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エターナルトラベラー

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第八十五話 【Fate編】

 
前書き
今回からFate編です。
最初に注意事項を挙げておきます。このFate編はタイプムーンさまの世界観における設定を意図的に逸脱、または無視しております。その改変に関しての苦情は受け付けません。タイプムーンさまの設定準拠での話を望まれるのでしたらブラウザバックをお願いします。
二次小説と言う事でそれでも構わないと思われる方は多少なりとも楽しんでいただけると幸いです。
 

 
彼方から少女の声が木霊する。

遠くから誰かを呼ぶ声だ。

それを何処ともいえない場所で聞いている人が居る。

ああ、また私を呼ぶのだな。とその誰かは思った。

あの白い少女に呼ばれ、自分の子供を手にかけてしまった自分でもその娘を守れるかもしれないとその呼び声に応えた。

何度も…何度も…

しかし何度分岐を辿っても自分はあの少女を守れない。

眩い光の一撃で命のストックを削りきられ、多くの宝具に串刺しにされ…

一番最悪なのは影に食われて自分自身が白い少女を追い詰める。

どの私も必ずあの少女を守りきる事叶わずに朽ち果てる。

それが運命とでも言うように…

ああ、誰か、誰でも良い。誰かあの少女を守りきってくれないか…あの冬の寂しさしか知らない白い少女を…

そして彼女の幸せを見つけてあげて欲しい…

呼ばれることの喜びよりも今の彼には守りきれないと言う絶望の方が多い。

彼女の呼び声は必ず狂化の呪言が織られている。

せめて狂戦士のクラスでなかったなら…彼女の心を労わる言葉を掛けて上げれるのに、…それすらもやはり叶わない。

少女の言葉に惹かれ、何か大きな力に引かれてまた私は彼女の前に現れるだろう。

今回こそはと言う希望と今回もきっとと言う絶望を胸に抱き、奇跡を願う。

そんな時、その男が引かれる道を何かが通った。

男は何を思ったのかその何かをその太い腕で掴み取り、強引に自分の中へと取り込んだ。

しかし、その何かは吸収するはずだった男の力を逆に吸収しに掛かった。

だが、男にはそれならそれで構わなかった。

ああ…今回はきっと大丈夫。

狂化は私が全て持って行こう。

そして私の持てる力で用意された器を作り変えよう。…いや、これほどのものなら狂戦士の器では受け止められまい。

だから、今回は…きっと彼女を守ってくれ。

それだけが今の私の願いなのだから…




急激にまどろみから意識が浮上する。

それと同時に何かの知識が頭の中に流し込まれていく。

聖杯、冬木、サーヴァント…

その一つ一つを吟味する時間も無いままに、何かに引き寄せられ、自分の体が書き換えられていく。

『汝三大の言霊を纏う七天…抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

その言葉に手繰り寄せられるように俺の体は引き寄せられ現実世界に現れ出でた。

魔力渦巻く魔法陣の真ん中に立つ。

辺りを見れば豪奢な石造りの聖堂のような造りの部屋のようだ。天井のステンドグラスから漏れる木漏れ日が一層そういった雰囲気に仕立て上げている。

目の前には白い、どこまでも儚そうな少女が立っている。

「問おう。あなたが俺のマスターか?」

この言葉だけは口からすんなり出てきた事に自分でもビックリしている。

「ええ。私があなたのマスターよ」

そう答える少女とは別にこの部屋に居る人物。見たところ髭をはやした年配の老人の男性が驚愕を洩らしている。

「ば…ばかな…バーサーカーのクラスのサーヴァントにはまともな会話能力は無いはずなのに…」

バーサーカー。冬木で行われる聖杯戦争におけるクラスの一つか。彼らはバーサーカーのクラスのサーヴァントを欲していたのか。

「ねぇ、あなたは何のクラスのサーヴァント?」

目の前の少女もその老人の呟きに不信感をつのらせたらしい。

「ふむ…」

そう言って俺は会話に間を取ると、自身のクラスを刻まれた知識から引っ張り出す。

「どうやらチャンピオンのクラスだな…なるほど、この単語には確かに因縁を感じる」

チャンピオン…イタリア語ならカンピオーネだからね。

「チャンピオン?バーサーカーじゃないの?」

「聖杯戦争に必ず呼ばれるのは三騎士と呼ばれるセイバー、ランサー、アーチャーの3クラスだけだろう。その他がたびたび変わる事があると俺に刻まれた情報に記されているよ」

