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魔法少女リリカルなのは 〜光の戦士〜

作者:ユキアン
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答え




もうすぐクリスマスがやってくる様な時期、オレはスランプに陥っていた。それは秋の初め頃にヒッポリト星人が送り込んで来たブラックキングと戦っていた時の事だ。ブラックキングを倒し終え、油断していた所をヒッポリト星人のカプセルに掴まったのだ。ヒッポリトタールでブロンズ像に変えられる前にオレはパワータイプにチェンジして光線に使うエネルギーを拳に集めて全力でカプセルを殴ったのだが罅すら入らなかったのだ。そうしている間にヒッポリトタールがカプセル内に入れられ始めたので、ノーマルタイプに戻って身体を丸めて全身を覆う様にバリアーを張り、父さんやGUYSに救援を要請した。そして駆けつけた父さんが変身したメビウスのパンチでカプセルが破壊された。その後、父さんもカプセルに閉じ込められたのでオレが救出しようと思ったのだが普通に内部から叩き壊して脱出したのだ。今まで比較対象が居なくて分からなかったのだが、オレが子供であるせいでウルトラマンとしての力を上手く引き出せて居ないのではないかという仮説を立て、ゼアスがやっていた様に能力の特訓をして、仮説の一部が正しいということが証明されてしまった。オレが子供だからという点は関係なく、オレが力を使いこなせていないだけという事実が。その事実に気付いてしまったオレは落ち込み、周囲を心配させてしまった。さらには落ち込んだままテンペラー星人と戦い、オレは敗北してしまったのだ。一命こそ取り留めたが重傷を負い、ストーンフリューゲルで治療を行ったもののダメージが大き過ぎて数日間寝込んでしまい、また周囲を心配させて落ち込み、と悪循環に陥ってしまった。その後も変身するたびに敗北した事が頭の中を過り、苦戦する日々が続いた。
そんな調子が3ヶ月も続き、ある日の昼休みにとうとうアリサが爆発した。

「何で話してくれないのよ!!」
「私達に助けさせてよ!!」
「いつまでもうじうじした姿を見せないで!!」

涙を流しながらオレを殴り倒して去っていったアリサをすずかとなのはが追いかけていくのを、オレは何も出来ずに倒れたまま空を見上げていた。

「……何をやっているんだろうな、オレは」

「本当に大丈夫ですか?最近の貴方は調子が悪過ぎですよ」

一人だけ傍に残ったサキがしゃがみ込んでオレの顔を覗く。

「……自分でも分かっているんだけどな、調子が悪いのは」

「しばらく休まれてはどうなんですか?いくら貴方がウルトラマンティガとは言え、子供なんですから。無理をしなくてもメビウスやGUYSがなんとかしてくれますよ」

「…………そうだな」

そこで予鈴のチャイムが鳴り、もうすぐ授業が始まる事を告げる。だが、オレは動かなかった。

「行かないのですか?」

「アリサに顔を合わせ辛いからな。先生には体調が悪くなって保健室で休んでるとでも伝えといてくれ」

「分かった」

そう言ってサキは屋上から去っていった。そして誰もいなくなった屋上でオレは一人静かに涙を零す。サキの言う通りなのだ。オレが居なくてもGUYSだけでも地球を守れるのだ。父さんもオレなんかよりも強い。なら、オレが戦ってきた意味は何だったんだ。身体を痛めつけ、家族に不審に思われない様に神経を削って、それで得られたのは対怪獣戦の経験値と自分の無力さ。オレの戦ってきた意味は何なんだよ。







オレはもう戦えない。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



屋上への扉に身体を預けながら光の嗚咽を聞く。ちょっとだけ気になって戻ってきてみればこの有様だった。ヒッポリト星人と戦ってから調子を崩していたのは周知の事実だけど、何が原因かまでは分からない。致命的だったのはその後のテンペラー星人に敗北した事。そこからは坂を転がり落ちるが如く調子を崩し続けていった。以前速攻で倒した事のある怪獣にすら手こずる様にまでなってしまった。肉体的にも精神的にもボロボロになってしまっている。傍で見ている私達の方まで辛くなる程に。だから私の本音が少しだけ漏れてしまった。

