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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
転章・約束
  瞋恚の紅蓮

 
前書き
うまく書けてるか不安…… 

 

「―――と、そうゆう訳で《絶剣》さん達を手伝う事になったのよ」
「………何て言うか」
「………意外な事になりましたね」

翌午後12時。《森の家》に集まった何時ものメンバーは昨日のアスナが連れ去られた理由を聞いていた。
と、言っても聞いているのはリズ、シリカ、リーファ、セラだけで俺、キリト、クラインは居間の方でアプリケーションのダーツに無駄に熱中し、ロクに聞いていない。
既に事情を察している2人ともともと事の経緯を知らなかったため、聞き役にもならない1人だからである。
それでもダーツにふける傍らキリトがかいつまんで話し、おおよその事は察していた。

「ん、俺の勝ちだ」
「ぐあああ。またかよ!?てかほぼぜんぶ真ん中に命中ってどうなってんだ!?」
「こうなってる―――動くなよ?」

ひゅん、と手首のスナップだけで新たな矢をクライン目掛けて投げ、耳と頭部の間に収める。
感情表現エフェクトにより、真っ青になったクラインをキリトとひとしきり笑い、次のゲームに移る。

キリトはアスナ達がまだ向こうで談笑しているのを確認してから、ゲームをやる『フリ』をしつつ、話を再開した。

「――でだ、カイトが集めてくれた情報を元に俺やクラインが裏を取った結果、今話題の攻略ギルドはやっぱり『クロ』だった」
「……ふん。いつもくだらんな。性根の腐った奴らの考える事は。……今日もか?」
「ああ。絶剣が所属していると見られる新興ギルド《スリーピング・ナイツ》は25、26層でもダシに使われたらしい。タイミングから考えてほぼ常に監視が付いてるか、もしくは……」
「いや、『内通者』の線は無いよ。……全員、な?」
「……ああ、なるほど」
「おーい、お2人さん。俺を置いてかないでくれよ」
「「やだ」」

キッパリと言い切ると、クラインは部屋の隅で体育座りをすると、暗いオーラを出し始めた。

「……それで、レイ。どうするんだ?」
「ん、決まってんだろ?」

矢を指の間に4本挟んで的に向かって投げる。真ん中の極小の点を囲うように正方形に刺さったその中点に向かい更に矢を投げる。

「邪魔する奴は全員―――」


――カッ!!


「―――血祭りだ」

キリトはその時、レイの背後に紅蓮の焔を幻視した。







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Sideアスナ



約束の時間の少し前になり、装備を整えて出掛ける支度をする。
アスナが出るのに合わせて今日は解散なので仲間達の多くはログアウトしていった。

午後1時に27層主住区《ロンバール》を訪れたアスナは集まったメンバーの装備や能力構成から戦術を組み上げていた。

ユウキは昨日と同じ黒のハーフアーマーに細身のロングソード。
サラマンダーのジュンは小さな体に不釣り合いな赤銅色のフルプレートをがっちり装備し、背中には身の長さと同じ程もある大剣を吊っている。
巨漢ノームのテッチも同じく肉厚のプレートアーマーに、戸板の如き巨大なタワーシールドにゴツゴツした重量感溢れるヘビーメイス。
レプラコーンのタルケンは細身の体に真鍮色のライトアーマー、武器は細長いスピア。
その隣に立つどこか知り合いのウンディーネに似た雰囲気を醸し出すスプリガンのノリは布装備に鋼鉄のクォーター・スタッフを担いでいる。
唯一のメイジであるウンディーネのシウネーは僧侶風の白と濃紺の法衣とブリオッシュ(フランスの菓子パン)のように丸く膨らんだ帽子を身につけ、右手に細い銀色の長杖を携えていた。

普段の仲間達とパーティーを組むと全員がダメージ重視志向の『やられる前にやってしまえ』装備・能力構成なので、こうバランスがとれたパーティーはどこか新鮮な気もした。

強いて言うなれば支援役と回復役が少し弱い。

「ん、これだったら私も後衛に入った方が良いみたいね」

しかし、これは予想出来ていた事だった。と言うのも《森の家》を出発する直前、皆からポーション等を餞別で分けて貰った際、レイが無言で効果の高いMPポーションを渡して来たからだ。

