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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第29話 悲劇


~2023年 6月12日 第27層・迷宮区~

 この日も、リュウキは迷宮区を探索していた。敵を視て、厳密にはそのデータを視て、それを確認、解析、情報を発信。
 
 よくよく考えたら、現実でも同じ様な事をしている。だから、ここまで滞りなく進める事が出来るのだろう。現実では、身体で言えば殆ど頭と手を動かしている。 この世界では、脳を使って、身体を意のままに動かしている。
 どちらも本当に相違ない。毎日しているからこそ、リュウキは、そうも思えてきた。

「……そうだな。大体がPCの前でデジタルデータとにらめっこだ。それが仮想空間に来ただけだからな」

 そう思うと、自然に笑みが出る。
 でも、すぐ隣にいつも見守ってくれていた人がいないのは、やはり寂しいのは事実だった。

 そして、彼の本当の目的は、プレイヤーの致死率を下げる事だ。一つの油断が命取りのこの世界で。
例え、無駄だとしても。

 何度でも思う。……自分の好きな世界で誰かが死ぬなんて思いたくないから。
 だが、誰かがリュウキにそう言っても、中々肯定しないだろう。……彼の行動理念の根源に渦巻くモノを、誰も知らないから。


「……自分のレベリングにもなる。無駄じゃない……か」

 片手直剣を取り出しそう呟いた。だが、よくよく考えたら、本当に不思議なものだと自分でも思う。いくら、好きな世界だといっても……、自分が誰かの為にこんな事をしているなんて、と。
 ネット上では殆ど仲間など作らず、1人だった、……なのに。

「……違う。オレは………罪滅ぼしを……なのか……? 誰か助ける……。 オレがそんな事が出来る状況になっている……から?」

 それは、誰かに尋ねるわけでもない。自然と出てきた言葉だった。それは、あの出来事(・・・・・)は、この世界での事じゃない。


――思い出したくない……。


 リュウキの記憶の奥底に封じた……その源泉の記憶。彼の行動理念の根源。それが、再び表面へ出ようとしていた。あまり考えない様に、としていた筈なのに。

 その時だった。



『うわああああああああああああ!!!』


 突然だ。断末魔の叫びが、迷宮区内に響き渡ったのだ。確かに迷宮区で、悲鳴が聞こえてくるのは……考えたくないが少なくは無い。なぜなら、モンスターの攻撃を受ければそれなりに衝撃はある。痛覚を刺激し、リアルにそれを感じるのだ。 即ち限りなく本物に近い痛みに近しいものがあるのだ。
実際に、命の危険があるから、恐怖との戦いでもある。

 だから……、死と隣り合わせである圏外では少なくないのだが、この感じは、これまで何度か聞いてきたそれとはまるで違った。

「……今のは、ただ事じゃない!?」

 何度か聞いたことがある悲鳴とは種類が違うのだ。
 そう……痛みを通り越し……死を感じるかのようなものだった。死がもう直ぐ傍にまで近づいているかの様な、そんな気配だ。
 だからこそ、直ぐにリュウキは行動を開始した。 精神集中し、周囲を視渡す。極限まで聴覚も研ぎ澄ます。……使える五感の全てを、集中させた。

 まだ、あの断末魔と言える悲鳴は続いて聞こえてきている。

 悲鳴の聞こえてきた位置の大体を把握する。そして、頭の中のマップ情報、既存に備え付けられたそれよりも遥かに高性能、高詳細のマップを立体上で呼び出し、聞こえてくる声の位置を当てはめた瞬間。
 ……リュウキの身体に、戦慄が走った。

「ッッ!! あの(・・)トラップの部屋かッ!!」

 リュウキは、全て理解した。
 そして、理解すると同時に、武器を収めると、鍛えた敏捷力(AGI)にモノを言わせ、素早く動きだした。


 その部屋を知ったのは、つい先日の事だった。

 この迷宮区で、トレジャーボックスが部屋の中心にある部屋。それも入口が隠された部屋を見つけたのだ。そして、それを見つけた時は、出入り口が見えない為、レアアイテムが入っているのではないか、とも思った。
 だが、その部屋の中に入った瞬間、何か嫌な気配を感じた。それ故に、反射的に意識を集中させ、視渡したのだ。 すると、その部屋で感じた嫌な気配が何なのかを悟った。

