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とある六位の火竜<サラマンダー>

作者:aqua
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学舎の園

 
前書き
体調を崩す。新生活。いろいろな事情があり、1年以上放置してしまっていたことを深く謝罪します。
これからゆっくりとではありますが更新を再開していくので見捨てずに長い目で見てくれるとうれしいです。 

 
「楽しみですね、学舎の園!」

隣に座る佐天に初春がキラキラと目を輝かせながら言う。外で大雨が降る中、2人は学舎の園に向かうバスの中にいた。

「っていっても、そこってただ女子校が集まっただけの町なんでしょ?」
「その集まってる女子校が普通じゃないんじゃないですか!」

初春が佐天の言葉に反論する。

「常盤台をはじめ、名だたる名門校ばかり。今回は白井さんが招待してくれたから入れますけど、そうじゃなかったら私みたいな庶民には一生縁のない場所なんですよ~。」
「卑屈だなぁ……。だいたい初春はさぁ………」
「あれ?これって……」

初春の様子を見て、呆れたように何か言おうとした佐天をさえぎるように初春がなにか見つける。その手にはある雑誌。

「な~んだ。佐天さんだって今日行くケーキ屋さんチェックしてるじゃないですか。」
「だ、だってパスティッチリアマニカーニなんだよ!?このチーズケーキ前から食べてみたかったのに
日本じゃ学舎の園にしか出店してないんだもん!」
「佐天さんって意外とミーハーなんですね。」 

恥ずかしそうに顔を赤らめながら力説する佐天に初春は笑顔を見せる。

「そ、それに、神谷にも頼まれたし………」
「そういえば……。神谷さん、一緒に来たかったですね。」
「まぁ女子校が集まってる場所に男子がくるのも気まずいしね。」

ちなみに蓮が頼んだのはチョコレートケーキ。写真で見るだけでめちゃくちゃ甘いであろうことが分かるようなケーキだった。このケーキを選ぶところからも蓮の甘党具合がよく分かる。本当なら自分の目で見て選びたかったようで、女子校の集まりの町に入る羞恥心とケーキに対する食欲の間でぎりぎりまで揺れていたのだが、結局松野になだめられてケーキをテイクアウトしてもらう方法に落ち着いていた。そんな会話をしてるうちに、2人を乗せたバスは学舎の園の前のバス停に到着する。

「うわぁ……凄い雨……。バス早く着きすぎちゃったね。」
「大丈夫ですよ。3、2、1」

大雨の降る外の様子を見ながらバス停の屋根の下で佐天がそう言うと、初春が電子端末を見てカウントダウンわ始める。そしてそのカウントが0になると同時に雨があがる。

「相変わらずこの都市の天気予報は正確だね~」
「予報と言うより、正確な事象により演算される確定された未来ですね。」
「たまには外すくらいの茶目っ気があってもいいのに。」

天気予報を見ていたらしい端末をしまった初春とそんな話をしながら佐天は歩きだし、学舎の園の入口で許可証をもらう。そうして学舎の園に入ったのだが

「「うわぁ~~!!」」

思わず歓声を上げる2人。外とは違う欧州風の建物に信号機のデザインも違う。全くの別世界だった。

「うわぁ、おしゃれ~!」
「あ、あの佐天さん?私たちなにか注目されてませんか?」
「ん?」

佐天が辺りを見渡していると初春がそう言ってきた。言われてみれば佐天もそんな感じはした。

「あ、たぶんこの制服が珍しいんだよ。」
「ああ。そういうことですか。ってもう待ち合わせ時間ですよ!」
「ヤバッ!急ぐよ、初春!」
「あ、佐天さん足下……」
「え?きゃあっ!!」





