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蒼き夢の果てに

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第5章 契約
  第70話 王の墓所

 
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 第70話を更新します。

 次の更新は、
 9月1日  『ヴァレンタインから一週間』第28話。
 タイトルは、『誓約』です。

 その次の更新は、
 9月6日  『蒼き夢の果てに』第71話。
 タイトルは、『名前』です。
 

 
 我を知る者は、きっと我を見出す事だろう。
 そうだ。例え無意識の内で有ろうとも、我に仕える者は、きっと我を招き寄せるのだ。



 十月(ケンの月) 、第三週(エオローの週)、虚無の曜日。

 虚無の日の礼拝が行われているはずの、リュティス北部郊外に有る教会。
 その荘厳な、と表現すべき建物の尖塔部分と、晴れ渡った秋に相応しい蒼穹を見上げる俺。そして、その傍らに静かに立つ紫の髪の毛の少女。
 但し、残念な事に、俺の心は、この蒼穹と同じように爽やかな、と表現出来る気分などではなく、
 そして、傍らに立つ少女は、その神聖にして荘厳な建物をその瞳に映したとしても、普段通り、何の感情の色も浮かばせる事は有りませんでした。

 そんな俺たちの周囲を秋独特の物悲しい雰囲気の風が、神を讃える歌を微かに伝えて来て居ました。
 俺と、彼女には関係のない世界の歌を……。

 ここは司教座……つまり、リュティスのブリミル教の中心が置かれて居る教会と言う訳ではないのですが、とある事情により、ロマリアの教皇により一般の教会とは違う、一段階高い位の教会として定められた教会。
 ゴシック建築の基本。尖ったアーチや、飛び梁。そして、その結果それまでの建物よりも大きな窓を取る事が可能となった事からより精緻で、大きな物を飾る事が可能と成ったステンドグラスに彩られた寺院。
 おそらく、このガリアでもトップクラスの格式を持つ教会でしょうね、ここは。

 そう。ここは、他のガリア国内には存在しない、ガリア歴代の王たちの墓所が存在しているブリミル教の教会。

 そして、ここの一角には、オルレアン公シャルル……つまり、タバサの父親の王墓も存在していました。

 但し、いくらジョゼフが弟の無実を信じて居たとは言え、つい最近まで謀反人の汚名を着せられていた人物を、歴代の王が眠るこの地に埋葬する事が限界で、流石に、他の王のような大聖堂の地下に広がる空間に、ビロードに包まれた豪奢な棺に納められた状態にする訳にも行かなかったようです。

 何故ならば、

 その、周囲に一切の墓すら存在していない教会の敷地の裏手。其処に存在する名前すら記されていない御影石らしき石碑。其処が俺と湖の乙女の目的地。いや、厳密に言うと、その石碑の後ろ側、なのですが。

 ただ……。
 ただ、よく晴れた秋の日に相応しくないその墓場独特の湿り気を帯びた空気が、俺の気分を更に陰鬱な物へと移行させ、これから確認する内容が、それ以上に気分と、自らの歩みさえも重い物へとさせていたのは間違いない状況。
 はっきり言うと、このまま回れ右をして帰りたい気分と言えば判り易いですか。

 そして……。
 其処。何者の墓とも知れないその場所の裏手には、墓の内部に通じる鋼鉄製の扉と、それを堅く閉じる南京錠。そして、何らかの魔法の残り香のような物を感じる事が出来た。
 この魔法の残り香は、おそらくハルケギニア世界のロック(施錠)と言う魔法。そして、その魔法を施した上に鍵まで掛けて、この墓に葬られている人物を護ると言う事が、この墓の主の本当の身分を証明する事なのかも知れません。

 確かに、オルレアン公自身が埋葬された時は、彼に謀反の疑いが掛けられて居た時ですから、おそらくは葬儀すらも真面に行われる事もなかったとは思いますが、副葬品に関しては別ですから。
 王家の意志としては、将来的にオルレアン公の疑いを晴らす心算が有るからオルレアン公の不審死の直後にも、タバサやその母親に対して御咎めなしの裁定を下した可能性が高いのです。ならば、オルレアン公自身のお墓には、大国ガリアの王弟の墓に相応しい、普段彼が愛用していた物品などが副葬品として納められていると考えた方が妥当でしょうから。

 つまり、当然のように、その副葬品を狙った墓泥棒の類が現れる可能性も少なくは有りません。
 まして、ここは本来の王族の墓とは別の場所。ここには、警備の兵も見回りに来る事は少ないでしょうから……。

 最初に、その術式が判らないロックの魔法を、ダンダリオンに教えて貰った初歩の禁呪。鍵を掛ける事を禁止する仙術で無効化。
 そうして次に、固定化を掛けられて腐食する事の無くなった南京錠に、イザベラから借りて来たひとつ目の鍵を差し込む。

