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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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四十五 炎の記憶

 
前書き
捏造多数です。
/追記・申し訳ございません!前回の題がしっくりこなかったので、題名だけ変えさせていただきました。勝手にすみません…。




 

 
本選会場は試験が始まって以来の騒がしさであった。

待ちに待った試合に歓声を上げる者。喧々囂々と声援を送る者。そしてその中には、虎視耽々と暗殺を企てる者の姿もあった。

「暗部が十六人。四小隊か…。少し、多過ぎないか」
「この広さだ。仕方なかろう…――――始まるぞ」
会場に配備された暗部の数。少し腑に落ちない顔で首を傾げたカカシの疑問をガイは大して気に留めなかった。ガイに促され、カカシもまた対戦場…特に自分の教え子を注目する。

緊張感の漂う試験会場。うちはの生き残り―うちはサスケと、砂瀑の我愛羅。
明らかに激戦となる予感を覚え、生唾を呑む観客達。先刻とは打って変わって、しんと静まりかえった会場で試験官の開始の合図が言い放たれた。

試合開始直後、対戦相手の様子がおかしい事にサスケは逸早く気づいた。出方を窺う。
ぶつぶつと独り言を言う我愛羅を気味悪げに見ていたサスケは、彼が正気に戻ったのを見て取ってやっと勝負を仕掛けた。

まずは小手調べとばかりに手裏剣を投擲。容易に砂で防がれる。だが既にサスケは我愛羅の懐に潜り込んでいた。殴り掛かる。
彼の拳を砂で防御しようと構える我愛羅。だが次の瞬間、視界からサスケの姿が消えた。驚きに目を見張る。背後で風の音がし、我愛羅は弾かれたように後ろを振り返った。同時に感じた既視感。

頬に衝撃が奔る。ピシッと罅の入る音がした。


殴られたのだと気づいたのは吹き飛ばされた後だった。「それが【砂の鎧】か」と言い放つサスケを我愛羅はじろりと睨みつけた。
目で追えず、砂で追えず。予選試合にて垣間見えたロック・リーの動きを倣う。いやむしろ彼そのものだと言えるほどの体術を繰り出したサスケは、すっと拳を掲げた。挑発する。

「その鎧、剥ぎ取ってやるよ」

ポロッ…と砕かれた頬の欠片が両者の足下で砂と化した。











「痴れ者が、いい加減にしろ!!」
怒鳴る。飄々と風が唸る崖上で、その怒声はよく轟いた。

「部外者の分際で木ノ葉を侮辱するか!火の意志を抱く我ら、同じ里の仲間に手は出さん!!」
「所詮それは大義名分だ。平和な里としての体裁を保つ為のな」
ダンゾウに代わって声を荒げる『根』の一人を、ナルトは淡々と見上げた。

剥き出しの岩壁がそそり立つ嶮岨な場所。その中でも強烈な風に最も打ちすえられるだろう地点にいるナルトは、細身でありながら微塵も揺るがなかった。瞬き一つさえせず、ダンゾウを真正面から見据える。
一方のダンゾウは部下の抗議をただ黙殺していた。ようやっと口を開く。

「うちはサスケは一族の最後の生き残りだ。貴重な人材を見す見す殺すと思うか?」
「里の為…と言ったら?」
木ノ葉の里を第一に考えるダンゾウに、ナルトは質問を質問で返した。大蛇丸がサスケに目をつけている事などとうに知っているだろうに、と付け加えられ、ダンゾウは片眉を吊り上げた。

「だからこそ監視していたのだ。大蛇丸の魔の手から守る為に」
「違うな」
一蹴。見事なまでに堂々とナルトは反論してみせた。ダンゾウの眉間の皺が一層深くなる。
「機会を狙っていたのだろう?畑カカシの庇護から離れる瞬間を」
ナルトの発言にダンゾウは目を瞬かせた。やがて片頬を歪める。嗤ったようだった。
「それならばなぜ会合の合間に消されなかった?あの時畑カカシは会議に参加する為、一度サスケから離れたはずだ」

火影を始め、木ノ葉の忍び達―上忍や特別上忍といった一部の者が額を集める議場。その会合にてカカシは月光ハヤテが意識を取り戻した事・大蛇丸に関する議論を行い、また自来也とも挨拶している。確かに彼はその時サスケを一人にしていた。ダンゾウの言う事は道理に適っている。
だがそのもっともな指摘にもナルトは動揺一つしなかった。