 感じるのは壁の奥に存在する禍々しささえ醸し出すモノ。壁を構成するデジタルデータが歪んで視えたのだ。何重にも重ね掛けをしている様なそのデータがそこにある理由。それは1つの解を示していた。

 ただの壁ではない、無数のデータが奥に存在する。

 即ち。

『なるほど……。この宝箱を開ければ発動するトラップかの類か。これを開けたその瞬間にでも、この部屋は敵で満たされそうだ』

 無数のデータが、不自然に壁に集合している。……壁の奥のデータが視えたのだろう。モンスターのデータが。

 確かめる為に、リュウキが宝箱を開けると案の定。けたましいアラームが鳴り響き渡り、この部屋が赤く染まった。

≪Warning≫

 と言う……英文が躍り出る。あのはじまりの街。全てが始まったあの日の血の様に赤い空の様に。

 そして、その部屋は瞬く間にモンスターで満たされた。それだけではなく、入口も固く閉じられてしまったのだ。

 所詮は下位の敵なのだが、その敵の量だけは異常だった。

 もしも、このトラップに掛かってしまったプレイヤーが 安全マージンを取れてないとしたら?いや、取れていたとしても、プレイヤーの数が少なければ?

 結果は火を見るより明らかだ。


「クソッ!! 間に合え!」

 リュウキは脚に力を込め、地面がまるで焼け焦げるかのように走り続けた。その情報はまだ、流していない。だからこそ、引っかかってしまう可能性高いだろう。情報を公開する事が遅れた事に、後悔をしてしまったが、今はそれを嘆いている暇はない。

 リュウキは、走り続け、最終的には断末魔の叫びが道しるべになり 最短で駆けつける事が出来た。案の定、その見えない扉が可視化されている。
 この部屋に入る為の入口を見つけたのだろう。そして、勿論可視化された扉は固く閉ざされている。この部屋の扉は、トラップが起動してしまえば、内側から開ける事が出来ないのだ。

 リュウキは、速度のままに勢いを殺さずに扉を蹴り開けた。

「ッ!!」

 飛び入り、見えたのは、キリト達の姿。あの時の、メンバーも一緒にいた。


「うわああああっ!!」
「あああああああ……!」
 
 1人、また1人とモンスターの刃の餌食となって消えて逝く。リュウキは、その姿が青い硝子片になってしまうのを間近で見てしまった。一足遅かったのだ。

 そして、もうこの場に残ったのはキリトと槍使いの少女だけだった。



「ッッ!!」

 キリトは必死に敵を撃退していたが、その子の距離がありすぎるのが判った。キリトは切り抜ける事が出来ても、彼女にはそれだけの力が無い事にも、気づいた。

 それを視た瞬間にリュウキは、もう考えるのをやめた。


 素早くメニューウインドウを呼び出す。

 ここからの操作、最早ワンミスも赦されない。一瞬のロスも惜しい。リュウキは所持アイテムリストをスクロールし、1つを選び出してオブジェクト化した。片手剣が装備されている欄を叩き、そのアイテムに設定変更。そして、同時に武器スキルスロットの変更も行う。
 
 全ての操作を終えたその時、一瞬だが、身体が左側へバランスを崩しそうになりそうだった、それは、重量が変化した証。……武器が、今までの片手直剣から、重量武器に変更された証だ。

 それを実感したリュウキは、眼で確認するよりも先に飛び出した。

「うおおあああああっ!!!!」

 雄叫びを上げながら武器を引き抜き、構えた。リュウキが取り出した武器の形状は剣。だが、それはただの剣じゃない。明らかにリュウキの身長よりも刀身が長い。その形状から 日本刀を思わせるが、その刃の長さは倍ではきかない。