 スムーズに鍵が鍵穴に納まり、金属が開く音と共に、南京錠が簡単に開錠された。

 重い金属が軋むような音を発して扉を開いた瞬間、黴臭い澱んだ地下の大気と、遙か地下深くに続く坂が俺と湖の乙女の目の前に現れていた。



 それぞれの肉体は試練を受け、その結果、快楽を感じたのならば、その者は我を受け入れる素養が有ると言う事なのだ。



「どうも、このハルケギニア世界に来てからの地下迷宮には嫌な思い出しかないんやけど……」

 自らの傍らに立つ紫の髪の毛を持つ少女。実は水属性の精霊、湖の乙女に対して、少し冗談めかした台詞を口にする俺。
 しかし、彼女は俺の瞳を見つめた後、微かに首を上下に動かす。

 まぁ、こんなトコロにやって来た理由。あの夢の世界で出会ったタバサの妹らしき少女の抱えていた頭蓋骨の正体を調べる必要が有ったから、一般には知られていないオルレアン大公の墓地にまでやって来たのですから、こんな入り口でグズグズとしている訳にも行かないのですが。

 当たり前の思考であっさりとその答えに辿り着き、

「我、世の理を知り暗闇を見る」

 口訣を唱え、素早く導引を結ぶ。
 そう。当然のように初歩の仙術の中には暗視の術も存在しています。その上、暗視の術を使用する方が暗闇……。光源の届かない位置からの不意打ちなどにも対処し易いですからね。
 まして、暗闇の中で光源を持って移動する事自体が、この暗闇の中に敵が潜んで居た場合には攻撃の目印を与えるのですから非常に危険な行為と成ります。
 流石に、いくら何でもそれは問題有りでしょう。

 同じように湖の乙女に仙術を施した後、最後に魔法反射の呪符を施し……。

 このハルケギニア世界の棺桶の大きさや、そもそも、オルレアン公がどの程度の体格をしていたのか知りませんが、貴族の風格と言う物は見た目と言う部分も大きいとは思うので、彼自身が小男と言う訳はないでしょう。
 少なくとも俺ぐらいの体格の人間が納められる程度の棺桶を運び込む際に使用する通路で有る以上、かなり広い造りの通路。

 その通路。レンガで造られたかなり頑丈な、但し、予想以上に深い下りの坂道を地下に向かって下って行く俺と湖の乙女。
 まるでこの通路自体が冥府へと向かう通路の如く、何とも表現し難い異様な臭気に満ちた、最初に造られて以来、何者もこの道を辿った事がないような通路で有った。
 確かに、入り口付近にはうっすらと積もった埃が、この墓が造られてから三年の月日が経過した墓で有る事の証明のように存在していたのですが、それも入り口の周辺部のみ。其処から十歩も進まない内に、何者かに掃き清められたように埃や、傷みのような物は目に着かなく成りましたから。

 そう考えながら地下に向かって降りて行く事約三分。予想以上に深い通路に軽い驚きのような物を感じ始めた時、ようやく、その深き闇の底を進む行為に終着点が示された。

 再び、目の前に立ち塞がる鉄製の扉と、レンガ造りの壁。
 その終着点を見つけた瞬間、何故か、自分の墓の上を誰かが歩いているような、そんなあまり気持ちが良い、とは言い難い感覚に囚われたのですが……。

 しかし、それも一瞬。それ以後は、地下に相応しい静寂と澱んだ空気に相応しい世界が存在するだけで有った。

 俺は、傍らに立つ湖の乙女が首肯くのを確認する。そして、最初の入り口の時のように魔法錠を無力化した後、物理的な南京錠を持って来たふたつ目の鍵で開く。
 最初の時と同じように何の抵抗もなく、あっさりと開く南京錠。

 きぃ、と言う、少し神経を逆なでするような金属の軋む音と共に開かれる鋼鉄製の扉。
 その扉の向こう側には……。



 我が贄と成るに値すると認められた者には、死も良心の呵責すらも存在しない、悦楽と、……そして、苦痛に満ちた世界が待ち受けて居るだろう。



 かなり広い玄室。天井までの高さが三メートル以上。床の面積は、二十畳以上の広さは優に有るでしょうね。おそらく、この玄室にならば、二十以上の棺を並べたとしても十分お釣りが来るぐらいの広さは有していると思います。
 天井、そして、壁を埋めるのはフレスコ画。これは多分、このハルケギニア世界の神話。始祖ブリミルに関する逸話だとは思うのですが、内容については良く判りません。

 ただ、一人の顔の描かれていない人物が両手を広げて、その両方の手の平から何か光のような物が発せられる様子が描かれているだけでしたから。
 もっとも、これが始祖ブリミルの逸話に関するフレスコ画ならば、流石に神の表情を画としても表現する事は(はばか)られた為に、顔の部分は細かく描く事もなく、更に、両手から光を発すると言うのも、地球世界での宗教画などでは良くある表現方法だと思いますから、差して珍しい物ではないと思いますしね。

 そして、もっとも重要な部分。この玄室からは、玄室唯一の石棺以外に何一つ余計な装飾品のような物を見付け出す事は出来ず、また、その石棺にも最初に閉じられて以来、開かれた形跡を見つけ出す事は出来ませんでした。
 外部から見る限りでは……。

