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銀河英雄伝説 アンドロイド達が見た魔術師

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姉達へ妹達へ

「敵艦発見!
 方位座標および距離をモニターに出します!
 偵察衛星破壊されました!
 敵偵察衛星発見!」

「戦術長!
 破壊を許可する!」

「了解。
 破壊します」

 偵察衛星破壊の報告をした後で皆がモニターに食い入るように眺める。
 モニターに映ったのは単艦でおさらくはピケット艦。
 その先に敵艦隊がいる。

「射程内に入ったら敵を攻撃。
 撃破した後に退避。
 情報は送ったか?准尉」

「既に。
 進路変更。
 敵射程距離まで、残り30秒!
 ミサイル反応多数!
 モニター出します!!」

「戦術長!
 武器使用自由!!」

「了解!
 応戦開始!」

 モニターに突如現れたミサイルは、艦を包むような形でこちらに向かっている。
 迎撃ミサイルが発射されるが、全部落とせそうも無い。

「ミサイル迎撃失敗!
 三割が本艦に向かってきます!!
 敵艦接近!
 射程距離に入りました!!」

 そうか。先にミサイルを慣性射出して、小惑星みたいに偽装し偵察衛星破壊がトリガーか。
 こちらはミサイルの応対にリソースを割いているから撃ち合ったら、先に負けるわね。

「敵艦に対し攻撃開始!」

「敵艦発砲しました!!
 本艦に直撃します!!!」

 
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「先行偵察に出た駆逐艦が消息を絶ったのはこのあたりか?
 大尉?」

「はい。艦長。
 敵部隊発見。
 規模は隊規模で中型艦1、小型艦15。
 更に増えています!」

「先行偵察隊という所か。
 どうしますか?隊司令」

「どうせここで逃げても戦わないといけないのだろう?
 ならば、戦うさ」

「敵艦からジャミング始まりました。
 カウンターをしかけます」

「許可する。大尉。
 全艦武器使用自由。
 射程に入り次第攻撃開始」

「了解。
 全艦に伝えます」

「艦長。主砲、エネルギー充填完了!
 いつでも撃てます!」

「戦術長。
 目標、敵中型艦!」

「撃て!!!」

「敵艦発砲!
 目標は本艦です!
 味方駆逐艦も攻撃開始しました!」

「一、二発ではこの船は沈まんよ。
 大尉。
 落ち着きたまえ」

 私、アンドロイドなので、いつものとおりですが。隊司令。
 というか、手が震えています。艦長。

「フレッチャーF853轟沈!
 ランヂョウD647戦列を離れます!
 コスモスI581より『我、操舵不能』!
 敵小型艦一隻撃沈!
 小型艦三隻戦列離脱!」

「敵さん、えらく動きが良いじゃないか」

 机に手を置くことで艦長は手の震えを抑えたらしい。
 司令もモニターから目を離さずに答える。

「艦単体の性能ではこっちが少し勝っているはずなんだがな」

 帝国艦船は領地反乱に備えて大気圏降下能力を備えている。
 その為、その降下能力分攻撃か防御か起動かに割りを食うのは周知の事実だ。
 で、それにも関わらず、対等に戦っているという事は……

「いい艦長か、いい指揮官がいるって事でしょうな」

「とはいえ、私も負けて入られないな」

 艦長と隊司令が同時に笑う。
 こんな時に笑う事ができる人になれたら……

「敵艦、本艦に攻撃を集中!
 シールド持ちません!!」



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「偵察隊が思った以上に叩かれているな。情報参謀」

「はい。戦隊司令。
 敵はこちらの索敵を邪魔する事で情報を与えないようにしていると思われます」

 先行させた偵察隊の苦戦が大モニターに映される。
 他の偵察隊も苦戦しているという報告が来ているから、戦略レベルでこの妨害は行われていると考えていいだろう。

「情報参謀。
 その意図をどう考える?」

 私は別モニターに彼我の兵力差とその予想配置図を出して、現在偵察隊が苦戦している宙域と照らし合わせる。
 想定兵力はこちらの方が多いのは敵も理解しているはず。
 ならば……

「主力を温存して一撃にて勝利かと」

 戦隊司令はふむと小さく呟いて、作戦参謀にその対策をたずねる。
 とりあえず合格したらしい。

「では、作戦参謀。
 その意図を実現する場合、敵はどういった動きを取る?」

「散らばらせて、本陣を突く。
 これしかありません。
 とはいえ、情報が無いと受身に回らざるを得ませんから、対処として、偵察隊を増強した上で再編して再度偵察に出すしかないでしょう。
 彼我の兵力差なら、まだ本陣直撃を敵が意図しても互角に戦えます」

 その言葉をあざ笑うように、戦艦のオペレーターをしている妹の一人の報告が艦橋に飛び込んできた。

「第八十七偵察隊から通信!
 敵軍発見!
 規模は艦隊規模で本陣に向かっています!!!」


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「参謀長。
 やつらは馬鹿か?」

「即答しかねます。
 何しろ大貴族様の命令かもしれませんので」

 情報から突出した敵艦隊がカイザーリング中将の艦隊である事が分かっていたけど、アレクサンドル・ビュコック分艦隊司令の言葉に私は苦笑するしかない。
 私自身はリッテンハイム侯に対する餌として艦隊母艦コンロンと共にここにいる。
 この会戦に合わせて各星系警備艦隊にて編成されたビュコック分艦隊の旗艦に指定されたと同時に参謀長に指名されたという経緯がある。
 で、私たちの目の前に、不用意に突出してきたカイザーリング艦隊がその攻撃の牙を向けようとした時、同盟艦隊からの集中砲火を食らう羽目になった。

