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ジークフリート

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第三幕その九


第三幕その九

「その英雄は誰なのかしら」
「それは私だ」
 ジークフリートの言葉は自然と変わっていた。
「私が炎を越えてやって来たのだ」
「あのローゲの炎を」
「それが私だ」
 そして名乗るのだった。
「ジークフリートだ」
「ジークフリート」
「そう、それが私だ」
 彼はまた名乗った。
「神々に祝福を」
「神々に?」
「そう、世界に祝福を」
 上体を起こしながら言葉を続ける。
「光り輝く大地にも祝福を」
「祝福を」
「そう、私の眠りも終わりです」
 ジークフリートに顔を向けていた。
「そして私を起こしてくれたのが」
「そう、私で」
「ジークフリートなのですね」
「私を生んでくれた母さんに祝福を」
 彼は言った。
「私を育ててくれた大地に祝福を」
「そう、祝福を」
「この幸せに微笑みかける瞳を見るkとができるのだから」
「私への眼差しは貴方にだけ」
 ブリュンヒルテはそのジークフリートを見詰めていた。
「貴方にだけ向けられるもの」
「私にだけ」
「ジークフリート」
 ジークフリートの名前を自分から呼んだ。
「その名前を口にするだけで」
「どうだというのですか?」
「この上ない喜びに包まれる」
 そうなるというのである。
「それに耐えられないまでに」
「耐えられない」
「そう、とても」
 その顔は何時しか微笑んでいた。
「私も。これで」
「これで」
「私が貴方を愛していることをわかてってくれたら」
「愛を」
「そう、愛を」
 こう彼に言うのだった。
「貴方は私の心だった」
「私が」
「そう、生まれるその前から愛していた」
 彼をというのだ。
「愛していた。そして見ていたということを」
「けれど私はそれは」
「そう。気付かなかった」
 そうだったというのだ。
「何一つとして」
「けれどそれは仕方のないこと」
「仕方のない?」
「そう、しか他のないこと」
 こう彼に告げるのだった。
「何故なら貴方は今私に会って私を知った。けれど私は」
「その前からだというのですね」
「そう。その前から」
 そうだったというのである。
「知っていた。だから今私は」
「貴女は?」
「貴方になります」
「私に」
「そう、なります」
 彼への愛の言葉に他ならなかった。
「今それを誓いましょう」
「何と。私になってくれるとは」
「歓喜の人」
 微笑んでいる言葉だった。
 
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