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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第63話

操祈は麻生の記憶にとても興味があった。
だから、麻生を図書室で見つけた時は少し興奮していた。
あれほどの能力を手に入れる為の過程がどんなものか楽しみしていた。
だが、麻生に能力を使っても記憶を覗く事は出来なかった。
ちゃんと能力は発動している。
だが、麻生に能力をかけても何かに防がれて麻生の頭の中を見る事が出来ないのだ。
簡単に諦める事は出来ず、何度も何度も能力を麻生にかける。
麻生の方も無駄だと分かっているのか操祈に視線を外し、本を読んでいる。
操祈も諦めかけた時だった。
今まで何かに防がれていた麻生の頭の中に入る事が出来たのだ。

(やった!!
 さぁ~て、何を見せてくれるのかなぁ?)

ようやく、麻生の記憶を覗く事が出来るのでテンションが上がってくる操祈。
次の瞬間に見た風景を見て操祈は言葉を失った。
最初に見たのは真っ赤な業火。
地平線のその先まで地獄のような業火が辺り一面に広がっていた。
操祈はまるで夢でも見ているかのように空から地上の業火を見つめていた。

(なに・・・なの・・・・・・これ・・)

操祈は何人もの記憶を覗いた事がる。
それは人によって様々だったが、こんな記憶を持っている人間など見た事がなかった。
気付けば操祈は身体が震えていた。
その業火の中には生物がいた。
人間なのか動物なのかは全く分からないがそこに生き物がいた。
操祈は気づいた。
そこにだけではなく見渡す限り生き物がその業火に呑まれていた。
たった今生まれた命もその業火に呑まれ命が無くなっていく。
苦しいのかその生物達は叫び声をあげた。
それはとても悲痛な叫びで聞いているだけで吐き気を催し、震えがさらに大きくなってきた。

(こんなのもう見たくない!!)

操祈は能力を解いて現実世界に戻ろうとした。

(何で・・・・何で戻れないのよ!?)

能力を解いても戻る事が出来なかった。

(いや・・・ききたくない・・・・・ききたくないよ!!)

生物だったものたちの叫びを耳を塞いで聞こえないようにする。
だが、耳を塞いでもこんどは直接頭に聞こえてきた。
そして、今まで空から見つめていた自分が徐々に地上に近づいていく。

(え・・・なんで・・・いや、いやよ・・・あんなのにふれたくない!!!)

これは麻生の記憶なので見えている業火に触れても何の影響がない。
だが、操祈の生物としての本能が叫んでいる。
アレに呑まれたらもう自分が自分で無くなってしまう事を。

(いや・・・いや・・・・いや・・・・)

涙を流しながら必死に腕を動かす。
だが、確実にその業火に近づいていく。

(いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!)

操祈は叫んだ。
おそらく人生で一番泣き叫んだ。
しかし、現実は非情だった。
操祈がどれだけ泣き叫んでも業火に少しずつ近づいている事を。

(たすけて・・・だれかたすけてよ・・・・)

誰も助けに来ない。
いや、来る事が出来ない。
なぜならこれは麻生の記憶。
誰も助けに来るわけがない。
操祈は諦め、その業火に身体が呑まれそうになった時だった。

「大丈夫だ。」

声が聞こえた。
すると、業火に呑まれる一歩手前で落下が止まる。
気付けば、操祈は抱きしめられていた。

「大丈夫だから。
 俺が傍にいるから。
 だから、安心してくれ。」

この声に聞き覚えがあった。
そう麻生恭介の声だった。
麻生は子供を宥める様に操祈の頭を撫でる。
すると、震えや吐き気が徐々に治まり、あの叫び声も聞こえなくなっていた。
麻生は優しく操祈に話しかける。

「こんな悪い夢はこれで終わりだ。
 安心して目を閉じればいい。
 次に目が覚めた時には元の世界に戻っているから。」

その場を宥める為の嘘かもしれない。
だが、操祈にはその言葉を素直に信じてしまった。
そしてゆっくりと目を閉じていった。






麻生が本を読んでいると、操祈のいきなり動きが止まった。
視線だけを送るとリモコンを持ったまま固まっていた。
どうしたのかと、思った次の瞬間だった。
突然、操祈の身体が震えはじめ、少しずつ後ろに下がっていく。
足をひっかけたのか床に尻餅をついた瞬間に涙を流した。
麻生は嫌な予感がした。
周りの生徒も操祈がおかしな行動をしている事に気づき、何人駆け寄ってくる。
おそらくは操祈の派閥の人間なのだろう。

