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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百十六話 温もりと殺人鬼の瞳に映るモノ

 
前書き
はい!どうもです!

さて、今回のお話。
事前に申し上げますと、恐らく人によって今回の話は反応が分かれるのではないかな。と思っております。

もしかしたら、いっそあり得ないほどに唐突に感じる方もいらっしゃるかも知れません。
もしかしたら、あるいは既に予想済みの方もいらっしゃるかもしれません。

この話が終わった時、それが是と取られるか非と取られるかは、僕には知りようのないことですが、一つだけ前提として謝罪させていただきます。

申し訳ありません。僕は、皆さんを露骨に誘導するつもりでこれまで書いていました。
この不遜な作者をどうかお許しください。そしてもし望めるならば……

これからも、作者としての僕の事は信じないで下さい。 

 
「…………」
風巻杏奈こと闇風は、現在進行形で廃墟と化したビル群の間を、その名の如く風のような疾さで駆け抜けていた。
数分前に見た、サテライトスキャン。其処に唯一表示されていた名前の主と対峙する為だ。
Ryoko。予選決勝戦で心理戦を持って闇風を退け、今同じフィールドに居る闇風の最大の標的の一人。

先程のスキャンを見た限り、後六、七人ほど人数が足りなかったので恐らくは何処かに隠れているのだろうが、それらの連中を探すよりも今は彼との再戦の優先する事にした。
理由は多々あるが、まぁ、あの男に予選で負けたのが悔しく、リベンジをしなければ収まりがつかないと言うのが、やはり第一。それにもしこのまま月曜日を迎えてしまえば、明日明後日リアルでは学校の同級生でもあるあの男に会った瞬間、間違い無く軽口を叩かれて、屈辱で顔を紅潮させてしまう気がしたからでもある。

『そうよ。このまま明日明後日学校に言ったりしたらなに言われるか……只でさえ彼奴は態度悪いのにそれを余計悪化させる羽目になりかねないじゃない……」
それを防ぐには何としても、この本戦で件の男に一泡吹かせてやらねばなるまい。
そんな事を思いつつ、更なる力を足に込めてダッシュする。と……

「……?」
前方に、何やら突っ立っている一つの人影が見えた。全身を黒っぽいミリタリージャケットに身を包んだ髪の長いその影は真っ直ぐに此方を見据え、手に何かを持っているが視認は出来ない。と、次の瞬間その影が突然、闇風に向かって走り出した。

「っ!」
反射的に、愛銃である軽量短機関銃《キャリコM900A》を正面に向けて構える。

『やれる……!』
走ると言う事は、つまりまだあちらの射程に此方は入って居ないと言う事だろう。正面から突っ込んで不意を打つつもりなのか何か知らないが、だとしたら間合いの測り方が甘すぎる。距離が遠すぎて対応するには余裕十分だ。ならば……!
正面に向かって全力疾走しながら、引き金を絞る、と同時に、銃口から立て続けに先ずるフラッシュが走り、まっすぐに突っ込んで来るその影に殺到する。

「っ!?」
放たれた鉄の塊は、黒い影が取り出した青白い棒状の何かを振りかざした瞬間、火花と共に次々に消える。

『此奴……!』
反射的に脳内を電撃が駆け抜けると同時、気付いた。髪の長さから一瞬女性かと思ったが違う、男だ。名前も間違い無く知っている。何故なら聞いたからだ。あの予選の後……いけすかない同級生のアバターの隣に現れたその人物の正体を、闇風は確かにその同級生から聞いて居た。

そうして、次々に弾丸を切り裂きながら突進してきたその黒い少年は、ついに手に持ったそのエネルギーブレードの射程に闇風を捕えたかと思うと……

「セェ……ラァァァァッ!!!」
稲妻のようなスピードでそれを振り上げ、一気に振り下ろした。そしてその動きに……

「……!」
完全に自動で体が条件反射としての行動を起こし、腰につけていたナイフを振りあげる。ギィッ!と言うするような音と共にオレンジ色の火花が散り、光り輝くエネルギーの刃を、無骨な鋼鉄の刃が受け止めた……驚いたように長い黒髪の向こうで時には既に闇風は次の行動を起こしている。

「でぇりゃぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
真横から思いっきり右足を振りかざし、ひざ蹴りを黒い少年に叩きこもうとすると、少年は恐らくは反射的にそれを避けようとバックステップで密着していた体を離す。距離を取って……次の瞬間気が付いた。