『メビウスやGUYSがどうにかしてくれますよ』

皆の中で唯一ウルトラマンである事を知っている私に、今までの自分を否定されてしまった光はこれで戦いから身を引くはず。今は辛いかも知れない。だけどその方が光は楽になれる。友人としてこれ以上ボロボロになるのは見たくなかった。

「これで間違ってない。間違ってないはずです」

なのに光の嗚咽が心から離れない。これで正しかったのかと反芻してしまう。そんな中、光の嗚咽は更に大きくなってきた。それが余計に私の心を乱す。これ以上は聞いていられない。授業に遅刻してしまうからと心の中で誤摩化してその場を離れる。ただ一度だけ振り返って。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




屋上での出来事からオレはウルトラマンへの変身とバリアジャケットの展開が不可能になった。ウルトラ念力も弱体化の兆しが見えている。そんな出来事があったせいか、心の中に蟠りを持ちながらもスランプに陥る以前の様に振る舞える様になった。とは言っても全快とはいえないし、アリサとも険悪なままである。これに関してはオレが悪いのだが、もう少しだけ時間が欲しい。まだ完全に心の整理が付いていない状況では以前の様にはなれない。その事をなのはを経由して伝えてもらった。その返答にクリスマスまでは待ってあげると返ってきた。17日もあればなんとか立ち直れるはずだな。
それから一週間、怪獣が現れたと感じてもオレは動かなかった。いや、動けなかったの間違いだな。無力なオレが出来る事は邪魔にならない様にするだけだ。だけど、それでも今も被害に遭っている人達に罪悪感を感じてしまう。オレが行ければ救われる人が一人でもいるのではないか。そう思ってしまう。そんな姿を不審に思ったのか父さんに道場に一人で来る様にと言われてしまった。言われた時間に道場に行ってみると、明かりも点けずに入り口に背を向ける様にして父さんが待っていた。入り口の扉を閉めて、右手に光を失って黒く変色したスパークレンスを取り出す。父さんの左腕にはメビウスブレスが装着されている。道場の真ん中まで進んだ所で父さんが振り返る。

「……やっぱり、光がティガだったんだね」

「うん、黙っていてごめん。どう切り出せば良いか分からない事だったから」

「そうだろうな。僕も隠していたしね」

そう言って父さんはメビウスブレスを撫でる。

「何時から気付いてたの?」

「ティガが敗北したテンペラー星人の時からだよ。アレと同時に寝込んでいたし、その後の不調を考えればね。その前のヒッポリト星人の時から気になっていたけどね」

「……先代から受け継いだばかりだったんだ、ヒッポリト星人の時は。オレはウルトラマンの力を十分に発揮出来なかった。浮かれてたんだ、オレがウルトラマンだって事に。実際にブラックキングは余裕で倒せた。だから余計に浮かれてた。それが自分の力ではヒッポリト星人のカプセルは壊せなくて、テンペラー星人には負けて、周りから掛かるプレッシャーが重くて。偶々仲良くなった宇宙人の友達には父さんやGUYSに任せてしまえば良いじゃないかって言われて、心の何処かでそれを認めたからなのかティガからも見放されて。オレ、もうどうしたらいいのか分からないよ!!」

誰にも吐けなかった弱音を吐き、涙を零す。やはり見ているのと実際に行うのでは違いがありすぎる。こんなに辛い事だなんて思っても見なかった。

「光、僕が光に言ってあげられる事は一つだけだ。自分の事以外での理由を見つけるんだ。自分が弱いから、自分が耐えられないから。なんて理由じゃなくて、誰かの、何かの為の理由を。光が悩んでいるのはその部分じゃないのかい。それが見つかれば、後はコーヒーを一杯飲む時間があれば答えは出てくるさ」

