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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross storys~
  episode of cross:進退

朝陽が昇った。

目を焼く光の群に軽い唸り声を上げながら、ゲツガは起床した。

視界端に浮かぶデジタルクロックを見ると、もう午前八時になっていた。

寝ぼけてボーっとする頭でそれをたっぷり数秒間見つめた後で───

「やべ!」

慌てて跳ね起きた。即座に辺りを見回し、警戒する。幸いなことに徘徊するフロアボスの異形の影は見当たらない。見張りは何をしてたんだ交代制のはずなのに、と横を見ると爆睡しているセモンがいた。

「ってうぉい!!何寝ちゃってくれてんのセモンさん!?」

「…………ん?おぉ、寝てた」

「そんなライトな反応!!?」

そんなテンポの良いやり取りをしていたら、同じく船を漕いでいたホーク達が起き出してきた。目を擦りながらもゆっくりと辺りを見回して、覚醒してきた頭で事態の一抹がわかったようだった。

苦笑しながらも、起き出して食材を実体化させるためにそれぞれのメニューウインドウを開く。直後、光を放って次々に現れる様々な食材 と調理器具を前に、火を起こす。

幸い足元には、燃え広がると言う不幸なイベントが発生しにくい砂利の河原だ。何の気兼ねもなく焚き火を起こせる。

ホークが取り出して渡してきた火打石を数回打ち合わせて、火花を起こす。たちまちできた焚き火の周りに思い思いの食材をあぶらせた。ちなみにゲツガは、いつ獲った物とも知れない正体不明の生肉だ。

現実世界では賞味期限とか色んなことを心配するだろうが、幸いながらもこの世界ではそんなものは一切存在しない。食べ物は腐ることはないし、反対にワインを何年も置いといても美味くなることはない。

そんな食材たちが唯一食べられなくなることは、賞味期限の代わりに設定された耐久度が尽きた時だ。

鎧などの装備品の耐久度はかなり高いのだが、食材の耐久度は軒並み低いと言うのが定説だ。

普通は、耐久度が高い食材ほど、味がイマイチだったりするのだ。ホント、世の中は厳しい。だが、それでも滅多に出ないS級食材はどちらの値も高いと言うのだから、本当に厳しい。

まぁそれでも食べられないほど不味い事もないだろう、とゲツガはそんな軽い気持ちで、くしに刺して焼けた正体不明の肉にかぶりついた。

ついてしまった。

「~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッッッッ!!!!!」

ゥヴェッホ、ゲェェエッホ、と半人外の咳を上げるゲツガに、にわかに全員の視線が集まる。

酸っぱかった。そりゃもう、メチャクチャに酸っぱかった。

───ちょ、待てコレ。ぜってぇ腐ってんだろ!!

