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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第30話 生きてくれ


~第32層・ユルニス~


あの悲劇から翌日の事。

リュウキは、第32層・ユルニスに滞在していた。そこは海の様に広い湖の真ん中に浮かぶ島。その場所の宿の窓からは見事な景色だ。空も見え 鳥達が囀っている。本当に 気持ちよさそうに空を泳ぐ様に飛んでいる。

 その宿の一室でリュウキは外を眺めていた。この場所は、たまに訪れる事がある。海の青、空の青。《青》と言う色の持つ性質。それは 気持ちを沈め 心を落ち着かせる効果がある。色彩心理学から、それは証明されている事だ。気を沈め、熱くなった身体を冷ます事もある事から《沈静色》《寒色》《後退色》とも呼ばれている。

 リュウキは、その青で満たされていると言っていい景色を眺めていたと言うのに、雲1つない快晴の空だと言うのに、一向に気分は晴れる事は無かった。
 勿論、その理由は、はっきりとしている。

(――……あんな事が無ければ、少しは気分も優れるだろうな)

 あの悲劇の事。そして リュウキがそう考えてしまうのも無理は無かった。
 キリトを襲った不運。また、間近で人の死を見てしまった事。そして、呼び起こされかけた過去の事。

「ッ……」

 少しでも、考えるだけで 脳髄にまるで稲妻が走ったように、痺れ、ズキリ痛みと共に、襲ってくる。この世界での、どんなモンスターの攻撃よりも、鈍く 髄にまで響く痛み。

 それを必死に耐えていたそんな時だ。メッセージが届いたのは。

 送信者はキリトだった。何処かで予想はしていた。キリトから、メッセージが届く事を。

『―――これから 会えないか?』

 そのメール文は短かった。けれど、それだけでも十分判る。
 あんな事があったんだから当然だろう。……そして、リュウキ自身も気になっている事があるから、丁度良かった。

『――構わない』

 リュウキは直ぐに返事をした。そして、その後キリトからの返信は早かった。2人は、30分後に《第11層・タクト》で合流ことにした。





~第11層・タクト~


 転移門前広場。

「………」

 リュウキは、少し離れたところで座り、目を瞑っていた。そんな時だ。

「……リュウキ」

 声が訊こえてきた。どうやら、キリトが近づいてきた様だ。

「……正面から、か。珍しいな」

 リュウキは、キリトの声を訊いて 片眼を開けて、そう言っていた。

「たまには……な」

 キリトの表情は、あまり優れていない様だ。……当然だと思うけれど。

「その後は……? どうなんだ」

 リュウキは、ストレートに聞いていた。リュウキには、回りくどく 気を遣い、そして聞く様な器用な事は苦手、だからだ。こう言う時、どう接して良いのか、どう声をかけていいのか、判らないから。自分の心に従って、そう訊いたのだ。
 キリトは、ゆっくりと口を開いた。

「ああ…… あのギルドのリーダーのケイタには、……罵られた……よ。 当然……だ。 皆、オレのせいなんだから、甘んじて受け入れる。……他の3人が 死んだのは、オレのせいなんだから」

 キリトは、後悔と絶望。そんな表情で満たされていた。だが、あの時程、絶望の底に沈んでいる様な、死相が見えているかの様な表情ではなかったのが幸いだ。

「………失った奴らの分まで、戦わないとな。オレは、それが償いになると思ってるよ。今回、助けられなかったんだから。……今後、助けれる奴を助けないと いけない」

 リュウキは、険しい表情をしながらも、キリトを心配している。それは、キリトには十分過ぎる程、判った。……伝わった。

「……そうだ……な」

 キリトはゆっくりと頷いた。その答えを聞けたリュウキは、安堵の表情をして、目を閉じた。

「リュウキ、後、もう1つ、用があるんだ」

 キリトは、リュウキにそう言った。

「……ん?」

 その言葉を訊いて、再びリュウキは目を開いた。

「……お前と話がしたいそう、なんだ」

 そう言うとキリトは、手を上げた。そして転移門の裏。支柱の影から出てきたのは、あの時の槍使いの少女《サチ》だった。

 ゆっくりと、リュウキに近づいていく。

「その……そのっ……」

 サチのその声を訊いて直ぐに判った、声も身体も震えていると言う事に。 あの時、唯一助ける事ができた事は本当に良かった。
 だけど、恐らく、サチも心に深く傷を負ったのだろう。目の前で、仲間を失ったのだから……。それ故に、サチは上手く話すことが出来ないようだ。
 リュウキはそんな彼女を見て、声をかけた。

「……怯えなくて良い。あんな事があったんだ……仕方がない」
「で、でも……、わたしは…… 貴方に。 なのに……何も言えなくて、怖がってしまって……」

 サチは、怯えているだけではなかった。後悔も色濃く現れていた。
 助けてくれたのはリュウキとキリト。
 ……助けてくれたと言うのに、あの時 自分がどんな目をしてリュウキを見ていたのか、それを思い返していたのだ。