自分の事以外での理由か。難しい事だな。オレは未だにこの世界を物語の世界だと思ってしまっている。オレの親は前世の親で、目の前にいるこの人は親だと思えていない。前世に未練が多過ぎるのが原因だ。オレは前世での生活に不満は……まあ、若干あったがそれも些細な物だった。だからこの世界に来てもどこか素直に喜べなかった。ほとんど邪神の所為だけど。

「それから、悩むのはいいけど、たまには周りにも目を向ける事だね。なのは、大分寂しがってるぞ」

「うん、この前もアリサに怒られて泣かれて殴られて。それからぎくしゃくしてるから。クリスマスまでにはなんとか答えを見つけてみるよ」

「後悔だけはしない様にね」

「うん」

話はそれで終わり、父さんと一緒に道場から外に出る。空を見上げ、一際光る星を見つける。今見えているあの星は惑星でありながらも光を放つ希有な星。M78星雲ウルトラの星、通称光の国。ウルトラマン達の故郷であり、人間と同じ姿であったウルトラマン達をウルトラマンに進化させたプラズマスパークで光る星。あの星に行ければ、オレはウルトラマンの力を十分に発揮出来るのだろうか。

「光、何を見ているんだい?」

「ウルトラマンの故郷、光の国。ティガは地球生まれだけど」

「そうなのかい?」

「遠い昔、ウルトラマン達は人間と変わらない姿をしていた。だけど光の国の太陽が死に、光の国の科学者達が人工太陽を作り上げた。ウルトラマン達は再び光を取り戻したけど、その光に含まれたとある成分の影響であの様な姿になってしまった。更にその光は宇宙全体に広がってしまい、生態系に変化をもたらしてしまった。ウルトラマン達は贖罪の為に宇宙全体の秩序を守る為に戦っているんだ。そして、ティガ達は人間の祖先の一部がその光を浴びてウルトラマンへと進化して、自分達の故郷を守る為に戦ってきた。だけどそれも限界が近づいて、仲間割れを起こして滅んでいった。ティガはそれの生き残りさ」

「なぜそんな事を知っているんだい?」

「ティガが教えてくれた。父さんは教えてもらってないの?」

「教えてもらってないね。僕は……メビウスが地球で戦う為に力を貸して欲しいと頼まれただけだから」

「そうなんだ。ティガは良く夢に出てきて色々な事を話してくれたよ。今は何も答えてくれなくなったけど」

手元のスパークレンスに視線を落とす。変身道具の殆どがスパークレンスの様に変色したり、変形したりしてしまっている。エスプレンダーとアグレイターは中の光を解放している為に変化は無いが、元から光を入れている入れ物なだけなのだから変化が無いのは当然だ。唯一使えそうなのはエボルトラスター位だ。最も、光は弱く、ビーストを感知出来るのかどうかも怪しい状況だ。おそらく変身してもザ・ネクストにしか変身出来ないだろう。それもオレに力を貸してくれている訳では無い。ただ闇と戦う為だけに無理矢理力を引き出しているだけだ。いつオレから離れて行ってもおかしくない。いや、オレがデュナミストに相応しいと思える人物に出会えばすぐにでも新たなデュナミストに選ぶだろう。
父さんは何も言わずに頭を撫でてくれた。それにどんな思いが込められていたのかは分からない。










時は更に進み、12月23日。未だにオレは理由を見つけれずに悩んでいた。表面上はスランプに陥る前と同様の姿を見せれているが、アリサにだけは気付かれている。その為、昼休みや放課後は一人で屋上にいる事が多くなった。肌寒いが、その方が頭がすっきりするから。だからその日も明日からの予定を楽しそうに語るクラスメイト達の中、日直の仕事を終わらせてから屋上に上がり空を見上げようとしていた。それが目に入ったのは偶然の出来事だった。強い風が吹いてきたので顔を反らした時だ、アリサが無理矢理車に担ぎ込まれ、どこかに連れ攫われてしまった。

