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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百十四話 敵(かたき)を信じよ

 
前書き
どうもです!鳩麦です!

結構期間が開いてしまいましたね……大学は言ったのもそうなんですが、今回はかなり難産だったのですw
というか実は前々から、このあたりの展開は難産になるであろうこと間違いなしの部分でして……なかなか筆が進みません。すみません……

では、どうぞ! 

 
さぁっと音を乾いた音を立てて、リョウとアイリの間を乾いた風が吹き過ぎた。風によって砂の擦れるだけの小さな音が、今のアイリにはとても大きく聞こえた。それだけ自分が緊張している証なのだろうなと、彼女は自分の中で結論を付ける。

現時点で、前を行く涼人から出ている指示はこうだ。

『俺が撃たれるにしろお前が撃たれるにしろ、初手の弾丸の予測線はこっちにゃ見えねぇさて……お前、殺気が分かるって言ってたよな?』
『え?』
『最初に会った時だ。どうなんだ、分かるのか分からねぇのか』
『あ、えっと、分かるよ……あの時アイリと向き合った時から……何となくだけど……』
『十分。なら、それを探せ、なんとかして一発目を躱すぞ。もし当たったら、そん時はもしお前なら俺が即座に刺さった電磁スタン弾を抜く。OK?』
『わ、わかった』

以上。
しかし、とは言われたものの、意図的に殺気を探すなどやった事が無い身としては、一体何をどうすればいいのやらさっぱりである。ちなみに目の前を歩く青年に聞いたら、「勘だ!」と言われた。成程、全く参考にならない。

と……そんな事を考えつつ、とにかく周囲に気を配りながら歩いて居ると、不意に、リョウが立ち止まった。

「ストップだ。アイリ」
「っ……」
立ち止まると同時、リョウは耳を澄ませるように息をひそめ……

──ピリッ──

「っ、伏せろっ!」
「っ!」
言われるまでも無く、アイリも伏せていた。うなじの辺りに不快な電流が走るような感覚を感じた時には、既に腰を落としていたのだ。そして一瞬前まで自分のzょう半身が合ったその場所を、唸りを上げて何かが貫いた。
即座にリョウが弾丸の飛んで来た方向を見て……一気に走りだす。その少し離れた後ろについて、アイリはM8を構えて走り出した。

────

弾丸が飛んできた方向に向かって一直線に走る。途中既に二、三発の弾丸が飛んで来ていたが、予測線の見えるスナイパーライフルなど拳銃にも劣ると言う者で、かすりもせずに躱す。

と、どうやら諦めたらしい死銃は、ようやくその姿を現した。
遮る物の無い砂漠のど真ん中に立ち、此方にP90を向けているそのその影に向けて、リョウがXM29を構える。

「よぉ、ようやく会えたな死銃チャン」
「…………」
正面から向き合うのは二度目ながら、アイリは緊張した面持ちで死銃にM8の銃口を向け続ける。
黙り込む死銃に、リョウはニヤリと笑いながら聞いた。

「お目に掛かれて別に光栄じゃねぇけど、一応言っとく、始めまして。俺の名前は……言う必要あるか?」
「お前は、ジン、か……」
「ひゅう!知っててくれるたぁ光栄だ。それなら話がはえぇ……君のお名前なんですか?」
まるで名乗るのが当然だと言わんばかりに言ったリョウに、死銃はシュウシュウと空気の抜けるような笑い声のような声を上げた。

「知りたいなら、自分で、思い出す事だ。最も、お前も、思い出せるかは、疑問だが……」
「あぁ。なんだザザか」
「!?」
言った瞬間、驚いたように死銃が息を詰める。リョウはそれを見た瞬間、確信の笑みをニヤリと浮かべた。右手でパチンっと音を立てて、面白がるように言う。

「ビンゴ~。やれやれ、其処はポーカーフェイスじゃなきゃ駄目だろ?ザザ君よ」
「…………!」
屈辱を感じているのか、マスク越しにも分かるほどに威圧感の増した赤い瞳をチカチカと点滅させている死銃にリョウはのんびりと言った。