「イレギュラークラスか!?」

俺の返答にそう大声を上げて驚いたのは目の前の少女ではなく、奥に居る老人の方だった。

「いや、まだだ…あの者が目論見通り彼の大英雄であるのなら、イレギュラークラスと言えど問題ない…イリヤ」

はい、と答えた後イリヤと呼ばれた白い少女は俺に言葉を放った。

「あなたはギリシアの大英雄、ヘラクレスよね?」

ヘラクレス…神話に詳しくない人でもその名を一度は聞いたことが有るだろう。…カブトムシとかで。

その名も高き大英雄ヘラクレスを召喚したと信じている目の前の二人にどう告げればよいのか…

さて困った。…俺は少しの間逡巡したが、黙っていてもその質問だけは返答するまで何度でも繰り返されそうなので正直に答える。

「違う」

「なっ!?」

俺の言葉に一番衝撃を受けたのはその老人の男性だ。

「ならば何者だ!?」

「あなたに答える必要性を感じないが?」

と答える俺にその老人は白い少女へ険しい視線を投げた。

「答えて。あなたの真名はなんて言うの?」

面倒だから誤魔化すかと考えた瞬間、俺の体を強力な呪力が襲い掛かり、電流が流されたような衝撃を受ける。

「っく…」

…なるほど、あの少女は余程強力なマスターなのだろう。彼女の命令に逆らうと体の自由を奪われるほどの衝撃を受けるようだ。

「アオ。それが俺の名前」

答えた瞬間俺を苛んでいたものが解け、苦痛からも開放される。

「アオ?あなたは何処の英雄なの?」

「さて…俺はこの世界に名をはせた記憶は無い。何処の英雄と問われても返答に困る」

ガタンッ

「お爺様!?」

少女が物音を立てた老人に驚いて振り返ると、その老人は手すりに捕まるようにして何とか立っているが、その表情から絶望の相がうかがえる。

「おぬしの宝具は…」

まぁ、ソルが宝具と言えなくは無いだろうが…

「宝具は英雄を英雄たらしめる伝承の具現化なのだろう?伝承そのものを持っていない俺が宝具なんて物を持っているわけ無いだろう」

どうせ白い少女を越して聞き出すのだろうから、老人に問われた問いに答えた。

「ではおぬしは何者なんだ?何故おぬしはそこに居る!?」

「さて。それは俺が聞きたい。確かに死んだような記憶は有るが、その魂を強引に引っ張ってきたのはそっちだろう?」

俺の所為じゃないだろうと言う。

「サーヴァントが英霊ではなく…ただの人間霊だというのか…」

そんな事を呟くと老人はフラフラと聖堂を後にする。

余程期待はずれだったのだろう…元から年を取っている風だが、さらに10年は老け込んだように見えた。

残されたのは白い少女と俺の二人だけ。

「さて、それじゃあえっと…」

目の前の少女を何て呼べば良いか逡巡していると少女の方から言葉を発した。

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。イリヤで良いわ」

「なるほど」

イリヤ…ね。これは後で記憶を穿り返さないといけないな。

「それではイリヤ。…君は俺との契約を望む?」

「はぁ?望む望まないもなくあなたは私のサーヴァントでしょう」

「確かにそうだ。…だが、君のおじいさんは俺の事がお気に召さないようだぞ?」

「呼び出しちゃったものはしょうがないじゃない。あなたはわたしのサーヴァントよ」

面倒だからこのまま契約を切ってもらっても全然良かったのだけれど…それは俺がこの世界に来るときに取り入れた何かが邪魔をする。…一体これはなんだ?

「了解した。サーヴァント・チャンピオン。君の騎士として君を守るとここに誓う。これで契約は完了した」

と、自然に守ると口から出た事に自分自身で驚いた。…自分の中で何かが変質しているように感じるが、どうこうする事は今の俺にはできそうに無い。この原因はおいおい究明する事になるだろう。







さて、現状確認である。

どうやら今の俺はサーヴァントとして呼び出され、このアインツベルンの城に滞在しているが、どうやら聖杯戦争まではま二ヶ月ほどあるらしく、聖杯からのバックアップが無い。

つまり、今の俺を現界させている魔力の全てはイリヤが支払っていると言う事であり、俺の一挙手一投足にも相応の魔力を消費する。

現界時に得たスキルでイリヤへの負担は軽減しているが、それでも十全とは言えないのが心苦しい所ではある。

とは言え、自身の今の能力の検証はしなければ成らず、イリヤに無理を言って実体化し、何が出来るか、それがどれだけイリヤの魔力を消費するのかを確かめなければならない。

今の自分がどれだけの戦闘技術を行使できるのかの確認は生死を別けるほど重要だった。

結論を言えば、おそらく念も権能も魔法も魔導も使える。しかし、それは全てエネルギーを一緒にしたものだ。念も魔導も全てを同じエネルギーで扱えると言う事だ。

…いや、俺の持っている能力をこの世界に合うようにイリヤの魔力で再現していると言った方が正解だろう。

イリヤは聖杯戦争のために作られた至上のマスターだと言う。そこから供給される魔力は他のマスターと比べるまでも無く多量。

…しかし、それでも俺が操る技術を彼女の魔力で行使するとなると大威力忍術で良くて5回、シューターならばいざ知らず、バスターでは撃てて6発。ブレイカーは周りの魔力を極限まで集束させて一発撃てるかどうかと言ったところだ。

写輪眼の発動、念での身体強化、飛行魔法の行使などを考えると戦闘可能時間は極端に短い。

…久しぶりにウルトラマンの気分を味わっている。

ああ、この感覚はいったいどれくらいぶりだろうか…出来れば二度と味わいたくない類の物だったのだが…

そう言った訳で当然スサノオの使用も難しい。

これは大幅な戦闘力低下と見て良いだろう。

が、しかし。大幅に制限の掛かっている俺だが、聖杯戦争におけるマスターとして捉えた場合イリヤは望みえる最高のマスターだと言えるだろう。それほどまでにイリヤから供給される魔力は魔術師としては莫大なのだ。…ただ、俺がそれを越す度を越えた燃費の悪さなだけ。

「ねぇ、もしかしてチャンピオンってすごく強い?」

召喚されてから一週間、イリヤを連れてこのアインツベルンの森で現状確認をしていた時にイリヤが俺に問い掛けた言葉だ。

「さて…ね。他のサーヴァントが戦っているのを見た事は無いからね」

分からないよと俺は答えた。

「ねぇ、チャンピオンは本当に英霊じゃないの?ただの人間霊にしてはその力は異常よ。セイバーを思わせる剣技、キャスターでも通用しそうな現代魔術師では行使できないような魔術、ランサーやアサシンのような身の軽さ。それをただの一人が持っているのよ?」

「だが、その分戦闘可能時間が極端に短い。これはマスターの魔力を湯水の如く消費すると言う点でバーサーカーの特徴に類似するね」

「う…ゴメンね。チャンピオンの能力をフルに引き出してあげれなくて」

イリヤが少しシュンとして謝った。

「イリヤが謝る事じゃないだろう。サーヴァントはそう言うものだ」

英霊をサーヴァントとして現界させるに当たって、そのクラスに適応するように英霊の能力を削ぎ落として行く。その為にサーヴァントは英霊そのものよりも強くなる事は無いし、その殆どは劣化を免れない。

しかし、ここに措いて俺はどうやら例外のようだった。

サーヴァントとして現界するに当たって手に入れた幾つかのスキルの内の一つに『技能継続A+』と言うのが有った。

これは生前…俺の場合は前世までに習得したその技能を失わないと言う物だ。だから俺は忍術も魔法も権能もこの世界の魔力を媒介にして再現できている。

しかし、その威力を再現するとなるとそれには莫大の魔力が必要だった。それには幾らイリヤが至高のマスターだったとしても賄いきれる物ではないものだったのだ。

そして、その反動か。どうやら俺は筋力、敏捷、耐久のパラメーターが低く設定されているらしい。この辺りは念で賄える物なので特に問題は無いのだが、やはりその分魔力を消費してしまうのは手痛いデメリットだろう。

だが、その反面、魔力と幸運は高く設定されているらしく、他のマスターが見れば宝具能力型のサーヴァントだと誤認するほどではなかろうか。

その他には発現した『技術習得A』と言うスキルのお陰か、サーヴァントのクラススキルとして割り当てられる物の大部分ををAランクで所持しているのは嬉しい誤算だ。

対魔力、単独行動、騎乗、気配遮断、陣地作成、道具作成の全てをAランクで所持していた。

この単独行動Aはとても助かっている。実際これが無ければ体を動かすだけで消費する魔力でイリヤを苛んでいただろう。

狂化が無いようだが、あったら困るスキルなのでこれだけは無くて助かった。

この『技術習得』と言うスキルはその技術がオンリーワンでなく、体系を有した技術であるのならば習得できるチャンスがあると言うものらしい。

本来サーヴァントとは成長しない完成されたものであるはずであり、成長の可能性を秘めるこのスキルは有り得ない物なのだろうが、俺の経歴を辿るに納得させられるスキルでもある。

