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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第20話 やっぱ鍛冶でしょう

 こんにちは。ギルバートです。カトレアに首根っこどころか、人生まで抑えられてしまいました。このままカトレアに捕まるのは、癪だと感じる私は子供なのでしょうか?

 一晩明けて、私は練兵場で剣を振っていました。それ以外の時間は、ルイズの相手か公爵家の蔵書を読み漁るのに使いました。

 そうです。せめてもの抵抗として、滞在期間中カトレアに一度も会いに行かない事にしたのです。

 そして更に翌日、私達は朝食を取っていました。朝食後に、ドリュアス領へ出発する予定でした。そこにカトレアが突入して来たのです。

 そ知らぬ顔でその場に加わるカトレアに、私は最大限警戒して居ました。

 実際問題カトレアは、マギや原作知識の話は出来ないはずです。それは秘密の共有と言う絆の否定と、私との破局を意味するからです。カトレアが私に本気なら、絶対に切ってこないカードです。

 となると、昨日会いに行かなかったのを怒っているなら、私とカトレアがつき合っていると臭わせる発言で、ドギマギする私を見て溜飲を下げる心算ですね。

 そこで私は、カトレアが言いそうな発言をシミュレートし、何時でも反論出来る様に準備します。やがてカトレアが話題変換をし、私が「来る!」と身構えた時……。

「母様。私ギルバートと結婚するわ」

 爆弾に対応する準備はしていました。しかし爆弾が規格外でした。頭に核の文字が付く爆弾だった様です。しかし、私がこの状況で一番驚いたのは、自分の冷静さでした。現にカリーヌ様とルイズは、朝食を吹き出しているのですから。

 カリーヌ様とルイズを見ながら、カトレアはコロコロと笑っていました。

「カ カトレア? それは如何いう事ですか?」

 必死に頭を再起動したカリーヌ様が、絞り出すような声でカトレアに聞き返しました。

「言葉どおりの意味以外、何があるのですか?」

 カトレアは“母様こそ何言ってるの?”と言わんばかりに、首を傾げながら答えます。それを見たカリーヌ様は、カトレアでは埒が明かないと思ったのか、矛先を私に変更しました。

「ギルバート。これは如何いう事ですか?」

「……いえ、私にもサッパリです」

 私は心底分からない。と言う表情を作りました。こうなると、再びカトレアに視線が集まります。

「あら。その為に、私の病気を治療する約束をしたのではないの?」

 視線がカトレアから私に移ります。

「可能性の話です。私ではカトレア様の病を、完治出来るか分かりません(ルイズの可能性有りです)」

 カトレアは迷子の様な顔で、私を見ながら言いました。

「私と結婚するのは、……嫌なの?」

(……ぐっ、最終兵器を出してきたな。しかしここを切り抜ければ、私の勝ちです)

 私は困った様に小さく溜息を吐き、返答をしました。

「そうですね。問題(主に私の気持ち)が解決すれば、こちらに異存はありません。カリーヌ様はどう思われますか?」

 カリーヌ様がいきなり話を振られ、驚いた表情を見せてくれました。……あっ、なんかちょっと気分が良いです。

「確かに、問題(カトレアの病と夫の了解)を解決しなければいけません」

「私の問題(病)が解決すれば、良いのですか?」

 間髪いれずに、カトレアがカリーヌ様に詰め寄ります。

「そうね。問題(カトレアの病と夫の了解)が解決すれば、許可します」

 カトレアの勢いに押され、カリーヌ様がそう答えてしまいます。やっちゃいましたね。

(カトレア。今日はこの辺で満足しませんか?)

 カトレアは頷くと、ご機嫌で部屋へ戻って行きました。

「カリーヌ様。よろしかったのですか? 公爵様に相談無く、病が治り次第結婚を許可する等と……」

「へっ……?」

 カリーヌ様は前言を撤回する為、慌ててその場を飛び出して行きました。しかし、カトレアは全く聞く耳を持たなかったそうです。ちなみにルイズは、カリーヌ様が飛び出すまで完全にフリーズしていました。



 その後カリーヌ様に、家まで送ってもらいました。カリーヌ様は終始凹んでいました。カリーヌ様と2人になったら、色々と追及されるか心配でしたが、幸い凹んだカリーヌ様は何も聞いて来ませんでした。これもカトレアのおかげなのでしょうか?