「生憎と、俺はキリトと違って物覚えが良いんでな。ラフコフメンバー、それも幹部でその聞きづらい喋り方となりゃ、覚えてねぇわけねぇと思わなかったのかい?」
「既に、其処まで、予想して、居たか……成程、なら、言い当てたのも、頷ける……」
「負け惜しみかよ?」
リョウのからかうような言葉に、死銃は再びシュウシュウと笑う。

「ク、ク、思い出せても、何かが、変わる、事は、無い、所詮、お前には、何も、出来はしない」
「…………」
「その証拠に、のこのこと、俺の、前に、出て来た。今のお前は、昔のお前よりも、やはり、鈍っている」
「えっ?」
アイリが声を上げた、その瞬間だった。

「うおっ!?」
バギャァッ!と金属の重々しい音を立てて、リョウの手の中でXM29が砕け散った。

「リョウ!?キャアッ!?」
「!?……マジか……」
声を上げたアイリの手の中でM8が砕ける。一瞬で武装解除されたリョウとアイリに、P90を構えたままのザザがシュウシュウと笑った。

「俺は、一度も、俺が一人だとは、言っては、居ない。俺には、あの人が、共に、居る……!」
「っ……!」
今度はリョウが表情を崩した。少しだけ目を見開き、しかし、即座に二ヤリと笑う。

「何だよ……アイツ来てんのかよ」
「ク、ク、ク、だが、お前が、あの人に、会う事は、無い」
「あぁ?」
聞き返したリョウに、ザザは両手を大きく広げて言った。

「ジン……鈍った、お前など、俺でも、やれると、言う事だ」
「ほっほう。随分な自信だな、ザザ君」
押し殺すように笑いながら、ザザは余裕そうに言う。

「お前には、今はもう、槍は、無い。何より、お前は、現実世界の、腐った空気を、吸い過ぎた」
「だからお前らに負けるって?オイオイ、冗談でも止せよそんな話。負けた時みじめになるだけだぜ?大体お前なんざ俺に勝った事一度もねぇじゃねぇか」
あくまで余裕そうなリョウに、ザザは静かに続ける。

「今の俺は、昔の俺とは、全く、違う。元々、お前も、《黒の剣士》も、本物の、殺人者(レッド)じゃない。唯、自分が、生き残るために、殺した、その意味を、考えず、殺して、忘れた、卑怯な、PKKでしか、無い」
「…………」
言いながら、ザザが背に持っていた長いスナイパーライフルから、銀色の何かを引き抜いた。一瞬、銃身内部を清掃する為のクリーニングロッドかとアイリは思ったが違う。先端部を鋭く尖らせたそれは、一見細剣(レイピア)に近いが、その用途は大きく異なる。
切る、刺すを目的としたレイピアが主に騎士同士の決闘に使われたのに対して、此方は完全に実戦用、相手の鎧を刺し抜くためだけ作られたもの。
その名は、刺剣(エストック)。SAO時代に、赤目のザザがメイン装備として使っていた武器だった。

ザッ、と音を立てて、ザザが一歩踏み込む。ライフルで狙われている以上下手に動く事の出来ないリョウは一瞬驚いたように目を見開いて、しかし即座にニヤリと笑いながら聞いた。

「何だ?わざわざ近距離まで踏み込んで来てくれんの?」
「お前には、これが、ふさわしい、あの世界の、ように、(これ)で、お前を、倒す」
「っは、何だよそれ意味ねぇだろ。何こだわっちゃってんの?」
嘲笑するように言ったリョウに対して、何故かザザの声は真剣身を帯びている。

「意味は、ある。此処で、お前を斬れば、お前は、あの世界の、殺人者のトップでは、無くなる」
「……はぁ?」
訳が分からないと言うように、首をかしげたリョウに、更にザザは踏み込んでくる。

「お前は、本物では、ない。だが、お前は、あの世界で、殺人者として、最強で、あり続けた……現実は、違う、お前は、唯の、PKKで、俺達は、本物だ。お前に、俺達が、劣る道理は、無い……」
「…………」
「此処で、お前に、俺達は、止められないと、証明する……」
言って、ザザは更に踏み込んだ。それは既に、彼のエストックの間合いだ。

「俺達は、殺すためだけに、此処に、居る。お前達とは、根本から、違う、本物の、殺人者として、此処に、いる。もう、止められない、お前には、止められない」
「……はぁ」
「止めることは……出来ない!」
全く予備動作の無い突きが、リョウに飛びかかる。アイリは一瞬、それがどう突き出されたのか全く分からなかったが、ヒュンッ!と音を立てて飛んだ銀閃は一直線にリョウの顔面へと迫る。