 その武器の名は。

 カテゴリー:極長剣≪天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)




 リュウキが雄叫びを上げるコンマ数秒前。

「っ!!」

 キリトは思わず目を瞑りそうになっていた。目の前の彼女が、死の恐怖に怯え、震えていた彼女が、……その震えを止めてあげたくて、自分が守ると誓った彼女が、敵モンスターに、斬られてしまう瞬間だったから。

 もう、彼女のHPゲージは、殆ど残っていない。

 注意値(イエロー)を通り越し、危険値(レッド)に入っている。そして、かつての仲間達も、全てのHPを食荒らされ、あの青い硝子片となってしまっている。

 残っているのは、自分と彼女だけだ。 そして自分との距離は、絶望的な程にある。

 彼女の名前は《サチ》。その最後の瞬間、サチの表情は微笑んでいた。死に怯えていた表情じゃない。恨み言を言うような……表情でもない。キリトを見て、微笑んでいたのだ。

 そして、死が迫ってくる。

 木偶人形(モンスター)の一撃が彼女を命を奪う一撃を放ってくる。キリトには、それがスローモーションの様に見えてしまっていた。死ぬ前の走馬灯の様に。

 その時だ!


「うおおあああああっ!!!!」


 叫び声と共に、サチを取り巻いていたモンスター達が消し飛んだ。それは勿論サチに武器を振り下ろそうとしていた者も含まれる。
 爆発音に似た音と、凄まじい破壊力はそのまま、部屋の壁に直撃し、更なる轟音を生んでいた。

「っっ!!」

 サチも、助かった事より、その突然の事に驚きを隠せない。『自分はもう死ぬんだ』と、最後の瞬間を覚悟をしていたのに。死は訪れず、その代わり 身体が思い切り吹き飛ばされそうな衝撃に見舞われた。 だけど、吹き飛んだのは仲間達を殺した憎き、モンスターだけだった。

 そして、新たな怒号が訊こえてきた。

「キリトッ!! 助けるんだッッ!!!」
「リュウっ………!!」

 その衝撃の正体であるリュウキが叫んだ! キリトもサチ同様に衝撃音に驚きを隠せられず、混乱をしかけていたが、今はそれどころでは無い。直ぐに精神を整え直す。今、止まっていれば、今度こそ、サチまでも失ってしまうから。

「ッ!!」

 リュウキのおかげで活路が出来た。サチまでの距離が出来たのだ。光の道が出来た。だから、すぐさま駆け出した!
 リュウキは、キリトが少女を救出したのを確認すると。



「てめぇらはオレが相手だぁぁ! まとめて相手してやる!! かかってこい!!!」


 リュウキが咄嗟に使用したのは、ソードスキルではなく《デュエル・シャウト》。
 まだ無数に存在するモンスターを蹴散らすより、増悪値(ヘイト値)を自分に向ける事を優先したのだ。
 
 そしてこれは、以前も使ったことがあるもの。リュウキのそれは通常のシャウトとは違う。普通ならば、単体にしか効果がないスキルなのだが、彼のは全体に及ぶ。危険は勿論あるが、そんな事こそ、勿論考えてられない。
 全ての敵を自らに集中させる。それを確認したリュウキは、極長剣を再び構えた。……突きの構えで。

 その瞬間、長身の剣が光り輝く。

《極長剣・上位剣技 ソードスキル:クリティカル・ブレード》

 それは、キリトが感じた光の道。……敵の存在を赦さず、滅する光の道。まるで何処までも続くような、夜空に散りばめられいている星々……天の川。
 長い刀身の全て。その切っ先まで、光り輝いたと同時に、放たれた。

 先ほどの様に凄まじい爆音と共に、リュウキの振り下ろされた剣の先にいる敵、直線状のモンスターは全てが吹き飛んだのだ。

 遠い位置にいるモンスターは、HPの全てを削りきってはいないが、吹き飛ばす事はできて、動きは十分に封じれた。如何に相手にならないモンスターでも、それでも数の暴力とは言うものだ。真の目的は、敵の殲滅よりも、キリト達の、退路を作る事にあった。