「遅いわね~、2人とも。」
「確かにここに集合と伝えたのですが…。まったく、お姉さまを待たせるなど……」


常盤台中学の前。御坂と白井はここで佐天と初春を待っているのだが、待ち合わせ時間になっても2人は来ない。

「どっかで迷ってるのかな?」
「すみません!遅れました~!!」
「2人とも!遅いです……の?」
「ど、どうしたの?」
「ちょっと転んじゃって……」

御坂が探しに行こうかと考え出したとき、声が聞こえてくる。そちらを見ると初春と制服の所々が濡れている佐天が立っていた。





「わぁぁ~、これがいいかなぁ!でもこれも捨てがたい………」

場所は移ってケーキ屋。ショーウィンドウにくっついて初春がケーキを品定めしている。

「確かに目移りするよね~。佐天さんはもう決めてるの?」
「あたしは最初からチーズケーキって決めてましたから。」

言うほど迷わずに決めていた御坂にそう返す佐天の服装は濡れてしまった制服から常盤台の制服に変わっている。ちなみに御坂のものだ。そうして初春がケーキを選ぶのを待っていると白井の携帯がなった。

「はい、白井ですの。………はい、分かりました。」
「どうしたの?」
「風紀委員〈ジャッジメント〉の召集ですの。こんな時に……。仕方ありませんわ。行きますわよ、初春。」
「あー、私のケーキ~!!」
「初春さん達のケーキ、テイクアウトしとくね。」

御坂の声を聞きながら初春は白井に引きずられて行った。

「じゃあとりあえず座って…って佐天さん?どうしたの?」
「すみません、ちょっとお手洗いに……」

恥ずかしがりながら言う佐天を見送り御坂は結局1人でテーブルに座ることになった。





「まったく……ついてませんわ。こんな時に召集だなんて……むぎゅっ!?」
「愚痴りながら入って来ない。」

白井が初春と一緒に支部のドアを開けると資料のような紙の束で頭を叩かれる。叩いたのは固法美緯。風紀委員〈ジャッジメント〉の先輩だ。

「なにかあったんですか、固法先輩?」
「常盤台狩りって知ってる?」
「常盤台の生徒ばかりを狙った襲撃事件のことですの?それなら知っていますが……」

白井の言葉を固法が頷いて肯定し話を続ける。

「最近さらに増えてきててね。警戒体制を敷くことになったの。」
「常盤台の生徒ってみんなレベル3以上なんですよね?そんな生徒たちを連続で襲撃だなんて・・・」

初春が驚いたように言う。常盤台の入学基準はレベル3以上。それも、レベル3以下という理由でどこかの国王の娘、つまり姫の入学を断り国際紛争に発展しかけた。という話もあるくらいの徹底ぶり。こんな学校に通う生徒たちを連続で襲撃してまったく手がかりがないなど、普通ではありえない。

「それで被害者の方たちは・・・」
「写真があるけど・・・酷いよ。見るなら覚悟を決めなさい。」

固法が真剣な顔で2人に告げる。そんな言葉に臆することなく2人は

「そんなもの。風紀委員〈ジャッジメント〉になったときから覚悟ならできてますの。」
「わ、私もです!!」

そう言って力強く頷いた。2人にだって風紀委員になったときから覚悟くらいできている。固法はそんな2人を見て満足そうに頷くと、手元のノートパソコンを操作してある写真を表示させる。そこに映っていたのは被害者の悲惨な姿。

「これは・・・」
「ひどい・・・」

その悲惨さに2人は愕然とする。しかし、目をそらすことはしなかった。

「でもなんでこんなことを・・・」

初春がそう呟いたとき、白井の携帯が鳴る。

「はい。お姉さま?どうかされましたか?」
『佐天さんがトイレで倒れてて・・・!!今私たちの学校に運んでる!!』

白井と隣で聞き耳をたてていた初春が顔を見合わせる。佐天は今、常盤台の制服を着ている。嫌な予感が2人の頭にうかぶ。

「・・・今からそちらに向かいますの!」

そう言うと白井は初春を掴んでテレポート。一瞬でその場から2人は姿を消す。固法はそれを見送って呟く。

「また勝手に行っちゃって・・・。ま、あの子たちなら任せて大丈夫か。」





「常盤台狩り?」
「ええ、最近学舎の園の中で多発していて……。佐天さんも常盤台の制服を着ていたために狙われたのでしょうね。」

常盤台の風紀委員室を借りて佐天をソファに寝かせた御坂に状況を説明し終えた白井が心配そうに佐天の方を見る。保険医に見てもらったところしばらく寝てれば大丈夫なようだが初春が心配そうにそばに立っている。

