?」
 もう関係ないとはいえ、あの(つづり)蘭豹(らんぴょう)なんかを納得される(すべ)は、個人的に興味がある。
「え……普通にコネだよ。あとは――『遠山の妹なら実力は十分だな』とか、『あいつは危険なヤマが多くて女グセも悪いから、せめて女に殺されないくらいには妹のお前が面倒見てやれ』とかも言われたよ」
「……そうですか」
 ……ひどい言われようだ。――『武偵は自立せよ』じゃなかったのか。なんでかなめにそんな理由で許可してるんだよ。
 さらにいえば、どちらかといえばあんたらが面倒見てやれと言った奴に、数日後、殺されかけたんだけどな。
「でもまあ、そのおかげでお兄ちゃんが転校するって分かって……それから『君も転校するかい?』なんて校長に聞かれたから『はい』って答えて、この学校に転校してきたんだよ」
「なるほどな……でも、かなめはどこに住むんだ?」
「え? 何言ってるのお兄ちゃん? あたしもお爺ちゃんの家に住むに決まってるじゃん。――家族だもん」
「……ですよね……」
 なんとなくだけど分かってたよ。
 その言葉を聞いて、今後の事を考えて俺は肩を落とす。
 ただでさえレキがいるのに、かなめまで一緒に住むとなるとホントにどうなるんだろう。
「ほら、お兄ちゃん。元気出して。それに早く食べないと昼休み終わっちゃうよ。――はい、あーん」
「ん、ああ……あーん――――って、なにちゃっかり食べさせようとしてるんだよ!」
「ちっ!」
 俺が気づいた瞬間、舌打ちを器用に可愛らしくするかなめ。これは確実に狙ってきてたな。
 ……危なかった。あまりに自然だったから、思わず食べる所だった。
 俺が油断している隙を的確についてきやがって……ホント、油断のできない妹だな。
「昼飯は自分で食べる。だから(はし)を……」
「箸なんか無いよ。あたし上手く使えないし」
「だからかなめが使えなくても、俺の箸が……」
「……ごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんの箸、忘れてきちゃったみたい。――だから、あたしのフォークが一本だけあるから、一緒に使って食べよ?」
 なん……だと……
「どうしたの、お兄ちゃん? 昼休みはあとちょっとだよ。早く食べよ?」
(――クソ、やられた!)
 真面目に話してご飯を食べさせないで時間を減らし。
 フォークを一本しか持ってこないで、弁当の中身はタレであえたモノなどの手で食べるには躊躇(ためら)うものばかり。
 しかも、他の生徒が食べ終わって、自分たちの話しに夢中になり始めて、俺とかなめの事を気にかけなくなる時間帯。これで周りの視線がどうだのという理由での打開(だかい)方法が取り()くくなった。
 これは完全に()められた。
 さっきのセリフの『フォークが一本』の『一本』を強調してきたことを考えると――今までのこれらすべてが、かなめの作戦だったのだ。
「食べないの、お兄ちゃん?」
 ……どうする。流石(さすが)に購買まで箸を取りに行ってたら昼休みが終わる。……っていうかそれ以前に箸だけをくれるか分からん。
(かなめからフォークを奪うか……?)
 いや、ヒステリアモードでも無い俺にかなめからフォークを奪える可能性は、かなり低いだろう。
 それに下手すりゃ、女子を――しかも妹を襲ったと勘違いされて、退学ならまだしも警察に逮捕されかねん。
 ……結論は……
(……つ、()んでやがる……!)
 そう、将棋に例えるならもう『王手(おうて)』なのだ。
 手で俺が食べようにもかなめが何か実行してくるだろう。
 口で説得しようにも人工天才(ジニオン)に勝てるはずもない。
 他にも食べないなど言ったり、いろいろと打開策(だかいさく)を考えるが、かなめはそれすら予想しているだろう。
「…………はあ……今回だけだぞ……」
 もう、渋々(しぶしぶ)だが負けを認めるほかなかった。
「わーい。それじゃあ、(あらた)めて――はい、あーん」
「……あーん」
 その後、かなめに昼飯を食べさせたり、食べさせられたりして、人生でそうはかかないであろう冷や汗を()きながら、やけに長く感じる時間を過ごした。
 まあ……弁当の味は悪くは無かった。







 
 

 
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