| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

恋姫~如水伝~

作者:ツカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

十二話


曹操が軍を発して三日目

行軍の先鋒を務める如水の部隊の前方に謎の一軍が視界に入った。
「隊長、一体何者でしょうか、黄巾党とは思えませんが」
凪が如水の意見を求めた
「わからないな、官軍の旗でもなく、華琳に聞いた諸侯の旗のどれとも一致しない。軍の武具を見る限り義勇軍だと思うのだが。真桜、すまないが素性を聞いてきて貰えるか、危険は無いと思うが気をつけてくれ」
「わかったで先生、じゃあ行って来るわ」
「沙和は華琳の所に報せに行ってくれ、状況によっては私の手に余るかもしれん」
「わかったの、すぐ華琳様に伝えてくるの」
「凪、念の為、戦闘の用意をしておいてくれ」
「了解しました」
三人にそれぞれ指示を与え、如水は様子を見た。そこに真桜が帰って来た
「先生、あの人達は義勇軍らしいで、何でもこの先の砦にいる黄巾党を倒しに行くんやって。華琳様の名前を出したら是非会いたい言うて来たわ」
「そうか、今、華琳を呼んでいる所だ。とりあえず私が会おう。お通ししてくれ」
真桜の言葉を聞き、義勇軍の将と会おうと如水は席を用意した

真桜の案内で入って来たのは三人の女性だった。
「お初にお目に掛かります。私は曹操軍にて将を務めます、黒田孝高と申す者です。どうぞ席にかけて下さい」
如水の挨拶に答えるように席に着き三人の女性はそれぞれ名乗った
「私の名前は劉備、字は玄徳と言います、この二人は私の仲間の関羽と諸葛亮の二人です」
「失礼ながら、我が軍へ如何なる用向きか聞かせて貰って構わないでしょうか」
その事を聞くと三人は気まずそうな顔を浮かべ
「その事は曹操殿にお会いしてから話したいのですが」
「左様でしたか、これはご無礼を、どうかご容赦下さい。ただいま我が主君の曹孟徳を呼んでおりますので、暫しお待ち下さい」
話を打ち切るようにした劉備に対し、如水は詫びた
しばらくして沙和が華琳を呼んで来たと聞き、華琳を席に案内した
「待たせて申し訳ないわね、私が曹孟徳よこちらは、旬彧。黒田を含め二人の陪席を許してくれるかしら」
「構いません、まずは挨拶から」
それぞれが名を紹介すると華琳は劉備に聞いた
「では、聞くけど。我が軍に何の用向きかしら」
「はい、実は…」
聞くところによると劉備らは黄巾党討伐の為に義勇軍を起こしたが、戦闘を重ねるにつれ糧食や武具の不足が出てきた。その為、曹操に物資を分けて欲しいとの事だった。
その事を華琳の傍らで聞いていた如水は、顔では穏やかに笑っていたが内心は複雑だった。劉備のしようとしている事は確かに正しいが結果、無計画に軍を動かし士卒を餓えさせた事の罪。そして兵を餓えさせた事は恥じているが、その罪については気づいていない事。それは軍を預かる者として失格だと思った。
しかし、感心する点もあった。それだけ餓えていながら略奪を働いていない事。そして劉備の軍が餓えていながら軍としての形を残している事。この二つに関しては、劉備の人望もあるのだろうと思い。徳と言う点ではおそらく華琳は劉備に及ばないだろうとも思った。
「わかったわ。要望に答えましょう、少し席を外させて貰うわ。食糧の残りを確認するわ。桂花、如水ついて来て」