 ドリュアス家に到着し、カリーヌ様が父上と母上に配慮が足りなかったと謝罪しました。カリーヌ様の凹みっぷりに、父上と母上は恐縮していました。(……凹んでる理由違うのに)

 私の帰還を一番喜んでくれたのは父上でした。そんなにワンドがお嫌いなのでしょうか?

 家族全員でカリーヌ様を見送り、早速杖剣の作成に……と言う訳にも行きません。私はドリュアス家緊急家族会議を提案しました。

 全員が執務室に集合すると、私は聞き耳防止用の魔道具を起動しました。使用人達は信用していますが、巻き込みたく無いですから。

「緊急家族会議など、一体如何言う事なのだ?」

 父上が当然の質問をして来ました。

「ペドロが王宮出入商人に復帰するそうです」

 私は即答しました。私の言葉に激しく反応をしたのは、当然母上です。激昂した母上を、私と父上の2人がかりで抑えます。母上の反応に、事情を知らないディーネとアナスタシアは、ただ呆気にとられていました。

(そう言えばディーネとアナスタシアには、私の魂が二つの魂が融合した物だとは話しましたが、魂が欠けた原因と思われる秘薬の話はしていませんね)

「アズロック。……如何いう事?」

 あっ……。母上の怒りの矛先が、父上に向きました。(母上からすれば、敵を撃ってくれたんじゃなかったの? と、言ったところです)父上はそれに気付き「ギルバートの話を最後まで聞こう」と、母上を説得しました。その言葉に母上は、とりあえず納得した様です。

 私は先ずリッシュモンが、ペドロを保護していた事を話しました。そして、ヴァリエール公爵家に居たギョームについて話し、コイツをリッシュモンがお抱えにしていた事も話しました。この段階で、この3人が繋がっている可能性は、ディーネやアナスタシアも察する事が出来た様です。

 そして、この3人が繋がっていた場合、想定される役割分担を説明します。

リッシュモン
 他の2人の雇い主。ペドロから情報を買い、ギョームから暗殺用の秘薬を買う。情報をもとに、証拠隠滅やライバルの動向を知る。ライバルを蹴落としたり暗殺する等して立場を確立する。立場を利用して賄賂等で金を儲ける。

ペドロ
 リッシュモンより金銭を受け取り、商品を下級貴族に格安で品物を売る。これにより、下級貴族と懇意になり情報を引き出す。引き出した情報を、リッシュモンに売る。

ギョーム
 暗殺用秘薬の調合研究と人体実験。

 私はここまでの話を、一気に説明しました。説明が終わっても、暫くの間はみんな無言でした。

「証拠はありませんが、リッシュモンがペドロを保護しギョームをお抱えにしていたのは、ヴァリエール公爵が確認しています。また、例の秘薬を売ったのはペドロです。そしてダングルテールの大虐殺は、疫病拡大阻止に見せかけた新教徒狩りです。これで疑うなと言う方が無理です」

 ちなみにダングルテールの虐殺に関しては、父上にお願いし調べてもらい首謀者がリッシュモンである事と、新教徒狩りである事が確定しています。(魔の森調査官の肩書が役に立ちました。権力って素晴らしいです)

 原作知識があれば、このような調査は必要無いのですが、原作知識を過信して失敗しては泣くに泣けません。ちなみに原作知識の存在は、家族内に全く話していません。ダングルテールの調査も、私が無理にお願いしただけです。父上と母上も私がまだ何か隠していると知っていて、何も聞かずにいてくれます。

 私はこの事に、後ろめたさを感じていました。そう言った意味では、今私に一番近い存在はカトレアになるのでしょう。(これでカトレアに側にいてほしいと思うのは、……最低ですね)

 父上と母上は私が黙ってしまうと、過去の経緯(主にペドロの秘薬と、死んでしまった長女の話)をディーネとアナスタシアに話し始めました。話が終わった時の反応は対照的でした。ディーネは完全にフラットな表情になり、ボソッと一言「だからブリミル教徒は」と呟いていました。(今回は、ブリミル教徒云々は関係ないと思います)アナスタシアは、顔を真っ赤にして怒っていました。

 これからについてですが、話し合った結果“現状維持”になりました。やはり現状では、こちらからアクションを起こす事は不可能と言う結論が出たのです。来年の中頃までにドリュアス領の事が落ち着くので、それから報復のための調査を本格的に始める事にしました。今回はギョームの件もあるので、ヴァリエール公爵も協力してくれるでしょう。