他に幾つかスキルを獲得したが、これはイリヤがマスターとして召喚した為のプラス補正なのだろう。

「それに、聖杯戦争が始まるよりかなり前に呼び出されたと言うのは俺にとってはすごいアドバンテージだ」

「どういう事?」

「足りない魔力を貯蔵する時間が取れたと言う事だよ」

「?」

良くは分かっていないようだったが、イリヤを守るために彼女には頑張ってもらわなければなるまい。

就寝前に一日の生成分の魔力を使いきる勢いで吸出しカートリッジを作ればそれだけで魔力の水増しになりえる。

俺自身の念能力と手に入れた道具作成スキルを使えば問題なくカートリッジを作れるだろう。

おそらく、一日一本が限界だろうが、それでも聖杯戦争開始まで一月半。それなりの数が揃うはずだ。

夜。イリヤは就寝した頃合を見はかり、俺は人目の着かないところへと移動して実体化する。

昔、深板達と作った二本の映画をソルの記憶領域から引っ張り出してもらい再生する。

『Fate/stay night』

これはSAOに閉じ込められた時にあの気持ちの良いバカたちと一緒に撮った二本の映画のタイトルだ。

今俺が置かれている状況。それはこの映画の雰囲気と多くの所で類似する。

聖杯戦争。

七人のマスターと七騎のサーヴァントによる殺し合い。

最後の一組になるまで相手を打倒し、残った一組が聖杯を手に出来ると言う魔術儀式。

「イリヤスフィール…バーサーカー…おそらくこのバーサーカーの代わりに俺がサーヴァントとして召喚された、と言う事だろう」

『その可能性が高いです』

と俺の胸元で待機状態のソルが俺の言葉に相槌を入れた。

「召喚入れ替え系か…いや、今回の事は問題はそこでは無く、聖杯が汚染されているかもと言う事か」

『仮定の話ですが、可能性は大きいかと』

「だね」

汚染された聖杯はそれ自体が厄災であり、イリヤが聖杯として完成されたときにはイリヤ自身がどうなるか分からない。

とは言えそれは可能性であって確定事項ではない上に俺が持ち合わせているこの情報が劣化したものだと言う事実だ。

この作品は俺達が本来いた最初の世界の創造物をさらに劣化させたものだ。つまり、既に別物として仕上がっている可能性が高いと言う事。

「このストーリーは参考程度と言う認識でないと危ないかもしれないね」

思い込みや決め付けは危険だ。

さて、どうやらこのアインツベルン家の当主。あの召喚の時に居た爺、名前はユーブスタクハイトと言ったか…彼は俺達に既に何の期待もしていない。

それでも万が一はと考え、今回の聖杯戦争にはイリヤを参加させるようだった。

イリヤもその命令を受け入れ聖杯戦争への参加を表明している。彼女には彼女の理由が有って冬木の街には行きたい様だった。

問題は多い。

俺の戦闘継続時間の問題を抜きにしても俺自身の問題として彼女、イリヤスフィールの命令には逆らい辛いと言う現状だ。

この事態には良く分からない物がある。…おそらく俺達の中に入り込んだ不純物がそうさせているのでは無いかと当たりを付けているが…はっきりとはしない。

そう言えば語らなかったがソラ達はどうなったか。

彼女達の魂は今俺の中で眠っている。何かの拍子に起きる事も有るので彼女達の内何人かは覚醒しているのだが…それは今はいいだろう。

時は一月の終わり。ついに俺達はこの雪に閉ざされた城を出て冬木の地へとおもむく事になった。

用意できたカートリッジは四十三発。心許ないが、それでもこれが用意できたのはかなり心強かった。

イリヤの身の回りの世話と警護をしてくれるホムンクルス…セラとリズの二人と連れ立って冬木の地を目指し、現地入りしたのが一月三十一日。まだ春が来るには遠い冬の日の事だった。

セラとリズの二人を先にアインツベルンの森の奥にある聖杯戦争中の根城として確保してある城へと滞在準備のために先行させた後イリヤは一人冬木の町をフラフラと歩いていた。

いや、霊体化した俺も居るのだから一人と言って良い物かどうか。

彼女はその冬の寒さに温かみの消えた街に、それでも物珍しいのか視線をせわしなく動かしながら歩いていく。

この街に住んで居る住人にしてみれば変わり映えのしないその街並みをイリヤは本当に興味深げに見回している。

そう言えば彼女があの冬の城を出たのはこれが初めてになるのだったか。

「初めての日本の感想はどうだ?」

俺は実体化し、イリヤに問いかける。着ている服装はこの時代よりいくらか後の物だったが、それほど浮く事もあるまい。

ようやく聖杯戦争も始まりの合図を待つばかりとなり、聖杯からのバックアップが働いたお陰でイリヤが支払う魔力は俺を現界させるために繋ぎとめる分だけと言う所まで落ちている。今の状態ならば実体化してもイリヤの負担にはなるまい。

「外の世界ってこんなにキラキラしているのね」

そんな彼女の感想は初めて遊園地を訪れた子供のようだった。

「ああ、そうだね。世界はこんなにも面白い事で満ちている。…だからまだ俺は生きているのだろう」

「チャンピオン?」

何を言っているのとイリヤ。あなたはとうの昔に死んでいるでしょう、と。

「あ、ああ。そうだったな。…イリヤ、せっかくの日本だ。何かしたい事はない?」

しまったと感じ直ぐに話題を変えた。

「うーん…そうね…そんな事急に言われても思いつかないわ」

「なら、ゆっくり考えるといい。時間はまだ有るはずだ」

「うん」

そう答えたイリヤは、しかし何かを探すように視線を動かしながら冬木の街の散策を再開するのだった。

深山町の古めかしい日本家屋が立ち並ぶ、一種の古きよき日本の街並みを歩くイリヤ。

すると突然イリヤの表情が険しくなり、何か大きな感情が爆発するのを必死に抑えているように深呼吸。その後、おもむろに歩き出すと一人の青年とすれ違いざまに一言その少年に聞こえるように囁いた。