「犯人にめどは立ってるの?」
「まだですの。少々厄介な能力者のようでして……」
「厄介?」
「目に見えないんです。」

御坂の疑問に初春が答えたそのタイミングで唐突に初春の携帯に着信がはいる。画面には神谷蓮の文字。その文字を見た瞬間、初春は神谷に状況を説明して助けてもらうことで頭がいっぱいになってしまった。

『あ、初春?あのさ……』
「神谷さんですか?すみません先にいいですか?佐天さんが何者かに襲われちゃって……。寝てれば大丈夫ではあるらしいんですけど……」
『え……?佐天が襲われた……?……今、松野と一緒にいるからこれから2人でそっち向かう。常盤台だよね?はいれるように話しとおしといて。』
「わかりました。待ってますね。あ、そういえばなんで電話してきたんですか?」
『ちょっとケーキの感想とちゃんと買ったかの確認を……。あと松野の分も頼むって言おうと思って。』

蓮のケーキを楽しみにしすぎている要件にあきれながら通話を切る初春。これで頼もしい人が助けてくれる。安心したようなそんな初春を微妙な表情で見ている御坂と白井に気づき初春はきょとんとする。そこで恐る恐る御坂が尋ねた。

「神谷くん、ここに来るの……?」
「あ、はい。松野さんも一緒に来るそうですよ。」
「初春。佐天さんのこれ、お2人にも見せるつもりですの?」
「あ…………」

ここでようやく2人の言いたいことに気が付いた初春は顔を青くし、何も知らずに眠る佐天にごめんなさいと心の中で謝罪した。





「佐天!大丈夫か!?」
「ちょ、ちょっと待って松野!佐天は……!?」
「神谷さん、松野さん。佐天さんならそこで眠ってますの。とりあえず体に異常はないらしいので大丈夫ですわ。」
「2人とも、とりあえず落ち着いてこっちに座りな?」

それから少しして部屋に駆け込んできた蓮と松野を白井と御坂が落ち着かせて椅子に座らせる。初春もパソコンに向かって何やら調べものをしながら目線を向ける。その状態で2人にも状況の説明が行われた。

「そっか。とりあえずは大丈夫なんだね。」
「心配かけやがって……」

安心したように脱力した2人。蓮は佐天のそばに行き、そっと顔にかかったタオルの上からおでこをポンと叩く。そこでタオルが少しずれ、さらにタオルが乾いていたことに気づいた蓮がタオルをとってしまう。

「このタオル乾いてきちゃってんじゃん。ちょっと濡らしてから俺の能力であっためてって………!!」
「あ!神谷さん!そのタオルは取らないで……って遅かったですね……」
「神谷?どうしたの……っつ!!」

初春が止めようとするも遅い。神谷が佐天の顔を見て固まり、それを不思議に思って近づいた松野もフリーズ。

「えーっと……2人とも?」
「御坂さん。これはなんですか……?」

御坂の心配そうな声に蓮が震える声できく。その声は怒りをこらえているようで御坂は何も言えない。見ると松野の手も握り拳が作られて震えていた。誰もが何も言えないでいる中、唐突に

ピロリ~ン♪

シャッター音が響いた。

「ってなに写真とってますの!!」
「だ、だってこ、これは……ぶふっ、ダメだ。超面白い……!!!」

音の発信源である蓮の頭を白井がはたくが蓮は笑いをこらえるのに必死でそれどころではない。松野に至っては笑わないようにするのに必死で声も出せないようだ。それも仕方ないことなのか。佐天の顔には大きな黒いカモメが飛んでいた。はっきり言えば両の眉毛がペンで太くされ、つなげられていたのだ。それを見て2人は笑いをこらえきれなかった。