「ここまで来て、このお棺を開いて、オルレアン公の首が着いて居るかどうかを確認せずに帰ったら流石に問題が有るか」

 どうも、こう言う場所では気味悪さから無駄口が多くなるのは仕方がないのですが……。
 ただ、そんな無駄口を口にしながらでも、全長で約三メートル。幅は、おそらく一メートル以上は有る事が確実な巨大な石棺の傍に立つ俺。湖の乙女は俺の右斜め後方。

 そして、その場で生来の能力の発動。
 その瞬間、ゆっくりと開いて行く石棺の蓋。おそらく、蓋だけでも一トン以上は有ると言う巨大な蓋で有ろうとも、俺の生来の能力の前ではあまり関係がないと言う事。

 その開いて行く石棺の蓋の隙間から見えて来る……黒い木製のお棺。
 確かに、石棺が三メートルも有るのですから、石棺の中に、本来のお棺が存在していたとしても不思議では有りませんか。

 その黒い塗料に包まれた、表面にオルレアン家の紋章が描かれた(ひつぎ)
 流石に石棺には紋章を刻む事は出来なかった物の、黒の棺の方には紋章を飾る事が許されたと言う事も、謀反を疑われた人物の棺としてはかなり異常な事だと思います。

 そして、
 今度は鍵の掛かっていない黒の棺桶を、見鬼を発動させ見つめる俺。
 ………………。
 問題なし。この棺桶に、危険な魔法のトラップが仕掛けられている様子は有りません。
 更に、今のトコロは何の危険な兆候も感じる事もない。

 ……なのですが、どうにも嫌な予感しかしないのですが。
 南京錠や魔法錠も施されてはいない。……と言うか、棺自体に取っ手のようなモノさえ存在してはいないオルレアン公の棺。
 その黒き色が、俺の不安感を感じた彼のように、それまで以上に鈍く光りを発する。

 しかし、だからと言って、こんな場所までやって来て、ただ漫然とお棺を見つめてばかりも居られない。

 そう踏ん切りを付け、完全に開き切った石棺の蓋から、今度は木製の棺の蓋の方に能力を移す。
 ただ、どう考えても俺の直観がこの状況を危険な雰囲気だと告げて居ます。ウカツに、この棺の蓋を開けて仕舞うと、何か不測の事態が起きるような気が……。

 少し、顧みて湖の乙女の姿を自らの瞳で確認する。当然これは、彼女の立ち位置の確認などでは有りません。
 これは、自らの覚悟の確認。

「わたしとあなたならば何も問題はない」

 瞳のみで首肯いた後、彼女は確かにそう言った。その言葉に迷いを感じさせる事もなく、その瞳と彼女の容貌を表現する為の重要なパーツには、普段通り俺の姿を映しながら。
 この墓所に訪れてから一度もその声を聞かせる事のなかった彼女の声が俺の耳に届いた瞬間に俺の方も微かに瞳のみで首肯き、石棺の蓋を開いた生来の能力……重力を操る能力を再び発動。

 今度は木製の軽さ故に、いともあっさりと開いて仕舞う黒の棺。
 その瞬間、黒の棺内部より猛烈な勢いで瘴気が溢れ出し、天井に、床に、そして壁。玄室全体を侵して行く。

 そうだ。それまでは辛うじて世界が人間の住む、現実世界に繋ぎ留めていた微かな絆が、この黒き棺を開いた瞬間、容易く境界線の向こう側へと世界を移行させていたのだ。

 赤い繻子に覆われた棺の内側。其処に永眠する豪華な紅き屍衣(しい)に包まれた人物には……。
 頭の部分が存在して居なかった。

 そうして……。

 そうして、その棺の中に横に成って居た人物がゆっくりと起き上がる。
 この世にあらざる光に包まれて。
 その瞬間にも、更に崩壊して行く現実の理。

「我に何か用か……」

 そして、口がないはずの死者が語り掛けて来た。人血に彩られた、向こう側の世界の住人の声で……。
 そう。その紅い繻子を濡らすのも、そして、屍衣に紅き色を着けるもの、すべてがたった今、切り取られたばかりのようにどくどくと紅い血を流し続ける傷痕からあふれ出す液体に因る物。

 頭部を失った部分から、未だ流れ続ける紅き血流。

「貴様、何者だ?」

 首がない魔物……。デュラハンか?
 一瞬、有り得ない想像が頭に浮かび、そして直ぐに軽く首を振って否定する。
 いや、コイツから発せられている雰囲気は騎士ではない。まして、デュラハンには他人の身体を乗っ取るような属性はない。

「我はガリア王シャルル十三世。頭が高いぞ、下郎が」

 棺が音を立てて揺れ、棺からあふれ出す瘴気が天井を伝い、床へとあふれ出した紅い液体がその支配領域を広げて行く。

 刹那、棺の縁にヤツ……。オルレアン公シャルルの死体に憑いた存在が手を掛けた瞬間、俺の右手に現れた蒼き光輝(ひかり)がすべてを薙ぎ払う!

