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同士との邂逅

作者:日月
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十四 憂虞

 
前書き
オリジナルの動物が出てきます。鳥が瑠璃、狼が破璃です。後々必要なキャラクターとなるので申し訳ないですが目をつぶってください。
ナルトを成長させた姿が月代なので、月代と表記している箇所は全てナルトの事だと念頭に置いておいてください。注意事項が多くて煩わしいでしょうが、お付き合い願います。

 

 

突然ガタンッという物音が寝室のほうから聞こえ、横島は飛び上がった。
「な、なんだっ!?」

ナルトならここまで大きな音をたてない。むしろ滑るように部屋へ入って来る。
また窓に石でも投げ込まれたかと推測して、横島は急ぎ寝室に向かった。



寝室にはベッドに膝をたてながら男を背負っている青年の姿があった。身構えるも青年がナルトの成長した姿だと気づき、横島はほっと息をつく。

「なんだぁ~ナルトかぁ…」
「この姿の時は月代だ」
間髪容れず咎められ思わずむっとしたが、直後鼻についた血臭に横島は顔を青褪めた。

「…――――ッ、どっか怪我してんのか!?」
「俺じゃない、コイツだ……悪いが手を貸してくれ」
ナルト…いや月代におぶさっている男の身体を支える。元々らしい病人面に輪をかけて血の気を失っている男は、幽霊と間違える程白かった。
「ココに寝かせていいよな」
「いやちょっと待て。こっちだ」

確か物置だったであろう部屋の前で素早く印を切る月代を、横島は訝しげに見つめる。扉を開いてくれた彼に促され、部屋の中に入ると……。
「は!?」


無駄なモノで溢れ返っていたはずの物置は、落ち着いたシンプルな部屋に早変わりしていた。色合いは地味だが置いてある家具類は上等なものだと、美神の許で鍛えられた眼が言う。尤も彼女のような派手さはなくどこか癒されるような内装である。

驚愕の表情を浮かべる横島をまったく気にせず、月代は彼から男を預かると傍のソファーに寝かせた。ゆったりとした真っ白なソファーが汚れるのも構わず、血濡れの男の状態を調べる。

一番重傷であろう脇腹に月代が手を翳すと、青白い光が男の身体を包み込んだ。男の呼吸が幾分か和らいでいくのがわかる。しかしながら未だ青白い男の顔色を見る限り応急処置程度のようだ。

その様子に、月代の後ろで手持無沙汰にぽつんと立っていた横島は思わず口を開いた。
「その、俺が治そうか…?」

決して大きくないその声に、なぜか月代の肩がびくりと震える。それに不味い事でも言ったかなと戸惑いながらも横島は拳の中の文珠を握り締めた。
「大怪我なんだろ?だったら…」
「その文珠は神器だ」
振り向かずに横島の言葉を遮った月代の背中は冷たい雰囲気を湛えている。しかしながら彼の手から放たれる青白い光からは優しく穏やかなものが感じられた。

「おいそれとあるもんじゃないし、無闇に使うものでもない。それぐらい希少なものなんだ…だから」
「今使わなくていつ使うよ!!」
逡巡する月代を押しのけ、横島は【癒】の文珠を男の傷口に押し付けた。途端に眩い閃光が部屋を駆け巡る。
瞬時に光が消えたかと思うと、幾分か呼吸の落ちついた男の顔に赤みが差した。

「ふぅ~……あのな、なに遠慮してんだよ?この人、お前の知り合いなんじゃねえのかよ。お前の仲間なんじゃないのかよ」
畳み掛けるように言ったが、目の前の美青年はただ無言で頭を振る。
再び言葉をぶつけようとした横島は無表情で佇む月代を見て、口を噤んだ。





「……ところでココはどこなんだ?」

沈黙に耐え切れなくてきょろりと横島は周囲を見渡す。明らかにいつも出入りしているあのアパートじゃない。屋敷と呼んでも過言ではない立派な宅地に横島は目を瞬かせた。

「森の奥にある俺の家だ。アパートの物置部屋と術で繋げたんだ……結界で覆っているからこの屋敷を知る者は今日で四人と二匹だな」
「四人…?」
「俺と火影のじじいとそこの男……それにお前だ」
ソファーに横たわる男の意識がないのを確認しながら月代は淡々と答える。その答えに横島は驚いた。自分も含まれている事に対してどこかむず痒さを覚える。

「じゃあ二匹ってのは……?」
「ああ。まだ紹介してなかったか」
今気づいたかのように、月代は輪にした親指と人差し指を咥え指笛を吹く。
耳を澄まさないと聞こえないほどの微かな指笛。
黙って何かを待つ彼に首を傾げていた横島は、突然家の窓から跳び込んできたモノに酷く驚いた。
「ちょ、狼!?」

光の加減で銀色に見える毛並みの持ち主は白い狼。狼というより虎並みの大きさを持つソレは横島を警戒し唸り声を上げている。
「破璃」
月代の一言で、狼の剥き出しの警戒心が薄れた。悠然としっぽを振りながら彼の足下へ近づくと、狼は従順に月代を見上げる。