「も、もうダメ!アハハハハハハ!なにこの眉毛!」
「笑っちゃダメだって神谷……ふふっ」
「松野さんも笑ってるじゃないですか……」

あきれる御坂や白井、初春の前で2人の笑いが収まるまで多少の時間を要した。





「目に見えない能力者ねぇ……」
「最初は光学操作系の能力者を疑ったのですが……」
「そ、それなら監視カメラには映らない。カメラに人影は映ってるんだろ?……ふう、落ち着いた。」
「いつまで笑ってるんですか、もう……。それに完全に姿を消せる能力者の全員にアリバイがあります。」

ようやく笑いが収まってきた蓮を交えて、全能力者の能力の情報が載せられているサイト『書庫』<バンク>を見ながら話が再開される。ちなみに松野はいまだに笑いをこらえている。相当ツボに入ったらしい。と、その時初春が外を見て声を上げた。

「あ、ハト……」
「え?」
「白井さん見なかったんですか?神谷さん、見ませんでした?」
「いいや。松野も見てないだろうな。笑いこらえてたし。意識してないから気づかない……」

そこで蓮が何かに気づいたように言葉を止める。御坂も気づいたようだ。2人は目を合わせてうなづく。

「初春さん、調べてほしいことがあるんだけど。見ているという意識を阻害するみたいな能力。ない?」
「ちょっと待ってくださいね……ありました!能力名『視界阻害』<ダミーチェック>。能力者は関所中学2年、重福省帆(じゅうふくみほ)。」
「そいつですわ!!」
「落ち着け。この人レベル2だろ。」
「はい。自分の姿は完全に消せないと実験結果からも出ています。」
「書庫の情報なら間違いないね。」
「んーいい線いってると思ったんだけど……」

ようやく復活した松野も話に加わり、調べてみるが空振り。蓮もこれだと思っていたために失望感は大きいがどうにか切り替えてほかの可能性を考え出す。そこで佐天の眠るソファからうめき声が聞こえ、そちらを見ると佐天が目を覚まし、体を起こすところだった。

「ん……あたし……?」
「あ、佐天さんだいじょ……ぶっふふふ……!!」

起き上がる佐天を心配する言葉をかけようとする御坂だったが笑ってしまって失敗。全員が笑いをこらえるなか、きょとんとしていた佐天だが初春に差し出された鏡によって状況を把握。部屋に佐天の悲鳴とこらえられなくなった蓮と松野の爆笑が響いた。





「な……なっ……!!」
「佐天さん気を確かに……ふふっ……!」
「ショックだよね、そりゃあ……」
「ぷぷっ……!さ、佐天。に、似合ってるよ……!!」
「せめてこれぐらい前髪があれば隠せましたのにね。」

ショックに言葉も出ない佐天に苦笑いしながら声をかける御坂と初春。ふざけて声をかけた蓮と佐天とは別の理由で言葉が出ない松野をにらみつつ、白井の言葉に佐天は反応する。

「前髪?」
「これですの。せめてこれくらい……」
「あああああああああ!!!!!こいつだ!」
「え?あなた犯人を見たんですの?」
「はい。あの時確かに鏡の中に……」

白井の見せた画像を見て大声をあげ、こいつが犯人だと断定する佐天。それを聞いて蓮が納得したようにうなづいた。

「監視カメラに鏡。なるほど見た本人だけに作用する能力か……」

これまでの話と状況から能力の詳細も把握。被害者の佐天の証言もあることだし犯人は重福で決まりだろう。と、そこで佐天が不敵に笑いだす。

「えーっと……佐天さん?」
「つか、その眉毛で不敵に笑わないでよ。面白いから。松野の笑いの発作が再発してるじゃんか。」
「神谷は黙ってて!松野もいつまでも笑わないでよ!傷つくから!……とりあえず、この眉毛の恨み、はらさでおくべきかあぁぁぁ……!!」