「くっ、魔法が使えれば。仕方ない、リトラ!!」

邪神から送られたアイテムの中にあるカプセルを取り出して空高くに放り投げると同時に体長1m程のリトラが現れる。嫌がらせなのか5つのカプセルの内、最初からこのリトラが入っていた。明らかに小さすぎるこのリトラはこれで成長しきっているのだ。だが、今はその方が都合が良い。1m程度ならただの大きい鳥と誤認される。そして小さくとも車が走るよりも速く飛べる。

「リトラ、あの車を追え!!」

リトラに指示を出すと同時に校内を駆ける。

「こらっ!!廊下は走らないの」

「アリサが攫われた。海の方に向かってる」

途中、先生がオレを注意してきたがその先生にアリサが攫われた事を伝えて振り切る。下駄箱で靴を取り出して履き替えて更に速度を上げて走る。リトラを目印に走り続け、海沿いの倉庫帯にまでやってくる。リトラの真下にある倉庫の隣の倉庫の屋根にウルトラマンの身体能力を使って昇り、透視能力で倉庫の中を確認する。倉庫の中には予想以上の人数と装備が揃っていた。一人では無理と判断してリトラをカプセルに回収して公衆電話を捜しに行こうとした所で、ガンフェニックスとGUYSアロー、それにGUYSのマークが入った車両が集ってくる。車両から降りてきた隊員達は皆武器を構えて周囲に散って行く。オレは見つからない様に物陰に隠れて様子を伺う事にした。GUYSが出てきているという事は怪獣が相手のはずだ。だが、怪獣の姿は見えていない。出現を予見したのか?何かそういうメテオールを開発したのだろうか。
いや、待てよ。出現が予見される怪獣群がいる。マイナスエネルギーから生まれる怪獣、活性化すると特有の振動波を発するスペースビースト。
エボルトラスターを取り出してみれば微かにビーストの気配を伝えてくる。次の瞬間、アリサが連れ込まれている倉庫から地面が崩れる音と男達の悲鳴が溢れる。そして続くのは銃声。倉庫内で男達がビーストに対して銃を撃っているのだろう。助けるなら今しかない。物陰から飛び出してGUYS隊員の制止を振り切って再び屋根に上り、窓に目掛けて飛び込む。倉庫の中はまさに地獄だった。中央に穴が開いており、そこから触手の様な物が一本飛び出しており、象の鼻の様に男達を捉えては穴の中に引きずり込んで行く。男達の数は最初に確認した時の半数程にまで減っている。何人かは外に出ようとシャッターを開けようとするのだが、ビーストはそういう人間を選んで捕食している為に未だに外に出られないでいる。そしてアリサは穴の近くで気を失っていた。しかも位置的には触手を挟んだ向こう側だった。
その光景にオレは怖じ気づいてしまった。いくら常人離れした身体能力を持っていようとも、生身でビーストに勝てる訳が無い。何より、初めて怪獣やビーストの恐ろしさを感じてしまった。目の前の圧倒的な暴力に身体と心が萎縮してしまった。逃げたいと心が叫んでいるのに、足が一歩も動かない。右の方で爆発音が聞こえ、GUYSの人達が突入してきて攻撃を開始した。触手はそれを嫌がっているが穴に戻る気配がない。

「きゃあああ!!」

いつの間にかアリサが意識を取り戻し、自分の置かれた状況に驚いて悲鳴をあげる。その悲鳴で気が付いたのか、触手がアリサに向かって動き始める。GUYSの人達がそれを止める為に更に銃撃を激しくするが、触手は倉庫の隅にあったコンテナを投げつけた。それに巻き込まれて何人もの隊員が負傷し、それを救助する為に弾幕が薄れる。そして邪魔が少なくなった触手はアリサに近づいて行く。

「いやあああ、たすけてえええええ!!」

アリサの叫びにオレの身体は動き出す。

「アリサ、今行くぞ!!」

一直線にアリサの元に駆け出しながら落ちていたサブマシンガンを拾い上げ、最も脆そうな触手の先端を撃ち続ける。触手が怯み、一旦穴の中に姿を消す。その隙に弾が切れたサブマシンガンを捨て、アリサを抱き上げて外に向かって走りだす。