「はやく呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」

と。

イリヤはいぶかしむその少年を通り過ぎ、振り返るそぶりさえなく坂を下っていく。

ああ、そうか。あの赤毛の少年がそうなのか。

情報通りなら自分とは相容れる事の無い少年の姿を一度振り返り、その目に記憶した。

しばらく歩き、少年の姿が完全に見えなくなるとイリヤは自嘲気味に呟いた。

「…さっきのわたし、ちょっとおかしかったわね」

「そうだな。…先ほどの言葉はまるっきり要領を得ない言葉だった」

そうね、とイリヤは自嘲気味に囁く。

「あの子はキリツグの子供なの。キリツグって言うのはわたしをあの城に置いていったわたしの父親の事。だから、あの子がキリツグの子供ならわたしの弟と言う事になるわ」

二次成長手前のような容姿の彼女は、どう贔屓目に見ても先ほどの彼と並べば彼女の方が妹だろう。

だが彼女は弟と言った。それは彼女が見た目どおりの年齢では無いと言う事だった。

「そうか」

「…チャンピオンって結構淡白よね。もう少し掘り下げて聞いてみたいとは思わないの?」

「イリヤが話したいなら聞くだけならできるよ。…でも、聞いたとしても俺には君と彼の関係を変化させる助けは出来ない」

イリヤを守れと言う強迫観念はあるが、人間関係まで改善しろと言う事では無いし、何より聖杯戦争が終われば消える俺ではその全てに責任を負えない。

俺が一石を投じ二人の関係に変化をもたらす事は可能かもしれないが…それだけだ。聖杯戦争の終結はおよそ二週間ほどだろう。その後彼女達を支える事は俺には不可能なのだ。ならばいっそ…

いや…これは彼女自身が悩み、彼女自身が選択し、彼女自身が行動すべき事柄だ。

「そう?ううん、これは私の問題ね」

と言ったきりイリヤはまた散策に戻った。

冬木市の新都の方へと足を運び、それなりの格式のレストランで夕食を済ませると辺りはとうに真っ暗だった。ネオンサインのみが煌々と辺りを照らしている。

「チャンピオン、あなたサーヴァントの癖にレディのエスコートは中々のものなのね」

それはレストランで一緒に夕食を取った時にお姫様をエスコートするようにイリヤを伴った事に対する彼女の感想だ。

「それにこの辺りの常識を聖杯の知識からではなくまるで最初から知っているかのようだったわね。初見でバスやタクシーを利用したり、自動販売機の使い方なんてわたしも知識としては知っていてもどうやって利用するかまでは分からなかったというのに。あなた達サーヴァントに刷り込まれる常識はそう言ったものよね?と言う事はあなたは自分の経験としてあれらの使い方を知っていたと言う事」

「そうかもね。だけど、それがどうかした?」

「ううん。ただの確認。チャンピオンは現代を生きた人の魂…にしてはその技術がおかしいか…」

「俺の正体なんてどうでも良いだろう。伝承を持っていないと言う事は明確な弱点を世に知られていないと言う事だし、聖杯戦争では不利ではないはずだ」

「ええ、そうね。でも逆に知名度による補正が入らないと言う事。つまりあなたは呼び出されたサーヴァントの誰よりも補正が無いのよね」

「いや、そうでもない。俺の切り札はこの日本では途轍もない知名度を持っている」

「はぁ?なにそれ。あなた西洋の人では無いと思っていたけれど日本人なの?」

そう問い返したイリヤの言葉に返答する暇はどうやら無さそうだ。

少し遠くにサーヴァントの気配を感じる。

サーヴァントはサーヴァントの気配を感じ取れる。俺の知覚距離の補正は高く、昼間のうちから俺達が人通りの少ない所に行くのを狙っていたようだった。

俺はずっと付けねらっていたそのサーヴァントが此方に距離を感じ、イリヤを背にして方向を変える。

食後の散歩にと出歩いた俺達は簡素な倉庫街で迎え撃つべく移動していたのだ。

俺の表情が変わったからだろう。イリヤもどうやら敵の接近に気がついたようだ。

「サーヴァントが来たの?」

「…ああ。どうやら俺達の聖杯戦争の初戦になりそうだ」

「そっか」

イリヤを庇いつつ俺はソルを手に取ると起動して出迎えの準備を整える。

「ソル」

『スタンバイレディ・セットアップ』

一瞬閃光が走ると銀色の龍鱗の甲冑が現れ俺の体を覆った。

腰につるしたソル本体の鯉口を切り来訪してくるサーヴァントを待ち受ける。

『ロードカートリッジ・サークルプロテクション』

その間に一発ロードし魔力を充填するとイリヤにサークルプロテクションを張りガードする。

これでサーヴァントの攻撃以外ならば相易々とイリヤを傷つけられないだろう。

とは言え、これから来るのはサーヴァントなので気休め程度でしか無いだろうが、そもそもマスターを狙われれば人間の魔術師であるマスターはサーヴァントに対抗できようものも無いのだからこのプロテクションは相手のマスターからの魔術への防御と言う事になる。

スタッと軽い乾いた音と共に倉庫の上を駆けて来たのか、何者かが着地し俺達から8メートルほどの距離をあけて着地した。

「ほう、これはまた俺も中々運が良い。のっけからセイバーとやりあえるとはなっ!」

俺が持っている武器はまぎれも無く剣の部類に入る日本刀を模している杖でありセイバーと間違われるのも道理だ。

対して目の前の男は後ろ髪を束ねた長髪に青い戦装束、銀色の肩を守るだけのアーマーにその手には紅い禍々しい槍を持っている。

見まごう事も無くランサーのサーヴァントだろう。

さて、ここで俺が取るべき行動は何であろうか。

聖杯が汚染されている可能性を考えればベストなのは一騎も脱落せずに聖杯戦争が終わる事だが、それは無理な相談だろう。汚染されていると言う確証は無く、相手にしてみればそれは只の絵空事の虚言に聞こえる。

俺が手を下さなくても何処かでサーヴァント同士がぶつかり合い脱落していくだろう。それは回避のしようが無い。

確かめるためには一度聖杯を起動した上でその器を破壊しなければならないが、霊体である俺が汚染された聖杯の中身を受けて無事でいられるだろうか?…それは今考えるべき事ではないか。

今考えるべきは目の前のこのサーヴァントをどうやって追っ払うかだ。

そう、まずは様子を見なければ成らない。どれほど状況があれを参考にして良いのかを。それにはまずこいつをここで脱落させるのはマズイかもしれない。

…とは言え、俺がイレギュラーとしてここに居る時点で大幅に変わってしまっているとは思うが…

「チャンピオン。そのサーヴァントを倒しなさいっ!」

「了解した。マスター」

イリヤに命令されたのならば戦う他はない。彼女を守る、彼女の意思に従うと言う事に関しての強制力は強い。これに逆らうと目の前の敵から逃げる事もままならないほどに能力がダウンするだろう。