急に笑い出した佐天に引き気味に声をかける御坂と笑いをこらえる蓮と笑いすぎでおなかをおさえている松野。男子2人をにらんでから佐天は宣言する。

「やるよ!初春!!」
「……はい?」





現在初春の目の前にはいくつものパソコンのディスプレイ。視線はそのディスプレイの画面を、両手はキーボードの上をせわしなくいったりきたりしている。

「なんていうか……すごいねぇ……」
「初春、いつも電子機器いじってるとは思ってたけどこんなにできる子だったとは……。無駄にすごいな……」
「無駄って言わないでくださいよ。こうでもしないとここにある端末じゃ処理が追いつかないんです。それより学舎の園は177支部の管轄外ですけど大丈夫なんですか?」

感心したような御坂と蓮の言葉に反応しつつ初春は白井に視線を向けてきく。その間にも作業をする手は止まらない。

「いま上からの許可をとりましたの。」
「許可も何も3分の2は風紀委員じゃない一般人だけどね。」
「よっしゃあ!初春、どーんといってみようかぁ!!」
「はいはい。どーん。」

白井の返事に苦笑する松野を気にすることなく佐天が勢いよく言った言葉に初春が気の抜けた掛け声で答える。掛け声とともに押されたエンターキーに反応しディスプレイに監視カメラの映像が映し出される。その数2458台。

「見てろよ、前髪女ぁ……!必ず見つけ出してやるからな……!!」
「佐天、その眉毛でそんな顔しないで。笑えるから……!!」
「もうやめてよ、泣きたくなるからあ!!神谷もむこう向いて笑いこらえない!!」
「そんなことより佐天さん。約束のケーキ忘れないでくださいね?」
「3個でも4個でも食べてよし!」
「わーい!!」
「……多いわね」

いまだに発作がぶり返す松野と蓮が笑いをこらえる姿を涙目でにらみながら佐天は初春にいう。そこで歓声を上げる初春に反応するかのように御坂が呟いた。

「えーそうですか?」
「大丈夫ですよー」
「むしろ少ないな。10個はいける」
「神谷、それ本気か……?」
「ケーキじゃなくて監視カメラですの。」

御坂の発言をケーキのことだと思った4人が反論し、蓮の発言に戦慄していると白井が間違いを訂正し初春に監視カメラの台数を絞るように指示を出す。

「この辺りは常盤台からもっとも遠いエリアですの。常盤台の生徒はまず行きませんわ。」
「じゃあ人通りの多いところも後回しね。」
「え?何でですか?」
「犯人のかっこうはここじゃ目立つからな。そんなところじゃ能力を常に使うしかないけど能力は永遠には使えない。なら、人通りの少ないところで身をひそめるはずだろ?」

御坂の推測を蓮が補足するとわかっていなかった初春と佐天も納得したようにうなづいた。そのようにカメラの台数を絞っていき、犯人を捜していく。





「さてっとそろそろかな?初春ー?」
『はいはい~。神谷さん、ななめ右50メートル先から来ます。』
「りょーかい」

スケボーを抱えて路地の壁に寄りかかり、耳にかけている無線から初春の指示を聞く蓮。相手は見えない以上視覚に頼っても無駄。目をつむって音と気配に全神経を傾ける。

「んーだいたいわかるかもだけどミスって逃がすのもあれだし……。これでいいか。ほいっと。」
「!きゃあ!!」

炎の壁で自らの左右の通路の通行を塞ぐ。すると炎に驚いたのか、しりもちをついた重福が姿を現した。

「なんでここにいるって……」
「なんでわかったんだろーね?とりあえず捕まえてから教えてあげるよ。」
「くっ……!!」

蓮が捕まえる前に姿を消して逃げ出す重福。蓮は一瞬あっけにとられてから感心したように呟く。

「おーほんとに全く見えなくなった……」
『いいから追ってください!佐天さんと同じ反応してますよ、まったく……』
「おっと、佐天レベルか。追いかけなくちゃな。初春ナビよろしく。」
『次の角右に行ってまっすぐです。』

初春に指示されながらスケボーに乗って路地を走っていく。といってもおいかっけこにしては相手が見えない分面白味がない。ただ走っているだけでは飽きがくる。蓮はそんな中これまで感じていた違和感について考え始める。

(重福省帆。『視覚阻害』レベル2。書庫の情報はこうなっていた。書庫の情報を信じるなら彼女は完全には自分の姿をけせないはず。だけどさっき見た限り完璧に姿は見えなくなっていた。書庫の情報が間違っているとは考えづらい。短期間にレベルが上がった?どうやって?)