「構わない。……だが、どうしても 謝罪をしたい、と言うのなら 1つだけ、約束をしてくれ」

 リュウキは、サチに微笑みかけた。現実で家族に向けられた笑顔を、必死に真似て。

「心を強く……持ってくれ。そして、死んでしまった人達の分も、生きようとしてくれ。……それが弔いになるってオレは信じている」

 それを訊いたサチは、次第に怯えている表情が消えてゆく。
 優しさに、触れる事が出来た。この人も キリトの様に、とても優しい。心から、温めてくれる。サチはそう思えたのだ。
 だから、あの時言えなかった言葉を、言う事が出来た。

「あ……はい。その……ありがとう。 あの時も、私を、助けてくれて……ありがとう……ございます……」
「……気にしなくて良い。だけど、さっきの事は約束してくれ」

リュウキは、徐にに起き上がると、サチの前に立った。

「……生きてくれる事。……この世界が終わるその瞬間まで。どんな形だって良い。戦わなくたって良い。……生きて、あの世界へ無事、戻ってくれ。 望むのはそれだけだ。……オレが救えた命には意味があった事を、それをオレに教えてくれ」

 そう言ってサチの肩を叩いた。

「あっ………」

 その言葉を訊いて、サチの涙は再び流れる。
 自分は死ぬしかないんだと思っていた筈なのに、目の前の人、リュウキに そしてキリトに救われたんだ。だからこそ、救われた命を、もう無駄にしないようにと、サチは心に強く誓った。

 その時、リュウキにメッセージが届いた様だ。

「……悪いな」

 リュウキがそう言うと、キリトは頷いた。サチは、涙を必死に拭いながら頷いた。

 リュウキは、届いたそのメッセージを確認すると。

「……予定が入った。すまない」

 そう言っていた。だけど、2人は首を振る。

「ああ、悪かったな。朝早くに」

 キリトが謝り、そしてサチはリュウキの目を見つめた。あの時のような目ではない。

「ありがとう……リュウキさん。私、忘れません……貴方が言うとおり……私、頑張ってみます。この世界が終わる。……最後まで」

 サチは、強い意志を持って、そう答えていた。サチのその目には、もう涙は流れていなかった。
 そして、リュウキに訊いた。

「私が……、もし 約束を果たせたら、現実の世界で…… また、会えますか? 会ってくれますか?」
「……そうだな。 暇だったら、な」

 リュウキは、そう言って笑うと、手を上げて去っていった。



 ここに残ったのはキリトとサチの2人。

「アイツは……オレも救ってくれたよ。アイツがいたから、気をしっかり持つことが出来たんだ。そして、サチの事も……救う事が出来た」

 キリトは、リュウキの後姿を見ながらそう呟いた。感謝してもしきれないのは、サチだけじゃない。キリトも同じだった。

「そう……なんだ」

 サチは、微笑んでいた。微笑む事が出来る様になったのだ。リュウキの笑顔を見て、そして キリトが傍に居てくれたから。

「サチ、……黙っててゴメン。……謝ったって、赦されるものじゃないけど……オレ……」

 キリトは、この場で謝っていた。自分の事を偽っていたのだ。自分のレベルを隠し 彼らと共にいたのだ。もし、ちゃんとレベルを伝えていれれば良かったんだ。
 彼らの温もりが眩しくて、光の様に暖かくて、離れたくなくて、自分を偽ってしまったんだ。

 キリトは全てを話そうとしたその時だった。

「私は……キリトが本当は強いって言うの知ってたよ」
「えっ……?」

 サチのその言葉に、キリトは驚いていた。
 ステータスは、同じギルドに所属していても見る事は出来ない。他人のプレイヤーには見えないのに知っていると言うのだから。

「私、夜中にね……。こっそり、ステータス・ウインドウを見てしまったの。 何で……、キリトがレベルを偽って、私達と一緒にいてくれるのかは、わからないけれど……。そんなキリトが傍に居てくれたから、私、怖くても 凄く安心できたの」

 サチは笑っていた。でも……やはり、悲しそうな表情は消せなかった。失った仲間達はもう戻らないのだから。

「……確かに、皆の事……。亡くなってしまったのは とても悲しい。……でも 彼に、リュウキさんにも言われました。 放っておいたら、私は死んでたと思います。でも、私は死んでしまった皆の分も……生きないとって……初めて強く思えたから

 サチは、強い瞳でキリトを見る。

「ケイタの事は、任せて……。私は、私達は、きっとこの世界で生き残って見せるから。だから……リュウキさんとキリトは、この世界が生まれた意味を……私みたいな子がここに来ちゃった意味を……見つけて。それが……私の願いです」
「サチ………」

 キリトは、涙が浮かびそうになるのを必死にこらえた。そして……。

「必ず現実世界へ。君を……現実世界へ返してみせる。これは……、絶対に……約束する。サチがリュウキと約束した様に、オレも、約束をする」
「うんっ……」

 サチは、キリトに抱きついた。そしてキリトも、腕を回し抱きしめ返した。
 
 涙は止まっても、笑顔に戻る事が出来ても、僅かだが震えていた身体。キリトに抱きしめられた事で、もう、サチの震えは止まっていた。


――……2人に、救われたから。



 
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