自由気ままにリリカル記
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十六話~尋問という名の出来レース~
温泉でのテスタロッサとの邂逅から数日間は何事もなく、特に変な異常事態もジュエルシードが暴走するくらいしかなかったため、比較的平和な日常を送っている。
最近キラキラ転生者達がしきりに首を傾げることが多いが、それは蒼也曰く、原作と擦り合わせると本来合ったはずの暴走が消えており、その原作とのズレに違和感を感じているからだろうとのことだ。
木があちこちから生え、町を大きく破壊するとい事件が起きなかったらしいが、それは俺がその暴走する原因となったはずのジュエルシードを俺が拾ったからだと俺達は推測している。
まあ、悪いことではなくむしろ良い事だから取ってしまって良いはずなのだが、少し失敗しただろうか。と思うことが最近多々ある。
ほら、今日もそうだ。
―――あの子も中々しつこいねー―――
アリシアも少し呆れたような顔をして、俺の前にある席を180度回転させてそこに座り、現在進行形で俺を尋問している少女を見ている。
燃えるような赤い髪を上の方でゴムで縛っている―――つまりポニーテール―――子供にしては些か吊り目気味で、今の歳の子供達なら恐がりそうな容姿をしているが、随分整った顔をしているため、今は少々恐い女子と見られるだろうが、身長がそれなりに高くなってスリムな体型ならば、格好良い美人にもなれるだろうと俺は見ている。
まあ、他より少し目立ちそうな容姿をしているのだ。この少女は。
ぼんやりと見ていると、その少女は眉を顰めてこちらを見てくる。
「何見てるのよ。じろじろ見ないでくれる? キモイから」
「……はいはい。分かりましたよ秋山さん」
俺が面倒臭そうに少女、秋山仄夏に返事をすると今度はこちらを睨んでくる。
「返事は短くしろと……まあいいわ」
(そんなことより、あなた転生者でしょう)
急に念話で語りかけてくるが俺自体は秋山が念話を使えることくらい知っていて尚且つ、以前俺が蒼也にした時のように動揺する様子を見せなかったため、このまま念話に無視し続ければ俺は転生者だと思われなくて、済むはずだ。
どうも、こいつは蒼也みたいに他の転生者が良ければ協力していこうというスタンスではなく、他の転生者は殺すべきだとでも言いそうな雰囲気を出している。
何より、キラキラ転生者や蒼也、俺をゴミでも見るような目で見ているのがその証拠だろう。
(黙ってても無駄よ。私は転生者かどうかを判別する特典を持っているのだから)
尚も秋山は無視し続ける俺に語りかけてくる。恐らくは転生者を判別できると言って俺に揺さぶりを掛ける気なのだろう。
(あなたの転生特典は、Aランク相当のリンカーコアを内蔵する。様々な形に変形できるインテリジェントデバイス。あなたの限界値の底上げ。でしょう? 随分と弱い特典をつけたものね)
そう念話で秋山は告げると、唐突に鼻で笑ってきた。
……訂正。こいつ、転生者かどうかを判別する特典を持ってやがる。完全に俺が転生者であることを分かった上で尋ねてきやがった。出来レースかよ。
(……それで、なんの用だ。転生者だからって俺に話しかけても何の得にもならないだろう)
(ふふん……聖祥四大女神の私から話しかけられただけでも光栄だと思いなさい)
(性格は悪いけどな)
俺はあまり詳しくは知らないのだがこの学年男子全員にどの女子が可愛いかというアンケート調査を女子達には気づかれないようにしていた男子がいた。
そしてその結果ダントツで票が多かったのが高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、秋山仄夏の四人だったのだ。
アンケートの結果を見た男子の誰かが【聖祥四大女神】だと言い出し、それが急速に学年中を広まったため、その四人をまとめて呼ぶ時にはそう呼ぶのが男子の大半の中で当たり前のようになっている。
そこから発展してそれぞれにファンクラブが立ち上げられているのだから始末におえない。
まあ、男子がそれだけ騒いでいるのだから女子にも広まっているのは必然というわけなのだ。
(うるさいわ。今すぐあなた程度ならすぐに殺してあげてもいいのだけれど……私が殺したことがばれても都合が悪いから今は見逃してあげるわ)
(……それで、一体何をしに来たんだ)
(……ああ! そうそう。すっかり忘れてたわ。あなた、私のすずかにその汚らわしい手で触れたそうじゃない。それにあなた程度が私のすずかに強制的に会話させていたですって? ……次こんなことをしたら殺してあげるから、気をつけなさい)
そう念話で告げたすぐ後に、隣のクラスから凄まじい怒声が聞こえてきたと思ったら、秋山はぱっと顔を明るくさせて、ダッシュで自分の教室へと戻って行った。
その後、しばらくするとまたも念話がやってきた。
(邦介、助けてくれ)
(突然何だよ。いきなり念話をしてきて。俺は昼飯を食うのに忙しいんだが)
秋山が来て昼飯が食えなかったのだ。
……確かについさっき隣の教室からバニングスの怒鳴り声が聞こえてきたけども。
蒼也がテストでバニングスに勝ったとかそんな感じか?
