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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第26話 親は子を叱れてこそ一人前

 東の空には茜色に輝く太陽が昇り始めている。今まで薄暗かった空を太陽の光が照らし始めているのだ。
 そんな早朝とも呼べる時刻。坂田銀時は一人、海岸近くにあるベンチに腰掛けていた。
 大層大欠伸をしながら。

「眠ぃ……」

 一言そう漏らした後、再び大欠伸を放った。これで何度目の欠伸だろうか。
 本来なら寝ている筈の時間帯にこうして起きて、しかも外に出てくるなんて滅多にない。
 故に余り起き慣れていないのだ。無論、普段ならこんな事する筈がない。
 やれと言われても御免被る。だが、今回はそうしなければならない理由があるのだ。

「まさか、アイツの指定してきた時間がこんな時間とはなぁ」

 そう、銀時は今、人を待っていたのだ。無論、それは彼にとって恋人でもなければ親友でもない。これから戦う敵を待っていたのだ。
 その敵が指定してきた時間がこの時間だったのである。

【銀さん、聞こえますか?】
「あぁ、感度良好。聞こえてるよ」

 銀時の左腕には腕時計の形をした通信端末が取り付けられていた。
 其処から聞こえてきたのはオペレーターの声だ。
 確かエイミィとか言っていた。

【念の為に私達は外でバックアップに回ります。もしもの場合―――】
「わぁってる。最悪取られたとしても奴の居所を掴めりゃそれで良いって話だろ? もう何度も聞かされたから頭に叩き込まれてるよ」

 面倒くさそうに応対する。本当に面倒くさいのだろう。心境が顔に出やすいとはこの事のようである。

【銀さん、本当に大丈夫ですか?】

 通信の声が代わった。少年の声だ。
 声色からして誰なのかは即座に銀時には分かった。

「心配すんなよ新八。銀さんは例え弱体化してもそう簡単にくたばりゃしねぇよ」
【そいつぁ残念だ。いっその事そのフェイトって女にぶっ殺されてくれりゃ俺も嬉しいんだがな】

 また別の声が響いた。その声の主もまた銀時は知っていた。
 その声を聞いた途端、銀時の眉がひくつく。

「あぁ、俺としてもてめぇと二度と会わないと思うとその方が良いと思い始めたよ。だけどなぁ、俺はまだやりたい事が山ほどあるんでそうそうくたばれないんだよ。残念だったなぁ、このニコチンマヨラー中毒が!」
【誰が中毒じゃ! せめてマヨネーズ愛好家とかマヨネーズの妖精とかそう言いやがれ!】
「おめぇの何処が妖精なんだよ! どっちかって言うと悪霊だろうが! その辺漂ってるうざったい悪霊だよ。さっさと成仏しろコノヤロー」
【てめぇを成仏させたろうかこの腐れ天パー】

 通信端末越しにいきなり銀時と土方の口論が勃発し始めた。この二人はもしかして化学物質で出来ているのだろうか?
 そう思い始める次第でもある。

【銀ちゃん。私の代わりにあの変態女をぶちのめして来てヨォ!】
「当たり前だろうが。あの変態女にゃ借りがあるんだ。延滞料金つけてきっちり返してやるからしっかり見とけ」
【旦那ぁ、ドSチックな事するんでしたら是非俺も混ぜて貰いてぇですがねぇ】
「ったりめぇだろうが。奴を拷問する上ではお前のサディスティック精神が必要不可欠なんだよ。遠慮せず思いっきりやっちまえよな」

 端末越しにエールを送る者も居れば、不吉な事を囁く者も居る。多種多様なメンバーが揃っている事に、今更ながら銀時はおかしさを感じていた。
 二つの異なる世界。
 この二つの世界がちょっと混じ合わさっただけでこれほどまでのカオスな空気が出来上がるなど前代未聞だろう。
 これは、世界そのものが異世界を嫌うのも頷けると言う所だ。
 下手に異世界の介入を許したら、それこそ収拾のつかない事態に発展しかねない。