 この決定を持って、緊急家族会議は終了しました。



 会議終了後、父上が話しかけて来ました。どうやら母上の追及を上手く逃れて来た様です。

「ギルバート。杖剣の件なのだが……」

「はい。やはり剣自体に、1週間は待っていただかないと……」

 その時父上の腰に下がっているのが、ワンドとサーベルである事に気付きました。

「父上。何故レイピアでは無くサーベルなのですか?」

「元々武器は、サーベルもレイピアも行ける口でな。王宮で働く際、レイピア型の杖剣を支給されたので、そのままレイピアを使っていた。だがそれも無くなり、レイピアより対亜人戦に向くサーベルを使うことにしたのだ」

「では、杖剣もサーベルが良いですか?」

 父上は僅かに迷った様な間を開けると、渋々と言った感じで頷きました。それも仕方が無いでしょう。

「レイピアとサーベルでは、必要な金属量が多くなるので、更に時間がかかると思いますがよろしいですか?」

 私の言葉に父上は「……やはりな」と、呟きながら俯いてしまいました。分かっていたのなら、凹まないでほしいです。

「それにサーベルではレイピアと違って、軽すぎるのも不味いのではありませんか?」

 父上が更に凹みました。私が苛めている見たいなので、あんまり凹まないで欲しいです。

「対亜人用に使うなら、厚み・幅・長さもそれなりに大きく無いと役に立たないですね。そうなると、必要な金属量は更に増えます」

 父上の凹みっぷりは凄まじく、今にも座り込んでのの字を書き始めそうな勢いです。この時私は、急いでも1週間では無理と判断していました。そこで父上が口を開きました。

「実は《錬金》で作れないか、シルフィアの剣を参考に頑張ってみたのだが……金属の純度が足らなくて、全然ダメだった」

(……何ですと?)

 それが事実なら、製作時間をかなり短縮できるかもしれません。

「父上。その剣を見せてくれませんか?」

「鍛冶場に置いてある」

 鍛冶場に移動すると、レイピア型のチタン剣2本とサーベル型のチタン剣4本が有りました。ディテクト・マジック《探知》で調べてみましたが、どの剣も不純物が多く成分に(むら)がありすぎます。

 私は1本のチタン剣から、《錬金》で不純物を分離精製します。この方法を父上に教えると、父上は不思議そうに聞いて来ました。

「何故直接チタンを、分離精製せんのだ?」

 私はこの切り返しに、全く反論出来ず固まってしまいました。ドットの頃から“純度はコツコツ上げる物だ”と、思い込んでいたのです。ハッキリ言って、その発想はありませんでした。……正直凹みました。

「父上の言うとおりです。私にはその発想はありませんでした。素晴らしいです」

 私は父上を褒め称えました。先程まで凹んでいた父上が、見る見る自信を取り戻して行きます。……逆に私が凹みましたが。

 これにより何十回も《錬金》を繰り返していたのが、たった2回で済むようになりました。これまでは1本に1週間以上かけていましたが、これからは1日に1~2本ペースで作れます。(チタン剣は、絶対に量産しませんが)

 早速父上が《錬金》したチタン剣から、純チタンを分離精製します。とれた純チタンは意外に少なく、父上が理想とする大型サーベル1本分には少し足りませんでした。

 そこで私は、自分の刀用に作って置いた純鉄を引っ張り出し、炭素を合成し刃金にする事にしました。父上と協力し刀身はチタン製で、刃の部分だけ高炭素鋼のサーベルが出来ました。表面のチタン被膜処理は、父上が遠慮したので施しませんでした。

 父上はその出来に満足そうに頷き、鞘を作ると《硬化》と《固定化》を重ねがけしました。まだ外は明るかったので、早速試し切りをする事にしました。私が《錬金》で、試し切り用の土人形を6体程作ります。

 父上は気合一閃、土人形を両断しました。その切れ味に、父上の顔がゆるみました。

「ギルバート。素晴らしい出来だ」

 父上はそのまま、2体目3体目と切り裂いて行きます。その時母上が文字通り飛んで来ました。流石に風のスクウェアだけあって、無茶苦茶早いです。母上はフライ《飛行》を解除し着地すると、父上に詰め寄って来ました。

「そのサーベルは何? ギルバートちゃんと一緒に作ったの? やっぱり対亜人用を想定して? …………」

 母上が間をおかず、次々に父上に質問をします。(あれでは答える隙がありません。答えさせる気があるのでしょうか?)