「ああ?チャンピオンだぁ?おめぇセイバーじゃねぇのか。イレギュラークラスって奴か」

少しがっかりしたかのように肩をいさめるランサー。

『アオさん、相手はランサーなんだよね?』

と身のうちより念話のような声が聞こえる。

俺のこの身のうちで眠っているなのはがこの騒動で起きたらしい。

『なのはか…ああ、その様相を比べればおそらくクー・フーリンで間違いないだろう』

『代わってもらえないかな。日本刀で長槍を相手にするのは難しいし、わたしも槍の英霊とは戦ってみたいもの』

俺は心の中ではぁとため息を吐き言葉を続ける。

『危なくなったらイリヤを連れて離脱。それとセイバーの存在を確かめていないからまだランサーに脱落してもらっては困る、上手くやって』

『はーい』

そう言うや否や俺の体は歪み、俺の魂は引っ込んで、代わりに白と桃色の龍鱗の甲冑を着た女性の姿へと変貌した。



訪れた冬木の地で始まった聖杯戦争。

わたしとチャンピオンにとっての初戦は蒼い服に紅い槍が対照的なランサーのサーヴァントだった。

あまりやる気の感じられないチャンピオンに魔力で言霊を紡ぎ命令する。

「チャンピオン。そのサーヴァントを倒しなさいっ!」

「了解した。マスター」

チャンピオンは仕方ないと答える。

マスターと呼ばれたことにわたしは少しショックを受けた。マスターと呼ばれたのなんて召喚当日のみ。後はいつもわたしの事は名前で呼んでいた彼。

刀の柄に手を添えたチャンピオンの姿がいきなりブレると、その甲冑が変化し始める。

「え?何?チャンピオン?」

銀色の甲冑は形を変え、桃色の龍鱗の甲冑へと変化する。それに伴い彼の武器である日本刀までもが形を変え、その形が宝石を抱いた杖のような物に変わった。

しかし、変化はそれだけではなく…

「なんだぁ?てめぇ、女か?」

ランサーの声にも困惑が混じる。

それはわたしも一緒だ。なぜなら本当にチャンピオンの性別が男から女に変わっていたのだから。いや、性別が変わったというより存在が…魂そのものが変わったのだと感じられた。

「あなたは…だれ?」

目の前の女性は視線だけわたしによこして答える。

「チャンピオンのサーヴァントだよ。イリヤちゃん」

「うそ。だってチャンピオンは男じゃないっ!」

「まぁ、その疑問に答えるのは後にしよう。今は客人の相手をしないとね」

そう言ったチャンピオンと名乗った女性は手に持った杖を変化させ、その形状を槍へと変えた。

槍といってもそう見えるだけで、彼女の持っている槍は機械的で、穂先は魔力で出来ていた。その首元にはリボルバー式弾倉がついていてその機構はチャンピオン…アオの持っている日本刀に通じるものがあった。

「ほぉ、俺相手に槍で勝負を挑むつもりか」

「槍の扱いでは私達の中ではわたしが一番得意だからね。槍の英雄に何処まで通じるのか、試してみたくなったの」

「ほう」

そう言ったランサーの気配が変わる。戦闘態勢へと移行したようだ。

二人とも深く腰を落とし、槍を突きつける。

『ロードカートリッジ』

ガシュと薬きょうが排出され、チャンピオンの体に魔力が迸った。あの一本でわたしが精製できる一日分の魔力が込められている。

「なんだ、その槍は…それがおめぇの宝具って訳か?」

伝説の具現にしては嫌に機械っぽいチャンピオンの槍をいぶかしむランサー。

「ううん。この子はわたしの杖だよ」

「ならキャスターじゃねぇのか?」

「槍を構える魔術師が居ると思うの?」

「ちげぇねえっ!」

ジリッと足を擦りながらどちらが先に仕掛けるか、タイミングを計っている。

さて、どちらが先に動いたのか、わたしの目ではわからなかった。

残像を残し、両者は地面を駆け、その槍がぶつかり合う音が聞こえてくる。

ガキンガキンッ

甲高い、鉄同士がぶつかり合うような音が静かな倉庫街に響き渡る。

迫るランサーはその最速のクラスの名に恥じない速度で地を駆け回り、繰り出される槍の冴えは正に流星のようだ。

常人ならばその一刀で心臓を貫かれているであろうランサーの技。しかし、それはチャンピオンの振るう槍で弾かれて決まらない。対するチャンピオンの攻撃もランサーのサーヴァントだと言われれば信じてしまいそうなほどに速く、正確に繰り出され、その攻撃で逆にランサーは追い詰められていく。

「はっ!こりゃなかなかだっ!これは楽しくなって来たなぁっおいっ!」

追い詰められていると言うのにランサーは喜色満面にそう叫んだ。

「流石に槍の英雄。これほどに槍にキレがある相手と斬り結んだ事はありませんっ!」

チャンピオンもそう言ってランサーの技量の高さを評価した。

「それじゃぁピッチを上げていくぜっ!」

「わたしも能力を使わせてもらいますっ!」

「宝具って訳かっ!上等だっ!」

さらに熾烈を極める二人の剣戟。

しかし、チャンピオンがランサーの槍を打ち払えば打ち払うほどランサーの攻撃の精度が落ちていくのが感じられた。

途中で一回、チャンピオンはカートリッジをロードし、この戦いが始まってから3本目のカートリッジを消費する。これで三日分。確かにチャンピオン自身が言っていたように彼の戦闘は消費が激しいようだ。

しかし、それも仕方が無い事なのだ。筋力、敏捷、耐久のパラメーターの低いチャンピオンがどうやってランサーに付いていけているのか。それは魔力でそれらのパラメーターを大幅にアップさせているからだ。

どうやってそんな事をしているのかはわたしは分からないが、それを行使したときのチャンピオンのパラメーターはその全てをAランク相当まで引き揚げている。

そのパラメーターは最優のサーヴァントとして名高いセイバーですらあるかどうかと言った所だろう。

魔力、幸運を含めれば戦闘時のチャンピオンのパラメーターはその全てがAランク以上なのだ。

堪らずランサーは両の足に目いっぱい力を込めると後ろに跳躍し、チャンピオンから距離を取って着地した。

「槍が重い…これがおめぇの宝具の能力か?打ち合えば打ち合うほど相手の武器の重量が増すってか?」

「さて、それを教えるほどわたしは優しくありませんよ」

「そりゃそうだわな。…しかたねぇ、これ以上重くなると流石にマズイ。此方も宝具を使わせてもらうぜ…」

ランサーの持つ槍が周囲の魔力を食い散らかしていく。

それは余りにも禍々しく、恐怖心を煽るには十分だった。

あれを食らったらチャンピオンは死ぬ。だめだ、アレを撃たれては…

わたしの心配する気持ちがラインを通して通じたのかチャンピオンはランサーを見つめたまま力強い言葉でわたしを勇気付けた。

「大丈夫。貴方のサーヴァントはあの程度で負けたりしない」

「ほう、大きく出たな。では食らうか?俺の必殺の一撃をっ!」

ランサーは人間離れした跳躍力を発揮し、空中へと躍り出るとその紅い槍を振りかぶり、真名の開放と共に投げはなった。

「ゲイ・ボルグっ!(突き穿つ死翔の槍)」

渾身の力で振り下ろされた魔槍。その槍は音速の壁を越えチャンピオンへと迫る。

『マルチディフェンサー』

突如として現れた魔力障壁が幾重にもチャンピオンの前に現れて魔槍の着弾を防ごうと現れるが、拮抗すら許さずその全てを一瞬で打ち破り、ついに魔槍はチャンピオンの体を刺し貫いた。