【万事屋ぁ、最後まで頑張れよぉ。死んでも骨は拾ってやるからなぁ】
「何で俺が死ぬ前提なんだよ! 気が早すぎんだよ! デート前日の初心少年かぁてめぇは!」

 泣きながら言ってくる近藤に半ば呆れながらもそう返す銀時。
 近藤は何処か涙もろい一面もあるので其処まで気にする必要はないと言うのも事実なのだが。

【すみません銀さん。僕が本調子なら本来僕が其処に居るべきだったんですが】

 今度はまた別の声が響いてきた。とても申し訳なさそうな少年の声だ。

「心配すんなよ執務官さんよぉ。この喧嘩は俺が自分で買った喧嘩だ。何時までもあんな小便臭いガキに負け続けたんじゃ大人の威厳がなくなるってもんだ。それになぁ、俺にゃ親としてやらなきゃならない義務があるんだよ。それを果たす為の戦いなんだ」
【親としての義務?】
「あのガキ、話だけ聞くと禄に教育受けてなかったみたいじゃねぇか。何をやっても仕置きばっかり、これじゃ頭クルクルパーになってもおかしかねぇよ」
【いや、彼女そこまで頭おかしくなかったと思うんですけど】

 銀時の発言に疑問を抱きながら呟くクロノ執務官。
 そんな執務官の発言を小耳に挟みながらも銀時は続けた。

「今のあいつは、何が良い事か、何が悪い事か全く判別がついてない状態だ。そんな奴を全うにさせる事が親のやるべき事だろうが。だから、俺はこれからアイツと戦いに行くんじゃねぇ。あいつを叱りに行くんだ」
【叱りに……行くんですか?】
「親ってのはガキを叱れて初めて一人前なんだよ。生憎、なのははそれに関しちゃ叱る要素が全くなかったんだけどな。今のあのフェイトには叱る要素がたっぷりとありやがる。だから俺はこれからあいつを叱りに行くんだよ」

 なんとも、な言い分であった。
 戦いに行くのではなく、只叱りに行くだけ。言い訳も此処までくると清清しい気がする。
 ふと、自分以外の気配を感じた。今の所周辺には自分以外誰も居ない。となれば此処に他の気配がするのはおかしい事だ。

「悪い、後で掛け直す」

 一言そう言い、銀時は端末の電源を落とした。ベンチから立ち上がり、鈍った筋肉を解す意味あいもある屈伸をする。
 それを終えた後、銀時の視線はすぐ真横へと移された。
 丁度銀時の向いていた方向から右に90度位向いた辺りだ。其処には一人の少女が立っていた。
 
「よぉ、随分待たされたぞ。お色直しか? それとも大の方か?」
「普通女の子にそっちの方は聞かないと思うけど。一応前者の方にしておくわ」
「あ、そう。大変だねぇ女ってのは。見せる相手もいない癖に格好に気を使うんだからなぁ」

 今世紀一番とも思える皮肉を叩き込む銀時。その銀時の言葉に、少女ことフェイトは毅然とした顔立ちで見返した。

「もう貴方の無駄口に一々反応するのは止める事にするわ。何せ、此処で貴方との腐れ縁を断ち切るつもりなんだから」
「おいおい、もう勝った気でいるのか? 気が早すぎねぇかそりゃ? ドラクエⅩ発売が待ちきれない中学生ですかぁコノヤロー!」
「一々難しい返し文句言わないでよ。って言うか、何でドラクエ限定?」