「光!?」

「喋るな、舌を噛むぞ」

アリサを気遣う余裕は無い。急いで外まで、GUYSの人達の所まで逃げなくてはならない。

「!?少年、急げ!!」

リーダーと思われる人が叫んで来た。おそらく後ろから触手が追って来ているのだろう。気配からして逃げ切れない。

「アリサを頼みます」

抱きかかえていたアリサをリーダーらしき人に向かって投げる。同時にオレの身体に触手が巻き付いて来た。そのままどうする事も出来ずに穴の中へと引きずり込まれ、大きな口が見えて来た。なるほど、触手と思っていた物は舌だったのか。死がすぐそこまで近づいているのにも関わらず、オレの心は先程までとは打って変わり穏やかだった。アリサの助けを求める声を聞いた時、オレの中のズレていた歯車が噛み合わさった。例え弱くても、誰かを救いたいという気持ちに嘘を付くわけにはいかない。オレには誰かを救えるだけの力がある。なら、それを振るえば良い。自分の手が届く限りの人達を。足りなければ他の人達の力を借りて。簡単な事だ。それに気付かなかったオレはただの間抜けだ。だから、やり直そう。今、この時から。
オレの決意と共に黒く変色していたスパークレンスに再び光が戻る。
さあ、行こう。

「ティガーーーー!!」

スパークレンスから放たれた光に包まれ、オレの身体がティガへと変貌していく。そして巨大化しながらオレを捉えていた舌を掴み、地上へと引きずり出す。地上に現れた本体の姿はどこかゴキブリを思わせる姿をした甲虫型のスペースビーストだった。確か、バグバズンだったはずだ。
周りの被害を減らす為にそのままバグバズンを担ぎ上げ、海に向かって投げる。落水した際に発生した津波はウルトラ念力で打ち消し、オレも海に飛び込む。意外と深さがあり腰辺りまで海に浸かりながらウルトラブレスレットをウルトラスパークに変形させて投げつける。まずは空を飛べない様に背中の翅を捥ぐ。適当に投げた為に大きく外れたウルトラスパークに注意を向けずにバグバズンはこちらに向かってくる。まあ初見ではそうするよな。オレはそのままウルトラスパークを操り、その翅を捥いだ。悲鳴をあげるバグバズンに対して更にウルトラスパークで両腕を切り落とす。そして戻って来たウルトラスパークをランスに変形させて顔面目掛けて投擲する。ランスが顔面に刺さったにも関わらずバグバズンはまだ生きていた。だが、虫の息なのは誰が見ても明らかだった。オレは止めを刺す為に両腕にエネルギーを集めながら前に突き出して交差させた後、左右に開いていき、L字型に腕を組んでゼペリオン光線を放つ。直撃を受けたバグバズンはゆっくりと倒れ、爆散する。
ああ、そうだ。オレは元からこういう戦いをしていたんだった。ウルトラブレスレットなどの道具を使って、格闘戦は出来る限り避けて来たんだ。力が弱くて当たり前だ。バグバズンを投げる時だって、ウルトラ念力を利用しているのだから相当力が弱いのだろう。悩んでいたのがバカらしくなるな。オレはウルトラマンとしては弱い。それでも誰かを救える。いや、力が無くても誰かを助ける事は出来る。オレの答えは出た。オレはこれからも戦い続ける。助けを求める人達の為に。
変身を解除してアリサが捕まっていた倉庫跡に、正確にはバグバズンを引きずり出した穴の底に戻る。そこから壁を這い上がっていく。結構脆いので昇り難いけど、かなりの速さで昇っていく。半分程昇った所でGUYSの人が気が付いてロープを投げてくれたのでそれに掴まって腕の力だけで昇っていく。何か驚いているようだけど気にせず昇っていく。出来れば引っ張ってくれると時間が短縮出来るんだけどな。