「喰らいなさい!」
「うわっ!!?」
右手に持ったままのキャリコの銃口を再び正面に向けて引き金を絞る。

「っ!」
「逃がすか!」
流石にこの距離は不利と見たのか、全速力で真横に向けて走り出した少年を、追うように銃口を横にスライドさせる。走りつつも徐々に間合いを開けて行く少年に、もう少しで弾丸の嵐が追い着くと言う所まで追いつめ……その時だった。

──ピリッ──

「っ!!?」
突如としてうなじの辺りに電撃が走ったような不快な感覚が走り、考えるよりも先に体が動いた。即座に発砲を中止し、その場から飛び退りつつ、姿勢を低くする。と、先程まで自分の居た場所に飛来した鉄の塊が着弾し、巨大な弾痕を穿った。

その隙にとばかりに此方に向けて進路を変えようとした少年に、闇風は銃口を向けて牽制する。

「ふぅ……」
「…………」
と、そこで一つ息を吐いた。ちらりと少年をみて、口角が上がる。

「まさか、彼奴が来るより先に君が来るなんてね。弟君」
「……え?」
キョトンとした表情で目を丸くした少年の、その容姿から生み出される可愛らしさに、思わず闇風は吹き出した。

「あぁ。彼奴から聞いてないんだ?私よ。貴方の学校の生徒会長」
「え、か、風巻先輩!?」
驚いたように言った光剣使いの少年……キリトに、闇風は苦笑しながら返す。

「その名前は禁止ね。弟君」
「あ、す、すみません……」
恐縮したように首だけで会釈しつつ言ったキリトはしかし、相変わらず真っ直ぐに此方を見ている。

「さて!あなたが此処に居るのは……偶然?それとも、彼奴と一緒に何か演出でもするつもり?」
「正解じゃないですけど、後者に近いですね」
「ふーん、自分とやりたきゃ先に弟を倒せとでも言うつもり?ずいぶん偉くなったもんねェ……」
不機嫌そうにこの場に居ない男を睨むように言った闇風に、キリトが苦笑で返した。

「ま、まぁ、兄貴自身はそう言うつもりじゃないみたいですよ。伝言が有ります」
「へぇ?なんて?」
「“わり、ちょい忙しい。また次な”だそうですけど」
「ハァ?彼奴……」
イラつくように一瞬眉間にしわを寄せた闇風はしかし、すぐに真顔に戻ると深々と溜息をついた。

「まぁ、良いわ。そんなにあたしとやるのが嫌だってんなら、こっちから出向いてやるだけよ」
「えーと……そう簡単じゃないと思いますけどね」
頬を掻きつつ笑いながら言ったキリトに、闇風はフンッと笑って返した。

「そうかもね……SAO攻略組、ソロプレイヤー……勇者こと《黒の剣士》、キリトさん?」
「あはは……どうでも良いですけど俺の肩書大仰過ぎになってる気が……」
言っているキリトは少し苦笑気味だ。と、その表情が、唐突に真顔に戻り、直後に二ヤッと笑った。

「まぁでも、俺も油断出来る相手じゃないですしね、何しろあの《食材屋》が相手ですから」
「へー……知ってたんだ?」
「兄貴から聞きましたよ。先輩のあの世界での名前……どんな高難易度ダンジョンだろうと、クエストだろうと必ず一人で美味い食材を取りに行く《実力派食材屋》……アウィンさん」
「その名前で呼ばれるのも久しぶりかもね……」
そう。闇風こと、風巻杏奈はあの世界に置いて、《食材屋》をやっていた。上層階でとれる美味な食材を、下層や中層へと届ける、食の配達人。その実力は最上層部のダンジョンですら単独でもぐりこめるほどで、稀有な立ち位置に居ながら、短剣使いとしてはSAOでも指折りの猛者だったのだ。

「ま、昔の話よ」
「その言葉がもっと前に聞けたら、油断出来たんだけどなぁ……」
先程の闇風の動き。斬りつけた瞬間に腰のコンバットナイフで防いだ時のあのスピードは、間違い無く現役のそれだった。それは、《食材屋》は衰えてなどいないと言う証明だ。