 このままの調子ではずっと醜い口論でまるまる1話分潰してしまいそうになってしまう。
 それは流石に不味いのでそろそろ始めて貰いたい気持ちになってしまったりする。

「ま、何でも良いや。それより、とっととおっぱじめようや」
「こっちは何時でも良いよ。それで、此処で始めるの?」
「いんや、ちゃんと場所は用意してあるから安心しろ」
「そんな事言って。このいたいけな少女を夜の繁華街に連れて行って如何わしい事する気じゃないでしょうね?」
「何でてめぇなんかと行かなきゃならねぇんだよ! 何処まで自分に自信持ってんだ? 世界の誰もがてめぇのファンだと思ってんじゃねぇぞこの自信過剰変態女が!」
「何? 喧嘩売ってるの? それでも父親なの? あんた父親の風上にもおけないよ。いっそ此処であんたの息の根を止めなければ後々の憂いに繋がってしまう」
「一々難しい言語使えば頭良く見えると思ってんのかぁクソガキ! てめぇなんざもうこれを読んでる読者の人達からは絶対に変態フラグ連発だよ! これがもし小説じゃなくて動画とかだったら絶対「フェイト変態」ってタグとかフラグとかコメント連発だから。マジで連発だから」

 どうでも良いがそろそろこの手の下りをやめて貰いたい気もしてきた。
 なので先に進めようと思う。どうせこの下りを続けていたって二人の醜い口論を見せられるだけなのだから。

【あのぉ、そろそろ転移するんですけど良いですか?】
「ほらぁ、オペレーターさんも迷惑してんじゃねぇか。察しろよコノヤロー」
「あんたが悪いんでしょ? 私のせいにしないでよ。大体貴方がそんなだからなのはも苦労して―――」
【いい加減にしろテメェ等! さっさと転移しますよ】

 流石にぶち切れられた為に一旦中断する二人。すると、目の前が突如閃光により真っ白に塗りつぶされていく。
 白い闇であった。その白い闇が晴れると、場面は一転して、広大な海とその上に数点浮かぶビルの廃墟となった。
 二人は丁度その廃墟の上に立っている形だ。

「此処でなら好き勝手暴れても問題あるめぇよ。おめぇも心置きなく魔法とかを使えるだろ? 飛行魔法も使えるぞ。さっさと使えよ」
「悪いけど、飛行魔法は封印させて貰うわ」
「あん?」
「貴方と同じ、地上でケリをつける。そうしなくちゃ、意味がないんだよ」

 フェイトの言う通りであった。彼女の両足にあった飛行魔法を自分自身の意思で封印した。これにより、フェイトは自分で封印を解かない限り飛行は出来ない。
 つまり銀時と同じ地上戦メインとなったのである。

「どういう風の吹き回しだぁ? あん時ぁ散々人の事を頭上からカラスみたいに突っついてた癖によぉ」
「言ったでしょ? 貴方との腐れ縁を断ち切るって。それに貴方忘れたの? 私の大事なアルフに何をしたのか?」
「あぁ、あれ見てくれたんだぁ。いやぁ、そりゃ流したこっちも苦労が実った気がして嬉しいわ。あんがとねぇ」

 憎らしげな笑みを浮かべつつフェイトを睨み付ける銀時。その笑みがフェイトには余計に腹立たしく感じられた。

「何が嬉しいのよ! 貴方アルフに何をしたか自覚しているの?」
「何って決まってるだろ? 両手両足をふん縛った後にそいつの口の中に俺の大好物を食わせてやっただけだろうが」
「あんな毒物を食べさせたって言うの? だとしたらそれは拷問だよ!」

 心底怒りを顔で露にするフェイト。それほどまでに銀時がアルフにした事は許し難いことだったと言えるだろう。
 が、今の銀時にとってはそんな事毛程も気にしてはいない。今銀時が気にしているのは只一つ。この戦いに勝利する事だけであるからだ。

「御託は良いんだよ。それよりさっさとかかって来いよ」

 腕を伸ばして指を曲げつつ手招きの仕草を見せる。明らかな挑発の仕草であった。
 それを見たフェイトも、あえてその挑発に乗る形でバルディッシュを握る手に力を込める。
 切っ先に閃光の刃が展開され、唸りを上げて振り上げられる。