「観客がいなければ意味が無いからだよ」
「なに?」
「騒ぎに乗じてサスケを暗殺し、誰に殺されたのかわからないようにする。そしてその罪を別里の忍びに被せる…。今回の場合、音と砂かな」
「…なぜそう言い切れる?それに今の言葉だと、まるで直に戦争でも起きそうな物言いだな?」
「まるで、じゃない。事実だ。そしてそれは、貴方が一番熟知している」


何しろ、大蛇丸本人から聞いたのだから。


唇のみで囁く。無言の声は正しく、ダンゾウに伝えられた。
事の次第を知らぬ『根』には、あえて聞こえないように。ダンゾウ以外でその唇の動きを読めたとしたら、それは崖上の猫だけだろう。
「…………」
一瞬ダンゾウは言葉を失った。次第に爛々と黒く燃え上がる瞳。カツンと響いた杖の音が怒りを露にしていた。

「…何の証拠があって、そのような言いがかりをつける?根拠は何だ」

珍しく切羽詰まった口調の主を、部下達は驚いて振り仰いだ。だがダンゾウはその驚愕を孕んだ視線を気にも留めず、ナルトを凝視していた。
何時になく硬い顔つき。彼の動揺を推し量り、ナルトは黙って微笑んだ。

おもむろに手を懐へやる。再びクナイに手を掛けた部下をダンゾウが視線で制した。それを目の端で確認した後、巻物を広げてみせる。その紙面には何も書かれていない。
怪訝な表情を浮かべる彼らの眼前で、ナルトは巻物を空中に放り投げた。空中回転する巻物の下で指を鳴らすと、その指先がぽっと輝く。青い炎。
回転しながら目前まで墜ちてきた巻物が炎に包まれる。燃え尽くされたかのように見えたが、巻物は何事もなくナルトの手の内に納まっていた。

焦げ跡一つないそれをナルトは無造作に放り投げる。受け取った巻物をダンゾウは見るからに疑わしげな表情で広げた。紙面をざっと眺める。目の色が変わった。


何も書かれていなかったはずの紙面には、ダンゾウと大蛇丸が取り引きしていた事実を裏づける証拠がびっしりと綴ってあった。









「こいつは特殊でな。焼いたモノ全てを記憶し、紙媒体に転写する習性を持つ。たとえば最初に焼いたモノが情報や画で、次に焼いた物が巻物などの紙だった場合。この火は巻物を情報記録紙と判断し、それを媒体とする。複写機のようなモノなんだよ」

文字、或いは映像、或いは画。それらを情報と判断し、書物や巻物といった紙を記録媒体とする。その情報を複写し、定着させるには別の紙媒体を燃やせばよい。
巻物を燃やしたとしてもそれ自体は焼失せず、以前燃やした情報が熱を持ってその紙媒体に付着する仕組みとなっている。要は最初に燃やした文や画が紙媒体に転写されるのである。勿論炎としての役割も担っており、ただ燃やす事も可能。

ダンゾウと大蛇丸。互いに互いが用心深い輩同士、相手の取り決めを示す物件類が残っているとナルトは踏んでいた。
故にわざわざ自らを囮とし、多由也に大蛇丸の部屋を物色してもらったのだ。案の定室内には、里の詳しい地形が載った地図や本選会場の見取図・暗部服一式等があった。そして決定的はダンゾウと大蛇丸の署名が施された血判状。
それら証拠を写真に収めさせ、情報として青い炎に記録させるのが目的だったのである。

大きい街はたった数年の間にも意外と変わるものだ。如何に木ノ葉の里出身だからと言って隅々までが以前のままとは限らない。故に詳しい地形が載った地図が大蛇丸には必要だった。また暗部に扮する為に暗部服一式や本選会場の見取図等も手に入れなければならなかった大蛇丸は、それらを秘かに盗み取れたにも拘らず、ダンゾウ本人に同盟を持ち掛けた。その理由は一つ。
ダンゾウ率いる『根』を敵に回したくなかったのだ。

木ノ葉の忍びに加えて『根』と敵対すれば手を焼くのは必須。元一員だったからこそ大蛇丸はダンゾウと手を組むのを選んだ。望むべきは『木ノ葉崩し』の黙認。
その申し出をダンゾウは呑んだのだ。火影の椅子を提供するのを条件に。