書庫の情報と現実の能力の矛盾。システムスキャンが最近あったことを考えるとレベルがいきなり上がったとも思えない。というよりあってたまるかというのが蓮の心境だ。そこで蓮は気づく。

(……松野も同じような状況にいるな。短期間にこんなにも能力を向上させる方法か……)

レベル2という結果だったシステムスキャンの次の日にレベル4並の能力を使った『水流操作』の松野。レベル2の『視覚阻害』とされているにも関わらず完全に姿を消して見せた重福。どちらも短期間のうちに能力が向上し、書庫の情報と矛盾が起きている。しかしそれ以外の共通点は蓮には見つけられない。

(なにかありそうな気もするが気のせいなのか……?確かに能力のことを聞いたときの松野の様子はおかしかったが……)
『……さん……さんってば……神谷さん!!!』
「っと初春?どうしたの?」

ふいに耳元に響いた初春の大声に我に返る蓮。考え事に没頭しすぎてしばらく適当にスケボーで走り回ってしまっていた。

『どうしたのって……。なんども呼んだんですから返事してくださいよ。』
「ごめんごめん。考え事してた。」
『はぁ……。まぁいいです。神谷さんがふらふらしている間に例の公園への誘導にほかの3人が成功しました。向かってください。』
「了解。」

ため息をついて少し皮肉の込められた初春の言葉に蓮は黙って従う。文句を言われても仕方のない行動だったので何もいえないのだ。公園に向かう蓮は心の中で決める。松野に能力について聞いてみようと。




(なんで……!!!)

常盤台狩りこと重福は焦っていた。これまでの襲撃は完璧だった。一切その姿を晒さず、気に食わない常盤台のお嬢様に屈辱を味あわせてきた。だが、今日襲った黒髪ロングの少女。彼女になぜか正体がばれ、見つかった後から逃げる先々にその少女、またはツインテールの少女と短髪の少年と黒髪の炎を使う少年のうちだれかが待ち伏せていた。

(このままじゃ……でもなんで、どうすれば……)

しばらく姿を消したまま逃げることに専念していたがついに限界。とある人通りの少ない公園で能力が切れてしまう。そこで重福は目にする。ブランコに乗った常盤台の生徒を。茶髪の彼女はこちらを見てこう言った。

「鬼ごっこは……終わりよ。」
「鬼ごっこって御坂さんなんもしてないじゃないですかー」
「神谷だって途中からスケボーでテキトーに走り回ってただけじゃん」
「俺たちがその分頑張ったんだからね?」
「それはごめんって。考え事してたらつい夢中にね。つか松野も原因だからな!?」
「え?なんで俺逆ギレされてんの?」
「これからいいところなんですからお3人とも少し黙ってくださいまし。」

重福の後ろにはこれまで先回りを続けていた4人。これで重福に逃げ場はなくなる。

「なんで……なんで『視覚阻害』が効かないの!?」
「さあてなんででしょうね?」
「くっ……これだから常盤台のお嬢様は……!!!」
「「あっ!!」」
「大丈夫だよ、佐天。松野。」

小馬鹿にしたような返事に一気に重福の頭に血が上る。そしてスタンガンを茶髪の少女に押し当てる。完全に意識を奪った。重福は確信していた。後ろで4人が何か言っているが関係ない。今、重福の頭の中からは、完全に姿を消せるようになった自分の能力が効かないイライラと相まって数的不利など頭からきれいさっぱり抜け落ちていた。もっとも