「今日、この地にて。坂田銀時と言う男を葬り去る!」
「やれるもんならやってみな。あべこべに叩きのめしてやるよぉ!」

 互いに啖呵を切りあい、それから激しい激突が始まった。
 初撃はほぼ同時だった。お互いに得物を振り放ち、ぶつけあう。
 互いの得物がぶつかりあい、火花を散らし、衝撃を奏であう。
 互いの得物をおしつけるようにしながら二人は互いに激しく睨み合った。
 歯を食いしばり、両拳に力を込めて押し負けまいと必死に前進を続けた。
 二人が同時に後方へと下がる。その際にお互い僅かに残っていた建物に降り立つ。
 僅かに残った建築物の残骸以外は殆どが海な為にそれほど自由には動き回れない。跳躍からしての攻撃が殆どとなる。
 体が比較的重い銀時よりは軽いフェイトの方が適した場所と言える。
 が、不利な勝負だと言っても戦いは一瞬で決まる場合もある。そして、その秘訣は銀時の中にある蓄えられた戦いの知識にあった。
 如何に場所や力で有利に運べたとしても経験や知識には及ばない。それこそが銀時の最期の武器であった。
 足場にしていた残骸から跳躍し、再度両者は攻撃を開始した。
 本来フェイトならこんな消極的な戦法を行う必要などはない。空中からの戦法の方が戦いやすいし有利に運べる。
 だが、それで勝利しては意味がない。同じ条件化にて坂田銀時を叩きのめす。それにこそ意味があった。
 今度は空中に跳躍してでの連続攻撃が行われた。
 互いに一心不乱に激しく得物を振り回す。最初の初撃と同じように火花が舞い散り、衝撃が音を奏で続ける。衝撃音だけのオンパレードが展開されていた。
 後先や前先の事など考えずにただひたすらに打ち込み続ける。そんな乱打戦が展開されていた。
 基本、乱打戦とは無呼吸の中でひたすらに打ち続ける事にある。
 故に体力と肺活量の勝負もまた乱打戦の中に組み込まれている要素と言える。
 如何に魔力による加護を受けてるフェイトと言えども其処まではフォローしてくれなかったようだ。
 最初に音をあげたのがフェイトだった。一旦銀時から距離を離し呼吸を整えようとする。
 が、それを見逃す銀時ではなかった。
 即座に空中から飛び降りるスピードを生かし真っ向から木刀を叩き降ろした。
 咄嗟に後方に飛び退いた直後、先ほどまで其処にあった残骸が粉々に砕け散るのが見えた。
 それだけに留まらずに、銀時は2撃目、3撃目を放ってきた。

「魔法の加護ってのも其処までは面倒みてくれなみたいだな」

 銀時が其処に付け入った。確かに魔法は強大で厄介な存在だ。しかし、どんな力にも万能な力などない。万能な人間などないのと同じだ。
 どの物にも優れている部分があれば劣っている部分もある。戦いとはその劣っている部分に自分の優れている部分をぶつける事で優劣をひっくり返す事が可能となるのだ。
 それらが出来るのは一重に銀時が戦いの経験が豊富だからこそ言える事だ。フェイトに対して銀時が勝っている事が正にそれと言えた。

「卑怯だと思うか? 残酷だがこれが戦いだ」

 未だに呼吸を整えきれないフェイトに対し、一瞬も隙を与えずに攻撃を叩き込む。
 卑怯にも見えるだろう。女々しくもあるだろう。
 だが、戦いに勝つ為には何でも利用しなくてはならないのだ。
 劣って居る者が優れている者に勝つ為の手段がそれと言えるのだ。

「それが侍の戦い方なの? せこい戦い方ね」
「せこくて結構だ! 己の技量の全てをつぎ込んで一瞬の隙を突くのが戦いってもんだ。そして、それを見逃さないのが俺達侍なんだよ!」

 空中に逃れれば勝機はあるだろう。だが、それでは意味がないのだ。
 銀時を完膚なきまでに叩きのめす為には同じ地上にて勝利を収めなければならない。
 そうしなければ仮に勝ったとしても何かしら言い訳をされてなかった事にされるのがオチである。
 それもあるが、フェイト個人が満足で勝利する為にも同じ状況下にて叩きのめす。其処に意味があるのだ。
 それに、接近戦ならフェイトの得意な分野と言える。何も満足する為だけじゃない。自信があるからこそ挑んだのだ。