 しかし!

 その攻撃を予測したかのような動きで石棺の蓋を投げつける事に因って、表皮一枚を犠牲としただけで無効化する首なしの魔物。
 このレベルの瘴気を放つ相手では、表皮一枚程度切り裂いただけでは無傷に等しい。

「おう、これは美味そうな子供たちよ」

 切り裂かれた表皮から鉄臭い紅き血潮を吹き出しながら、軽やかに玄室の床へと降り立つ首なしの魔物。その姿は悪夢そのもの。
 いや、首なしの魔物と呼称していますが、コイツの正体を俺は知って居ます。

 但し――――

「残念ながら、俺はオマエの名前を無暗に口にしたりはしないぞ」

 手にした宝刀を青眼に構えながら、かなり余裕を持った台詞を口にする俺。
 その瞬間に、両足をしっかりと玄室の床を踏みしめ、僅かにすり足を行い利き足の右に体重を乗せる。

 そう。俺はコイツの正体に関しては知って居ます。

 首のない白く光るような身体。死亡してから既に三年以上の時間が経っているはずの身体から、未だ凝固していない血液が滴り落ちる状態。
 そして、ヤツはワザと俺にヤツの名前を呼ばせる為に、俺が否定せざるを得ない名前を名乗った可能性が有る事も理解しています。

 その瞬間、手の届く間合いに無かったはずの首なしの魔物が、一瞬の内に間合いを詰めて湖の乙女に掴み掛かる!
 そう。その動きは正に神速。普通の人間に為せるスピードではない。
 この速度で動ける事こそ、ヤツや、そして俺が精霊を従える存在で有る事の証。

 しかし! そう、しかし!

 完全に湖の乙女を捕らえ、そして、ヤツの両手に存在する濡れた巨大な口が、彼女の柔肌に醜い、ヤツに相応しい傷痕を残そうとした正にその瞬間!

 此の世成らざる絶叫が、地下の玄室に響いた。

 首のない魔物が完全に彼女を拘束したかに見えた正にその刹那、彼女と、そして彼女を捕らえようとした、その醜い両手の間に浮かぶ防御用の魔術回路。
 その瞬間、自らの手に開いた凶悪な口に因って食いちぎられるヤツ――首のない魔物の両腕!

 そう。これは俺たちに施された一回だけ、すべての物理的な攻撃を反射して仕舞うと言う仙術に因る効果。そしてその事に因り、ヤツの口により付けられた傷は絶対に自然に回復する事はない、と伝説により伝えられている禍々しい口にて、自らの両腕を食いちぎると言う結果を作り出したのだ!

 首のない、そして、両腕すらも失った魔物が、今度はヤツに非常に相応しい姿で、猛然と玄室の出入り口へと走った。
 但し、ヤツのこの反応は予想の範囲内。
 何故ならば、この口の存在する両腕を失った以上、この場でのヤツの勝利は有り得ない状況と成りましたから。まして外に出さえすれば、ヤツが目を覚ましたと言う事は、ヤツ以外の更に凶悪な神々が眠りの淵より目を覚まし、この世を混沌に沈めている可能性が有るのです。

 伝承や忌まわしい書物に記載されている内容に因ると、ヤツが目を覚ます時には、それ以外の巨大な存在が既に目を覚ましている、と言う部分が存在して居るのですから。
 それにヤツ……首なしの魔物に取っては、この場での俺や湖の乙女との戦いの勝利に、何の意味も持ちはしないのですから……。

 しかし……。

「忘れたのか、体現された悪意よ」

 一言ずつ区切るように、ゆっくりと、無様な姿を晒しながら走り去ろうとするヤツの背中に言葉を発する俺。
 その俺の霊気の高まりに反応するかのように輝きを増す七星の宝刀。

 いや、最早この刀は単なる七星の宝刀にあらず。湖の乙女と同期していない状態。つまり、現状の俺の能力でも扱えるレベルにまでスケールダウンさせては居ますが、それでもこれはケルトの至宝、不敗の剣クラウ・ソラス。
 この程度の邪神を屠る事など造作も有りません。

「ここから出て行く事は出来ない。何故ならば――――」

 悪意の体現イゴーロナクの身体が、無様に揺れ動いた。
 まるで最後の悪あがきの如く、巨大なレンガ造りの壁へとその身体を突進させたのだ。

 しかし!