―――昨日の夜、螢は明日奈に少しだけ昔話をしてくれた。自分が昔、勝手な都合で見捨てた大切な人の話を。

『俺は、彼女に恨まれてるかもしれない』

そう言った螢の声は何時になく、震えているような気がした。

だから、明日奈は伝えたのだ―――

「さてと、ちょいとボス部屋を覗きに行きますか!」
「おー!!」





―――この満面の笑みを浮かべる少女が、どんなに彼に会いたがっていたかを





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通常は3時間はかかるであろう迷宮区をたった1時間で踏破してしまったのは単純にユウキ達の圧倒的戦闘力に起因する。
アスナが手を出す間も無く、最小限のジェスチャーだけで切り抜けるのだ。
ボス部屋へ続く回廊を歩きながら、アスナは少々ぼやきたい気分で傍らのシウネーに囁きかけた。

「なんだか……私、本当に必要だったのかなあ?あなた達を手助けできる余地なんて、ほとんどないような気がするんだけど……」
「いえ、とんでもない。アスナさんの指示があったからトラップも一度も踏みませんでしたし、戦闘もすごく少なくてすみましたし。前の二回では、遭遇する敵全部と正面から戦っちゃったので、ボス部屋に着く頃には随分消耗してしまって……」

それはそれで凄い事なので、思わずどこの大太刀使いだと突っ込みたい気持ちだった。

「―――ん、ユウキ、待って」

SAO時代からのクセで何気なく回廊をチェックすると、視界の一部に違和感を感じた。

右手のワンドを掲げ、隠蔽呪文を看破するための《サーチャー》を召喚する。放射状に飛んでいった呪文が違和感のある空気の膜を破り、3人のプレイヤーを引きずり出す。
カラーカーソルに表示されるエンブレムは盾に横向きの馬。23層以降の迷宮区を立て続けに攻略している大ギルド―――そして、トップギルドと名高く、親交もある《オラトリオ・オーケストラ》と明確に敵対しているギルドだ。

そんな事情もあり、アスナが再びワンドを構え、ユウキ達もがしゃりと武器を構え直すが、相手は慌てた様子で剣を収めると、敵対意志が無いことを示すために両手を挙げた。

「……事情を聞いてもいいかしら?」
「待ち合わせなんだ。仲間が来るまでにMobにタゲられると面倒なんで、隠れてたんだよ」

もっともらしい理由だが、アスナの直観は『嘘』を見抜いていた。万全を期してこの場でキルするという手もあるが、大規模ギルドと揉め事になると色々()()()面倒だろう。
例えばフィールドに出たギルド員が例外無く斬殺されるとか。犯人はあえて言うまい。

「解ったわ。私達、ボスに挑戦に来たんだけど、そっちの準備がまだなら先にやらせてもらっても良いわね?」
「もちろんだ。俺達はここで仲間を待つから、まあ、頑張ってくれや。じゃあな」

リーダーの男が代表して答え、背後の部下が再び隠蔽呪文を唱えると、ハイドを再開した。

「…………」

アスナはしばらくしてユウキの方に向き直った。ユウキは今の不穏なやり取りにも全く気分を害した様子はなく、アスナに軽く首を傾げてみせる。

「……とりあえず、予定どおり一度中の様子を見てみましょう」

アスナが言うと、ユウキはにいっと笑いながら頷いた。

「ん、いよいよだね!がんばろ、アスナ!」
「様子見と言わず、ぶっつけでぶっ倒しちゃうくらいの気合で行こうぜ」

威勢のいいジュンの言葉にはアスナも笑い返すしかない。

「まあ、それが理想だけどね。でも、無理に高いアイテム使ってまで回復しなくていいからね。あくまで、私とシウネーがヒールできる範囲内で頑張るってことで、いいわね」

その他の注意点を全員で確認し合い、7人はボス部屋に飛び込んだ。







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Sideセラ



同時刻、迷宮区外部上空。

「よろしいのですか?」
「ん……まあ……」

歯切れの悪い口調で返すレイにため息を吐き、下方の観察を再開する。大規模ギルド攻略部隊の精鋭達が続々と迷宮区の入口に達し、中へ入っていく。

「今、強襲すれば今日の攻略を断念させるだけの損害を与える事ができますが?」
「だめだ。そーゆーのはレッド共と変わらん」

ならどうしろと言うのか。

「ま、考えはあるさ――………と、来たか」

レイの視線を追って後方を見やると、見知った2人組が飛んできた。

「さて、『死神』はそれらしく悪役にでもなりますか」

紅蓮のマントをひらめかせながら、レイは不敵に笑った。








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壊滅した戦線を離脱後、セーブポイントから再びボス部屋まで舞い戻るまで掛かった時間は作戦会議含め、正味30分。事前に情報収集に力を注いだお陰でアイテム類の損害は無いに等しい。
が、