「乱打戦じゃ勝ち目がなさそうね……なら!」

 即座にフェイトは銀時から離れた残骸へと飛び移る。流石の銀時でも今フェイトが居る所へは飛んでいけない距離だ。
 そして、その距離から一直線に銀時目掛けて突進してきたのだ。
 まるで弾丸だった。突発的な戦法の変化に銀時は驚き反応が鈍ってしまった。其処へすかさず弾丸と化したフェイトが突っ込んできたのだ。
 それだけじゃない。突っ込むスピードを生かしつつ閃光の刃を振るってきた。
 突進のエネルギーが作用してその威力は更に増す結果となった。
 横飛びに避けた為に辛うじて直撃は免れたが、銀時の上着の前部分が引き裂かれてしまったのか、白い着物の生地が破けてしまっていた。

「おいおい、人の一張羅どうしてくれんだ」
「服の心配している場合?」

 軽口を叩き合う二人。これがフェイトのもう一つの戦法と言えた。
 乱打戦では成長期であるフェイトでは分が悪い。体力や肺活量で銀時に劣るからだ。
 だが、その小柄な体を利用した突撃戦法でなら勝機はある。
 弾丸と化せば銀時でも対応が遅れるだろうし、何よりスピード戦法はフェイトの十八番だからだ。
 互いに自分の有利な状況を駆使し、一瞬の隙を突いて其処に付け入ろうとする。
 一進一退の攻防が今、此処に展開されているのであった。




     ***




 銀時とフェイトの激闘は此処アースラ艦内にでも映像にて見せられていた。
 局員の誰もが緊迫した思いの中で戦いを見守っていた。空気が重く、そして堅い。
 誰もが、同じ重い空気かと思われていた。が―――

「良いぞ、万事屋ぁ! そのまま一気に畳んじまえぇ!」
「負けたら士道不覚悟で切腹だぁゴラァ!」
「旦那~、ぼやぼやしてねぇでちゃっちゃと終わらして下せぇなぁ」

 明らかにこの重たい空気にそぐわない台詞。言葉遣いから分かると思うが、真選組の三人である。
 近藤は勿論の事、土方も沖田も、椅子に座り込んだ姿勢で銀時とフェイトの激闘をただ傍観しているのみであった。
 その余りにも場違いな対応には局員一同唖然と言う言葉以外見つからないのであった。
 しかも、唖然の言葉が似合うのはそれだけに留まらない。

「すんまっせぇぇぇん! ポップコーンおかわりぃ!」
「こっちも骨付き肉おかわり宜しく!」

 其処にはバケツ並の大きさのカップを抱えた神楽と、骨を掴んでいるアルフが料理の注文を行っていたのであった。
 しかも、双方共既に平らげた後らしく、神楽の持っているカップは既に空っぽだし、アルフの持っていた骨には歯型がビッシリと刻まれていた。
 
「いや、皆結構落ち着いてますね。何でそんな落ち着いていられるの? この世紀の大決戦を前にして」

 流石のエイミィもこの光景には驚きを隠せないらしく問い掛けてみた。余りにも考え方が違い過ぎるのだ。
 自分達はこの一戦の先にある黒幕を逮捕すると言う千載一遇のチャンスを逃さない為にもと必死になって戦いを見守っていたと言うのに、此処に居るメンバーときたら全く気にせず、寧ろ楽しんで戦いを見ている始末なのである。
 明らかな空気の違いに驚きは勿論疑念すら抱いていたのであった。

「何って決まってるだろうが、この戦いは万事屋が全てだ。俺達にはもう出来る事はないんだ。そうなったら俺達に出来る事は此処でドッシリと構えている事しかないんだ」
「今回は近藤さんの言う通りですね。僕達に出来る事はやったつもりです。後は銀さんに全てを任せるしかないんです」