 紅い彩を付け足しながらも、しかし、それでも僅かながらも緩む事もなく、その場に存在する堅牢なるレンガ造りの壁。
 ここの扉は伝承通り、ヤツか、それとも俺たちか。どちらかが、この戦いに勝利するまで絶対に開く事はない。
 そう言う類の呪に支配された空間と成って居ましたから。このオルレアン公が葬られた玄室内は。

「神話に語られる邪神どもが世界を支配するまで――――」

 水の邪神が瑠璃の城から立ち上がる日を。
 森の黒山羊が古の眠りより目覚める時を。
 湖の住人が、迷宮の神が、ヴェールを与えるものが現実に現れるその日が訪れるまで。

 ヤツらが、永劫の寂寞(せきばく)の中より歩み出でて、再び、この世を闊歩する日が訪れるその時まで……。

「この地に眠れ」

 聖なる祈りにも似た言葉が呟かれた後、無造作に振り降ろされる光の剣。
 その瞬間、放たれる光の奔流が、再び扉へと体当たりを行おうとした首なしの魔物。悪意の体現イゴーロナクを呑み込み――――

 次の瞬間、さらさらと、さらさらと砂のように成って崩れて行く邪神。
 そして、すべての妄執が砂と共に崩れ落ち、紅き屍衣がふわりと玄室の床に舞い降りた瞬間――――

 世界は現実の理が支配する通常の世界へと、再びその相を移行させていたのでした。


☆★☆★☆


「オルレアン公の死体に首が存在しない、と言う事は……」

 荒らされた玄室を清め、失われた大公の亡骸の代わりに、紅き屍衣と、その場に残された砂を彼自身の棺に納めた後の呟き。
 但し、この呟きは、俺の傍らでこの玄室に蟠る不浄の気を清める祓いの助手を務めた少女に対する問い掛けなどでは有りません。
 これは、自らに対する確認作業。

 しかし……。

「あなたが夢の世界で出会った少女が手にしていた頭骨は、彼女自身の父親の頭骨と考えて問題ない」

 しかし、俺の独り言に等しい呟きに対して、彼女は、彼女に相応しい抑揚のない小さな……、傍に居る俺にしか聞こえないような小さな声でそう答えた。
 そして、

「無念の内に死亡した高貴なる人間。魔力を持つ人間の頭がい骨を使用した外法は確かに存在する」

 ……と、更に続けたのでした。
 そう。そして、その類の呪詛は俺も知って居る上に、未だ完全に終息していない疫病騒動の際に嫌と言うほど、その手の呪法の恐ろしさを思い知らされたトコロでも有りますから。
 如何に強固な結界の内側に身を置いたとしても、それ以上に強力な因果の糸。血を分けた家族の絆の前には無意味だと言う事を。

 ただ……。

「そうだとすると、九月(ラドの月)に起きた軍事物資横流し疑惑に始まる、ガリア両用艦隊のクーデター。そして、十月(ケンの月)の疫病騒動まで、すべてが一連の流れの中で起きた事件と言う事になる」

 まして、それだけでは事は納まらないはずです。
 何故ならば、このオルレアン公の墓所は、俺と湖の乙女が侵入するまでに荒らされた形跡はおろか、何者かが侵入した形跡すら見つける事は出来ませんでした。
 確かに、細かく調査を行った訳では無いので正確な情報と言う訳では有りませんが、おそらく、オルレアン大公は、この墓所に葬られた段階では既に首を失った後。更に、体現する悪意イゴーロナクに憑かれた状態で葬られたのは間違いないでしょう。

 但し、イゴーロナクに憑かれたのは、おそらくは死後。
 イゴーロナクに完全に憑かれた人間は、間違いなく人間的な意味での死を超越した存在と化しますから、如何なる方法でも暗殺する事は不可能。
 身体が存在する限り、殺す事は難しいでしょう。

 おそらく、グラーキの黙示録を読まされ、彼の身が完全にイゴーロナクに乗っ取られる前に、暗殺されるような状況に陥ったと考える方が無難ですか。
 そして、その時は人間で有ったが故に死亡した。

 しかし、既に契約は為された後で有ったが故に……。

「どちらにしても、オルレアン大公の埋葬に関わった人物たち。アンリ・ダラミツの例から考えるとブリミル教の関係者に、今回の一連の流れを画策した人間が居る可能性が高いと言う事か」

 かなり、疲れた雰囲気でそう呟く俺。その理由は、この状況は明らかに後手に回っている状況ですから。
 このままでは、誰か判らない相手に好き勝手な事件を起こされ続け、その事件を後手に回ると言う不利な状況で解決して行かなくては成らないと言う事ですから。

 これまでのように、ギリギリで阻止し続けられるとは限りません。
 もしかすると次の事件では対処が間に合わずに……。

 それに……。
 俺は、其処まで考えてから、何処か明確な一点を見つめていた訳では無い視線を、玄室に入って来た瞬間に視界に入る壁に移した。
 そう、其処には……。

 その一番目立つ位置に存在する画。オルレアン公の玄室を飾っているフレスコ画も、ブリミル教の伝承を示す物などではなく、悪意の体現イゴーロナクを表現している可能性も有りますから。

 顔を描いていないのは、顔を表現するのが畏れ多いからなどではなく、最初から頭部が存在しないから。
 両方の手の平の光は、イゴーロナクの口の暗示の可能性も有ると思いますし。