「リョ……え……!?」
「……!?」
「……くっだらねぇ……」
しかしその尖端は、リョウの体の何処も突きさすことなく制止した。
リョウが、ガードのエフェクトをまき散らしながら、エストックの尖端を、まるでそれがさも当然であるかのように掴んでいたからである。

「覇っ!」
「く……!?」
「疾ッ!」
次の瞬間、片足でエストックをはね上げつつ、リョウは一気に踏み込むと、右手で腰から抜いたナイフをザザの首に振りかざし……

「……!」
「へぇ。少しは反応速くなったじゃねぇか」
其処にギリギリで、ザザのエストックが割り込み、それを受け止めた。エストックは元来相当に細い構造をしているためつばぜり合いには向かないのだが、何やら材質が堅いのか、あまり耐久値減少のエフェクトが出ていない。
鍔迫り合いを続けながら、顔を突き合わせて、リョウはスカルマスクの紅い瞳に向かってニヤリと笑って言った。

「ったく、てめぇがプライド高いのは知ってたけどな。本当に随分とくだらねぇ事を言いだすもんだなオイ」
「な、に……?」
「本物とか何とかアホくせぇ。それが俺達のする事に何の関係があんだよ……殺しに矜持でも持ったのか何なのかしらねぇが、殺す側に本物も偽物もあるかっての」
「お前のような、卑怯者に、言われる筋合いは、無い……」
苛立ったように言ったザザに、リョウは面白がるようににやにやと笑う。

「卑怯者、ねぇ……元々殺しする人間なんざ好きでやってるか、必要だからやってるかの二択しかねぇけど……成程、要は好きでやらねぇ奴は卑怯だって言いてぇのか。自分等と同じじゃない奴が悪いと。っは、まるでガキだなお前」
「…………!」
突き合わせたスカルマスクの奥で、ギリ、と強く歯噛みをする音が聞こえ、それに反応してますますリョウはニヤニヤと笑う。

「っと!」
「!」
しかしそれ以上口を開くよりも前に、飛来した巨大なライフルの狙撃がリョウの居る空間を貫いた。コンマ数秒早くバックステップで下がったリョウはそれを躱して、即座に攻勢に出る。

「そら!前とは違うってとこを見せてみな!」
「ジン……!」
近距離でキリトやアスナと比べると大分遅いものの、走り込んだリョウに、再び死銃のエストックが迫る。しかし……

「ノロマ」
「……!」
左手に逆手に持ったコンバットナイフで、リョウはそれを易々と反らす。そのまま走るスピードは緩めず、火花を散らしながらリョウは一気にザザへと接近する。振りかざした右手のナイフが銀色の尾を引いてザザの顔に迫り、スカルマスクの表面で火花を散らした。

「惜しい!おっと!」
「…………」
と、再びリョウの居た位置に弾丸が飛来し、それをリョウは慌てたようにバックステップで避ける。

「やれやれ、厄介な援護だ事。お前よりよっぽど問題だな」
「……!」
つくづく馬鹿にしたようなリョウの言葉が癪に障っているのか、シュウシュウと不快そうに音を立ててザザは再びエストックの切っ先をリョウに向けるが、流石に三度も不用意に打ち込んでくる様子は無い。

「学習能力位はあるか……けどお前と睨みあってても仕様がねぇしなぁ……まぁ、お前の事馬鹿にすんのも飽きてきたし……あぁ、そだ。此処で一つ、質問タイムと行こうか」
「何……?」
「っ……」
シュウシュウと言う息の音が止まり、首をかしげるような動作でザザが答えた。同時に、後ろからアイリの息を詰める声が聞こえ、しかしそれをスルーしてリョウは聞く。

「何、そんなに手間のかかる話じゃねぇよ。お前は思い出すだけで良い」
「何かは、知らないが、それに、答えると、思うか?」
「答えるかどうかはテメェの勝手だ、俺は聞くだけだからな」
これは初めから、アイリにも確認済みの事だった。そもそも戦闘中に相手に過去の事について質問ぶつけると言うだけでもおかしな話なのだ。その上、相手にはそもそもその質問に答える義務など無いのだから、寧ろ質問をおとなしく聞いてくれたらラッキー程度。戦闘しながら話す。という事もあり得る訳である、とはいえ……話し始めれば、恐らくはこの男ならば食いつくのではないかという妙な勘が、今のリョウには働いて居た。