「お前ら! こっちだっ!! 急げぇっ!!」

 リュウキは、叫び声を上げながら、キリトとサチを誘導、

「わかった! 行くぞサチッ!」
「う……うんっ……!」

 サチは、まだ恐怖からか、震えているが 必死に自分の脚で走る事が出来ていた。でも、モンスターは次々と沸いて出てくる。脱出まで、待ってくれなかった。

「くそっ……!」

 キリトもそれに気づいて迎撃するように構えたが。

「馬鹿野郎ッ! キリト! 雑魚に構うな! さっさと扉まで走れッ!! その子を守れッ!」

 リュウキは叫びつつ、壁を走りそしてキリトの前にまで跳躍。極長剣を構え、しんがりを買って出た。《デュエル・シャウト》を多用する事で、キリトたちに危険が及ぶ事を回避しているのだ。キリト達が手を出さない限り、タゲを向けられる事は無い。

「ッ……」

 サチは、震えながら、今度はリュウキを見ていた。それはまるで、モンスターを見るかのような目だった。

「くっ……わかった! 頼むッ!」

 キリトは直ぐに、サチを腕に抱き抱える。自身の筋力値(STR)で十分に抱えられた。そのまま、力を脚に込め、リュウキが蹴破ってくれた入り口の扉に向かって駆け出した。

「部屋の外だ! そこまで出れば転移結晶が使える! 早く脱出しろ!」

 リュウキは敵を蹴散らしながら、怒鳴る様に叫ぶ。

 なぜ、ここまで怒鳴りつけるように叫ぶのか。その理由は彼女(サチ)のHPゲージにあった。サチのHPは、既に危険値(レッド)。いや、それ以上だ。危険値(レッド)は、HPゲージが4分の1以下になれば、そう表示される。だが、サチのそれは、もう後何割、と言う表現より、後数ドット、と言う表現の方が当てはまる程にまで、減少しているのだ。

 今生きていられるのが、奇跡だと思える程の量。故に後 一撃でも喰らえばその体は、その魂はあの硝子片となり、いつ訊いても耳障りな音を発しながら、四散してしまうだろう。

 だからこそ、リュウキは力の限り叫んだ。反論させない、有無を言わさない迫力で。

「よし いいぞ! リュウキ!!」

 キリトが、サチの安全を確認するとそう叫ぶ。部屋の外にまではどうやら、中の敵は追ってこない様だ。部屋の外にも当然モンスターは存在するが、今は幸運な事に出現はしていなかった。その隙にサチを街まで逃がしたのだ。


「ああッ!」

 リュウキは、それを訊くと再び剣を構えた。

《極長剣・広範囲剣技 ソードスキル エターナル・スラスト》

 その極めて長い剣をフルに生かした前方180°の重範囲攻撃だ。扇状に剣閃が伸び、その刀身よりもやや長い距離まで剣閃は伸び、敵をなぎ払う。

 その範囲にいたモンスターは硝子片となって砕け散っていった。

 そして、前方を確認するともう、敵は1割もいない。2種類のソードスキルがいい具合に纏めて入った様で、大分敵を効率よく排除する事が出来た様だ。

 リュウキはそのまま、決して油断はせず、残党をなぎ払いながらキリトの方へと向かっていった。



 部屋の外でキリトに訊くとサチは、既に街に結晶で逃げたとの事だ。サチがいないこの状況はリュウキにとって、好都合だった。事の顛末を聞く為にだ。
 キリトがいたのに、どうしてこんな事になったのかを、聞きたかったのだ。

「何故だ?……何故、ここにいるんだ、キリト。……お前達が。何で、お前がいて……」

 リュウキは、高ぶった気を何とか静め、落ち着きを取り戻していた。……冷静になった頭でよくよく考えると、最前線近くにいるあのパーティ事に驚いたのだ。

 あの時、10層での戦闘を見た時からまだ約2ヶ月しか経っていない。
  
 キリトと同等のレベルか、もしくは無理なレベリングをするのなら兎も角、あの時のあのゴブリン達に梃子摺っていたレベルのメンバー達がここまでこられるとは到底思えないのだ。
 何よりも安全を考えるのなら。