「そぉ?さて、それじゃお喋りはこのくらいにして……始めましょうか?なんでシノンと貴方が共闘してるのかは知らないけど」
「あー、気付きますか……」
ちなみに彼女、この世界に置いては数少ないシノンの女性の知り合いの一人でもある。先程の弾丸がシノンであると言う事を見分ける程度は造作も無い話だった。SAOプレイヤーが剣筋でプレイヤーを見分けるのと、それほど違いは無い。

「二人纏めて相手してあげるから、掛かってきなさい!」
「それじゃ遠慮なく……後輩として、先輩を超えさせていただきますよ」
「生意気は勝ってから言うのね!!」
笑いながら言った闇風が、引き金に手を掛けた。それを見ながら、キリトは光剣を正眼に構えて二ヤッと笑う。

「……勝つから言うんですよ!」
銃声が高らかに、廃ビルの立ち並ぶ通りに響いた。


「おっと!?」
「Ya-Ha-!」
銀閃の尾を引きながら迫ってくる肉厚の刃を、リョウは危うい所で自身の右側に反らす。火花を散らしながら体のすぐ横を通り抜けたナイフを視界の端に捕えつつも、次は正面から来る弾丸を警戒しなければならない。案の定目の前に現れたPoHの持つ拳銃の銃口が目の前に現れ……

「っぶね!?」
破裂音と共に弾丸が飛び出す。のを、首を捻ってギリギリで避けると同時に左手に持ったDEで今度は此方から撃ち返す。

「Hmm」
が、打ち出された は、先程自分が行ったのと全く同じ方法で躱される。のを確認しきるよりも早く、腕を引いたPoHがコンパクトな動きで放ってきた軽い斬り下ろしを、今度は正面から右手のナイフが受け止め、そのまま押し切ろうと力を込めかけた所でPoHが距離をとった。

「察し良いねぇ……」
「Ah-Ha お前との時は、ビビりっぱなしなんでな」
「それは俺の台詞な訳だが」
フードの奥で、二ヤッと笑う気配がした。

「ッハ。まぁ、それは良いとしてだ。リョウよ」
「あ?」
「余裕か?」
「はぁ?」
首をかしげて問うたリョウに、PoHは再び問うてきた。

「M-y broski(我が兄弟様よ)、お前余裕か?お前の全力は何処行った?」
「何言ってんだお前。今現在全力すぎて死にそうだっつーの」
「Hey、Hey、Hey。止せよ面白くもねェ。そこいらのコメディアンでももっとマシなjoke吐く」
呆れたように言ったPoHに、リョウは溜息をついて首をかしげた

「あぁ?何が言いてぇのかさっぱり分かんねーんだけど」
「誤魔化すにしてもしつけェな?それとも、お前俺の頭の中がオニオンリングみてぇなもんだと思ってんのか?」
「…………」
既に笑みを消したPoHが、肩をすくめて言ったその一言に、リョウはついに閉口する。
別に、本当にPoHが何の事を言っているのかが分からない訳ではない。以前リョウがPoHと戦闘した際に使用した“集中”の事を言っているのだろう。
別にPoHが言うような余裕が有る訳ではリョウとて無かった。SAO時代からそうだが、実を言うと、不本意ながらPoHの実力と言うのは通常時のリョウとほぼ拮抗していると言って良いからだ。“通常時”と言うのは単純に、リョウにとっての所謂本気を意味する“集中”を使っていない状態の事。使うと、どう言う訳か殆ど無意識的に戦闘に長けた状態になれる。
まぁとは言っても、“集中”と自分で呼んでいるその状態が具体的にどう言う者であるのか、ついこの間までは分かって居なかった。唯なんとなく頭の中がクリアになり、戦う事だけに集中できる。と言うので使用していただけだ。速い話、具体的にどう戦闘能力が向上するかと言われれると……この前までの自分は、はっきりと答える事が出来なかったのだ。今は違うが。

そして……これがどういうものであるか“理解”してから、リョウはまだ一度も“集中”を使った事は無い。だからこそしっかりやり合っている訳だが、まぁしかしてアイリが現在進行形で命がけの戦闘をしている以上、何時までもやっている時間も……本当は無いのだ。
なら、何故使わないかと言うと……

『っは……』
自分自身が、それを使う事を自制しているからだった。
理解するまでは躊躇い無く使っていたそれを使う事を、今リョウは急激に躊躇い始めていたのだ。

『アホらしい……』
理由は、分かっていた。
集中を理解した理由。懸念となって自分自身の中にしこりのように出来たそれが、なんとも珍しい事に、リョウ自身にリミッターのような物を掛けていたのだ。自分ではそんな物はらしくないと思っているにも関わらず、しかし無意識に“集中”を使う事を躊躇っている自分が居た。