(高町なのはとアリサ・バニングスが喧嘩した。しかも今回は中々長引きそうな雰囲気をしている)
(そうか……まあ、頑張れ。っていうかそれは原作にあった流れなのか? 思い出せそうで思い出せないんだけど)
こういう事がなんとなく原作にあったよなあ。って感じはあるのに何に関係したのかは全く思い出せない。アニメは流し見してたのか。俺。
(邦介はここの流れを覚えてないのか。……まあいい。バニングスが高町なのはに宝石集めで疲れている所を見られて、何故理由を教えないのか、ということで怒っているんだ。その所為でクラスの空気が絶対零度に一瞬だけだがなった)
(そうなのか。まあこれは特にどうこうしなくても元通りになるんだろ?)
喧嘩の仲直りの違いで物語に影響したらどうしようもねえよ。
(まあ、これについては神白、津神、縁がやってきても何も影響はしなかったからそうだとも言えるんだが……)
(……そこで何かあったのか?)
(予想通りにその三人が高町なのはに向かって、いつも通りわけの分からない言葉を言ったが、そのあまりのしつこさに「話しかけんな、なの」ってボソリと言ったんだ。無表情で)
(………恐いな)
(だろう? だから誰も話かけることが出来ずに喧嘩を起こしたバニングスがいなくなったにも拘らず、気まずい雰囲気がまだ漂っているんだ。どうにかしてくれ、邦介)
(無理。俺って高町と間接的にしか面識無いから高町にとって俺は左腕にしか手袋を着けていない変な人でしかないからな)
(自覚してるなら右手にも手袋着ければいいじゃねえか。……まあ、このことは後でどうにかしてみよう。何故かクラスの視線が痛い。それより、邦介の特典ってなんなんだ? そもそもお前の力が俺の知っているアニメには無いんだが)
唐突に聞いてくるな。まあ別にばらして減るものじゃないからいいけど。
(まあそりゃ当然だな。俺が願った特典は、リンカーコアを俺に内蔵する。俺の戦い方に適応できるデバイス。能力の限界値の底上げ。この三つだから俺の魔法は異世界で自然と手に入れたものなんだ)
(……それは本当か?)
(おお、まじだまじ。特典を教えろとしか言われてねえからそれしか教えねえ。後は自分で考えてくれ。……それで、蒼也の能力はなんなんだ?)
(俺のは…………超能力だな)
(超能力っていうとサイコキネシスとかそんなもんか。それ使えるのか?)
(ああ。超能力と言っても脳の使われていない部分を使って、超人じみた力を使うことを言うからかなり汎用性はあるな)
(……ああ! もしかしてPSYRENか?)
PSYREN(サイレン)は好きな漫画で何度も読んだからよく覚えている。
確かにあれなら汎用性としては良いな。魔力は使っていないだろうから、魔力探知には引っかからないし、特典も上手く纏めれば一つのお願いで回復、遠距離攻撃、身体能力強化の特典を貰う事も可能だ。
(知っているのか!? ……意外だ。あの漫画を知っている奴は結構少ないと思っていたんだが。面白いのにな)
(ああ。それより蒼也。お前は特典一つでライズ、バースト、トランスを使えるようにお願いしたのか?)
(勿論そうだ。転生してから中学卒業頃まで鍛えたら八雲 祭のスペックになるようにお願いしておいたからな)
八雲祭はPSYRENの原作において、苦手な所が整理整頓くらいしかないチートキャラだったのは覚えている。天候をテレキネシスで操り、太陽の光すら捻じ曲げて地上に届かなくさせる程の敵キャラとも互角に戦えていたのだから、かなり強いはずだ。
(そりゃ便利だ。あのオールラウンダーなチートキャラにするってのは考えたな)
(まあな。……とうとうクラス委員が代表でなんとかしてくれって頼んできたからちょっと逝ってくる)
(おう、しっかり逝ってこい)
ついでにフラグも頂戴してこいや。
…………それにしても、蒼也は超能力者か。良いなあ。
俺も使うことは出来ないだろうか。
別にリンカーコアみたいにある人が限られているわけじゃなくて、元々使われていた部分が使われなくなっただけだから、俺も頑張れば使えるだろうか。
原作では別に特殊な場所に行かなくても超能力に目覚めた人とかいたからきっといけるか?
……今度蒼也にバーストでも当ててもらって体に覚えこませてみようか。
後日、断られたことをここに記す。ケチめ。
その際になら俺の異世界産の魔法も教えてくれ。と言った後すぐにまあ無理だろうけどな。と自己完結しやがったため、教えることが出来ることは絶対に教えない。
俺が超能力を習得するまで黙るのをやめない。
……隣のクラスにいたから俺には絶対に被害は無いとたかをくくっていた時に、月村登場。
疲れた表情でうじうじと愚痴を言って、最後には「やっぱりなのはちゃんとアリサちゃんって可愛いよね」という言葉で締めて帰って行った。一体何がしたかったんだよ。
早速秋山の言葉を無視したわけだが、その場面を見ていなかったらしく俺が下校する際に後ろから刺されるということはなかった。
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