 近藤に続き、新八もまたドッシリと構えていた。嫌、それだけじゃない。銀時と同じ江戸から来たメンバーの殆どが皆、その場にドッシリと構えていたのだ。
 その目線は皆同じ思いの輝きを放っていたのであった。

「皆……」
「正直こう言うのは癪なんだが、俺達はアイツが負けるなんて欠片も思っちゃいねぇ。だからこそ、俺達はこうして奴の勝利する瞬間を待っていられるんだ」
「銀ちゃんは負けないネ。どんな時でも、どんな奴が相手でも、銀ちゃんは余裕の笑みを浮かべて帰って来たアル。きっと今度もそうアルよ!」

 そう、誰もが銀時の勝利を確信していたのだ。誰一人として、坂田銀時が負けるなどとは口にしないのだ。
 不思議だった。普段からあんなだらしなくてチャランポランでもてる要素なんて欠片もなさそうな駄目人間にどうしてこんなにも大勢の人が集まるのか?
 ふと、回りを見てみた。其処に居たのは、何も江戸から来たメンバーだけじゃない。こちら側のメンバーも数名だが混じっているのだ。

「何度もアイツと戦ったから分かるけどさ。あいつなら、フェイトを助けてくれるって信じてる……うっ! またあの味を思い出しちゃった……お願い、早くお肉頂戴! またあの味が脳裏に浮かんでくる。出ちゃうから、マジでリバースしちゃうから!」

 青ざめた顔で必死に肉を要求するアルフ。最初の発言辺りは格好良かったのだが、後半で何故か真っ青になり苦しみだしている。
 余程酷い目にあったのだろう。そこは察しておくとしよう。

「僕は信じてますよ。銀さんが勝って帰って来るって」

 その隣では、未だに治りきらない体を引きずってやってきたクロノの姿もあった。
 体中ギプスでガチガチに固定されている為か動きにくそうではあるが、それでも彼はこの一戦を見る為だけにこうしてやってきたのだ。

「僕もそう思います。銀さんだったら僕達の出来ない事をやってくれると信じてますから」

 同じように言ってくれてる……誰だっけ? こいつ。

「え? あの、僕の事覚えてないの?」
「誰アルかぁお前?」
「いや、僕だよ僕! 皆思い出してよ! ちゃんと皆の仲に居たよぉ!」
「今度は僕僕詐欺ですかぃ? 最近の詐欺も地に落ちやしたねぃ。もうちっと骨のある詐欺をして下せぃな」
「詐欺じゃないよ! 僕だよユーノだよ! 皆思い出してよ! 確かに原作と違って今回は凄く出番なくて薄いかも知れないけど、それなりに重要なキャラだからねぇ僕は!」
「はいはい、ツッコミは重要なキャラだって事は知ってますよユーノ君。だから君も落ち着いて見ててね。キャラが壊れちゃうよ」

 仕舞いにはその場で泣き崩れるユーノの姿があった。その姿を目の当たりにし、局員達は心の奥底で、彼に励ましのエールを送って上げる事にした。
 原作とは違い全く絡みのなくなってしまった可愛そうなユーノ君。果たして、彼にこれから活躍の場面は訪れるのだろうか?
 
「おい、お前等! モニターを見ろ!」

 突如、近藤が大声を発しながらモニターを指差した。それに気付き、一同の視線がモニターに向いた。
 其処には、戦いがいよいよクライマックスに向っている場面が映し出されていたのだ。




     ***




「ちっ、ドジ踏んじまったぜ」

 舌打ちをする銀時が其処に居た。彼は今、両手足を自由に動かせない状況にある。拘束されてしまったのだ。
 付近を超高速で動き回るフェイトに対応しようとしたが、それは彼女が仕掛けた策略の一部であった。
 高速でのヒットアンドアウェイ戦法に気を取られていた銀時は、フェイトが仕掛けたトラップに見事引っ掛かってしまったのである。
 