「なんなら、剣突き合いながらやるかい?」
「…………」
飄々とした調子で行ったリョウに、ザザはしかし、警戒したのか、あるいは単に此方のペースに乗りたくないだけか、剣尖を突きつけたまま動こうとしない。

「黙って聞く奴は紳士的で好きだぜ。さて……お前らの昔話で聞きてぇ事があんのよ」
「何……?」
「まぁ、頭弱いと覚えてねぇかもだけどな……」
少し肩をすくめるようにして言いながら、リョウはザザに問う。

「ききてぇのはSAOが始まって八カ月くれェの頃の話だ。お前とPohってその頃もう会ってた?」
「……話す、義理は、無い……」
「んじゃその頃お前らに人生相談か何か死に来た女に心辺りは?」
「…………?」
行き成り死銃が、何言ってんだ此奴と言いたそうに動きを止めた。まるで此方の意図を探るかのようなマスク越しのその視線に、リョウはケラケラとからかうように笑って言う。

「あぁ、何もとち狂って言ってる訳じゃねぇぞ?そりゃお前らにそんな事聞く奴が居るなんて思ってねぇけどさ。“その方面”の話しだったら、居そうじゃねぇか」
「…………」
思い出しているのだろうか、少しばかり黙り込んだザザに、リョウは内心でほくそ笑んだ。どうやら、口でああ言いつつも内心考えてはくれているらしい。

『優しい友達を持って幸せだぜ俺は』
そんなくだらない事を思ってから、リョウはふと思い出した事があった
視線だけで砂漠の向こうを見る。先程までザザとの戦闘中に飛んで来ていた弾丸は、今は飛来しなくなっていた。立ち止まっている相手なら予測線があろうが無かろうが飛んできそうなものだが、避けると言う事を予測されているのだろうか?
というかもっと言うならば、初めの時点で狙われたのが武器だったのもおかしい。あの時点でリョウの事その物を狙っていれば、後はアイリを煮るなり焼くなり出来た筈……

「ク、ク……」
「?なんだよ」
「ク、ク、ク……成程、そう言う事か。ジン、お前も、随分と、丸く、なったな」
「……お答えどうも」
少々癪に触る言い方ではあったものの、答えとしてはそれで十分だった。ふんっ、と鼻を一つ鳴らし、更に問う。

「で?覚えてんならさっさと答えてほしい訳だが」
「ク、ク……差し詰め、其処の、女の、為か……」
「……っ!」
「あぁ?」
いらついたように首をかしげたリョウの背後で、アイリは息を詰めた。

「思い、出したぞ、あの女も、同じ、名だったな……アイリ、だったか」
「……てめぇにも人の名前覚える程度の記憶力は会ったんだな」
「ク、ク、ク……その様子だと、あの女は、死んだか」
「く……」
「さぁ、どうだろうな」
アイリが口をはさむよりも前に、リョウがおどけた様に肩をすくめて言った。

「どうやって、死んだ?一人で、討伐でも、されたか?それとも、お前が、やったか?」
「…………」
リョウは顔色一つ変えずに黙ってザザを見ていたが、しかし後ろにいたアイリはそうもいかなかった。二つ目の発言で顔色を変え、それを目ざとくザザが見る。

「ク、ク、そうか、お前が、やったか。しかし、何のつもりだ?」
「あぁ?何が」
首をかしげながら言ったリョウに、ザザはシュウシュウと笑う。

「……以前の、お前なら、殺した、人間にも、その、知り合いにも、興味は、無かった、筈──「てめぇが俺を語んな気色悪ぃ」……」
低く重々しい声が響いたその瞬間、一瞬だけ砂漠に凄まじい威圧感が吹き荒れたが、それはすぐに収まり、後にニヤリと笑ったリョウが残る。