『負けりゃんなもん意味もねぇし……』
ならばすぐにでも使ってしまうに限る。何故ならこれは普段とは違い、負ける事の出来ない。正真正銘に、人間二人の命が掛かった戦闘なのだから。

「…………」
しかし、迷う。今までもこれを使う度に抱いていた懸念が、これを“理解”した事で更に増大している。
緊張しているのか、あるいはそれ以外に理由が有るのか、右手が妙な熱を持ち……。

「……?」
と、其処まで考えてふと気が付いた。おかしい。右手が不自然な程に温かく感じる。VRにおけるアバターは、内部から確認出来る生理現象はあまり省略されていない為戦闘によって現実世界での体温が上がって居るならある程度身体が火照って感じたとしてもまあおかしくはない。だがこの温かさは性質が違う。自分自身の身体が火照って居ると言うよりは、どちらかと言うと右手だけが外部から何かで温められているかのような……

「……あ」
唐突に気が付いた。この温かさに、自分は覚えが有った筈だ。

────

『りょーくん!いっしょにかえろ!』
『ぇ、あ、おぅっ!」

────

「……はぁ。ったく――」
もうずっと昔の記憶の奥にまだ染み付いたままの温かさが、今感じているその温かさと重なる。
根拠は無い。けれども、確信は有った。

どうしてそんな事が起きたのか想像して、呆れたように溜め息混じりの声を紡いだ。けれども言葉とは反対に――

「――あの馬鹿」
右手を見るように俯いたその顔は、ニヤリとした何処か嬉しげにも見える笑顔を浮かべていた。

「what?」
「ん?あぁ……いや、何でもねぇよ。そうだな、流石にいい加減失礼な気もするし……」
言うが早いが、リョウは体を若干前傾形にして、両腕をだらりと垂らすと、小さな声で言った。

「やるか」
「…………!」
「吸ううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……吐あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
過剰なほどの、いっそ異常と言ってもよいくらいの深呼吸が、冷たく、乾いた空気の中に響き渡る。そうしてその音に合わせるかのように、周囲の空気が一変する。
何がどう変わった等と、一言で表す事は出来ない。唯リョウの側から、敵意で無く、殺気で無く、しかし何も無い訳ではない。“何か”があふれ出したのを、PoHは敏感に感じ取る。
以前この男と向かい合った時、此奴が見せた“本気”。動きの質や効率、思い切りが一変したあの時の、自分が敗北を喫した理由。

『Year……』
内心で歓声を上げた。
そう、これが見たかったのだ。あの時リョウの見せたあの急激な戦闘能力の変化、その正体を確認する為に、わざわざ目の前の青年に訴えかけ、しかもそれを出してくるまで待った。ザザには悪いが、あくまでもPoHの個人的な興味の為に、だ。

──起動──

「さぁて……そんじゃ第二ラウンドと行きますかぁ?」
「……Wow、話せるようにはなったのか?」
「さてな。自分でもよく分かんねぇけど、何か何時もより意識はっきりしてる感じなんだよな……ま、んな事良いから」
言うと同時に、リョウの足が曲がる。飛び出してくる。そう思って構えた瞬間、

「jump!」

バンッ!

破裂音と共に、リョウの体が突如として加速し、突っ込んできた。逆手に持ったまま振りかざされたナイフと自分の体との間に、半ば反応だけで自分のボウイナイフを滑り込ませてそれを受け止め……

「勢ィ!」
「shit!」
そのままの勢いで腕を振り切り、PoHの体を易々と吹き飛ばしたリョウにPoHは舌打ち気味に声を上げた。しかし外的な力で飛ばされたにもかかわらず重心は崩れることなく、体勢を崩すことは無く見事な着地を見せる。と同時に左手のべレッタが跳ね上がり、正面に向けて三回ほど立て続けに引き金を絞る。が、打ち出された9㎜弾は既にPoHから見て左に一歩踏み込んでいたリョウに当たらず、即座にリョウが左手に持ったDEを向けて来るのを見て、PoHは放たれた弾丸を首を反らして避ける。

「jump!」
「!」
次の瞬間、再び破裂音が響き、何かの推進力なのかあり得ない動きで進路を変えて来たリョウが、再びPoHに迫る。彼はなめらかな動きでそれい対し再びナイフを向けると、ショウは先程と同じく逆手で持ったナイフを……

