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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百五十三話 ヴァンフリート星域会戦 その2

 
前書き
お待たせしました、一ヶ月ぶりの投稿です。

現在腸の調子が悪く、通院しており、中々更新できずにいます。

 

 
宇宙暦794年 帝国暦485年 3月21日~28日

■自由惑星同盟領 ヴァンフリート星域 

ヴァンフリート星域では、帝国軍と同盟軍のダラダラとした戦いが続いていた。そんな戦闘の中、銀河帝国軍総旗艦ヴィルヘルミナに航路参謀として配属されていた、ラインハルト・フォン・シェーンバルト大佐はダラダラと締まりのない戦闘をイライラと見つめていた。

たかだか航海科の一参謀でしかないラインハルトの立ち位置は宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・エッシェンバッハ元帥から見て遙か下のフロアーに立っているしかなく、戦況に何の助言も期待されていないという位置とも言えた。

それだけならば、幼年学校以来、散々無視されてきた事が有る為、エッシェンバッハ以下の司令部要員を腹の中で罵るだけですんだので有るが、今回はそれ以上に彼を苛つかせる存在がすぐ前に存在していたのだ。

「うむ、流石元帥閣下は大胆な用兵を為さるな。そうではないかな大佐?」
ラインハルトの今回の上司である、主席航海参謀ノルデン少将が、戦闘開始以来散々に問いかけてくるのだ。
「はい、元帥閣下の御深謀には唯々驚くばかりです」

「そうだろう、此ならば、叛乱軍を完膚無く叩きつぶせよう」
「その様です」
「いやー、久々の出征で有ったが、オーディンでの戦勝祝賀が楽しみだな」

ラインハルトとしては此処で、ノルデンを無能者めと罵る事も出来ず、溜まるストレスを発散するにも、彼の友であり、忠実な家臣であり、彼の野望の共犯者であるジークフリード・フォン・キルヒアイス大佐は総参謀長グライフス大将の傍らで控えている為、煮えたぎる苛立ちを腹の中に留めながら対応していた。

その頃、総参謀長グライフス大将の傍らでエッシェンバッハ元帥が発する命令を復唱し他の参謀達へ伝える役目を仰せつかったキルヒアイスはノルデン少将のKYな言動に苛つきを見せ始めているラインハルトを見て、ハラハラとしていた。

何故、ラインハルトと共にノルデン少将下に配属されていた、キルヒアイスが配属先を離れているのかと言えば、表向きの理由としては、作戦参謀の一人が急性盲腸炎になった為、代理としてキルヒアイスに白羽の矢が立った事に成ってはいるが、実際には出征前にエッシェンバッハ元帥に皇帝陛下自ら、ラインハルトとキルヒアイスを引き離し、ラインハルトに“我慢を教えよ”と命じたからである。

しかし、実際の所は、テレーゼによるキルヒアイスをラインハルトから引き離して、普段間近で見ているが故に視野狭窄に陥っているキルヒアイスにラインハルトの危うさ、幼さを感じさせ、君臣の間に亀裂を入れようとした事が大きな理由となっていた。

実際、休憩の度にキルヒアイスを呼び出し、散々ノルデン少将やエッシェンバッハ元帥に対する苛立ちを話していた。“キルヒアイス、キルヒアイス、俺を賞めてくれ、この数ヶ月で俺はよく我慢している!一生の忍耐力を此処で使い果たしてしまいそうだ!”とか“俺ならこんな戦闘は直ぐにでも帝国軍の大勝利に出来る”や“エッシェンバッハは用兵を知らぬ阿呆だ”などの言動を度々吐き捨てていた。

その度に、キルヒアイスはラインハルトを宥めていたが、長々とした愚痴を聞き終わり、渋い顔をしていると“そんなに苦労性だと自慢の赤毛が白くなるぞ”などとからかわれる始末であった。

休憩という名の主君の愚痴を聞く事が終わりそれぞれの持ち場へ戻る際、キルヒアイスはラインハルトに気づかれぬ様に溜息をついていたのである。そして溜息をつきながら“誰のせいで苦労性になったと思っているんですかと”言いたいのを我慢して、ラインハルトを見送ると、“アンネローゼ様、ジークは頑張っていますが挫けそうです”と呟いていた。

この様な事が続いてキルヒアイスの精神的な疲労はラインハルトのそれを大きく上回っていた。



3月24日になると、そんなキルヒアイスの苦労を無視する形で、決定打に欠けた同盟軍、帝国軍ともに、互いの兵力配置をわきまえぬまま、戦力から大きな部分を割いて机上の空論の尤もたる所以の繞回進撃を始めてしまっていた。確かに繞回進撃が成功すれば、第二次ティアマト会戦時のブルース・アッシュビーのように敵軍を完膚無きまでに撃破出来るのであるが、如何せん帝国軍は地理不案内であり、同盟軍としても通信も繋がりにくく司令部と各艦隊との連絡も取れない事が多いヴァンフリート星域で繞回進撃を行う事自体が無謀と言えた。

その最中でも相変わらずラインハルトはノルデンの側を離れられない状態で彼のトンチンカンな話を聞かねば成らず、益々イライラが募り暴発しそうな自分を抑えるのであったが、端から見れば口を歪ませ唇を噛んで今にも爆発しそうな雰囲気がヒシヒシと感じられた。

