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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode6 会議の席、勇者の底力


 「はあー」

 深く、深くため息をつく。と同時に、

 「なんだか元気無いですね。どうされたんです?」

 上からモモカが声を挙げて訪ねてくる。だが、説明するのも面倒だしそもそも説明できることでもないので、今回は「別に」とだけそっけなく返す。モモカは、若干不満そうな顔で「でも……」と少しだけ食い下がったが、それ以上の追及してこなかった。

 (ふぅん?)

 その煮え切らない態度は、少々気にかかる、か。彼女は、天真爛漫に振る舞いながらもそれでいて決してある一線を越えようとしない。言うならば、子どもらしい明るさと遊び心はありながらも、大人に対して「わがまま」を言おうとはしない……要するに「よくできた子供」、という印象を抱かせる少女だ。そんな彼女にしては、ほんのわずかでも俺の発言に食い下がること自体、珍しかった。

 (食い下がられても、答えは変わらないけど、な)

 エギルに……ひいてはキリトに調査を依頼したその日、俺は一人で(モモカは演奏に、ブロッサムは細工の依頼をこなすと言って宿にいた)世界樹クエストに何度か挑戦し……結果、深い絶望を味わっていた。なんとかキリトが来る前に少しは対策を考案しておき、アイツの到着次第一気に攻略といきたいと思ったのだが、正直どうにもならなかった。

 まあ戦闘は俺は専門じゃないし。
 専門じゃないんだぞ、専門はクエスト攻略と行商だ。


 一夜明けた今日はもう攻略は諦めて、三人でアルンからの移動の最中だ。
 相変わらず宙を翔けるモモカとブロッサムに対し、地べたを走る俺。這いずる、とは言いたくない。

 『しつこいようですが、飛行くらいはそろそろ身につけてはいかがです? 下に向けてウインドウを出すのは大変なのです。随意飛行とまでは言わなくても、コントローラーでは飛べるようにしてくださいませんか?』
 「うるせーよー! ウィンドウ出すのがめんどいならー、喋ればいーだろうがー!」

 上から広げられるウィンドウ(どうやらアレ、画面の広さや文字の大きさも自由自在らしく、下から見上げる俺にもよく見える)に怒鳴り返しながら、疾走する。と、上に気を取られたせいで足元がおろそかになり、若干ふらつく。『軽業』スキルによるバランス補正がなければ派手に転倒していただろう。

 全く、いつまでたっても慣れないな。もう一ヶ月以上経つってのに。


 ああ、言い忘れていた。
 俺は今、移動中だ。ちなみに、走って。

 そこそこ……写真撮影に支障を(あまり)来さない程度にはコントローラーを使えば飛行できる様にはなったものの、やはり飛行は恐怖心が勝り、まともな速度が出せない。随意飛行よりも最高速度で劣るコントローラー飛行でも限界速度まで達するのはムリだ。そして何より、走ったほうがよっぽど速い。

 まあ、それはいい。今は、関係無い話だ。
 寧ろ問題は、今俺が移動している理由の方だ。

 一言で言おう。
 傭兵代わりにとアリシャに呼ばれた、シルフ・ケットシー同盟の会談へと行くためだった。





 猫妖精(ケットシー)領首都、フリーリア。その賑やかな街に着いた俺達は、結構派手に迎えられた。それは別に俺達が特別有名な人気者だから、ではない。

 「待ってたヨ、シドく~ん!」

 最重要人物である領主、アリシャ・ルーが俺達を出迎えやがったからだ。所謂VIPである彼女には、側近(本人が言うには腐れ縁らしい)である数人が護衛代わりについており、また人気者の宿命として周囲には一目見ようと集まった暇人共が人だかりを作っている。

 全く。

 (今日が極秘の会談の日だ、って分かってんのかコイツ……)

 相変わらず危機感に欠けた女である。
 領主であるという自覚をもうちょっと持ってほしいものだ。

 「イヤ~、来てくれないかモ、と思ったヨ!」
 「……まさか。今日は大事な……「商談の日」だからな。ちゃんと来るさ」

 別に来たくは無かったがな……という言葉は飲み込む。
 敬語の苦手な俺にだって、そのくらいの分別は一応はある。

 喋りながら、ウィンドウを操作する。パーティー用の一時預かり用ストレージにアイテム……行商で扱うような、俺達は装備出来ないがなかなかに高価な武器防具達、珍しい効果をもつマジックアイテムの数々を、二人に渡しておく。これから行く先を考えると、あまり高価なものは持っていきたくない。そうして開いた自身のストレージに、「もしもの時の備え」を入れておく。

 「それじゃあ、一旦領主館に行こうカ! いろいろと準備しないとネ!」
 「……あいよ。んじゃあ、」
 「ん、了解です! 頑張ってきてくださいね!」
 『アイテム、確かに預かりました。私は今日は宿にずっと居ますので、いつでも連絡ください』
 「ああ、頼むな」

 連絡するような事態にはならんだろうとは思うし、ならんに越したことは無いんだがな。

 画面内で一時預かりウィンドウからアイテムが消滅、恐らくブロッサムが引きだしたのだろうことを確認して、頷く。軽装戦士な上に拳闘士な俺は、装備品が極端に少ない。魔法強化された革のコートに、対魔効果の高いネックレス。後は体術スキルにボーナスのある紅色の革グローブとブーツ。いずれも安物では無いが、俺の扱う商品に比べればいくらかランクは落ちる、か。

 (……ま、金属鎧は重すぎて装備出来ねえし)

 今回、ケットシーとシルフの会談に傭兵として参加はさせて貰うものの、はっきり言って単なる会談である以上、正直真剣に武装していくことにどこまで意味があるのかははなはだ疑問である。ケットシーの面々からしても、一緒に行く俺がいつでもアリシャの奴をPK出来る様に完全武装でうろつくのもいい気分はしないだろうし。この世界では領主殺しってのは相当に大事らしい。

 ……とまあ、そんなことを考え、俺は気楽に構えていた。

 果たして。
 俺のこの見通しの甘さは、やっちまったと言わざるを得なかったのだった。

 
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