 但し、その暗喩を籠めた。簡単に言うとネタバレ的なフレスコ画を、このオルレアン公の墓所に残す意味が判らないのですが。
 たったひとつ思い至る理由。悪意以外の理由を除いては……。

「それでも、今考えても仕方ない事を考えて居ても意味はないか」

 実際、今、このオルレアン公の墓所の玄室内で出来る事はもうないでしょう。
 おそらく、オルレアン公自身の魂は、イゴーロナクとの接触をさせられた時にすべて失っているはず。
 邪神が潜んでいた以上、この場での土地神召喚は無理。

 そもそも、ブリミル教の聖地。教会内ですから、ここには俺が呼び出せる類の土地神は存在して居ません。
 そう言う意味では、この世界は俺に取っては異世界。すべての魔法やその他の理論に対して俺の知って居る理が完全に支配している訳ではない、と言う事なのでしょう。

「そうしたら、一度、オルレアンの屋敷に返ってから、これから後の事について、タバサと相談するか」

 一番、気分が重く成る情報。何者かに精神を支配されたタバサの妹が、オルレアン公の首を使った外法。世界自体に呪詛を行って居る可能性が有る、……と言う事を告げなくてはならないのですが。
 まして、何の反動もなく……。何のリスクを負う事もなく、そのような巨大な陰の気に染まった呪詛を行える訳はないので、早く。出来るだけ早く、彼女を見つけなければならないのですが……。

 俺の焦りについて理解しているのか、彼女にしてはかなり強い雰囲気で湖の乙女は首肯いてくれたのでした。


☆★☆★☆


 魔法に因り灯された明かりが光源と成る部屋の中心。
 その部屋の主人は寝台の上から、傍らに立つ俺の顔を見上げた。
 その表情に浮かぶのは僅かばかりの不安。普段の落ち着いた雰囲気の彼女にしては、非常に珍しい状態。

 しかし、それも(むべ)なるかな、と言う状況なのですが。
 何故ならば、

「確かに妙なタイミングやけど、何時かは会う必要が有る相手やからな」

 ……と答える俺。その俺の傍らには湖の乙女も椅子に腰かけて、俺とタバサの会話に興味なさそうな雰囲気で和漢に因り綴られた書物に瞳を上下させて居ます。

 そう。あのオルレアン大公の墓所から転移魔法でタバサの元に戻って来た時に、俺に告げられたのは……。

「ガリア王。聖賢王ジョゼフ一世にはな」

 急な病で倒れたタバサの御見舞いにガリア国王ジョゼフ一世が訪れるので、準備をしてタバサと共に待って置くように、と言う命令が届いて居た事でした。

 ただ、この状況は少し異常な状況だと思うのですが。
 何故ならば、表面上に現れたタバサの症状は流行り病の症状。実際は呪詛に因る病で有る事は、イザベラからの報告に因り王自身は知って居るとは思いますが、それでも周囲の人間が、危険な流行り病を罹患した人間に王が近付く事は止めるはずだと思うのですが……。

 確かに、タバサは後二年もすれば大公家を正式に継ぐ立場の人間ですし、彼女が吸血姫の血に覚醒したと言う事は、ガリア王家に取っては、おそらく重要な意味を持って居る事だと思います。故に、タバサ……オルレアン家のシャルロット姫と言う存在は、ガリア王家に取っても重要な存在だとは思いますが。

 それでも、今は未だガリアの騎士(シュヴァリエ)に過ぎない存在の彼女の元に、王自らが足を運んで見舞いの言葉を与えるなどと言う事は……。

【シノブ。ガリア王を現在、タバサの寝室にまで案内して居ます】

 そんな思考の海に沈み掛かった俺を、水の精霊ウィンディーネからの【指向性の念話】が現実世界に引き戻した。
 それに、今回のこのジョゼフ王の訪問は、それなりの事情が有るのは間違い有りませんか。

【ハルファス。ジョゼフがタバサの寝室に入った段階で、タバサの寝室すべてを強固な結界で覆ってくれ】

 当然、このオルレアン屋敷も、トリステイン魔法学院女子寮のタバサの部屋のように結界に因り護られていますが、その上に、この部屋自体を護る別の術式の結界術を構築する事で魔法の諜報を防ぐ事は必要でしょう。
 更に、

【その後は、全員、この屋敷の防衛を最優先で頼む】

 現在、現界させている俺の式神たち。地水火の精霊と、ハルファス、ハゲンチにそう依頼する。
 それに、おそらくタバサの式神たち。森の乙女や泉の乙女たちにも同じような依頼が行われて居るはずですから、系統魔法使いの使い魔程度では、この屋敷に侵入する事も叶わないと思います。

 そう考えながらも、タバサの寝台の横で片膝を付き、扉に向かって騎士としての礼を示す俺。
 その瞬間、寝室の扉が開く音が響く。

 そして、その音に続き、何者かが室内に侵入した気配。

「おぉ、我が愛しきシャルロットよ。病に倒れたと言うから心配して来てみたのだが、話しに聞いていたよりは元気そうで何より」

 その気配の主が、俺の間合いに入る前に立ち止まり、その場でそう寝台の上で上体のみ起こした状態で臣下の礼の形を取るタバサに対して語り掛けた。
 尚、床に映る影の形から、彼が仰行な仕草でそう言った事が判りました。

