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IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~

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number-47 vision

 
前書き


幻影。




この場合は、夜神鳥麗矢。更識楯無。織斑一夏。――――シャルロット・デュノア。

 

 


「離してっ! 私は……! 私は麗矢を探しに行くのっ!」
「落ち着けっ、更識! 今行ったって見つかる保証はない!」
「それでもっ……でも、麗矢を探しに――――」


夜神鳥麗矢がISを用いて、学園から逃走したことが発覚し、モニターを使い現在地を常に割り出して、そこに教師部隊を出している。
だが、唐突にビーコンが太平洋上で消失した。


そして麗矢を探しに行くと言って止まらない少女、更識楯無を千冬が手刀を首元に当て意識を刈り取ったところである。


普段の楯無であるならば、千冬の手刀を弾くか避けるかしている。
それが何の抵抗も見せずに意識を刈り取られてしまった。
余程錯乱していたのだろう。
事実、あれほど取り乱して我を見失った楯無は見たことがなかった。


千冬は一息ついて、モニターを見る。
それには麗矢のビーコンの反応が焼失したところ、あたりに何一つない広大な海原が広がる座標が映っていた。
麗矢の反応が焼失したところは日本の経済水域内だった。
これが公海やら他国の経済水域だったら面倒な手間がかかってしまっていた。
そこだけは安心できた。


と言ってもそれは気休めでしかない。
当然の如く、海には潮の流れというものが存在する。
ISを纏っていれば沈んでいくだけなのだが、解除されていれば中途半端に海に浮かび、潮の流れに乗ってどこかに流されてしまう恐れがあった。
一刻も早く見つけ出さねばならない。


      ◯


総合病院内。
そこのとある一室にシャルロット・デュノアはいた。


一命を取り留め、死の淵から舞い戻ってきた少女。
しかし、少女の目には何も映っていない。ただ、虚ろな目を窓の外に向けていた。


声を出すことが出来ない。
麗矢の攻撃にやられたショックとクラスター爆弾の爆発の威力、熱にやられ、もう二度と声を出すことはできないだろうと医者に言われた。


シャルロットの体の中には他の人の血が流れている。
血を大量に流し、出血大量で死の淵をさまよっていた。
その足りなくなった血を輸血で補ったのだ。


そして、昨日目を覚ました。
声を失った。仇の相手は自分のはるか遠く高みにいる。勝つことは不可能。
一夏ならば諦めた時こそが――――とか言うんだろうが、そんな根性論でどうこうできる相手ではないのだ。
あの夜神鳥麗矢という人物は。


生きることの意味をなくしているのだ。
シャルロット・デュノアという人間は。
今、体を動かせる状態にあるならば、呼吸が出来ない自分の代わりに空気を通しているチューブを抜いて死を大人しく待つのだろう。
だが、動かせない。


痛みに耐えられることが出来れば、と思うもそれは叶わない。


「――――」


声にならない何かを呟いた。
それはただの吐息なのか、それとも何か言っているのか。
それは誰にもわからない。


「――――」


シャルロットの瞳から涙が零れる。
先ほどの声にならない何かは何だったのだろうか。
吐息なのか、嗚咽なのか――――


      ◯


織斑一夏は千冬に束と麗矢の関係を話すか迷っていた。
その最中に一夏の耳に入ってきたのだ。


『麗矢がいなくなった』


それが一夏の耳に入ってきた瞬間、いつの間にか体が動いていた。
バタバタと慌しく廊下を駆け抜けていく。
途中で誰かとすれ違ったが、関わらないことにして千冬のもとへと急いだ。


千冬は教室にいなければ職員室にいつもならばいるが、一夏は職員室には向かわなかった。
向かった先は管制室。
麗矢がいなくなったのが事実であれば、千冬は真耶と一緒に管制室にいるだろうと踏んだのだ。


結果的にはいた。
だが、管制室の片隅に寝かされているセシリアとラウラ、後は名前を教えてもらっていないが学園の生徒会長がいた。
一夏の本能が告げている。


――――あれに触れてはだめだと。


「ちふっ……織斑先生」


いつも通りに千冬姉と言いそうになったが、辛うじて抑えた。
もし、あのまま言っていたら片隅に寝かされているあの三人のようになっていただろう。
千冬の眼光が鋭いものになっていた。


「麗矢が消えたって本当ですか」
「……ああ、本当だ」


答えるのに少し間があったが、そこは気にしても無駄なところであろうと一夏は割り切った。


「捜索隊は?」
「もうすでに出した」


これで確認したいことが尽きてしまった。
千冬が腕を組みながら一夏を見据える。


「……もう終わりか? 終わりなら――――」
「いえ、最後に一つ。織斑先生は麗矢と束さんの関係を知っていますか?」


千冬の声を遮って最後の質問を投げかける。
千冬は一夏の目を見る。
い殺さんばかりの目力に目を背けそうになるが、堪えて千冬を見続ける。


どれくらい経っただろうか。
それ程過ぎていない筈だ。
一分も、十秒も過ぎていないとまで思える。


そのほんのすこしが長く感じられた。
実際にはたった一秒ぐらいだったが。


「……ああ、知っているさ。あいつがどういった感情を持ち合わせていたなんて、な……」
「…………失礼しました」


千冬が目を細め、過去を懐かしむように言った言葉を一夏はほとんど聞いていなかった。
ただ、あんな千冬を見たくなかったのかもしれない。
心の中に感じた疼きの意味を一夏は知ることはできなかった。


       ◯


結論から言えば、麗矢は見つからなかった。
潮に流されてどこかに流されてしまったんだろうというもので決定づけた。
あの三人は最後まで反論したが、やはり最後は渋々だが認めるしかなかった。


麗矢がいなくなって、セシリア、ラウラ、楯無は明らかに変わった。
セシリアは気分が乗らず、どこか上の空にあることもしばしば。
ラウラは以前のようにどこか刺々しい空気纏うようになった。だが、それでいて儚げで消えてしまいそうな感じがする。
楯無が一番変わったのかもしれない。
まず、よく仕事を抜け出していたのにこの頃は抜け出すこともなく、真面目に取りかかっている。
立ち直るのに数日要したが、今となっては今まで通りの更識楯無になった。
だが、心の内は楯無にしか分からない。


楯無は思う。
やっぱり麗矢がいなければ今の私はいなかったと。
今でも麗矢のことを思い続けていると。


       





 
 

 
後書き
あと最終話だけだ……多分。 
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