ダンゾウは正直焦っていた。光の中の木の葉である猿飛ヒルゼンを影から支える根として彼は生きてきた。だが年を経るたびに火影として木ノ葉の里を守りたいという一抹の野望が頭を擡げてきたのである。
己の対となる猿飛ヒルゼンは、光だ。『プロフェッサー』または『忍びの神』と謳われ、皆に慕われる、正に完璧な火影。対して自分はどうだ。
光とは対極の闇。太陽の陽射しが届かぬ、深い闇にひっそり潜む根だ。
一度はあの王座についてみたい。死ぬ前に里の頂点――歴代火影に自分の名を刻みたい。
胸の内に芽生えた野望の種は日に日に大きくなり、大蛇丸に取り引きを持ち掛けられた瞬間に弾けた。

弟子が不正を行えば、当然師である猿飛ヒルゼンも罪を問われる。非の打ち所が無かった最高の火影に汚点を残せられる。
勿論ヒルゼンの死を望んでいるわけではない。大蛇丸が彼を火影の椅子から引き摺り落としてくれればそれで良いのだ。

そこで大蛇丸が『木ノ葉崩し』以降は決して里に手を出さぬよう、生贄を差し出した。それが、うちはサスケだ。


「ワシがしようとしている事はいわゆる一殺多生だ。一人の犠牲で里が救われるのなら安いものだ」
「だがうちはイタチにバレると都合が悪い。それにサスケ本人が自分を売った里に復讐する危険性もある。だから殺すのか」

カカシがサスケから離れる本選試合中。それも大蛇丸が『木ノ葉崩し』を仕掛けた瞬間に暗殺。さすれば木ノ葉側はサスケが音や砂に殺されたと勘違いし、うちはイタチは『木ノ葉崩し』の首謀者である大蛇丸に恨みを抱くだろう。

「知らぬ間に売り飛ばされるとは、サスケも悲惨だな」
心底同情しているナルトをダンゾウは鼻で笑った。
「人の心配をしている場合か?自分の立場を考えてみろ」

ゆるゆると片手を上げる。刹那、ナルトを『根』の精鋭部隊が取り囲んだ。その中には色白の少年の姿も見える。主の命令に従う彼らの顔触れを確認するふりをして、ナルトは崖上の猫をちらりと見遣った。口角を吊り上げる。


「……俺を殺すか?」
瞳の青が不穏な輝きを放っていた。












驚異的な速度。写輪眼でロック・リーの動きを模倣した彼の体術に我愛羅は為す術がなかった。接近戦を強いられる。

次々と【砂の鎧】が剥がされた最中、我愛羅の顔つきが変わった。その眼は興奮で満ち溢れていた。
彼の頭の中には、『木ノ葉崩し』も国同士の事情も計画も何もかもがどうでもよかった。
印を結ぶ。咄嗟に距離と取ったサスケの視界を砂が横切った。

突如として我愛羅の姿を覆い隠す砂。繭のように彼を包み込む。眼前に聳える砂の球に、絶対防御って奴か、とサスケは悪態を吐いた。

全てを防御に回した砂の円球。硬度にも程がある難攻不落の城に、観戦していた我愛羅の姉兄は顔を青褪めた。計画の要である弟の暴走を察したのだ。急ぎ、風影を仰ぎ見る。しかし父であるはずの風影からは何の指示も得られなかった。

砂の球から聞こえる不気味な歌。どうやら大技を仕掛けるつもりらしい我愛羅に、サスケはくつりと含み笑った。
(ちょうどいい。俺のコイツも時間がかかる…)
軽やかに跳躍し、彼は対戦場を囲む壁上を走った。右手で左手を押さえる。眼が赤く染まり、浮き上がる車輪。
やがて〈チッチッチ…〉と鳥の囀りが聞こえてきたかと思うと、左手が俄かに光り出した。

「雷に、お前の砂は耐えられるか」

手から迸る雷が全身を青く染める。眩いばかりの雷光を手に宿し、サスケは疾走した。壁を伝い、一直線。目指すは入り口のない砂の要塞。

体術のみを極めた事で肉体活性による高速移動。その驚異的な速度を併用し、相手目掛けて突進する。手だけに一点集中させたチャクラは目に見える電撃となり、写輪眼を持つ者のみが扱える術である。基本的だが最も威力のある突きであり、且つ皮肉な事に暗殺に向いた攻撃でもある。

サスケが走った軌跡。それは凄まじい雷によって抉れた路となっている。〈チッチッチッチ〉と啼き続ける声が、殻に閉じ籠もっていた我愛羅の耳にも届いた。外界の変化に気づき、砂で攻撃する。しかしサスケのほうが速かった。


「【千鳥】ッ!!」

決して突破されぬ絶対防御。それが今、破られた。
 
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