慌てて口の中に残った肉片を出すが、口の中には酸っぱい味がしつこく残っている。

数回咳き込むが、全く消えない。それどころか、いっそう強く味が感じられてくるような気がする。

げぇ、と最悪の気分で湖の水で口の中をゆすいでいると

「ほれ」

何かが顔の横から突き出された。見ると、素朴なパンのようだった。

鼻の奥に焼いたパンの香ばしい香りが、爽やかに入ってくる。空きっ腹が本能にあっさり反旗を翻して、ぎゅるる~っ、と鳴いた。

振り向くと、自分の分のパンを口いっぱいに詰め込んだシキがいた。

「食うか?」

「お、おぉ。サンキュ」

受け取って、口に頬張る。

香ばしい香りとともに、サクサクとした心地の良い食感が口の中に広がった。パンの素朴な味の中に、ごってりとしたクリームの味が何とも奥ゆかしい味わいを醸し出している。

「うめぇ……!」

「だろ?携帯食では俺のお気に入りだ。それより来いよ。ホークが作戦会議を始めたいってさ」

「わかった」

その食感を楽しみつつ、ゲツガは立ち上がった。










「へぇ………、来れたのかァ」

へばりついたような笑みを浮かべながら、《ヒト》はそう言った。

漆黒の翼で空中に浮かびながら、そう言った。

地上から四十メートル辺りに浮かびながら、そう言った。

前方、眼下に並ぶ五人の影たちを見下しながら、そう言った。

アインクラッド第二十層主街区《サンカレア》の町並み。のどかな農家が立ち並ぶそこは、今や禍々しい魔力が渦を巻き、一種異様な気配が立ち昇っているような気がする。

昨日にレーザーで砕かれた瓦屋根の家は、いまだ砕かれたままだ。ぽっかりと穴が穿たれたままの屋根が、痛々しく残っている。

男にも、女にも、聖人にも、囚人にも、人間にも、機械にも見える《ヒト》は嗤った。それに負けないくらいに笑い、最初に口を開いたのはセモンだった。

「はぁ?お前あれで俺たちを止めれると思ってたのか?」

次に口を開いたのは、ゲツガ。

「おいおい、どんだけ俺らを知らねぇんだよ。あいつバカか?」

「……………………………」

ピキッ、とこめかみの辺りをひくつかせるソレの前で、今度はシキ。

「なら仕方がないなぁ。脳みそがない奴には、何言っても無駄だろう」

次はレン。

「そもそもあいつ、言葉が分かってるの?意思疎通ができてないような気がするんだけどね」

最後にホーク。

「まぁ、どっちでもいい。要するにあのちっこくて弱そうなのをブッ飛ばせば終わりなんだからよ」

ブチッ、と何かが切れたような、絶対に切れてはいけないものが切れたような音がした。砕けんばかりに噛み締められた歯。その奥から軋るような声が漏れた。

コロス、と。

瞬間、ソレの周囲にあの即死級レーザーの光球が数十個出現した。即座に直径だけでも人の身長くらいあるレーザーがいくつも放たれる。

厄介なことに、時間差を開けてある。

全員が、全力でその場から離脱しながら、互いの顔を見合わせてニヤリ、と笑った。

まず、作戦の第一段階は成功だ。ホークの顔を見ると、彼の顔もほころんでいる。

───あいつとはそんなに顔を見合わせていないが、それでも勘でわかる。あいつはキレやすい。しかも、悪いほうの意味でだ。キレてパワーが増すんだったらともかく、あいつは多分切れたら冷静さを欠くタイプ。エンカウントしたら、とにかくあいつをキレさせて冷静さを欠かせろ!───

脳裏に浮かんでくる、作戦会議で言い渡されたホークの言葉。

結果的に言えば、結構即死の危機に瀕したが、何事も作戦通り、思い通りにことが運ぶと言うのは予想以上に小気味が良い。

全員の顔に、思わず笑顔が浮かぶ。それが逆に、《ヒト》の癇に障る。

いや、障るどころじゃない。思いっきりアタックしている。

「クッソがァァァァ!!ヘラヘラすんじゃねェ!お前ら今からどこに出しても自慢できるよォな、立派な肉塊オブジェに変えてやんよォオオッ!!!」

耳障りな怒声。

ソレの怒りが辺りを侵食しているかのように、辺りの空気が陽炎のようにゆらりと歪む。近くの民家が、轟音とともに粉々になる。

流星群のように降り注いでくる瓦礫達を巧みに避けつつ、ホークが叫ぶ。

「チッ!このままじゃ狙い撃ちだ。散るぞ!作戦通りに、フォーメーションAで行く!!」

「「「「ラジャー!!」」」」

バッ、と音とともに五つの影が、それぞれ思い通りの方向に散り散りに散る。

次の瞬間、数瞬前まで全員がいた地面が轟音とともに爆ぜた。

石が敷き詰められた舗装道路は簡単に爆発し、散弾のような石の欠片が撒き散らされて周囲の壁に弾痕を残す。

全員の脳裏に蘇る、ホークの言葉。

───まず、キレたあいつは散り散りになった俺達を片っ端から始末しようとするだろう。目に付いた奴から片っ端、な───

ダガン!という音とともにソレの足元から、真っ白なコートの端をはためかせながら弾丸のように一人の影が飛び出した。

白い弾丸(ホワイトバレット)》の異名を冠せられる、ゲツガだ。

───そこで必要なのは、三次元的な動きができるあの厄介な翼を斬り落として、地面に引き摺り下ろすことだ。それができるのは、一番推進力とパワーに長けた───

「がっあぁ、あああぁあぁぁぁああああッッッ!!!」

腹の底から出たようなゲツガの雄叫びは、百分の数秒ほどの間、《ヒト》の動揺を誘って動きを止めた。それは、たったコンマ何秒かの時間。一瞬にして、戦闘の中では長すぎる刹那。