エッシェンバッハは元より、艦橋にいる誰もがラインハルトの苛つきを感じてはいたが、そこはKYノルデン少将である、全く気が付いた感じもなくラインハルトを更に苛つかせる言動を連続させていた。

ラインハルトとノルデンの応対を見て、それをネタに司令官室で休憩中のエッシェンバッハの元へ行き酒を飲みながら大笑いしていたのは、装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将であった。

幾度となく敵を探しボケ老人のように星系内を徘徊し、遙か前方を通過する敵艦隊を放置しながら敵の後背を突こうとグダグダな艦隊運動をする。此だけでもラインハルトの苛つきはMaxに達していたが、まさか此が最低限度の損害で叛乱軍を叩き潰す為の作戦だと知ればどの様な事に成ったであろうか。

全ての元凶はテレーゼが原作知識を元にして同盟軍宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥とお気に入りの作戦参謀アンドリュー・フォーク中佐の癖を加味した原案による非常に嫌らしい作戦であった。

この時、両軍の司令官の考えは全く違っており、エッシェンバッハは繞回進撃を別働隊のケスラー艦隊がヴァンフリート4=2後方基地を占拠するまで、叛乱軍を引きずり回しす手段として取っていたのに対し、ロボスはフォークの言った“第二次ティアマト会戦以上のパーフェクトゲームを行う”事を目的にしていた訳であった。

つまりは、完全に両軍の戦略的目的が乖離しており、同盟は帝国軍の撃破に心血を注ぎ、ヴァンフリート4=2後方基地を完全に思慮の範囲から外していたのに対し、帝国は端っから後方基地占拠が第一目標で有り、その後に艦隊決戦を行う気であった。。

結果的に、テレーゼの思惑通り、最初の気の入らない戦闘以来、繞回進撃に伴う追いかけっこが二週間に渡って続く事になり、損害が増えない代わりに戦果も無い状態が続いた。その結果、ラインハルトの苛つきは益し、それに伴いキルヒアイスの胃と毛根に過分のダメージを与える事に成った。









宇宙暦794年 帝国暦485年 3月27日

■自由惑星同盟ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地

「戦況はどうなって居るのか!」
「はっ、一進一退を続けているとの連絡が入っております」
「それ以外に総司令部から何か言ってこないのか!」

指揮官らしき四十代半ばの男が通信オペレーターらしき男にがなりたてる。
「電波状態が良くなくそれ以上のことは不明であります」
オペレーターは指揮官のイライラから来る言動を内心“ケッ”と思いながらも抑揚のない話し方で報告を上げる。

その答えを聞いて更にウロウロとし始め独り言を言い始める指揮官を見て多くの司令室にいる者達が指揮官への不安を募らせる。

「セレブレッゼ閣下、其処までご心配為さらなくても良いと思いますが」
司令室の空気の悪さを感じ取った副官のサンバーグ少佐が話しかける。
「少佐、貴官の意見を聞いている訳ではない!」

サンバーク少佐が少しでも重苦しい司令室の空気を和らげようとしたにも係わらず、セレブレッゼ中将はけんもほろろの態度で拒絶し、折角の配慮も台無しになる。

「戦況はどうなるんだ。態々ヴァンフリートまで帝国軍が来るなど今まで無かったのにだ」
セレブレッゼ中将は独り言にしては大きすぎる声でブツブツと呟きながら、司令室をウロウロとして、司令官室の者達の不安を更に増大させ、やる気を失わせる事に成っているのだが、戦闘指揮経験の殆ど無いセレブレッゼ中将にその事が判る訳がなかった。




ヴァンフリート4=2には原作通りにローゼンリッターが配属されていた。彼等はヴァンフリート星域会戦を知っていたが、基地戦闘までは無いと第12代ローゼンリッター連隊長オットー・フランク・フォン・ヴァーンシャッフェ大佐が考えていた為に臨戦態勢には成っていなかったが、戦に関しては素晴らしい嗅覚の副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ中佐は連隊長の言動を危うんでいた。





宇宙暦794年 帝国暦485年 3月30日 23時10分

■自由惑星同盟ヴァンフリート第4惑星至近 ケスラー艦隊旗艦エリュテイア

漆黒の宇宙を15000隻にも及ぶ艦隊がヴァンフリート第4惑星へ銀河基準面に対し天底方向から急速に接近していく、此は繞回進撃中の各艦隊に見とがめられない為であり、ヴァンフリート4=2後方基地が南半球に有る事を加味した結果であった。

「提督、ヴァンフリート4=2まであと1時間です」
参謀長のメックリンガー少将が椅子に座りヴァンフリート第4惑星をスクリーンで見ていたケスラー中将に伝える。
「そうか、よし、参謀長総員戦闘配置に付け」

「はっ」
「総員戦闘配置」
ケスラーの命令をテキパキとベルゲングリューンやビューローなどの参謀達が分艦隊に伝えていく。

「提督、ローゼンリッターが抵抗せずに降伏してくれればいいのですがね」
装甲擲弾兵を率いるランズベルク伯がケスラーに言いながらスクリーンを凝視している。「そうですな」

「一度亡命した手前も有りますが、ローゼンリッター連隊に所属している以上、捕虜になれば裏切り者として嬲り殺されると思っているでしょうから」
メックリンガーが難しいのでは無いかと思案げに話す。

「自滅や玉砕だけは止めて欲しい物です。寝覚めが悪くなりますからね」
「何とも言えない事だな」
「全くです」
 
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