「遅かった!?」
「いえ、まだ人数が少ないわ。一回は挑戦できそうよ」
「……ほんと?」

ほっとしたような顔を見せるユウキの肩をぽんと叩き、アスナはつかつかと集団へ歩み寄った。全員が真っ直ぐ視線を注いでくるが、彼らの顔に驚きや緊張はない。これから何が起こるか、知っている。
そしてアスナも分かっていた。彼らはここを退いて、アスナ達を通す気は毛頭無い。

実際、交渉は決裂した。

「ね、君」

立ち止まり、アスナが話していたノームが振り返る。話しかけたのはユウキだ。

「つまり、ボクたちがこれ以上どうお願いしても、そこをどいてくれる気はないってことなんだね?」
「――ぶっちゃければ、そういうことだな」

直截なユウキの物言いに、ノームも流石に一度瞬きしたが、すぐに傲慢な態度で頷いた。
するとユウキはにっこりと笑みを浮かべ、短く言った。

「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦おう」
「な……なにィ!?」
「ええっ?」

アスナが驚くのも無理はない。先程も明記した通り、大ギルドの構成員にケンカを吹っ掛けると後々面倒な事になるのだ。元々、PKをプレイスタイルとしている者以外は、大ギルド相手に歯向かうことは殆ど出来ないのが実情なのだ。

「ゆ……ユウキ、それは……」

止めようと口を開いたアスナの背中をユウキは笑みを消さないまま、ぽん、と叩く。

「アスナ。ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。例えば、自分がどれくらい真剣なのか、とかね。―――ボクは、もうその事で後悔したくない」
「ま、そういうことだな」

軽い調子でジュンが相槌を打つ。振り返ると、他の5人も平然とした態度でそれぞれの武器を握り直している。

「みんな……」

しかし、現実とは無情なもの。後方からの複数の靴音。敵方の援軍だ。ユウキのペースに呑まれていたノームもそれに気がつき、勝ち誇った態度で武器を構え直す。

総勢50名強。

絶対的多数のしかもボス戦を前提とした精鋭部隊だ。最早ここまで。こうなれば戦えるだけ戦おうと、ユウキ達と視線を交わし、臨戦体勢に入った瞬間―――、



ヒラリとどこからともなく人影がアスナ達と援軍の前に降り立った。



紅蓮のフード付きマントを羽織り、巨大な大太刀を背負うその姿はアスナのよく知る人物だった。


しかし、乱入者は彼だけではなかった。軽快なリズムで超高速移動する足音。ただし、それは地面をではなく壁をだ。
2人目の人影は援軍を丸ごと追い越すと悠々と床に飛び降り、靴底のスパイクから盛大に火花を散らしながら制動という、真反対の派手な登場をした。

2人の剣士は背中の剣を同時に抜き、背中合わせに立つと剣を火花を立てて床に突き刺した。

「悪いな、ここは通行止めだ」
「と、言うわけで既に立ち入っちゃってるアンタ等は退場だ」

乱入者――レイの視線はアスナ達の更に奥、20人程のプレイヤーに向けられている。

しかし、多勢に無勢は変わらない。その余裕もあってか、増援部隊のリーダー格であるサラマンダーは呆れが混じる苦笑をしながら声を上げた。

「おいおい、《黒ずくめ(ブラッキー)》先生に《紅炎刀(プロミネンス)》先生よ。幾らアンタ等でも、この人数を2人で食うのは無理じゃねぇ?」
「どうかな、試したことないから解んないな」
「一応、Mob1000体なら……あ、1匹取り逃したから999体か」
「え、何お前。アレ結局負けたのかよ」
「いやいや。流石に最後の巨人は無理っしょ。スリュム位はあったぜ」