「やっほ~、アリサ、無事か?」

穴から無事に這い上がり、一番最初に目に入ったのはこちらに走ってくるアリサだった。涙を零しながら右手を大きく振りかぶり

「光の、バカーーー!!」

その叫びと共に右ストレートがオレの顔面に突き刺さる。周りから驚く声が聞こえるが問題無い。何時もの事だけど、何時もより痛い。

「バカバカバカバカバカ!!」

右ストレートを喰らって倒れたオレに馬乗りになって連打を浴びせる。周りが止めようとするけど、オレは素直に受け止める。それで気がすむのならそれで良い。投げ飛ばした時のアリサの顔は後悔と怒りに染まっていた。自分の所為でオレが死んでしまうという後悔と、何も出来なかった自分への怒りに。オレを殴る事でそれが晴れるならいくらでも殴られよう。しばらくすると疲れたのか殴るのを止めてオレを強く抱きしめながら泣き続ける。

「お~い、少年。大丈夫か?」

リーダーと思われる人が傍にやって来てしゃがみながら問いかけて来た。

「大丈夫ですよ。疲れましたけど。地面の下に居た怪獣の口が見えた時は死んだかと思いましたけど。ティガが間に合ってくれて良かったです」

「そうだな。それじゃあ、名前とお家の電話番号を教えて貰えるかい?検査を受けた方が良いと思うから家族の人に連絡しておきたいから」

「ちょっと待って下さい」

左手でアリサの背中をゆっくり叩きながら右手でポケットから生徒手帳を取り出してそれを手渡す。手渡した後の右手はアリサの後頭部に移して優しく撫でる。

「なんか慣れてないか、少年?」

「これでも双子のお兄ちゃんやってますから」

「ふ~ん、そっちの女の子の方の家の電話番号とか分かるか?」

「うろ覚えですね。名前はアリサ・バニングス。貿易で有名なバニングス社の社長令嬢ですね」

「おっと予想外な答えが返って来たな。それならすぐに分かるな」

「はぁ、というか学校の方に連絡すれば分かると思うんですが」

「……盲点だった」

「しっかりして下さいよ」

「すまんすまん、おい小林。ええっと」

「私立聖祥大学付属小学校です」

「そこに連絡を入れて事情を説明してアリサ・バニングスの家に連絡を入れろ。小川は高町光の家の方にだ。鉢田は現場を纏めていろ。特にあの倉庫に居た男達の事はしっかりと見張っておけ」

「そいつら、アリサを誘拐した奴らです」

「山波と飯田、鉢田を補佐しろ。服部と浦辺は被害報告をまとめてくれ。大沢はこの二人を負傷者と共に病院に連れて行って精密検査をして来てくれ。オレはフェニックスネストに戻る」

「「「「「「「「G.I.G」」」」」」」」

「というわけで少年、このおば、お姉さんについていく様に」

大沢と呼ばれたおば、お姉さんにトライガーショットを突きつけられたオレとリーダーらしき人はすぐにお姉さんと言い直した事で事なきを得た。アリサは既に疲れきって眠ってしまったので起こさない様に立ち上がり、そのまま車に乗って移動する。病院に到着する頃にはアリサは目を覚ましていたがオレから離れようとしないので気付かないフリをしておく。病院に到着した後は別々に検査をしなくてはならなかったので大沢さんにアリサを預けて色々と検査を受ける。2時間程色々と検査を受け、念のため検査入院をするように言い渡された頃には父さん達やおそらくアリサの家族と思われる人達が病院にやって来ていた。母さんや姉さん、なのはには泣きながら心配をかけさせないでくれと言われ、兄さんにも拳骨を貰い、父さんは笑顔を浮かべながらよく守ってあげたと褒められた。アリサとアリサの家族には何度も頭を下げられながらお礼を言われた。オレは友達を助けたかったと素直な気持ちを伝えた。それに今回の件でオレの悩みは解決されたのだ。オレの方が礼を言いたいぐらいだ。それからしばらくした後、次第に子供と大人で別れて行き、いつの間にかなのはとアリサに取り合いっこをされる羽目になっていた。あっ、ちょっと、そんなに引っ張ると服が伸びる伸びる。検査着なんだから大切に扱ってくれ。父さん達も微笑ましそうに見てないで助けてよ。
 
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