「チャンピオン!?」

轟音が響き、粉塵が巻き上がりわたしの視界を埋め尽くす。

「大丈夫っ!?負けてないよね?チャンピオンっ!?」

わたしは心配になって声を張り上げた。心のどこかで、あんな攻撃を受けたのなら倒されてしまっているのではないかと言う不安がよぎる。

その不安に押しつぶされそうになりながら粉塵が晴れるのをひたすらに待った。

「ちっ…不死属性の宝具持ちかよ…」

粉塵が晴れるより早くランサーの悪態を付く声が聞こえてきた。

着地したランサーはショックの表情を隠しきれない。

粉塵が晴れる。

わたしはすぐにチャンピオンへと視線を走らせる。するとそこには紅い魔槍に胸を貫かれているチャンピオンの姿があった。

しかし、貫通しているのだが、ダメージを負っている気配は無い。

まるであの魔槍が幻影であるかのようだ。

…いや、それは逆なのだろう。チャンピオンの方が幻影のように揺らめいている。

チャンピオンを貫いて地面に刺さっている紅い魔槍(ゲイ・ボルグ)は何かに引っ張られるかのように地面から離れるとクルクルと回りながらランサーの手へと戻っていた。

その時もチャンピオンはその紅い魔槍を透過させていた。

「宝具を使うからにゃ必殺じゃなきゃいけねぇのによぉ…相性最悪だぜ…たく。まさか、現実の干渉を受け付けねぇと来たもんだ」

「にゃはは…昔、不死の伝説を持つ騎士からぶんどった能力なの」

「おめぇが何処の英雄か俄然興味が湧いてきたな。不死の伝説を持っている英雄となればそう多くねぇ。が、女性で槍の使い手となるとさっぱりだ」

さて、仕切りなおしかとチャンピオンはその槍を構えるが、ランサーが突然悪態を付き始める。

「ち、俺のマスターが今日は戻って来いってよ。わりぃがこれで分けって事にしねぇか?」

「そうですね。この決着は次回に持ち越しと言う事で」

「お、話が分かるねぇ。そう言うやつは嫌いじゃねぇ。んじゃ、まぁ…あばよっ!」

とランサーは言うと実態を解いて霊体化し消えていった。

気配が遠ざかるのを感じ取ったチャンピオンはわたしを保護していたシールドを解除し、わたしに寄ってきた。

「それで、あなたは誰なの?」

わたしは憮然とした感じでチャンピオンと名乗った彼女に問い詰めた。

「ゴメン、ちょっとまだうまく馴染んでないからアオさんに変わるね。詳細はアオさんに聞いて」

と言うや否やその女性の輪郭がぼやけると、銀の甲冑に身を包んだ騎士の姿に変わった。

「って、俺に投げっぱなしかよっ!?」

その声は男のもので、わたしが召喚したアオと名乗ったあのチャンピオンだった。

「ねぇ、どういう事なの!きっちり教えてもらうんだからねっ!」

わたしはガァーとまくし立てチャンピオンに迫ったのだった。



さて、困った…ランサーの撃退には成功したのだが…彼の騎士を相手にしたのは俺の中で眠っていたなのはだった。

確かにあのランサーの宝具の特性を考えるに、まつろわぬアーサーから簒奪した権能を有するなのはの方が適任ではあったのは確かなのだが…イリヤに対してどう説明するか…

目の前のイリヤは怒気を含んだような表情で目を吊り上げていて、嘘は許さないと言う感じがひしひしと伝わってくる。

「簡単に言えば、チャンピオンと言うサーヴァントの器の中には複数の魂が込められている。普段表に出ているのは俺だが、さっきのように他の奴が表に出てくる事も可能だ」

「それで?さっきの彼女は?」

「彼女は俺達の中で一番長物の扱いが巧い。相手が槍の英霊とあれば是非とも戦ってみたかったんだろう。…実際、あのランサーの宝具との相性は良かった」

「あのすり抜ける能力の事ね」

「ああ」

なのはのまつろわぬアーサーを倒して簒奪した能力。『虚構の幻像・クリアボディ』は自分の体を他次元に置く事により現実世界の干渉の一切を受け付けなくする。事実上傷つけられない能力だ。

一見無敵のような能力だが、しかし、この能力にも弱点は存在する。
発動には現実世界への干渉をゼロにしなければならず、行使した場所からほとんど移動する事は出来ない(会話や体を動かすくらいは出来る)し、魔法や念能力の継続は不可能である点がある。この能力は現実からの一切の干渉を受け付けないが、発動中は逆に現実世界にほとんど干渉出来ないのだ。

それにこの能力は1か0。つまりクリアボディを一部のみ発動すると言う事は出来ない。これは特にデメリットでは無いように感じるかもしれないが、接近戦では一部の透過が出来ないと言うのはそれはそれで扱い辛いのだ。

それに決して破られないと言うわけではない。その干渉されないという事実に干渉する能力の前では意味を成さない。また、不死属性の具現の為、不死を殺すと言う概念のある攻撃にも弱い。