「なにっ!!」

見開かれる両眼。

ソレが、獲物を狩る狩人の目から、命懸けの戦闘を行う決闘者の眼になる前にゲツガの周囲の空間が、音もなく歪んだ。

そこをそっくりそのままゲツガの左手がなぞるように、円を描くように回される。すると、そこからヴン、ヴンと虫がさえずるような音が断続的に響き渡り、刀身の長さも、デザインもまるで統一性がない数十本の刀剣が出現した。

「あれが………ゲツガの言ってた…《錬金術》」

地上で空を見上げたセモンが思わず呟いた。

数十メートル上空では、現れたそれらの剣の一本をゲツガが握り締めるところだった。

右手に持ったままの愛剣を大上段から振り下ろし、ソレの体が揺れる。

さらに現れた剣の一本を居合いのごとく抜ききって、更なる追撃を放つ。

「…………ッ!!クッソがァァア!!!」

叫び、十メートルはあろうかと言う漆黒の巨翼が、さながらギロチンの刃のように迫ってくる。暗闇色の羽根の一枚一枚が下手な鈍らの刃よりも鋭そうだった。

地上だったら、ゲツガはその攻撃を簡単に避けることができただろう。しかし、足場のない空中ではゲツガは自由に身動きはできない。

彼の二つ名《白い弾丸(ホワイトバレット)》の由来、爆発的な推進力もしっかりとした足場があってこそ機能するのだ。ソレの口元に、堪えきれない嗜虐の笑みが浮かぶ。

だが───

「な…………」

ゲツガはそこから、跳んだ。

足場はある。出現した刀剣達が空中で折り重なって、即席の地面が作り上げられていた。多少危険で不安定だが、足場には充分だった。

翼に神経を集中し、胴体への防御がおろそかになっていた《ヒト》は静止をかけることもできずに、もろに吹き飛ばされた。

そこに農家の家々の隙間から、一つの影が跳躍した。

学ランのような服装。シキだ。

手に持った白銀の閃光を放つダガーが、空中に複雑な軌跡を描き出した。

その軌跡が空中でソレと交錯する。すると、制動をかけようとして左右に大きく開かれていた漆黒の両翼が、ザフッという砂が崩れるような音とともに砕け散った。激しく歪む表情とともに、もはやブレーキのなくなった《ヒト》は家々の間の石畳の道路の上に、音を立てて落下した。

轟音とともに立ち昇る土埃と、陥没してできたクレーター。

その中心からゆらりと立ち上がる、異形と化した影。めり、めり、という音が響き、消えた翼が生えていた付け根の所から、さながら千手観音のように次々と細い手が生えてくる。

その色は様々。黒人のように真っ黒な腕から、白人のように真っ白な肌の腕もある。中には、水死体のごとく紫に変色した腕すらもある。

「……ゴロ………ズ」

ジュウ!とソレの踏みしめた地面が、強酸でもぶっ掛けられたかのように白煙を上げる。周囲の壁が強大な重力を浴びたかのごとくピシリ、とヒビが入った。血のように真紅の舌がべろりと唇の隙間から出て、さも美味そうに舌なめずりをした。

にいいぃぃっ、と。焼け爛れたような嗤いが口元に浮かぶ。

それの口が動き、言葉を響かせた。

コロス、と。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「あぁ~、もう最終決戦いっちゃったのぉ~?もちっとねばれよー」
なべさん「その本音とかいて本心は?」
レン「もっと楽したい。休暇万歳」
なべさん「お前後で体育館裏来い」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね♪」
──To be continued── 
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