 現在母上にプレゼントしたレイピアは、杖剣に加工する為手元にありません。その所為で余計に、父上のサーベルに興味を引かれるのでしょう。

 母上が飛んできた方を見ると、母上を追いかけて来たのでしょう。ディーネとアナスタシアが《飛行》で、こちらへ向かって飛んで来ました。その表情には、困惑の色が見えました。母上は何の説明も無く、突然こちらに飛んできたのでしょう。

 2人は父上が持つサーベルと、切り裂かれ地面に転がっている土人形を見て納得した様です。こうなると次のパターンは決まっています。

「「私の分は何時出来るの?」」

(……やっぱり。と言うか、見事にハモりましたね)

「まだ作りません」

 私がそう答えると、2人の顔に明らかな不満の色が浮かびました。

「良い武器は使用者を育てますが、身の丈に合わない武器は使用者の成長を阻害します。だから絶対ダメです。父上と母上が一人前と認めた時に、固有武器を作ってあげます。もちろん私も例外ではありません」

 要するに3人そろって我慢しよう。と、言う訳です。

 その時、父上の情けない声が響きました。

「シルフィア。それは私の……」

「ちょっとくらい良いじゃない♪」

 見ると父上からサーベルを取り上げた母上が、残りの土人形を切り割いていました。

「……父上」

 私は父上に近づき声をかけました。

「大丈夫だ。気が済めば返してくれるはずだ。……タブン」

 この時父上から哀愁のオーラが漂って来ました。結局父上の許にサーベルが帰って来たのは、2日後の事でした。その後直ぐに杖剣への加工にまわされてしまいましたが……。



 折角鍛冶場を作ったのに、私や父上だけで殆ど使わないのは勿体無いと思い、人を雇う事にしました。父上と母上に最低でも、土メイジ(ライン以上)・火メイジ(クラス不問)・鍛冶職人を各1人で計3人、最大で各2人で計6人の人間を雇ってもらう様にお願いしました。

 土メイジは鉄を精製するのに必要ですし、火メイジは本格的に鍛剣を作るとなるとコークスの値段も馬鹿にならないので、新たに炭焼き小屋を作る事にしたからです。

 ついでなので、炭や鉄などの保管庫も併設する事にしました。父上が途中からのりのりになって、母上にお説教を貰っていましたが私は知りません。

 土メイジと火メイジは、各1人領内の守備隊に所属している者を、連れて来る事になりました。2人とも息子がいて、父親と同じ属性のメイジだそうです。息子の方も見習いとして、ドリュアス家で雇うことになりました。嬉しい事に私と年が変わらないそうです。残念ながら着任するのは、引き継ぎの関係で2月(ハガルの月)からになるそうですが、今から会うのが楽しみです。

 鍛冶職人は、マギ商会に探してもらっています。こちらは残念ながら、何時になるか分からないそうです。



 物凄く多忙を極めましたが、実り在る年末にする事が出来ました。

 年も明け始祖の降臨祭も終わり、いよいよ刀製造の為の第一歩を……と思っていたら、悲しい情報が舞い込んで来ました。リッシュモンが足場を固め終わり、付け入る隙が無くなってしまったのです。頼みの綱のヴァリエール公爵も、後継者争いの煽りで動きが殆ど取れません。モンモランシ伯にも協力を取り付けていますが、領地の干拓に忙しく動きが鈍いです。

 ……原作情報で、この干拓が失敗する事は知っています。

 この状況で味方が減るのは勘弁してほしいので、モンモランシ伯に接触しNGワード『歩くな。床が濡れる』を言わないように、それと無く忠告しようと準備を始めました。しかし、残念ながら間に合いませんでした。干拓は見事に失敗し、王家に不評を買い精霊との交渉役も降ろされてしまいます。当然、ラグドリアン湖周辺の領地も没収されてしまいました。干拓に投資していた莫大な資金も、露と消えてしまします。お陰さまでモンモランシ伯爵は借金王です。(貴族なのに王様とは是如何に)

 こうなってしまうと、こちらも下手に手を出せない状況になってしまいました。ドリュアス家が独力で戦い、勝てる相手ではないからです。

 ドリュアス家にとって唯一幸運だったのは、リッシュモンが保身に走った事です。黙っていても大量の賄賂が転がり込んでくる立場なので、態々危険を冒してドリュアス家を排除する必要が無かったのです。

 この状況を鑑みて、ドリュアス家家族会議が開かれました。結果は向こうがボロを出すか、情勢が動くまで力を蓄える事になりました。ハッキリ言って悔しいです。



 力を蓄えると言っても、現在のドリュアス領では何とか赤字を出さないだけで精いっぱいの状況です。多少時間が経てば、旧クールーズ領の収入が安定し多少の黒字が見込めます。しかしこれも焼け石に水でしょう。これを脱出するには、魔の森を如何にかするしかありません。