2人が緊張感かける場違いな掛け合いを始めたのを辛抱強く耐えていたサラマンダーは手で2人を制すると、右手を持ち上げた。

「はいはい。続きはセーブポイントでやってくれ。……メイジ隊、焼いてやんな」

指揮官の合図と同時に軍勢の後方からスペルワードの高速詠唱。2人はそれに動じず、レイだけが一歩前に、アスナ達の方向に近寄る。避けようとしての事ではない。

キリトと互いを邪魔をしないための最低限の距離だ。それぞれに七発ずつのシングルホーミングの絶対必中の魔法が放たれる。


――キリトが剣を床から引き抜きた長剣を右肩に担いで構え、その刃に深紅色のライトエフェクトを宿した。ソードスキル、7連撃《デットリー・シンズ》


――レイの大太刀が床に刺さったまま燃え上がり、溶け、所有者を燃え尽くさんばかりの勢いでその身を包む。それはさながら優美な衣の様。焔鎧・弐式、《灼焔霊衣》



キリトが魔法を切り裂き、レイの衣が魔法を燃やし尽くす。



「マジかよ……」

何も知らない大規模ギルドの面々はただ驚くのみ。しかし、無理もない。

彼らを本気にさせるような事など今まで起こらなかったのだから………

呻いたサラマンダーに続き、前後の部隊の誰もが絶句、或いは感嘆のようなため息を吐く。
しかし流石に攻略ギルドを名乗るだけあり、反応は素早かった。前衛が武器を抜き、遊撃が弓矢やナガモノ武器を構え、後衛が今度は広範囲多数の敵を攻撃できる魔法の詠唱を開始する。
それに呼応し、キリトとレイが新たな行動を起こした。

まず、キリトが左手を背に回すと、そこに実体化した2本目の剣の柄を握り、澄みきった音を響かせて抜き放った。深い黄金の刀身を持つ流麗なロングソード、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)、聖剣エクスキャリバー、ALO最高にして最強の魔剣。

レイがマントの内側から小太刀《蜻蛉》を左手で抜刀、大太刀を背に担いでゆっくりとこちらに歩いてきて、ユウキの前で止まる。




「………ごめん、遅くなった」
「……螢。あ、あのね……」



何かを言おうとしたユウキの口をレイは微笑みながら右手の人指し指でつい、と塞いだ。

「……もう、君から逃げない。また後で会いに行くから……。もう少しだけ、待ってくれ」
「……わかった」

悠久の時を経て再開した2人はそう言って離れた。そのまま前方を塞いでいるプレイヤー達へゆっくりと歩んでいくレイをユウキはまだ何か言いたそうに手を伸ばしかけたが、途中で止める。

「……ユウキ!」




レイが少しだけ振り向いて彼女だけを見詰め、優しく微笑む。





「今、楽しいか?」



「……うん!!」

それにユウキが満面の笑みで答えると、レイは満足そうにして前を向いた。


そして、かつて『紅き死神』と呼ばれた者は言葉を紡ぐ―――


「焔鎧・参式、《紅蓮双牙》」


蜻蛉と蓮華刀紅桜の刀身を重ね合わせると、深紅の炎が吹き荒れた。2本の刀は炎に変わり、やがて1つの形を作り出す。

「あれは……!!」

天と地を突く対なる刃。
長槍より長く、剣より効率良く敵を切り刻むための彼だけの武器(ユニークウェポン)―――両刀

「さて………構えろ」

両刀を小脇に抱えたまま前進し、間合いに入った途端それを振るう。
それを盾の上から受けたノームのプレイヤーは盾ごと吹き飛ばされ、壁にぶつかる前にエンドフレイムに変化する。

「な………!?」

その理不尽なまでの威力に後方にいたプレイヤー達に動揺が走る。レイは残りのプレイヤーを一文字に睥睨し、彼らの運命を宣告した。

「退けとは言わない。おとなしく消えろ」

死神による死の舞踏が始まった。
その命を刈ることに貪欲な刃に触れれば如何なる防御も紙同然。
応戦する攻略ギルドの戦士達を嘲笑うかのように刃は容易く敵を喰らう。
アバターが弾け、小さな残り火が宙を舞う。
その幻想的な揺らめきの中で一方的な殺戮演舞が続く。
時間にして1分、それが彼らが稼げた時間だった。

「さて、今の内に行きな。……頑張れよ、みんな」

言うなり、彼はキリトに加勢するため、石の床を蹴って飛び出して言った。

さらに、後方からはクラインの威勢の良い雄叫びが聞こえる。

キリトの肩にはよく見ると、こちらに向かって手を振る小さな影、2人の愛娘であるユイだ。



――――ありがとう、ユイちゃん。ありがとう、レイくん、クライン。


――――大好きだよ、キリトくん。


「行こう、みんな!!」
「「「「おー!!」」」」





 
 

 
後書き
両刀復活!
やっぱりキリトが二刀流出したら出すしかない!と思って出してしまいました(笑)

ご指摘、感想、質問お待ちしてます!最近無くてさみしいw 
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