「あ、あれ?」
「ふぅ……残念。私、そういうの効かないんだよね~。」
「え、えーっと……きゃあ!」

人数など関係ないようだったのだが。茶髪の少女が指先から電気を出して見せた後、重福の腕に指先を当てる。その瞬間、重福の体に電流がはしり、重福は意識を手放した。





「手加減はしたからね。」
「初春、容疑者確保の連絡をアンチスキルにお願いしますの」
『はーい。う~ん……お疲れ様でした。』
「初春もお疲れ様」

ずっとナビゲーションをして重福を追い詰めてくれた初春をねぎらいつつ、蓮たちは近くのベンチに重福を運ぶ。その理由は佐天の仕返しのため。

「ふっふっふっ……!さぁて、どんな眉毛にしてやろうかなぁ……!!」
「見慣れてくると佐天のこの眉毛もそんなに面白くないな。なんであんなにツボにはいったんだろ。ただ変なだけだし。」
「ただ変なだけとか言わないでよ!うぅ……笑われるのも嫌だけど微妙な気分……。まあいい!気を取り直し……て?」

黒いペン片手に不気味に笑う佐天が蓮に余計な口を挟まれつつも重福に仕返しをしようと前髪を寄せる。しかし、他の4人が苦笑いしている中佐天は唐突にその動きを止めた。その視線の先には佐天と同じような重福の太く濃い眉毛。誰も口を開かない中で重福が目を覚ます。

「んっ……!!あっ!いやあ!!」
「えっと……」
「おかしいでしょ?」
「……はい?」
「笑いなさいよ。笑えばいいのよ!あの人みたいに!!」
「「「「「あの人?」」」」」

そこから重福が語ったのは過去の重福の恋愛。過去に好きだった男の人が常盤台のお嬢様を好きになってしまい、振られる際に言われた一言が

『だってお前の眉毛変じゃん』

その言葉にショックを受け、重福は自らを振った男、常盤台のお嬢様、そしてすべての眉毛に恨みを持った。それがこの事件を起こした動機らしい。

「え、えー……」
「ごめん。話が途中から見えない。」
「はあ……終わったら教えて。」
「逃げるな神谷。」

あっけにとられる白井と御坂。ため息をついて逃げようとする蓮を捕まえる松野。そんな様子を後目に重福は佐天に詰め寄る。

「どうしたのよ!ほら!笑いなさいよ!!」
「え、えっと……変じゃないよ?」
「えっ……」
「それくらい……その……そう!ちょうどいいチャームポイントだって!あたしは好きだな~~!!」
「あっ……」

明らかなその場しのぎの佐天の言葉だが、重福にはうれしい言葉だったらしく、彼女の頬が赤く染まる。それを見た蓮たちは微妙な顔で見つめる。

「えっ……?」
「罪な女ですこと。」
「へ?」
「佐天はモテるなあ、ほんと。」
「神谷。こっち見ながら言わないで。」
「えっと……えええええええええええ!!!!!」




「あの……手紙書いてもいいですか?」
「はぁ……はい」

佐天の返事に嬉しそうにアンチスキルの車両に乗り込む重福。連行される重福を乗せた車両をながめ、なにか放心したような佐天をよそに御坂が呟く。

「そういえば彼女、完璧に姿を消してたよね?」
「御坂さんも気になりますか?俺も気になってるんですけど……」
「確かに書庫の情報にはレベル2とありましたし、変ですわね。」
「書庫のデータが間違ってたとか?」
「まさか。まあ気にしても仕方ないですわ。」

御坂たちの話はそこで打ち切られる。だが、蓮としてはここで終わらせられない。隣にいて黙っている松野に聞く。

「なあ、松野。お前、なんか知ってんじゃないの?」
「……まさか。なんも知らないよ。」
「……そっか。ならいいんだ。」

答えるまでの微妙な間は気になるが無理して聞き出すわけにもいかない。なにかあれば松野の方から話てくれると信じるしかない。とりあえずは様子を見るしかない。蓮はそう結論付けた。





その次の日。佐天たち被害者の眉毛を書くのに使われたインクが1週間は絶対に落ちない特別なものだとわかり、佐天が1週間の帽子生活を余儀なくされることとなったことを聞き、自分の買ってもらったケーキを佐天に分けてあげることを蓮は決めるのであった。 
 

 
後書き


ほぼアレンジを入れられなかった…… 
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