「これも戦法だよ。貴方が言う侍の戦い方とは少し違うけどね」

 両手両足を輝くバインドで固定された銀時の前で、フェイトが笑みを浮かべていた。
 全てはこの為だったのだ。これの為に高速で移動し、そして切りつけ続けたのだ。
 銀時に見破られる危険性を承知の上で。
 正に命がけの戦法と言えた。

「大した奴だよ、お前は。で、この後どうするつもりだ? まさか俺の口に大量の塩水でも流し込もうって算段じゃねぇだろうな?」
「まさか? そんな方法よりももっと確実な方法で貴方を仕留めるわ」

 そう言い切った。そして、持っていたバルディッシュを水平に構えて、銀時に穂先を向けた。
 足元に巨大な魔方陣が展開し、彼女の体から杖へと魔力が集められていく。
 黄色い稲妻が迸り、周囲に輝く雷撃の弾が浮かびだす。明らかにやばそうな技だと言うのは明白の事だった。

「あり? もしかしてそれを俺にぶつけるつもり? でも、銀さん君みたいにバリアジャケットも纏ってないし魔力結界も使えないよ。ピンの状態だよ。そんな銀さんにそんな技使ったら、ハッキリ言って銀さん死んじゃうかも知れないよぉ」
「安心して。死んでも骨位は拾ってあげるから」
「全然安心出来ねぇよおおおおおおおおおおお!」

 青ざめた顔で銀時が泣き叫ぶ。しかし、そんな銀時のことなど全く無視し、フェイトは引き金を引き絞った。

「これで、さようなら。フォトンランサー・ファランクスシフト。ファイアァ!」

 名を叫び、極太の魔力砲が発射された。避ける事が出来ず、銀時は一身にそれを浴びてしまう。
 銀時を飲み込んだまま、その魔力砲は海面に激突し、水しぶきを上げて飛び散った。
 周囲の残骸を破壊し、波を巻き起こし、巨大な波紋を作り上げた。
 波紋が消え去った後、目の前に居る筈の銀時の姿は影も形もなくなっていた。
 塵も残さず消滅したか?
 デバイスの切っ先を下ろし、フェイトは安堵する。これで後顧の憂いを断つ事が出来た。
 後はその辺に散らばっているであろうジュエルシードを回収すれば事は済む。
 足に掛けていた封印を解き、低空を飛び回りながら周囲を散策する事にした。
 背後の水が持ち上がった。フェイトがそれに気づいた時には、持ち上がった水は既に彼女の頭を通り越していた。
 水が弾かれ、その中から現れたのは、ところどころ黒く焦げ、傷だらけになった銀時であった。

「そんな……あれを食らって、まだ!」
「海に向って撃ったのはお前のミスだったなぁ」

 どうやら海面に向かい激突した際に魔力砲の威力が殺されたのだろう。
 その為銀時はこうして無事で居られたのだと言える。
 咄嗟に再度攻撃しようとフェイトはデバイスを両手で持とうとした。
 だが、それよりも前に銀時が逆袈裟掛けに木刀を振り上げる。天空を回りながらフェイトのバルディッシュは海面に顔を出している残骸に突き刺さった。
 一瞬にして丸腰にされてしまったフェイトに向かい、鬼の形相となった銀時が迫る。

「あ、あぁ!」
「歯ぁ食いしばれや、このクソガキィィィ―――!」

 握っていた木刀を強く握り締め、頭上へと高く持ち上げた。今更回避する事は出来ない。
 先ほどの魔力砲で殆どの魔力を費やしてしまった為に、高ヶ度へ逃げる事も出来ないし、高速移動も出来ない。跳躍するにも低空飛行中ではそれも敵わない。
 咄嗟に、フェイトは両手を頭上でクロスし、目を強く瞑った。覚悟を決めたのだ。
 あの目から察するに、銀時は渾身の力で木刀を振り下ろす。人の頭蓋を西瓜でも割るかの様に叩き割るつもりなのだ。
 今更、弱りきった少女の腕二本では止められる筈がない。それごと切り伏せられるのがオチだ。
 分かってはいたが、それでもフェイトはそうしたのだ。
 痛みは一瞬にして伝わった。
 ただし、脳天ではなく、頬にであったが。