 但し、この部屋に入って来たのは彼。おそらく、ガリア王ジョゼフ一世その人のみ。他には御付きの騎士の一人足りとも、この部屋に入って来る事は有りませんでした。

「私如き者の為に過分な言葉を頂きまして、恐悦至極に存じます」

 普段は一言しか答えを返そうとしないタバサが、流石に今回に関してはそんな訳にも行かないのか、普通の騎士の受け答えに準じる言葉使いで答えを返す。
 ……と言うか、彼女のこの王に対する受け答えにより、普段は、面倒な交渉事をすべて俺に押し付けて居る可能性が高くなって来たとは思いますが。
 そもそも、彼女の趣味は読書。それも、現在ではハルファスに因り調達して貰った地球世界の書物にまでその範囲を広げている人間。そんな人間の語彙が貧弱な訳は有りませんし、知識が貧弱な訳も有りませんから。

 もっとも、どちらにしても今のトコロ俺には関係なし。問題が有るとすると、

「それで、余の姪の命を救い、その他にも色々とガリアの為に働いてくれている英雄と言うのはそなたの事かな」

 人の悪い、と表現すべき口調でそう問い掛けて来るジョゼフ王。
 もっとも、これは俺の感想で有って、このガリア王が本当にそう思っている可能性も有りますが。

 いや、俺がこっちの世界に召喚されてから、解決させられた事件を考えると、英雄と評価されたとしても不思議では有りませんけどね。
 但し……。

「陛下に英雄などと評価されると、汗顔の至りで御座います」

 最初に頭を垂れた状態から、更に少し余計に頭を下げ、

「初めてお目に掛かれて、恐悦至極に存じます」

 そう口上を口にした後に次の言葉を続ける事なく黙る俺。
 流石に、英雄などと呼ばれたくないわ、オッサン。では不敬にも程が有りますしね。

 それに実際の話、もうおエライさんの相手をするのは面倒なので、これ以上、俺については興味を示されなければ、それに越した事はないのですが……。
 まして、俺は所詮、二十一世紀の地球世界の平均的な男子高校生ですから、西洋的封建制度下の騎士と王の会話の基本と言う物は知らないので、流石に、このやり取りだけでも冷や冷や物、なんですけどね。

 何故ならば、俺がヘタを打つと、それはすべて自らの主のタバサの恥と成ります。それだけは避けたいですからね、俺としては。

 しかし……。

「そのように畏まって居ては、顔の確認も出来ないであろうが」

 そう、頭の上から声を掛けて来るジョゼフ王。
 う~む。こう言う場合は……。

「いえ、私のような平民出の人間が、直接、お声を賜るような栄誉を得られるだけでも十分で御座います陛下。まして、私の顔など、御目汚しにしか成りませぬ故、御容赦頂きたく思います」

 一応、一度は(へりくだ)ってそう答える俺。確かこう言う場合は、一度は固辞して置くのが作法だったと思うのですが……。
 違ったかな。

 しかし、
 何か、軽く鼻で笑われたような雰囲気が、目の前の男。おそらく、聖賢王と呼ばれるジョゼフから発せられる。
 そうして、

「イザベラから聞いている。どうせ面倒だから、そうやって礼儀正しく振る舞って、儂を煙に巻こうとしているのであろうが、そんな事は無駄だ」

 ……と、俺の人間性を読み切った台詞を、先ほどまでと少し違う口調で頭を垂れた俺に対して投げ掛けられた。
 成るほど、いくら逃げようとしても逃げ切れないと言う事ですか。

 諦めた俺がゆっくりと立ち上がる。
 どうせ、性根が知られて居るのなら、今更、表面上だけを取り繕っても仕方がないですから。

「御尊顔を拝し奉り恐悦至極に御座います、陛下。私はオルレアン家次期当主。シャルロット姫さまの使い魔として異界から召喚された龍種。名前を武神忍と申します。以後、お見知り置き下さい」

 立ち上がった後、それでも騎士風の礼を行い、軽い自己紹介を行う俺。それに、俺の性根を知って居るのなら、今更普通の人間の振りをする必要もないので、龍で有ると言う部分も明かして置く。
 どうせ、言わなくても知って居るのでしょうけどね。

 そんな俺を一瞥した、目の前に立つ壮年の男性。

「ふむ。多少、見た目を弄る必要が有るようじゃな」

 身長は俺よりも五センチ以上は高いように見えますから、一八〇センチ代後半ぐらいと言うトコロですか。胸板も厚く、貴族や王と言うよりは何処かの国の軍人と言う雰囲気。
 顔の造作は、流石にタバサと同じ血族。蒼い髪の毛や髭が男性としては多少、違和感が有るような気もしますが、それでも、男性としても非常に整った顔立ちと言うべきですか。
 タバサの父親の兄、……と言うトコロから考えると、年齢は四十歳前後。その割に若いように見えるのは、おそらく彼の血の為せる技なのでしょう。
 いや。彼の場合も、髭が年齢を高く見せて居るだけで、あの髭をすべて剃り落せば、年齢不詳の青年貴族が目の前に現れる可能性が大ですか。