「女王、どうしたのですか?」

「女王?」

その時だった。

「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

突然、操祈が泣き叫んだのだ。
腕をがむしゃらに振り回し、泣き叫ぶ。
取り巻きは操祈の肩を掴みながら必死に宥める。

「どうしたのですか、女王!!
 しっかりしてください!!」

声は全く届いていない。
それよりかさっきよりも症状が悪化ている様に見える。
美琴も叫び声を聞いたのか、麻生に近づいてくる。

「ちょっと何が起こったの!?」

美琴は麻生に聞くが麻生は答えない。

(あいつ、もしかして俺の記憶を覗いたのか。
 でもどうやって・・・・)

そう考えて気づいた。
麻生の記憶は星の原初の姿の所から始まる。
本来、人は生まれると赤子の所から記憶は覚え始める。
だが、麻生違う。
星の原初の姿を見せられ、星の記憶の始まりがその原初の姿から始まっている。
つまりは星が誕生した所から麻生の記憶は始まっている。
その星の原初の姿はとてもではないがこの星の人間が見ると確実に廃人になる。
なぜならそれは記憶であると同時にそれを実際に体験してしまうからだ。
天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった。
その姿はまさに地獄そのもの。
それは語り継がれる記憶には無いが、遺伝子に刻まれている。
この星に生きる生命ならその原初を見るだけで震えなどの恐怖を抱き、その業火に呑まれれば人格など消えてなくなってしまう。
これは生命において最強の精神攻撃だと言える。
なら、これを迎撃システムとして使えばどうなるだろうか?
つまりはこういう事だ。
麻生は星の自動補正で自身に干渉するモノは麻生の許可がなければ全て無効化される。
しかし、それでも何度もしつこく干渉してくるものがいれば自動的に迎撃システムが発動して、原初の姿を見せて敵の精神を破壊する。
その事に気づいた麻生は操祈が今、どういう状況なのかようやく把握する事が出来た。
おそらく、その業火に呑まれればいくら麻生でも元に戻す事は出来ない。
そして、操祈を救う事もできるのも麻生だけだ。

(あんなモノを見るのは俺だけで充分だ。)

麻生は立ち上がり、操祈に近づく。
取り巻きをどかし、操祈の前に立つ。

「何ですか、あなたは!?」

「邪魔をするな。
 俺はこいつを助けないといけないんだ。」

尻もちをついている操祈と同じ視線までしゃがむ。
すると、操祈は小さく呟いた。

「たすけて・・・だれかたすけてよ・・・・」

その声を聞いた瞬間、麻生は操祈を優しく抱きしめた。
周りの生徒は驚くが麻生は気にしない。
美琴も操祈が気になってはいたが麻生が抱きしめる姿を見て驚いている。
そして、美琴が今までに聞いた事のないくらい麻生の優しい声が聞こえた。

「大丈夫だ。」

麻生は優しく話しかける。
声を聞くと、操祈の叫び声は治まっていく。
そして、操祈の頭を優しく撫でる。

「大丈夫だから。
 俺が傍にいるから。
 だから、安心してくれ。」

まだ涙を流していたが振るえは少しずつ治まっていく。

「こんな悪い夢はこれで終わりだ。
 安心して目を閉じればいい。
 次に目が覚めた時には元の世界に戻っているから。」

その言葉に反応して、小さく頷いて目を閉じると操祈の身体の力が抜けていく。
麻生はそれを確認すると操祈をお姫様だっこする。

「女王!!」

取り巻きが駆け寄ってくる。
麻生は簡単な状態だけ説明する。

「彼女は俺が保健室まで運ぶ。」

「いいえ、わたくし達が運びます。」

「頼む、俺に運ばせてくれ。
 彼女がこうなった原因は俺にある。
 だから、頼む。」

あの麻生が頭を下げた。
おそらく今度一生見れないかもしれない。
だが、彼は知っている。
あの原初の姿がどれほどきついのかを。
あんなものはもう誰にも見せたくはなかった。
麻生の誠意が伝わったのか、取り巻きは女王をよろしくお願いします、と言って道を開けた。