「……!」
「なんてな」
振りかざすよりも前に、リョウの右足がPoHの腹部に突き刺さっていた。加速による勢いと体重、振り切られた際の筋力値の破壊力を十分に乗せたそれは、しっかりと衝撃を彼の体に伝え、そのまま一気に吹っ飛ばす。

これには流石のPoHも耐えきれず体勢を崩し、吹っ飛んだ先で砂の上を転がる。しかしだからと言ってそのまま倒れるかと言えばそうでもない。勢いは有れど、システム的にHPはそれ程削られる一撃背は無い事もあり、勢いを受け身と共に逃がしてその力を利用してそのまま立ち上がる。しかしその時には既にリョウはDEを彼の方に向けている。

これだ。
この明らかに自身の行動に先回りしてこられている感覚は、まさしく以前自分がこの青年との戦闘時に感じた物と同質の物。自分の見たかった物だと、PoHは理解した。

そもそも、なぜ彼がこんな明らかに自身を追い詰めるような物を見たがったかと言えば、何も彼が戦闘狂で、快楽や酔狂でそれを望んだと言うわけではない。

理由自体は単純。単に、いずれリョウを殺すために他ならない。
以前の戦闘で、正面戦闘をしたとして、あの妙な戦闘能力向上に対しては正面から闘り合う事は不利と理解したPoHはその時点で、リョウとの戦闘をある程度課程付け、いくつかのステップを持って彼を殺す事を計画した。
要は今やっている“これ”も、そのステップの内の一つなわけだ。
リョウの本気をワザと出させ、その正体や弱点を見極める。実際、前回の戦闘から、彼は既に本気に対していくつか仮説を立てていた。PoHなりの観点からリョウに対しては持っていた疑問を更に煮詰めて立てた一つの仮説だ。

――そもそも、始めから疑問だった――

以前、killerに居た頃から、リョウの持つその異常な覚えの良さには、PoHも何時も驚かされていた。
素手、棍棒から携行型のミサイルに到るまで、あらゆるカテゴリーの武器が存在したkillerに置いて、しかしリョウに使いこなせない武器は無かった。
初めて使う武器ですら、リョウは少し使えばあっと言う間にその仕様を理解し、完全に使いこなして見せた。
本人に曰わく、“慣れた”からだそうだ。しかし、そもそも疑問は其処に有った。

一度使用しただけで、ほんの数分の操作で、あるいはあらゆる技を一度見ただけで理解し、次からは完璧に対応して見せる……『そんな物を、本当に“慣れ”などと言う言葉で片付けられるのだろうか?』

例えばである。これはPoHは知る由も無いが、中学生の頃の進路指導。自身の長所を書けと言う指示に対して、リョウはこう答えを書いた。

・勘。
・集中力。
・何にでもすぐ慣れる事が出来る事。

そして何故彼が友人に苦笑されつつもそう書いたのかと言われれば、その理由は即ちこんな理由だった。

“スポーツだろうが数学の公式だろうが英語だろうが、あらゆるものに関して俺は集中的に考え、見て、聞いて、実際に行動する事で直ぐに慣れる事が出来る”

だからこそ、彼は慣れを長所だと言ったのである。

しかし、この表現は少々おかしくはないだろうか。
確かに、スポーツに関しては少なくとも慣れと言う表現も間違いではない。しかし例えば数学の公式や英語を繰り返して使えるようになったからと言って“慣れた”と言う表現はどちらかと言えば少々特殊な部類に入る筈だ。
リョウ自身は一貫性の物として捕らえていた為仕方がない部分も確かにあるのだが……。

さて、では慣れで無いならば、一体この奇妙な力……と言うより、特技は何であるのか。
少し考えてみれば、PoHの中で直ぐに結論は出た。
即ち、リョウのそれは、どんなものでも一度見れば理解し、習得し、対応、あるいは応用出来るようになってしまう。そんな異常な程に高い、《学習能力》なのだと。

そう。仮にリョウのそれがあらゆる物を恐るべきスピードで学習する力であるとすれば、慣れと言うような言葉よりもよほど確かに、リョウの力に説明が付いてしまうのだ。
見た技の過程とその結果、それがどのようなスピードで来るかを即座に理解、学習し、学習したそれらを習得、応用する。理解が速く、受け入れが速いために対応も早い。それが、リョウのあの力の真実に繋がるとPoHは考えていた。そうして今、それは確信に繋がりつつある。