英霊と言う宝具の前では決して無敵と言う能力ではないのだ。…まぁ、それでもゲイ・ボルグの一撃には優位に働いたのだが。

「と言う事は、あなたの中にはそれぞれに特化した魂がまだ眠っているの?」

「そう言う事になる。…とは言え、習得している技術に差異は余り無い。基本スペックは同じだと思ってくれて構わない」

「ふーん。まあいいわ。チャンピオンが強いって事に変わりは無いんでしょう?」

「さてね。英霊と言うのは化物ばかりだ。油断すれば負けるだろうよ」

「そう?」

全てに納得した訳では無いだろうが、一応は納得したのかイリヤはそれ以上の追及は無かった。

「さて、今日はもう城に帰ろう。一戦やって俺達も消耗しているし、ね」

「しょうがないわね。あ、でもリズとセラを今から呼ばないとだから一時間以上掛かるわ」

郊外にあるアインツベルンの森の奥にある屋敷がこの聖杯戦争における俺達の滞在先になる。

「何、聖杯からのバックアップもある。今ならば空を飛ぶ位どうって事は無いだろうよ」

「え?チャンピオンって飛べるの?」

「もちろん。…これくらい空も曇っていれば人の目に付く事もあるまい。…ソル」

俺はイリヤを抱えるように抱き上げるとソルに命じて飛行魔法を展開する。

『フライヤーフィン』

「わっわわっ!?」

だんだんとその視界がパノラマに広がり、眼下に冬木の街のネオンサインがただの光点になるほどまで上昇する。

「すごいっ!チャンピオンはすごいね。空まで飛べちゃうんだ」

「まあね、空を自在に翔けるのだけは色々な事が出来るようになった今でも一番好きかな」

空を舞い、自在に飛び回る。その快感は飛んだことの無い奴には分からない爽快さと優越感を感じさせる。

人類が如何に空に憧れようと、この今の世界の科学では世紀を幾つか過ぎなければ叶わない事も、その身一つでおこなえる。

風を切る感覚、流れを見切りそれに巧く乗れた時などは本当に楽しい。

とは言え、俺に抱っこされている状況ではイリヤも不満だろう。

俺はイリヤお背に回しておぶり、しっかりと首に抱きつかせる。

「うん?どうしたの、チャンピオン」

「いや、夜だしもう郊外だ。この辺りは林道で車も余り通らなそうだから大丈夫かなと思って」

「何が?」

「しっかり掴まってて」

そう言うと俺は体にぐっと力を入れるとその体を変化させた。

首は伸び背中からはコウモリを思わせる羽が生え、その手は鍵爪へと変化する。

「え、ええ!?ちゃ…チャンピオン!?」

俺の背中で余りの事に驚愕しているであろうイリヤの声が聞こえる。

「…ドラゴン」

囁くイリヤが言ったように俺の体は銀色のドラゴンへと変わっている。

「最強の幻想種…」

「うん?」

「ドラゴンは幻想種の中で最強だって言ったの。何処の国でも現代では知らぬものなど居ない神代の獣…その知名度はピカイチよ。その補正はきちんと有るはずだわ」

「そう言えば、身が軽いような気がするね」

「今の状態だと全てのパラメーターが1ランク上昇しているわ。…すごい、本当にチャンピオンてすごいね!」

「喜んでもらえて何よりだが、喜んで欲しかったのは空の旅なんだけどね」

「あら、そっちもきちんと楽しんでいるわ。城までのエスコートはお願いね、チャンピオン」

「仰せのとおりに。お嬢様」

夜の空を悠然と飛行してアインツベルンの森へと移動する。

森に入ると高度を落として着陸の態勢へと移行した。

「チャンピオン?」

その行動をイリヤはいぶかしむ。そのまま城まで飛んでいけば良いじゃないと言いたげだった。

が、しかし俺はそこで再び体を変化させる。

龍鱗に覆われた体躯は産毛が覆い、そのコウモリのような羽には羽根に変わる。顔はトカゲのようなものからその鋭さは変わらないが、嘴のようなものに変わり、前足は鳥類、後ろ足は獅子のそれに変わった。

ざざーっと木の葉を上を滑りながら地面に着地し、そのまま前へと蹴りだす。

「今度はグリフォンねっ!」

当然魔術師の常識外の事であろうが、イリヤはすでにそう言うものと順応したようだ。

イリヤを背に乗せて森の中を疾駆する。

「はやい、はやいっ!」

視線が低く、流れる木々が速く感じられ、実際は空を飛んでいた時よりもスピードは落ちているのだが、その体感速度は倍以上だ。

森を駆け抜け中世の城を思わせる石造りの建物が見えてくる。

「とうちゃーくっ!」

「チャンピオン交通ご利用ありがとうございます。目的地に到着いたしました。足元にお気をつけてお降りください。本日はご利用まことにありがとうございました」

「あははっ。うん、またお願いね、チャンピオン」

身をかがめ伏せのポーズでイリヤを降ろすと人間の姿へと戻る。

「さ、入ろう。リズとセラが待っている」

「うんっ!」

イリヤの手を引いて格調の高いアインツベルンの居城へと歩を進めた。



夢を見ている。

なぜこれが夢かと分かるかといえば、それが余りにもわたしの育った環境と違いすぎるからだ。

わたしが知っているのはあの雪に閉じ込められた城の中だけ。

だからこれは夢だ。

その夢では一人の子供が木の棒を持ち一生懸命何かに励んでいた。

手に持った棒をおとぎ話の魔法使いの杖のように振るうとバチバチと雷のような物が出てくるのだからやはりそれは杖なのだろう。

子供は何が楽しいのか、一日中魔術を使いへとへとになるまで練習していた。

しかし、その子供は納得がいくものではないのか何かを探しているようだ。

そして見つけたのは金と銀の宝石が二つ。

それを本当に嬉しそうに手に取ったその子供はさらに魔術の練習へと傾向していく。

彼は、まだ自分の目標とそぐわないのか、その二つの宝石を持って初老の男性を訪ねていった。

エルフ…

それは幻想種の中でも有名な亜人。もちろん現代には存在しているはずの無い人種だ。

そのエルフの男性に何かをお願いしたのか、お願いされたのか。いや、何かを作ってもらうようにお願いしたようだった。子供はそれからしばらくそのエルフの男性の家へと通う事になる。

それから二年。ようやくその何かが作り上げられた。

それは見た目は変わらない金と銀の二つの宝石。しかし、それが突如として武器へと変わった。形的には斧だろうか。

それを少年は本当に嬉しそうに受け取ったのが印象的だった。

しかし、不幸は直ぐそこまで迫っていた。

突如トロールが彼の住む街を襲ったのだ。

彼は大きなトロール相手に訓練した魔術で攻撃し、何とか一体を倒しえた。しかし、ショックが大きかったのか吐露に苦しんでいたが…

その襲撃で彼は両親を失ったらしい。それでも彼は毅然と彼らの死を受け入れていた。

彼が立ち直れたのは同じく両親を失った女の子を引き取ったからだろう。引き取れるだけの財産があったこ事も彼の幸運な所だ。

エルフの男性に付き合わされるいろいろな惨事も彼に落ち込む暇を与えなかった。

変身薬を誤って飲んでしまった時には本当に焦ったようだった。

グリフォンや光り輝く銀色のドラゴンへと変身する彼は本当に慌てていて少し面白い。


時が過ぎ、青年になった彼は何かを焦っていた。

何か途轍もない漠然とした不安だけがわたしにも伝わってくる。

彼は行く予定の無かった学院へと入学し、何かを監視している。監視しているのは強い力を持っていると言う魔術師とそれとは正反対に無能と言われている少女だ。

その二人の接触を彼は心の底から憂慮していた。

そして、わたしには分からないが、彼にとって都合の悪い事が度重なって起こったのだろう。何度が彼が介入し、裏から何かをしていた。しかし、彼が何かをしようが、事態は彼が考える中でも悪い方へと流れていく。