 そこで私は父上と相談して、魔の森調査に乗り出す事にしたのです。

 父上は当然の様に、危険だと反対しました。父上だけでなく、母上やディーネにアナスタシアまで反対して来ました。

 結局私は、魔の森に立ち入る許可は下りませんでした。ですが、私も食らい下がった甲斐が有りました。資料の管理と調査に口出しする権利を勝ち取ったのです。

 それから私は魔の森に関する膨大な資料と、睨めっこをする生活が始まりました。



 時は流れ2月(ハガルの月)に入り、鍛冶場の人材が入って来ました。どうやら家族で、こちらに住み着く様です。家についてですが、流民の対処をする時に建てた家を流用しました。職場まで徒歩5分です。

 さて、いよいよ初顔見せです。鍛冶場の従業員になるので、実質私直属の部下になります。

「始めまして。私がギルバート・ド・ドリュアスです。私が形式上の上司になります。よろしくお願いします」

 皆さん唖然としていました。流石にこんな子供が上司では、不安になるなと言う方が無理でしょう。だからと言って、はいさようならと言う訳には行きません。取りあえず自己紹介をしてもらいました。

 先ず最初に金髪碧眼の男が名乗りました。なかなかの筋肉で、無骨な感じがします。

「俺はガストン。土のラインだ。こっちが妻のセレナだ」

 金髪緑目の女性を指しました。女性は「セレナです」と言って、頭を軽く下げました。続いてガストンは、隣に居た金髪碧眼の男の子の頭にポンと手を載せました。

「それでこいつが、ジャック。今年で9歳になる。メイジとしては、土のドットだ」

 ジャックは、軽く頭を下げながら「よろしく」と言いました。

 続いて、赤髪で褐色の肌の男が喋り始めました。細く見えますが、以外にがっしりした体格をしていますね。

「僕はポール。火のラインなんだ。妻のレジーヌと長男のピーターに長女のポーラだよ」

 一度に紹介され、緑髪碧眼の女性・緑髪茶目の男の子・赤髪茶目の女の子の順番で軽く頭を下げました。肌が褐色なのは、ポールさんだけです。

「ピーターは8歳で火のドット。で、ポーラは5歳でまだ魔法を教えていないんだよ」

 ポールさんは、にこやかに微笑んでいました。早速職場を案内したいのですが、大荷物を持っているのでそうも行きません。

「では、いったん住居によって荷物を置きましょう。」

 住居に案内すると、全員感嘆の声を上げました。流民の対処の為に建てた家は、元々一軒で10余人収容する大きさがあります。それを全面改装したのですから、それも仕方が無いでしょう。メイジには形式的な意味しかありませんが、ガストンさんとポールさんに家の鍵を渡しました。

「では、荷物を置いて来てください。次は職場に案内します」

 少し待つと、家の鍵を閉めて全員が出て来ました。どうやら新しい職場に、全員興味がある様です。私は全員を連れて、鍛冶場に案内します。

「先ずはガストンさんの職場です。ガストンさんには砂鉄とこの黒い粉を材料にして、《錬金》で鋼を作ってもらいます」

 ガストンさんから“不可能だ!!”と言う目で見られました。私は全員の目の前で、砂鉄100に対して黒い粉(炭素の粉)を1混ぜて《錬金》で鋼を作って見せました。鋼のインゴットをガストンさんに渡すと、ディティクト・マジック《探知》を使います。その後、何故か凹んでいました。