「ま、良いや。んじゃ何?やっぱお前さん達かい?アイツに色々教えてやったのは」
「正確には、“あの人”、だ……クク、思い出して、きた。あの女、あの人との、話しが、終って、救われたような、顔を、していたな……ク、ク、ク……」
「っ……!」
楽しむような、何処か嘲るようにも聞こえるザザの笑い声を聞いて、アイリはM8の変わりに手に持っていた光剣を強く握り締める。しかし、飛び出してザザを問い詰めようとしそうになるのだけは、なんとか堪えた。

「何度も、見たわけでは、無いが、ああして、人が、“此方側”に、堕ちる様は、本当に、良いな」
「っは……良い趣味してるぜ」
「ク、ク、ク……お前も、偽物、とは言え、此方側の、人間だ……寧ろ、あの人は、お前が、俺達の側に、居ない事を、惜しんでいた……いや、訝しんで、居たな」
「えっ……?」
「…………」
「お前は、誰よりも、此方側へ、向いていると、言っていた。あの人が、其処まで言うなら、事実だろう……だが、俺は、お前を、認める、つもりは、無い。」
「認めてほしいとも思ってねぇよ」
苦笑しながら言ったリョウの前で、何故かザザは体をユラユラと揺らし始めた。

「そうか……さぁ、そろそろ、お喋りも、お終いだ。今度こそ、お前を、倒し、その女を、殺す」
「あれ、まだ諦めてなかったの?」
言ったリョウにしかし、ザザはシュウシュウと不気味に笑うだけだ。

「まだ、さっきまでと、同じ、要領で、やれると、思っているなら、それは、間違いだな、ジン……」
「あん?」
「行くぞ……!」
言うが早いが、ザザはばね仕掛けのように唐突に、先程と同じく素早い動きでリョウに向かってエストックを突きこむ。しかし、

「だからノロいって」
しかしリョウは相も変わらず軽くナイフでその軌道を逸らし。

「っ!?っと!」
反撃の動作が始まるより前に、リョウの頭がある位置に赤い光の線が走り、リョウは慌てたように身体を逸らして、後方に跳ぶ。其処に。

「!」
「おっと!」
ザザの突き込みが迫りリョウはそれを戻りきらない体勢から無理やり跳んで避ける。

『息が合ってきた……?違うか、初めから出来たのをやらなかっただけ……ったく……』
何のつもりか知らないが、舐められてるなぁ等と面倒臭く思いながらに考える。と、更に予測線が来ている事に気がつき、同時にザザが構え直して居ることに気がつき、リョウは内心舌打ちをした。

コンビネーションを此処まで高めて仕掛けて来るのは正直予想外だったのだ。仕方ないのでザザの一撃は貰う覚悟で動こうとして……

「リョウ!後ろに避けて!」
「っ!」
反射的に、身体が動いた。
バックステップでライフルの弾丸をかわしたリョウは体勢を大きく崩し、片手をついて身体を制する形になる。其処に目をチカチカと瞬かせながらザザの突きが迫り……

「セェェッ!」
「っ!?」
突如としてリョウの目の前で振り下ろされた斬光が、それを地面に向かって叩き落とした。直後、その斬光が標的を変え、跳ね上がるように死銃の元に迫る。死銃は咄嗟に体を反らしてそれを躱そうとするが、剣を突き出した反動なのか、間に合わずに、その体表をアイリの握った刃が浅く切り裂き、血色のライトエフェクトが飛び散る。

「ハァァッ!!」
「クッ……!」
「っ!ちっ!」
続けて振り上げた刃を、アイリはそのまま上段から振り下ろす。
が、バックステップで死銃はそれを今度こそ躱し切り、同時に真横から飛んで来た弾丸を避けるためにバックステップで躱す。
と……リョウが叫んだ。

「うぉい!?何してんだお前はぁ!?」
「ひゃっ!?」
自分の前に立った女に、リョウは思いっきり大声を叩きつける。当然驚いたアイリはその場で飛び跳ねるが、構ってられるか。

「下がってろっつったろ!何時前に出て来て良いっつったよ!」
「え、いや、やっぱり後ろに居るばっかりってあれだし、今のリョウ躱せなかったでしょ?」
「ぬぅ……」
図星の為其処は返せなかった。と、後ろから不快そうな声が割り込んだ。

「女……邪魔を、するな……!」
「っ……」
シュウシュウと不快そうに息次の音を響かせつつ、ザザは続ける。

「お前は、すぐに、殺して、やる……どけ。俺は、ジンに、用が、ある……」
「……だってさ」
「…………」
リョウがそう言って、アイリに退くように促し……アイリはそれを……

