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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  血色の少年

「だいじょーぶ、おねーさん?」

圧倒的なまでの殺意を乗せたその声とともに、さくさくという草を踏み分ける音がリーファの聴覚を揺らした。まだ、濃密なまでの闇が邪魔をして声の出所であるプレイヤーの姿がなかなか見えてこない。

「……ぇ………ぁ……」

どろりとした嫌な汗が頬を伝う。

頭の中では逃げたいという思考が膨らんでいるのに、体は金縛りにでもあったかのようにピクリとも動かない。

少年のほうも、思わずという風に剣を構える。

やがて、樹海の中から現れたのは予想に反して小柄な少年プレイヤーだった。

「…………ぇあ?」

変な声がリーファの口元から漏れ出た。その人影が、本当に小柄だったからだ。

そう、小柄なのだ。女性プレイヤーの中では、そこそこ背の高いリーファと比較しても断然低い。おそらく、リーファの胸にも届かないだろう。

咄嗟にチェックした装備は、ぱっとしない物だった。どこにでも売っているような真っ赤なフードコートに、背後の闇に溶け込んでいるような漆黒のマフラー。種族はわからない。

だが、深く降ろしたフードの向こうに覗く両眼が、妙にぎらついていた。

それに射竦められたかのように、びくりと体が反応する。

「だいじょーぶ?」

答えがないのを心配したのか、その少年は再び言った。その目には、少しだけだが気遣いのようなものが感じ取れる。

その言葉に聴覚が揺れ、リーファはやっと言葉を紡ぐことができた。

「ぁ……う、うん………」

多少頼りなかったが、何とか言えた。

そして、その言葉に満足したのか、少年は口元に笑みを浮かべる。

そこでやっとリーファはもう一人、礼を言わねばならない人物がいたのを思い出した。

「そっちの君も、助けてくれてありがと。あたしはリーファって言うの」

どことなく強張った表情だったスプリガンの少年は、リーファの言葉でやっと笑みを浮かべた。

「俺はキリトだ。それで───」

そこまでキリトと名乗った少年が言いかけた時、彼の胸ポケットから何やら光るものが飛び出した。小さなそれはしゃらんしゃらんと音を立てながら、キリトの顔の周りを飛び回る。

あっけに取られながら数歩近寄ってよくよく見ると、それは手のひらに乗るような大きさの妖精だった。ヘルプ窓から召喚できるナビゲーション・ピクシーだ。

だがあれは、ゲームに関する基本的な質問に定型文で答えるだけの存在だったはず。

リーファは隣にいる紅衣の少年に対する警戒心も忘れ、飛び回る妖精にまじまじと見入った。

妖精は空中できれいにお辞儀をして見せると、銀糸を爪弾くような声を発した。

「始めまして、リーファさん。ユイと申します」

「うわっ!」

喋った。しかも、超綺麗な声で。

視界の端で、紅衣の少年が驚いたように身じろぎしたが、意味は解からない。

「あ、いや、これは…………」

少年は焦った様子でピクシーを両手で包み込むと、引き攣った笑いを浮かべた。リーファはその手の中を覗き込みながら訊ねた。

「ねえ、それってプライベート・ピクシーってやつ?」

「へ?」

「あれでしょ、プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたって言う………。へぇー、初めて見るなぁ」

「あ、わたしは………むぐ!」

何か言いかけたピクシーの顔を少年の手が覆った。

「そ、そう、それだ。俺クジ運いいんだ」

「ふぅーん…………」

リーファは改めてスプリガンの少年を上から下まで眺めた。

「な、なんだよ」

「や、変な人だなあと思って。プレオープンから参加してる割にはバリバリの初期装備だし。かと思うとやたら強いし」

「ええーと、あれだ。昔アカウントだけは作ったんだけど始めたのはつい最近なんだよ。ずっと他のVRMMOやってたんだ」

「へぇー」

どうも腑に落ちないところもあったが、他のゲームでアミュスフィアに慣れているというなら、ずば抜けた反射速度を持っていることについても頷けなくもない。

そこでリーファはもう一度、紅衣の少年のほうに向き直る。

「そっちのキミも改めてお礼を言うわ。ありがとう」

紅衣の少年は、しばらくリーファの言葉が聞こえなかったかのようにぼんやりと宙空を見つめていたが、はっとしたように笑顔を浮かべる。

あれ?とリーファは思った。第一印象があまりにも強烈過ぎたんで気が付かなかったがこの子、びっくりするくらい無邪気な笑顔を浮かべる。

正直、このギャップは反則だ。

「ぇ………と、一応訊いていい?あなたの種族は?」

そのリーファの言葉に、初めて気付いたかのように深く被っていたフードを取った。その下から現れたのは、マフラーと同じくらい漆黒の長髪。

長すぎるので、後ろで軽く縛っているらしい。そしてその髪の間からにょっきりと生えた───

ネコ耳。

そこまで視認した時、やっとリーファは肩の力を抜いた。綺麗な三角形のそれは、ケットシーの証だ。シルフとケットシーは友好関係にあり、仲がいい。きっとそれは、双方の領主が仲がいいせいかもしれない。