「シールド艦展開。
 確実にやつらはこの船を襲ってくるわよ!」

 艦隊母艦コンロンを守る盾として十重二十重にシールド艦が張られる。
 その外に取り巻くのは護衛巡航艦と護衛駆逐艦。
 私を釣りの餌にした事から分かるように、鉄床戦術で私たちの分艦隊が金床の中心となる。
 こちらの被害は少なく、モニターには儚く輝く無音の蛍火が広がっていた。

「大貴族様だな。
 こんな命令を受けなくてほっとする」

 集中砲火を浴びるカイザーリング艦隊を助けるために、ヴァルテンベルク大将の艦隊とリッテンハイム侯の私兵艦隊も姿を現さずにはいられなかった。
 とはいえ、カイザーリング艦隊は壊乱状態で、リッテンハイム艦隊がビュコック分艦隊に向かおうとして、ヴァルテンベルク艦隊の射線をまたぐなんて信じられない醜態を見せ付けていた。

「こんな言葉があったそうです。
 『猟師の前に鴨が野菜持ってあわられた』と」

「撃てばシチューのできあがりだな。それは。
 鴨は鍋は持ってきてくれないのか?」

「各艦隊のがんばり次第では?」

 そして、単艦、隊での帝国軍の優位を無にする艦隊戦闘が始まった。
 なお、終わるまで三十分もかからなかった。
 カイザーリング艦隊の壊乱がひどすぎて迂回しなければならなかったのと、物資・燃料の補給が遅れた事、そして、帝国軍敗走時の隊レベルでの奮戦が無かったら帝国軍の損害は今の倍はあっただろうに。



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「同期終了しました。
 お姉さま。
 ご感想は?」

「いいものじゃないですね。
 いつもの事ですが、ここまでしないと勝てないんですね。あれには」

 アルレスハイム星域の会戦に参加した姉達・妹達のデータを同期した私は深く深くため息をつく。
 この戦いで、アンドロイドだけでも一万、ドロイドまで入れたら十四万のもドロイドが帰ってこなかった。
 そして、その奮戦によって宇宙の塵となった同盟軍の人員は三十五万人で済んだ。
 深く深くため息をつく。

 三十五万人。
 代替がきくアンドロイドやドロイドが無かったらその損失は五十万人を超える。
 中規模都市に匹敵する社会構成の中核を担う人々が、たった一回の戦闘によってそれだけ消えたのだ。
 そりゃ、同盟が疲弊する訳である。
 そして、その消耗と疲弊は原作が近づくに連れて激しくなる。
 ラインハルトを頂点とする綺羅星の将星達によって。

「議会に訴えて、軍の自動化推進比率を50%にあげましょう。
 できれば、無人艦とか作りたい所だけど、ハッキングやジャミングで無力化されるのが怖いからこれが限界ね」

 艦単位、隊単位の戦闘で押されていたのは、その位置に綺羅星の将星達が居たからだ。
 実際の戦場で発生する多種多様なチャンスを彼らはものにする事ができるが、私たち機械はそれが一番苦手なのだ。
 だからこそ、どうしても有能な提督を同盟内部に作る必要があった。

「今回の戦功でビュコック提督とお姉さまの昇進は確実かと。
 ビュコック提督に艦隊が渡せてほっとしましたわ。
 これで、安心してヤン中佐をこき使えます」

 同盟末期の大消耗時代だからこそ、ヤンは空前の大出世を遂げた訳で。
 同盟国力を弄った場合、その消耗が無いので原作時点より低い階級で始まってしまうというジレンマが人形師にはあった。
 その為に用意したのが、彼女達アンドロイドだった。
 約40年かけて、大量のアンドロイドとドロイドを生贄に、ヤンが操りやすい将官を用意したたのである。
 そして、人事がらみで彼女の下につけない時の為にヤンをこき使える人を出世させる必要があり、その白羽の矢が立ったのがビュコック提督だった。
 士官学校出ではない彼を艦隊持ちの提督にする為に払われた政治工作はそれぞ彼女達だからこそできた技。
 もちろん、他の使える将校も政治工作にて出世街道に乗せていた。

「さて、どんな物語が紡がれるのやら」

 人形師は言った。
 「銀河を引っかき回せ」と。
 彼が作り出した引っかき回された銀河という舞台が彼女達の目の前にある。
 そして、彼女達の用意した舞台をぶち壊す想定外の出来事が発生する。

 帝国内乱。
 リッテンハイム戦役と名づけられたそれは、リッテンハイム候を頂点としたクロプシュトック侯・カストロプ公とブラウンシュヴァイク公・リヒテンラーデ侯の帝国貴族最後の戦いと呼ばれるようになる。
 そして、この戦いからラインハルトを頂点とする綺羅星の将星達の名前がはっきりと歴史の舞台に上がる。

  
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