「コイツが破璃。この屋敷の門番を任せている…そして、一度会った事あるだろうが」
月代の言葉を遮るように、狼が跳び込んできた窓からバサバサという羽音が聞こえてきた。
すうっと横島の眼前を横切り月代の肩に止まったのは、雪のような白い腹に浅葱色の美しい羽を持つ鷹か隼ほどの大きさの鳥。

「あ、そいつ…」
「コイツは瑠璃。火影の手紙同様、暗部任務や召集の際に俺へ知らせてくれる」
そう言いながら狼―破璃と鳥―瑠璃の喉を軽く撫でる月代。いつもの無表情だが眼だけはとても優しい色をしている事に横島は気づいた。
「…なんか、普通の鳥と狼には見えねえんだけど…」
マジマジと瑠璃と破璃を見ながら言うと、月代は一瞬苦々しい表情を浮かべる。

「瑠璃と破璃に会ったのはある研究施設だ」
「え?」
「動物を合成させた兵器の作製――ーつまりキメラだな。俺は任務でその施設ごとの抹消を任された」

どうも尾獣に対抗できる兵器をつくろうとしたらしく、極秘と偽って里の規約に反する研究を続けていたらしい。火影すら知り得なかったこの事実を当時暗部に入ったばかりの月代が暴き、その研究施設をつきとめた。
早速火影に、施設と関わっていた者達は消し研究の実験体は秘密裏に保護せよ、と命じられた月代は任務を全うしたのだが…。

「無理な薬物の混用や乱用に酷使した実験体の寿命は短い。唯一生き残ったのがこの瑠璃と破璃だった」
それで俺が引き取ったんだが最初は威嚇された、と苦笑しながら月代は猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす破璃を撫でる。
若干思い出に浸りながら月代が語る話の内容に、横島は何も言えなかった。

人狼である少女の姿が脳裏に浮かぶ。それと同時に本来の世界で心霊兵器を研究していた施設を思い出した。
(実験体か…)


「……―――破璃は普段屋敷を囲むこの森に住んでいる。更に屋敷には侵入者防止の結界を張っているからアパートよりは安心だ。俺に用事がある時は瑠璃に頼め」
「……は?ちょ、ちょっと待って。ごめん、聞いてなかった」
突然言われて横島は戸惑いながら聞き返す。ぼんやりしていたので月代の話が頭に入ってこなかったのだ。
「頼みがある、と言ったんだ」
聞いていなかった事を特に咎めず、月代はソファーに横たわる男に視線を投げながら話を繰り返した。

「彼の看病をしてほしい。それでなるべくこの家から出さないでくれ…アパートの物置とこの部屋を出入りできるのは俺とお前だけに設定しているから……それとくれぐれもナルトが俺だと他言しないでくれ」
「あ、ああ。わかった」
告げてくる内容を頭の中に叩き込んで了承する横島。月代はつけ加えるようにして話を続けた。

「彼にナルトが俺だとバレるわけにはいかないからアパートに置くわけにもいかない…かと言って怪我を治療する場所が必要だったから、仕方なくな」
弁解するように肩をすくめる彼の言葉を聞きながら、横島は部屋に視線を走らせる。アパートにはない書棚がいくつもある事で納得がいった。

(そういやちっさい時から難しい本ばかり読んでたよな……表のナルトが読書するわけないから、この家に置いていたってことか)
火影の記憶から幼少時代のナルトが思い浮かび、うんうんとひとり頷く。訝しげにこちらを見つめる月代に気づくと横島は口ごもりながら慌てて聞いた。

「お、俺に教えてよかったんか?」
「以前、襲われただろう」
「え?ああ、あの時か」

夜に醤油を買いに行こうとちょっと外出した際にガラの悪い男達に取り囲まれた事を思い出す。偶然暗部任務をしていた月代のおかげで助かったのだと、横島は目前の彼に内心感謝の言葉を投げた。

「投石はともかくアパートに侵入して暴れられると面倒だからな」
「ああいった奴らが勝手に入って来る事もあんのか」
「滅多にないけどな。俺はともかくお前は困るだろう」
「いやお前も困れよ」

石を投げられるのも大した事なのにと呆れ顔で横島はツッコむ。そんな彼の様子に気づかず、月代はアパートの物置と繋がっている扉をくいっと親指で指差した。
「アパートに出入りするのは変わらないが、次からはココに寝泊まりしてくれ。アパートよりこっちのほうが住みやすいだろう」
「そりゃありがたいけど…本当にいいのか?」

暗に横島の身を心配しているのだろう月代に、横島は申し訳なさそうに尋ねる。
今までアパートに横島を住まわせていたのは彼をまだ信頼していなかったという事も関係あるのだが、月代はそうは言わずに無言で佇んでいた。
了承し頷いた横島を目で確認すると、彼はおもむろに狐面をつける。