「う・・・ん。」

操祈が目を覚まし最初に見えた物は見慣れた天井だった。

「ここ・・は・・・」

「保健室だ。」

操祈の問いかけに答えるように声が横から聞こえた。
顔を向けると麻生がパイプ椅子に座っていた。
どうやら保険医も今はいないようだ。

「どうやらギリギリ間に合ったみたいだな。」

「ギリギリ?」

操祈は思い出す。
あの地獄のような風景を、あの叫び声を。
一瞬で顔色が悪くなっていくが、麻生が操祈の頭を撫でると不思議と落ち着いていく。

「あんなものは忘れろ。
 覚えていても何の得の無い。
 あんなものを覚えているのは俺だけで充分だ。」

「あなたはあんなものを見て平気だったの?」

「平気な訳がない。
 業火に呑まれ、その後は人の闇を見せられて廃人になったよ。
 髪も黒髪から真っ白な白髪になってしまったしな。」

操祈は驚きを隠せなかった。
あの業火に呑まれてさらにきつい精神攻撃を受けても、今はこうして話をできるくらいまでに回復している事に。
ふと、時計を見ると時間は放課後の時間よりも大きく過ぎていた。

「ねぇ、もしかしてあなたずっと傍にいてくれたの?」

「そうだな、お前がこうなった原因は俺にある。
 それがせめての償いだ。」

麻生は少し悲しい笑みを浮かべながらももう一度、操祈の頭を撫でる。
その笑みを見た操祈の胸はドキッ!、と胸の脈がうった。

「頭が痛い。
 熱があるかもしれない。」

操祈がそう言うと麻生は操祈に近づいて手を使って熱を測ろうとした。
だが、操祈は麻生の手を掴むとそのままベットに押し倒す。
完全に油断していた麻生はされるがままに押し倒される。

「何のつもりだ?」

麻生がそう聞くと操祈は悪戯に笑みを浮かべた。

「わたし、あなたの事が好きになったみたい♪」

「は?」

一瞬何を言っているのか訳が分からなかった。
操祈はどんどん顔を近づけながら言う。

「顔はかっこいいし、性格は優しいし、もう完璧ねぇ。」

本来なら操祈ほどの女性にこんな事をされると普通の男なら興奮を隠せない。
だが、前にも言ったが麻生は普通の男ではない。

「それくらい冗談が言えるのならもう大丈夫だな。」

そう言って操祈を押し返した時だった。

「女王、もう大丈夫で・・・・・」

その時、空気が凍りついた。
保健室に入ってきた取り巻き三人と美琴。
そして、傍から見たら麻生が操祈を押し倒しているように見える。
四人から殺気が混じったプレッシャーを感じた。

「優しい方を聞いていましたが、なるほど、こういう為だったのですね。」

「覚悟はいいかしら?」

美琴もバチバチ!!と電気を散らしながら言う。
麻生は何とか状況を説明しようとする。
だが、聞く耳は全く持ってくれない。
四人が麻生に襲いかかろうとした時、ちょうど保険医の先生がやってきてその場を何とか治めてくれた。
とりあえず、四人を保健室の外に出す。
保険医は疲れたような溜息を吐いて麻生に言った。

「性欲が盛んなのは仕方がないけど、場所を考えてほしいわね。」

「ちょっと待て、これには訳がちゃんとある。」

「まぁ、二人が同意の上なら止めはしないけど。」

「話を聞け。
 後、その発言は教師として色々問題あるぞ。」

麻生は呆れながらとりあえず、操祈から離れる。

「うふふ♪
 私の能力で洗脳すれば何事もなく、付き合えるわよぉ?」

「お前は調子に乗るな。」

軽く操祈の頭を叩いて、麻生は疲れたような溜息を吐いた。
そして、これからどうやって誤解を解くかを考える、麻生だった。 
 

 
後書き
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