「よっ!」
「HA!」
突き出したナイフが割り込んできたコンバットナイフに叩き落とされ、反撃とばかりに細かい動きでの浅い斬り込みが迫るのを見て、PoHは滑るようにバックステップで下がる。空振ったリョウは其処から更に突き込みの動作に入り、対してPoHもまたそのナイフに絡めるように突きで迎撃する。
二度、三度、四度と突き合ってから、唐突にリョウが力を入れた一撃を放った事で、PoHの手が大きく弾かれる。

「ふっ!」
「……!」
出来た隙間に、リョウは一気に踏み込むと……

「っげ!?」
「Die!!」
目の前に現れたPoHの持つ拳銃の銃口によって驚きの声を上げた。と同時に、銃口が火を吹き、リョウは咄嗟に首を反らしてその弾丸を避ける。が、右の耳が抉れ、視界端に部位欠損のマークが表示された。と同時にそのいきおいによって首が大きく後ろに振れる。その隙を逃さず……

「YyAaaaaaHaaaa!!!」
「……!」
ここ一番のテンションを持って、PoHが自らの持つボウイナイフを突きこんだ。それは確実にリョウの右目に向かって迫り……

………………

…………

……

「……ふー、あぶねぇあぶねぇ……」
「…………」
突きこんだPoHの腕の内側に、リョウが居た。手に持った残弾数一発のDEが、PoHの顎に押し当てられている。

「Hey」
「ん?」
「そいつが、お前のそれの正体か?」
「……さぁ、な」
問うたPoHに、リョウは小さく肩をすくめて答えた。戦いの終わりを感じたせいか、二人の声は静かだった。

「Excellent……とんだmonsterが居たもんだ」
「怪物、ね……まぁ確かになぁ……」
PoHは、見た。

最後の一撃、PoHがナイフを突き出す“前”に、リョウが動いたのを、確かに見たのだ。そうして同時に、その意味を、確かに理解した。それが一体、どう言う意味で有るのかを。

そして同時に感じる。もし、これがリョウの本当の本質であるならば……


──もしかすると、リョウの“筋力値”は彼の強さにとって、『ほんの飾り程度に過ぎないのかも知れない』と──


「さて、そんな怪物が相手だ。諦めてくれるか?」
「Ah-Ha……まァそうつれねぇ事言うな……いずれお前の事は、最高級のメニューでもてなしてやるからな」
「要らねぇし」
呆れたように言って、リョウは引き金に指を掛けた。

「そいじゃあまた、しばしのお別れだ。またな」
「あぁ、面白れぇのは此処からだ。精々忘れてくれるなよ?My broski(我が偉大なる兄弟様よ)」
重々しい銃声と共に、最後の言葉が響いた。

──show timeはこれからだからなァ──

「……っは」
倒れたPoHの死体を前に、リョウはゆっくりと立ち上がる。

「上等上等。いくらでも掛かってこいよ」
アイリの方へと向かうために立ちあがりながら、リョウはニヤリと笑って言った。

「殺し合い(ショー)がしてぇってんなら、応とも幾らでも付き合ってやるよ。何度だろうが……八つ裂きしてやる。なぁ、ご同類……?」
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたでしょうか?

少し読みづらかったかな。と反省しております。申し訳ない……

さて、今回出したリョウの本気の正体。
多分察しの良い方はそれこそ此処に至るまでのいくつかのフラグでお気づきになった方もいるかもしれないなぁ。と思います。
なるべく唐突に見えるように書いているのですが、なにぶんフラグを隠すのは下手なもので……

まだ全てを明かしたわけではありませんが、これで七割は明かされたと思っていただきたいw

あ、ちなみに何故事前に謝罪したか、詳しく申しますと、単純です。開始当初から僕は、意図的に“慣れ”という言葉を乱用して書いていたんです。
それこそ「作者がそう言うならそうなんだろう」と誘導出来る事を狙って。

とても卑怯な手だと思いましたが、僕にはこれ以上の方法が思いつきませんでした……本当に、申し訳ありませんでした。

さて、次回はアイリさんの戦闘を少しと、その後のお話。
最近MR編が書きたくて仕方がないので、GGO編もしっかりおわらせられるよう頑張ります!

ではっ! 
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