 但し……。

「私に何をさせる心算です、陛下」

 先ほどのジョゼフの台詞や、その他の要因から、何となく嫌な予感がしていたのですが、そんな事はオクビにも出す事もなく、そうジョゼフに対して問い掛ける俺。
 どうも出だしから行き成り(つまづ)いて仕舞いましたが、それでも余り弱気な雰囲気を発する訳には行きません。

 そんな出来る限り虚勢を張っている、と言う雰囲気を発しないように少し苦労している俺に対して、かなり性格の悪い笑みを見せるジョゼフ(蒼い親父)
 この反応はもしかすると、そんな小細工など役に立っていない、と言う事なのでは……。

「そなたに、この世界で暮らすに相応しい名前を授けてやろうと思ってな」

 相変わらず性格の悪い笑みを浮かべながら、それでも割と真面な内容の台詞を口にするジョゼフ。
 確かに、このハルケギニア世界で暮らす為に、この国の王から名前を与えられるのは悪い選択肢では有りません。そして、王より直接与えられる名前と言うのは、それだけで大きな意味を持つはずです。
 これは今までは異邦人に過ぎなかった……。タバサの使い魔としてしか認知されて居なかった俺に対して、ガリア王国として正式なガリアの臣下としての立場が与えられる、と言う事に成ります。

 但し、同時に非常に嫌な予感が頭の隅から俺に対して警告を発して――

「ルイ・ドーファン・ド・ガリア。ガリア王国王太子ルイ。このガリア王国唯一の至高の名前だ」

 俺の嫌な予感が明確に言葉として発せられる前に、その嫌な予感通りの名前を口にするジョゼフ王。
 それに、このジョゼフ王の言葉は別に驚天動地の命令と言う訳では有りませんから。
 何故ならば、

「一時的に、王太子ルイの影武者として私を立てて置いて、時期が来たら陛下と入れ替わる。つまり、陛下ご自身が新たなるガリア王ルイとして即位し直す、と言う事ですか」

 目の前に立つ夜魔の王を瞳に映して、そう問い掛ける俺。
 そう。この目の前に立つガリア王ジョゼフ一世の生物的な種族は間違いなく亜人。俺の見鬼が告げる彼の種族はタバサと同じ夜魔の王たる一族。

 流石に、何時までも同じ王が在位し続ける訳には行きません。おそらくは、今までの王たちも、夜魔の王に覚醒した人間は今回と同じように身代わりの王太子を立て、自らの望む限り王位に有り続けたのでしょう。
 その為には、このガリアの王に権限が集まるシステムは非常に都合が良いですから。

 ガリカニズムでロマリアからの干渉を招く恐れは少ない。
 三部会は存在しない。貴族の代弁者高等法院も存在しない。
 ついでに、ロマリアから枢機卿も受け入れていない。

 まして、六千年と言う割には、先ほどまで赴いて居たガリア王家の墓所の規模が小さ過ぎるのも多少は気に成って居ましたから。

「別に、そのまま王に即位してくれても問題はないぞ」

 本当に王位の事などどうでも良いかのような雰囲気で、そう言う台詞を口にするジョゼフ。まして彼から感じる気も、間違いなくそれが彼の真意で有る、と言うように俺は感じても居ます。
 つまり、この目の前のガリアの王は、本当はシャルル(王弟)と王位を争う心算など無かったのではないか、と言う事を予感させる雰囲気。

「但し、その為には――――」

 
 

 
後書き
 今回のあとがきは、多少のネタバレを含む内容に成って居ります。

 ようやく、ジョゼフ王の登場回がやって来ました。
 但し、ウチのゼロ魔二次のジョゼフはゼロ魔原作のジョゼフとは別人です。
 その理由は、私自身が原作のジョゼフの行動の原理。彼の思いの発露がまったく理解出来なかったから。
 キャラが理解出来ないのに、其処から話を組み上げる事は出来なかったので、それならばいっその事、土台の部分から変えて仕舞え、的な方法を取ったのです。

 尚、聖賢王の名前からとある作品を連想出来る方は……。どうなのでしょうかねぇ。解放王と言う……。
 いや、ある意味、解放王の可能性も有るのか。
 まして、ルイ王子の伏線がここに繋がって来て居ますし。
 将来的には、肩に死を告げる天使を留まらせた王太子殿下に成るのでしょうかねぇ。

 それでは、次回タイトルは『名前』です。

 追記。
 八月中ずっと続く体調不良の為に、執筆がままならない状態と成って居ります。
 本来ならばこの段階では、物語内時間で来年の二月三月期のプロットを細かく作り上げる心算でしたが……。
 
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