華琳らは席を立ち、糧食の担当していた桂花と劉備と最初に会った如水に意見を求めた。
「桂花、どれ位までなら劉備に渡せる」
「劉備の軍は五千程と言っています。それなら持ってきた分の食糧の残りの半分を渡せばとりあえず、向こうの要望に答えれるかと」
「その場合、こちらの残りはいくらになるの」
「六ヶ月程かと思います」
そう言った後、桂花は不満を漏らした
「賊を働かないだけましですね、ずいぶんと堂々とした物乞いだと思います」
「そうね、気持ちは分かるわ。とりあえず他に意見あるかしら」
「華琳。彼女らに渡す食糧だが、私がこの前、黄巾党から奪った物を全て渡せばどうだろうか」
「どう言う事?」
「正直言って、私は奪ったまでは良かったがその使い道について考えていた。あれは元々、黄巾党の連中が民衆から奪った物だ、それを自分達が食べるのは正直言って気が引ける。なら勝手な自己満足だが捨てた物として彼女らに渡せば良いと思う」
「そう…確かに私も少し気が引けたのよね、あれを使うのには」
「それともう一つは、彼女の肝を冷やすほど渡せば、今後、何かの交渉材料として利用できるかもしれん。劉備は君に無い物を持っている。それが何か良く分からんが、いずれ君の敵となり得るかもしれん、ここで彼女に引け目を感じるくらいの恩を売るのも良いと思うが」
「私に無い物?」
「うまく言えないのだが、君が一番わかるはずだ」
「私も、如水殿の意見に同意します。確かに言葉にすると、その言葉が一番合っているかと」
「言われて見れば、そう言いあらわすとわかりやすいわ。私が劉備に感じたのは、それかもしれない」
そう言った後、華琳は決断した。
「劉備に黄巾党から奪った食糧を全て与えましょう。桂花、すぐに渡すよう準備しなさい」
「はい、わかりました。直ちに用意します」

三人の話が終わった後、華琳と如水は劉備らに食糧の与える量を伝えた。
劉備は驚き遠慮したが、それを制すように華琳は話した
「このくらいの量、我が軍には大した事じゃないわ。それに共に黄巾党を討つ同志じゃない、ぜひ、受け取って欲しいわ」
「本当に良いんですか。そんなに貰ってしまって」
「そんなに畏まらないで。私は貴方の気持ちに答えたいの、大事に使って」
「はい!。ありがとうございます」
「よかったですね、劉備殿。そんなに喜んで貰うと、私も貴方を紹介した甲斐がありました」
「黒田さん、ありがとうございます」
そう言って涙を流して感謝の言葉を言い、劉備は自分の軍に戻って行った。

「なかなかの名演技だったわね」
「私はただ笑っていただけだ、君ほどじゃない」
「それにしても、劉備か…。貴方、何か知ってる?」
「劉備については知らないが、隣にいた関羽と諸葛亮については多少知っている」
「どう言う者なの」
「関羽は以前、盗賊退治で名を上げていた者だ、噂ではかなりの武勇の持ち主だとか。諸葛亮は水鏡と言う者に教わり、秀逸のといわれた程の者だそうだ」
「そう、そう言った者を従えている所を見ると、劉備の度量も伺えるわね」
「二日後には、砦が確認出来るだろう。聞くところ、劉備もそこに向かうようだ、君の言う通り、本当に他の諸侯も来るのかも知れないな」
「当然よ、私の勘って外れないの」
「そのあたりが私のどうやっても真似できない所だな、私は物事を都合の悪いようにばかり考えてしまう」
「それを一々解決させていくのは大変ね。でも、それを克服するのには多くの情報を知る事、その為の探究心が貴方の知性の本質なのかもしれないわね」
「そうなのかもしれない」

華琳と話をしながら如水は、別の事を考えていた。
今回、如水は当初、今向かっている砦を軽視していた。だが、今では無視できない重要な場所である。そこに向かうように決めたのは華琳だった、あの軍議の場で、如水は華琳より早く、あの場所を知っていた、だが、無視しても構わないものと思っていた。しかし、華琳はあの時点でこうなる事を解っていた予感があるようだった。
如水にとって今回のような経験は初めてではなかった。如水にその経験をさせたのは、信長と秀吉の二人である、あの二人は、今回の華琳の様にまるで予知するかの様にモノが見えていたように思う。
その事を思い出し。やはり曹孟徳には信長と秀吉と同じように天下を取る可能性を秘めているのかもしれないと思い、自分の新しい生涯の目的がわかった気がした。




 
 

 
後書き
奪った食糧は、劉備に全て渡しました。
正直、自分は桃香の考えが余り好きではないので、今後、いい方に書かれないと思います。
桃香ファンの方申し訳ありません 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