「え?」

 違う箇所から感じた痛みに、フェイトは驚き、目を開いた。
 其処に居たのは、フェイトの頬を叩いた手を振り切っている銀時の姿があった。因みに、先ほどまでもたれていた木刀は何時の間にか彼の腰に挿しこまれている。

「はぁい、これにて終了~」
「ど、どう言う事? トドメを刺さないの?」
「はぁ? お前何処のラスボス気取り? お前なんかにトドメなんか刺す気もなけりゃ必要もねぇよ」

 一足先に戦闘を終えて帰り支度をしようとしている銀時にフェイトは問い掛けた。この男は戦いに来たのではなかったのか?
 そんな疑念があったのだ。

「何で、勝ったんだったら、勝負をつけるんじゃないの?」
「勘違いすんなよ。俺はお前と戦いに来た訳じゃない。俺は、お前を叱りに来ただけだ。禄な教育を受けてないドラ娘に、社会の厳しさを嫌って言う程叩き込む為にわざわざこうして来てやったんだ。感謝しろよなクソガキ」

 大層憎たらしそうな言い方をする。その言い方に難癖つけようとしたが、止める事にした。どの道自分は負けたのだ。
 完膚なきまでに敗北してしまったのだ。となれば、敗者にどうこう言う資格などない。ただ勝者の言い分に従うだけだ。

「さぁて、勝負に勝ったんだ。お前が連れてった家の娘の居場所。洗いざらい吐いて貰おうかぁ?」
「分かった。言う……言えば良いんでしょ?」
「あんれぇ? 銀さん耳がおかしくなっちゃったかなぁ? 目上の人に対する口の聞き方じゃないよねぇ?」
「ぐっ……」

 腹が立つ。
 その一言に尽きた。今まで散々憎み続けてきたせいか、この一言に対して大層憎しみが募っていくのが分かる。
 が、自分は敗者なのだ。勝者に逆らう事は出来ない。

「ほらほらぁ、ちゃんと目上の人に対する言い方ってのがあるだろう? ちゃんとそう言ってくんないと話が進まないんですけどぉ?」
「お、おしえ……ます」
「声が小さくて聞こえませぇん。シャイガールですかぁコノヤロー!」
「お、教えます!」
「ふぅん、誰に? 何を?」

 憎しみや怒りが頂点に達していくのが分かる。フェイトの顔が真っ赤に充血していく。
 そんなフェイトを大層面白そうに眺めながら笑っている銀時が心底憎たらしかった。
 一発、あの顔面に攻撃を加えたいと思ったのだが、生憎今のフェイトは丸腰に相当する。こんな状態で挑んだところで返り討ちにあるのは見えている。
 従う他なかったりする。

「さ、坂田銀時さんに……む、娘さんの居場所を………お、おおおお教えさせて、頂きますぅ!」
「あ~、関東麺ですかぁ? ラーメンお願いします。……あ、悪い悪い、注文してたから聞いてなかったわ。も一回言ってくんない?」

 ここぞとばかりに今までの鬱憤を晴らすかの如くの銀時の行いであった。その行いについに、フェイトの堪忍袋の緒が切断されたのは言う間でもない。
 その場で滅茶苦茶に暴れ回り出した始末であった。

「うがああああああああああああああ!」
「ちょ、お前っ! そこで暴れるのは筋違いだろうがこのボケがあああ!」

 結局、完全にぶち切れたフェイトと銀時がもつれ合う形での醜い戦いが其処で展開されていたのであった。
 フェイトもフェイトだが、銀時も銀時であった。
 二人共全くもって、ガキである。




     つづく 
 

 
後書き
次回【幾ら悲しい話でも人の事巻き込んだらはた迷惑な話にしかならない】お楽しみに 
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