「詳しい話は後日します。次はポールさんの職場です」

 全員を炭焼き小屋に連れて行きます。目の前にある大きな釜に、全員が「何これ?」と言う目を向けています。

「こちらも詳しい話は、後日と言う事になります。簡単に言うと、この窯に木を詰め込んで燃やしてもらいます。そして中の火力を調整してもらい、炭を作ってもらいます」

 私は父上と一緒に作った、試作品の炭を一欠片出しました。全員の目が“何故今更こんな物を”と言っています。

「一昔前の燃料ですが、この炭を使い鍛剣を作るのが目的です」

 私はそう説明すると、最後に保管庫を見せ職場の案内は終了です。

「ガストンさんが作った鋼を、ポールさんが作った炭を使い剣を鍛造・量産するのが最終目標になります。最前線で戦う守備隊員の命を守る武器です。気合入れてお願いします」

 私がそう言って頭を下げると、ガストンさんとポールさんの目の色が変わりました。

「若旦那。悪いが今すぐ教えてくれねえか」と、ガストンさん。

「僕もお願いするよ」と、ポールさん。

 奥さん達は少し困った顔をすると、子供達を連れて出て行ってしまいました。こうなると、誰も止める人がいません。時間がかかる炭焼きから作業開始です。3人がかりで窯の中に木を敷き詰め、入口を《錬金》でふさぎ、ポールさんが火を入れます。《探知》で中の状態を確認しながら、通気口をふさぐタイミングを計ります。煙が半透明になった所で通気口を全てふさぐと、後は冷えるまで待つだけです。この時間は約4時間です。外は既に夕日が見えていました。

 テンションがかなり高かった私達は、後少しだけと《錬金》による鋼の作成に入りました。ガストンさんにイメージを伝え、実際に《錬金》してもらいます。

「砂鉄と黒い粉を、溶かして混ぜ合わせるイメージです。実際高温で溶かし、砂鉄と黒い粉を混ぜれば鋼になります」

 数回目の《錬金》でやっと上手く行ったガストンさんは、凄く喜んでいました。

 ここで父上が、家に戻ってこない私を探しに来ました。最初は私を連れ帰ろうとした父上ですが、ガストンさんとポールさんの熱意にほだされ、何時の間にか仲間入りしていました。(この時、既に夜になっていました)

 悪乗りした私達は、黒い粉(炭素の粉)の量で、硬度と粘りにどれだけ差が出るか調べ始めました。この時はまだポールさんも、時々炭焼き小屋の様子を見に行く冷静さがありました。

 やがて父上が口走りました。

「このまま我々で、この鍛冶場最初の鍛剣を作らないか?」

 この言葉で、テンションが振り切ったのか? それとも既に振り切れていたのか? 私も含めその言葉に大賛成です。鍛冶場の炉に火が入り、男4人で鍛剣を打ち始めました。キッチリ折り返し工程も行い、焼き入れも行いました。男4人で、あーでも無いこーでも無いと刃を研ぎだしました。そして父上が《錬金》で柄と鞘をでっち上げると、ようやく完成しました。(鍛剣・ワンハンド・ロングソード・銘無)

 刀身が少し歪んでいて鞘に入らなかったので、《錬金》で微修正したのは私達の秘密です。

 さあ早速試し切りです。意気揚々と皆で外に出ました。何故か外は明るかったです。そして空には夕日が……。(NO 朝日です)

 ナチュラルハイになった私達は、そんなこと気にする事も無く土人形で試し切りを始めました。素人が打った割には、切れ味も悪く無く男4人で騒ぎ始めました。

 その時、突然館の窓が開いたのです。

「五月蠅い!!」

 それは母上の声でした。私が“しまった!!”と思った時には既に遅く、男4人は仲良く竜巻洗濯機の中へ……。

 私はなんとか《飛行》で、墜落を免れました。母上の特訓が役に立ちましたね。

 父上達はそのまま、地面へ真っ逆さまに落ちて行きます。不味いと思いましたが、母上もそこまで鬼では無かった様です。地面1メイル手前で落下が一瞬停止しました。(良かった。真横に吹き飛ばさなかった)

 その時、私達が打ったロングソードが無い事に気付きました。探すまでも無く、すぐに見つかりました。私の目の前を刃を下にして通過して行ったのです。そして、ロングソードの落下先には……。

「父上!!」

 父上は落下の衝撃で、硬直していました。(不味い!! 1メイルとはいえ打ち所が悪かったか!!)

 私はこの時、思わず目を閉じてしまいました。ザクッと言う剣が突き刺さる音が、やけに大きく感じました。

 目を開けるとそこには、左耳数サントの地面にロングソードが突き刺さり硬直する父上の姿が。

 私は父上の生還に、思わず涙してしまいました。






 炭の出来は上々でした。鍛造を始めても炭は余る予定なので、このまま売りに出すのも良いかもしれません。工業用燃料としては時代遅れになりましたが、薪主体の今なら家庭用燃料として十分に使えるでしょう。しかしこのままでは売れないので、私が良い売り文句を考えようと思います。《錬金》した鋼も余るので、《錬金》で剣にして出来が良ければ守備隊に支給ですね。

 ……刀作りにはまだ程遠いです。早く人員(鍛冶師)そろえないといけません。 
 

 
後書き
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