「詳しい事は…」
「…―――――あの………?」
「眼が覚めたみたいだから今話す」




急に第三者に声を掛けられ飛び上がった横島の隣で、全く動じていない月代がソファーへと眼を向ける。突如声を掛けてきた男が上半身だけ起こしながらこちらを凝視していた。
「一体ココは……貴方方は…」
「月光ハヤテだな」

ピリリとした冷たい空気が部屋を支配する。先ほどまで横島と会話していた雰囲気とは違い、厳かな態度で月代は口を開いた。

「あ、暗部総隊長!?」

信じられないといった風情で男――ハヤテは眼を見開く。顔を晒していないのに面だけでわかるもんなのかと月代の後ろに佇んでいた横島は思った。

「……暗部総隊長、月代様ですよね…?」
「そうだ。よくわかったな」
「わかりますよ、ゴホ…狐面を被るのは貴方以外にいませんからね」
驚愕の色を滲ませながら答えるハヤテに、月代は暫し何か考え込んでいる。やがて彼は淡々とした口調で彼を促した。

「月光ハヤテ。お前は屋根で血濡れの状態だった。何があった……?」
「え…あ!至急火影様にお知らせしなければならない事が……っ」
「俺から報告しよう。話せ」
「し、しかし………」

横島のほうをチラリと窺い見るハヤテ。その視線から場の空気を読んだ横島はその場から離れようとする。けれど、狐面から垣間見える蒼の瞳がそれを許さなかった。

「いいんだ」
「は……」
「彼は、いいんだ」

頑なに繰り返す月代に、戸惑いながらもハヤテは砂と音の会合の件を口にする。それでいて総隊長にそこまで言わしめるこの若い青年は何者なのだろうと、彼は思い巡らしていた。









「どうやら、懐かしい木の葉が里に戻ってきたようじゃな」

休憩がてらに外へ涼みに出た火影は、屋上にて木の葉の里を俯瞰していた。そうして何の前触れも無く独り言にしては大きな声を口にする。その呼び掛けに屋上の空気がじわりと滲んだ。

「……懐かしい木の葉ね…でもそれは、もはや若葉ではない」
「わかっておる」

ふぅ~と煙管から吸い込んだ煙を火影はゆっくり吐き出す。火影の傍には何時の間にか、棚引く白煙を鬱陶しそうに仰いでいる子どもが佇んでいた。
狐面を片手に、屋上の手摺に腰掛けた子ども――ナルトは火影と同様里を一瞥する。しかし火影と違ってその眼は酷く空虚なものだった。

「月光ハヤテの身柄はこちらで預かっている。今は療養中だ」
「うむ。とりあえずこの一件が片付くまでは隠匿するように」
「御意……――――それでどうするつもりだ」
「何がかのぅ?」
「しらばっくれんな。その懐かしい木の葉――蛇の事だよ」

里から視線を外したナルトは、じとりとした眼つきで火影を見る。里に向けた空虚なものではなく確かに焦燥と懸念の色を含むその蒼に、火影はふと口許を緩ませた。

「第二試験を見るに、大方巣の卵でも狙ってるのだと思うがの」
「……卵を護る鳥狙いかもしれないだろ」
「時期が時期じゃ。中忍試験で巣立つであろう優秀な卵を手中に収めようとしてるのだろう」
立ち上る白煙を眼で追うふりをして、ちらりと火影はナルトを窺い見た。

「お主のほうこそどうなんじゃ?最近はまっすぐ家に帰ってるようだが」
「……話を変えるな」
にやりとした笑みを浮かべる火影にナルトは眉を顰める。直後手摺から降りた彼は真摯な眼で火影を見上げた。

「アイツの事は俺が責任を持つ。それより本当にどうするつもりなんだ。今からでも遅くはない、俺が……」
「大丈夫じゃよ」
遮るように言った火影の穏和な表情に決意のようなモノが窺い見えて、ナルトは唇を噛む。

木ノ葉の里に好意的とは言い難い砂と音の里の動き。今回のハヤテからの報告によりその疑念は確固たるものとなっている。ナルト本人はそれを中忍試験が始まる前から察していた。
一介の忍びには無理でもナルトなら一晩で叩き潰せる。そうしなかったのはやはり火影本人が引き止めていたからだ。

「………頑固じじいめ」
「酷いのぅ」
目尻を下げて苦笑する火影に、酷いのはどっちだと内心ナルトは舌打ちした。


三代目火影として里の長として、そして元担当の先生としてあくまでサシで闘う。そう胸の内で決定事項となっているであろう火影は、憂え顔をしているナルトに微笑んだ。

(…………くそっ)
煙たがられる自分に唯一笑顔を向けてくれたこの老人を失いたくない。けれど火影の意志を遮る資格など己は持ち合わせていないし、彼自身の意志をも尊重したい。
火影の微笑みを見た一瞬で、矛盾した考えがナルトの脳内でぐるぐると渦巻く。



そうして、彼を失った己は一体どうなるのだろうと、ぼんやりとした頭で考えていた。
 
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