「僕の名前はレンホウ、レンって呼んでね」

レンと名乗った少年が言い、近寄ってきてすっと右手を突き出してきた。

それを握り返しながら、リーファは笑顔でもう一回言った。

「あたしのことはリーファでいいわよ。よろしくね、レン」

視界の端では、キリトが手を開いて、中から出てきた頬を膨らませたユイと名乗ったピクシーに平謝りしているという図が展開されている。

リーファはなんとなく、このキリトとレンという少年達ともう少し話をしてみたいと感じている自分に気付いて少々驚いた。

人見知りとまでは言わないが、決してこの世界で友達を作るのが得意ではない自分にしては珍しいことだった。

悪い人達ではなさそうなので(何しろ助けてくれたのだし)、思い切って訊いてみる。

「ねえ、君達この後どうするの?」

「や、とくに予定はないんだけど………」

「まぁ、僕も急ぎの用事ではないし………」

「そう。じゃあ、その………お礼に一杯おごるわ、どう?」

するとキリトと名乗る少年は顔中でにこりと笑った。

「それは嬉しいな。実は色々教えてくれる人を探してたんだ」

「色々って………?」

「この世界のことさ。とくに…………」

不意に笑いを収め、視線を北東の方向に向ける。

「………あの樹のことをね」

「世界樹?いいよ。あたしこう見えても結構古参なのよ。………じゃあ、ちょっと遠いけど北のほうに中立の村があるから、そこまで飛びましょう」

「あれ?スイルベーンって町のほうが近いんじゃあ?」

リーファはやや呆れながら、キリトの顔を見る。

「そりゃそうだけど………ほんとに何も知らないのねぇ。あそこはシルフ領だよ」

「何か問題があるの?」

あっけらかんとしたキリトの言葉に思わず絶句する。

「………問題っていうか……街の圏内じゃ君はシルフを攻撃できないけど、逆はアリなんだよ」

「へぇ、なるほどね………。でも、別に皆が即襲ってくるわけじゃないんだろう?リーファさんもいるしさ。シルフの国って綺麗そうだから見てみたいなぁ」

「………リーファでいいわよ。ほんとに変な人。まあそう言うならあたしは構わないけど…………命の保証まではできないわよ」

リーファは肩をすくめると答えた。

愛着のあるシルフ領を見てみたいと言われれば嫌な気はしない。

それに、この辺では滅多に見かけないスプリガンを連れて帰れば皆驚くだろうなあ、と思う悪戯心も湧いてくる。

「じゃあ───」

「あ、ちょっと待って」

「ん?」

レンがリーファの言葉を突如遮った。

「連れがいるんだけど、一緒でいい?」

「……あ、もちろん」

そう言えばこの子の方から言い出したの初めてだなぁ、とか割とどうでもいいことを思いつつ、リーファは頷いた。

ケットシーの彼の連れならば、同じくケットシーの仲間なのだろうか。

「いいよ、来ても」

レンと名乗った少年が、背後の闇に向けてそう声を掛けた。

ゆらり、と背後の闇が揺れる。そこから吐き出されたのは───

「「うっ!」」

キリトと綺麗にユニゾンして呻く。

暗闇からのっそりと現れたのは、とんでもなく馬鹿でかい狼だ。今まで何故気付かなかったのかと疑うくらいに大きい。

その理由は、闇に溶け込むかのような艶やかなツヤのある漆黒のその狼の毛色だ。爛々と光る両眼が二つ、灼熱したように紅い。

フシュー、とジェット噴射のような鼻息がこっちまで届いてくる。そこまで見て、ようやくリーファは視認した。

その尋常でなくでかい黒狼の脇に立つ、長身の女性。

一言で言えば、変な格好だった。

その服装は、神社で見かけるような真っ白な白衣と緋袴。まぁようするに、俗に言う巫女服という奴だ。そして、あまりに非日常過ぎるので返って気が付かなかったが、腰のところに一メートル半は余裕でありそうな馬鹿長い長刀をぶっ刺している。

肌は、闇妖精(インプ)の特徴である、影部分が紫がかった乳白色。長く伸びたツヤのある漆黒の髪は、後頭部で一纏めにしてある。

「終わりましたか」

突然、その女性が声を発した。

心の奥まで響いてくるような、凛とした涼やかな声だ。

レンと名乗った少年は小さく頷き、次いでこちらに顔を向けてくる。

「紹介するよ。こっちはカグラ、それからでっかい方は僕の使い魔、《クー》だよ」

レンの声とともに、カグラという女性は静かに頭を下げてきた。慌ててリーファとキリトも頭を下げるが、上げた頃には自分達の紹介も終わっていた。

カグラというその女性はつっとリーファに視線を向けてくる。

「解かりました。そういう事なら、ありがたくご好意に預かりましょう。ちょうど都合もいいですし」

都合?とリーファが首を傾げる間もなく二人はそんな感じで決定したようだ。まだ首をかしげているリーファに目配せをしてくる。

いまだに引っ掛かる所はあるものの、とりあえずリーファはそれらを横に置いといて言った。

「じゃあ、スイルベーンまで飛ぶよ。そろそろ賑やかになってくる時間だわ」

ウインドウをちらりと確認すると、リアル時間は午後四時になったところだった。まだもう少し潜っていられる。

リーファは、飛翔力がかなり回復し、輝きの戻った翅を広げて軽く震わせた。 
 

 
後書き
なべさん「あい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「いよいよクーの登場だね♪」
なべさん「そーなんだよ!」
レン「うっせぇな………」
なべさん「Askaさんのコラボでも大活躍したクーがやっと本編でも登場なんだよねぇ」
レン「主人公の僕よりも目立ってたしね」
なべさん「こっちを睨むなよ。あれ書いたのはAskaさん」
レン「ちっ、責任転嫁か」
なべさん「事実を言ったまでだ!」
レン「(無視)はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださーい」
──To be continued── 
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