「オレの……オレのせいだ」

 ……キリトは自身の震える身体を抱いた。そして、崩れ落ちる。

「オレの……思い上がりが……月夜の黒猫団を……皆を殺した。オレさえ……関わらなければ……オレが……関わったばかりに……あいつらを………」

 静かに告白するキリト。……だけど、それは半狂乱になりかねない程のものだと感じた。


 キリトのその姿見て、リュウキには ある光景がフラッシュバックした。

 そして、キリトの身体が薄れていく。キリト周囲の空間が歪んでいく。そして映し出されるのはある姿。

――……目の……錯覚……?


 そう思ったのも無理は無いだろう。 だけど、それは違った。

『うっ……うっ……』

 涙を流し、崩れ落ちている少年の姿。傍らには……誰かが少年を支えている。

『ぼ、ぼくが、ぼくのせいで……っ、ぼくが、しっかり、してなかったからっ……、 ぼく、ぼくの……』

 何度も何度も自分を責め、涙を流す少年。

 いったい、これは誰だと言うのだろうか? 

 いや、自分には、リュウキには判っている筈だった。 これは、この姿は嘗ての自分の姿(・・・・)なのだから。

 
 それを理解したその瞬間、その映像は露と消え、再びキリトの姿に戻した。

「……立て。キリト!」

 リュウキはキリトの腕を掴み立たせた。

「ッ……!」

 その目は後悔の念で満ちている……リュウキを見ることが出来ていなかった。その姿もダブって見えてしまう。


 あの映像の少年の傍に居てくれた彼に、自分もそうしていたから。


「……もう、何をしても何を悔やんでも、死んだものは戻らない。……後悔するくらいなら今すぐ行動するんだ」

 リュウキは、キリトにそう言い聞かせた。まだ、今はまだ、出来ることはあるのだから。


――……あの時と違って。



「こう……どう……?」

 キリトの目は……、次第に、リュウキの目を見ることが出来ていた。

「まだ……残っているだろう。……彼女のところへ行ってやれ。彼女だって、辛い。……絶対に辛い筈なんだ」

 その次には、リュウキの目は厳しいものから、優しいものへとなっていた。

 それを訊いたキリトは、サチの事を、サチの顔を思い出した。転移結晶で逃げる時も、まだその顔は恐怖で彩られている。
 何もわからず混乱と恐怖が等しく混ざっている。 街に戻っても、それが治る事は無いだろう。

 だからこそ、1人にはしてはいけないんだ。せめて、仲間が戻るまでは。
 
 そう結論をつけると、キリトは覚束ない足取りで、1歩、2歩と歩き、震える指先を操って、転移結晶を取り出し、この場から姿を消した。




「…………」

 この場に残ったリュウキは、再びキリトの姿を自分の前の姿に重ねてしまっていた。
 
 あの悲しき記憶、奥底に封じてしまった記憶の源泉。

 自分のせいで……仲間が失われた。思い上がりが……仲間を失う結果になった。キリトのその言葉は、揺り起こす結果となったのだ。
 
 自分の過去の記憶を。

「……ッ!!」

 ズキリと体の心に突き刺さるような痛みを感じた。

「感情を……殺せ。………後悔の念を……押し殺せ……。もう誰も喜ばない。そんなのは……だれも……喜ばない……はずなんだ……。爺やに……爺やも言っていたじゃないか……」

 ゆっくりとした足取りで、リュウキはこの場から離れていく。

「今……この世界でも 向こうの世界でも………生きる為に不要な事なんだ……。過去の念なんて……。枷になるんだから……。望んでいない、筈なんだ……。彼女(・・)も……っ」

 自分に言い聞かせる。暗示するように……。彼が殆どパーティに入らない。仲間を作らない。その真の理由は……、この記憶の奥底にあった。



 まだ誰も知らない、彼の闇の中に……。
  
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