「……退かないよ」
綺麗に無視した
若干キレ気味に、リョウが問う。

「……アイリさん?最初に俺が言った事覚えてるよな?」
「覚えてるよ。でも、今はあの時想定してたのと状況が違うもん」
「…………」
黙りこむリョウに、アイリは一気に話した。

「二対一じゃ、リョウだって分が悪いって私でも分かるよ。さっきの連携、一回見ても少し大変だよね?リョウが信用できない訳じゃないけど……相手が二人で来るなら、こっちも二人で行かないと……」
「……道理は通るけどな……」
額を抑えつつ、リョウは溜息をつくと……ザザを真っ直ぐと見る。

「忘れてねぇ?そいつ、アレ持ってんだけど……」
「でも、リョウが警戒してるのは砂漠の向こうの人だよね?」
「ぬ……」
説得しようとしたリョウに、しかし、裏を見抜くようにアイリが言った。相変わらずザザに刃を向けたままのアイリは、隙を見せまいとするかのようにザザを睨みつけている。もしザザが拳銃を抜こうとすれば、即座に彼を真っ二つにするだろう。仮にライフルで妨害されたとしても、おとなしく当たると言う事もあるまい。

「なら、この人の相手は私がするから、その間に……「ク、ク、ク……」っ……」
真剣な顔で言ったアイリの言葉に、死銃の嘲笑が割り込んだ

「お前が、俺の、相手を、するだと?人一人も、殺した事のない、殺し合いの、意味も、知らない、女が……覚悟も、力も、無い。ジンや、黒の剣士、以下の、女が……?」
「……悪いけど……」
見下したようなザザの言葉に、怒りも憎しみも見せず、唯一つ、右手に持った“鋼鉄の片刃の剣”をヒュンッ!と斜めにひと振りして、その切っ先を真っ直ぐにザザに突きつけ、アイリは言う。

「私は、貴方の殺し合いに付き合うつもりなんて無いの。殺人鬼としての勝負がしたいなら、一人でSAOの中にでも戻ってやっててくれるかな?」
「…………貴様」
「生憎、私は普通に向き合って、高々拳銃一つに普通に当たるほど弱く無いよ。私を殺したいなら、先ず先に私の事倒して、動き封じなきゃね」
それは、正面に居るザザに言うと同時に、背後のリョウにも言っている言葉だった。拳銃一つごときに、そう易々と当たったりしない。無言でしかし言葉尻に彼女はそうリョウに言っていた。

「それが、出来ないとでも、思うか……?」
試すようなその言葉に、アイリはニコリと笑って返した。

「思ってないなら言わないけどね」
「…………!」
笑顔で放たれたアイリの皮肉に怒ったのか、ザザの両眼がチカチカと明滅する。向き合ったまま、アイリは言った。

「リョウ、行って……リョウが向こうの人と戦っても負けないって信じてる。だから、私は全力で此奴だけに集中できる。そうすれば負けない……リョウが言った事だよ?」
「む……そりゃ、そうだけどよ……」
まだ迷ったような顔をしたリョウに、ニコリと微笑んでアイリは言った。

「大丈夫だよ私、負けない……私が信じるんだもん、私の事も信じて?相棒……でしょ?」
「お前……」
少し自嘲するようなその笑顔は、きっと内心ではまた自分勝手だとかそんな風に自分を責めているのかも知れない。
本当は、互いに相手に対してまだ蟠りは残っている。しかしそれでも今は……せめて、今は……

「わあったよ。お前を信じる」
「リョウ……!」
「そうしなきゃしょうがねぇしな……けど気いつけろよ?そいつ、見かけはそれでもそれなりには強いぜ?」
ザザを顎で示して言うリョウに、相変わらずザザと向き合ったままのアイリは、少し不敵な笑みを浮かべて、短く言った。

「“私もだよ”」
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

だ、ダメだ……僕の腕ではこの編が限界です……正直これ以上上手く展開させられる自信がない……
ザザの話の持って生き方が強引だし、色々キャラ的にこんなことしないし言わないだろって突っ込みどころが多すぎる~!

お待たせしたうえにこの体たらく……申し訳ありません……

ではっ! 
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