戦争が起こったのだ。

いや、戦争が起こるのはその彼も分かっていた。

しかし、その勝敗が彼の思惑とは正反対だっただけ。

戦争に負け、貴族だった彼はその地位を奪われる。

しかし、別段彼にとって貴族の地位などどうでも良かったのだ。次男であり、嫡男で無かった彼は彼の領民を心配する権利すらない。嫡男である彼の兄は優秀で、良い領主になるだろうと思っていたからだ。自分は家を出て、城勤めの騎士か、それこそ農園でも運営するかと思っていたのだから。

その思惑も戦争に負けたことで無くなってしまったが、だからと言って彼には国を取り戻すと言う気は無いらしい。

その世界は支配階級である貴族と、支配される側である平民の力の差が明らかな世界だった。

魔術が容認され、その魔術が使えるのは貴族だけ。つまり、平民が束になった所で貴族には叶わない。

そんな中で支配者層である彼ら貴族が国を憂慮した所で平民である彼らの民意は集められない。平民にしてみたら支配者なんて誰でも変わらないのだから。

貴族である監視対象の人物達に国を取り戻す手伝いをして欲しいと言われても彼には『飴を取り上げられた子供が駄々をこねている』としか感じられなかったのだろう。その申し出をすげも無く断った。

しかし、聞き入れないのなら力で従わせると言う暴挙に彼らは出た。それが彼をさらに拒絶させると知らないで。

強大な魔術師との戦いは、辛くも彼の勝利に終わった。襲ってきた人と彼との地力の差は相手の方が圧倒的に優位だったが、戦力の差は彼を勝利へと導いた。

しかし、その後彼は黒い空間に捕まってしまい、世界からはじき出されたようだった。


景色が霞み始める。そろそろ夢から覚めるのだろう。







ベッドの上で上半身を持ち上げたわたしは今朝見た夢を反芻する。

「あれは…チャンピオンの過去…だよね?」

あの夢に出てきた銀色のドラゴンは見間違えようが無い。

契約を交わしたサーヴァントの過去を夢に見ることがマスターには有るらしい。

しかし、その姿が今のものと全然違っていたから確証が持てない。

「それに…」

ドラゴンやグリフォン、その他の幻想種と言われる猛獣が当然のように跋扈していた。あれでは神代の時代ではないか。

あれがもし彼の生前の事を夢で見ていたのだとしても、確かに彼を英雄にまで上り詰めるだけの物語は存在していない。

「やめやめ!考えたって仕方の無いことよね」

それに聖杯戦争が始まる夜までは冬木の街に遊びに行きたいしね。

ベッドから起きるとリズのドレスを着せてもらうとセラが朝食を持ってくる。他人から見れば豪華だと言われるそれもわたしにしてみればいつも食べている普通の事。

特に美味しいとは感じずに胃に納めると食後の紅茶と一緒に可愛い色をしたマカロン・ムーが一つちょこんと添えられていた。

「セラ、このマカロン・ムーは?」

どうしたの、と問えばセラは表情をしかめて押し黙り、代わりに返ってきたリズによる返事は予想外のものだった。

「チャンピオンが作った。とても美味しい。イリヤもきっと気に入る」

「え?チャンピオンが作ったの?」

「はい…お嬢様の口に合えばよろしいのですが…」

不承不承とセラも肯定した。

「その心配は無い。セラは美味しいっておかわりを要求してた」

「こらリズっ!」

頬を赤らめリズを諌めるセラだが、リズには効果が無い。

「へぇ…」

そう呟くとわたしはその可愛らしいマカロンを口にした。

「美味しい…」

それは今まで食べたどのマカロンよりも美味しかった。このマカロンに使われた素材がお金で手に入る最高の素材を集めても再現できないのではないかと言うほどの深い味わいと甘さ。気づいたときには無くなってしまっていた。

って、問題はそこじゃなくてっ!いや、これが美味しいと言うのは本当だけど、そうじゃないっ!

「これ、本当にチャンピオンが作ったの?」

「はい」

セラがわたしに嘘を吐く理由が無い。

「本当はシュークリームを作ってた。カスタードクリームを作るときに余った卵白でマカロンを作っただけ」

「シュークリームまで!?」

リズの言葉でさらに混乱。だって、なんであれだけの戦闘技術を持っているサーヴァントであるチャンピオンが洋菓子を作れるなんて思わないじゃないっ!

「良く分からないサーヴァントだってのは分かってたけど…更に訳が分からなくなったわ」

あの夢が神代のものなら、彼はその時代に生きた人のはず。だと言うのに近代になって発明されたお菓子を作れるのは異常だわ。

…はぁ。とりあえず考えるのは後回し。今は、はしたないけれどシュークリームをもらいにチャンピオンの所まで行こうかしら。…だって、これだけマカロンが美味しいんだもの。シュークリームを食べないと言う選択肢はわたしには無いわ。

わたしは朝食の片付けをするリズとセラを措いてチャンピオンのいる厨房へと移動するのだった。
 
 

 
後書き
英霊が平行世界の記憶を持っているわけが無いという設定的矛盾を最初から出してしまいましたね。でもまぁ、二次小説だしアリと言う事でお願いします…
タイプムーンさまの設定準拠ですと、アオ達の能力の殆どが修正力により不可能になってしまいますので、その辺は余り深く考えないようにしてくださると助かります。以降もタイプムーンさまの設定準拠ではありえない展開が多々有ると思いますが、ご了承していただけますよう。

少しアオ達の強化が過ぎたようでお蔵入りさせようかとも悩んだのですが…まぁ、騎乗とか単独行動とか陣地作成なんてスキルなんて有っても無くても変わらないだろうし、いいかなぁと…抗魔力や道具作成、気配遮断なんかは生前から高そうなのでそのままという感じですかね。

最後に、一応これをやっておかないとですかね。


CLASS    チャンピオン

マスター  イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

真名    アオ (ファミリーネームは固定されない)

性別    男性

属性    中立・善

筋力 D  魔力 A
耐久 D  幸運 A
敏捷 D  宝具 -

クラス別能力

なし

保有スキル

『技能継続A+』 

前世で覚えた技術を失わない。これを保持しているためにこの世界でもアオ達は難なく全ての能力を再現できている。

『技術習得A』

オンリーワンの技術でないのなら取得、習得するチャンスが与えられる。

今回の場合ではサーヴァントのクラススキルの取得。しかしなぜか狂化は失われている。

『直感A』

カンピオーネとしての能力。高確率で戦闘においての打開策をひらめく。

『写輪眼』

この世界に置いてはランク不明の魔眼。あらゆる忍術、体術を見抜くと言うが…

『万華鏡写輪眼』

詳細不明








こんな所ですかね。アオ以外も基本ステータスは殆ど変わりません。

筋力、敏捷、耐久が低いのはクラスによるマイナス補正です。…まぁアオ達にしてみればどうって事は無いのでしょうが、その分燃費が悪いのが珠に傷ですね。 
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