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少女1人>リリカルマジカル

作者:アスカ
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第二十一話 少年期④



 時計の秒針が、刻々と時を刻む音が妙に聞こえてくる気がする。ふと気づくと時計を見て、まだそれほど時間が過ぎていないことに気づいて視線を戻す、の繰り返し。緊張しているのかな、と今の自分の状態に思い当り、失笑してしまう。

 こういう時、俺はいつも自分の普段の姿を思い出すようにしている。いつも通りに笑って、いつも通りに話して、いつも通りになんとかなると考える。そんな風に思考を巡らせることで、落ち着くことができていたからだ。

 変な性格だと俺も時々感じる。普段の俺は決して演じたものではないのに、時たまこうして自ら演じようとする。いつからそのように感じるようになったのかは覚えていない。だけど、客観的に俺を見る視点がいつのまにかできていたのは確かだ。


「ねぇ、お兄ちゃん。ここの魔法の対応表がよくわかんないよー」
「ん? なんだ、アリシア?」
「しゅくだぁーい」

  俺のもとにトテトテとテキスト片手にやってきたアリシア。先ほどのこぼれしまった笑みを消し、いつもの笑顔を浮かべて俺は妹と向き合った。妹と目が合うと一瞬瞳が揺れたような気がしたが、改めてみても特に変化はない。気のせいだろうか?

 アリシアが持っているのは、母さんとお姉さんが用意してくれた魔法のテキストだ。俺用なのだが、妹も気になったのか同じものをもらっていた。ただ時間を待つよりも、妹と話をしている方が楽しいだろう。俺は妹の宿題の手伝いにOKを出し、手招きをした。

 それにしても、このぐらいの年齢の子どもってなんでも真似したくなるみたいだな。理数で泣いている俺用とはいえ、さすがに6歳の子どもには難しい内容ではある。よく妹から質問があるので、俺自身も勉強になる。人に教えると逆に深まるし。

「えーとこれは確か、魔法陣の詠唱コードの部分か。おーい、コーラル。法陣制御ってこっちのコードとつなげればできたよな?」
『えぇ、正解ですよ。術者の魔力収集力を高めるには、そこで一括に変換する必要がありますから』
「それじゃあ、この部分の表を見ながら解いてみたらいいよ。こことここに繋がりがあるから、関係性……えっと魔法陣を展開させるときの順番が見えてくるから」

 頑張って説明してみたが、妹はまだ難しい顔をしている。明らかにこれ6歳児がやる勉強じゃないよ、正直。専門分野の領域だ。母さんが言うにはこれでもだいぶ簡略化されたものだそうだけど。

 ミッドチルダ式の魔法は今では一般的に普及された魔法だが、他の魔法体系に比べるとまだまだ歴史は浅い。しかし利便性はかなりあり、現在進行形で魔法の開発も進んでいる。

 安全性を考慮した魔法(非殺傷設定など)も開発され、それに伴い構築式もどんどん増えている。今はいかに魔法を簡単に発動させられるかが課題としてあり、将来的には今よりも魔法の種類も多くなりながら、簡略化されるだろうといわれているらしい。


『ますたーも成長しましたねー。前なんて頭痛起こして転がるのがデフォだったのに』
「デフォ言うな。まぁここら辺は対応表を覚えたらある程度はできるしな」

 俺も筆記用具を手に持ち、アリシアと一緒に問題を見ていく。妹が詰まったら声をかけ、ヒントを言っていく流れを繰り返していた。

 そういえば、うろ覚えだけどアリシアって確かあんまり魔法が使えないんじゃなかったっけ? フェイトさんはアリシアと違い、母さんの資質を受け継いだって話を聞いたことがある。今思い出した内容に、俺は眉を寄せた。

「……なぁ、コーラル。前に魔力光見たとき、アリシアの生体情報を取り込んだよな?」
『えぇ。そうですが』
「じゃあ、アリシアはその……魔法って使えそうなのか。魔力はあるみたいだし」

 自然と声が小さくなりながら、妹がテキストとにらめっこしている様子を見つめる。一生懸命に勉強する妹の姿。お姉さんに魔法を見せてもらった時や自分の魔力光を初めて見たときの喜びようを俺は知っている。

『……マイスターも気にしていましたね』
「え?」
『魔法は使えます。ただアリシア様の魔力量はEクラス。それにますたーやマイスターのような「電気」への変換資質はなく、なによりも魔力変換効率が高くありません。言い方は酷いかもしれませんが、僕は魔導師として生きることをおすすめできません』

 音量は小さいながらも、コーラルのきっぱりとした口調に俺は驚く。薄々感じていたが、母さんもコーラルもアリシアが魔法に触れることを止めたことはなかったが、逆に進めたこともなかった。

 俺はこれ以上の会話は妹に怪しまれるかもしれないし、内容もアリシアにとっていいことか判断できなかったため、念話に切り替える。コーラルも察したのか、すぐに念話を繋げてくれた。

『……母さんもアリシアの魔力のことは知っているのか?』
『知っていますよ、ずっと前から。魔導師以外にも道ならいくらでもあります。だから、マイスターはアリシア様に一切の魔法関係に触れさせないこともできました。半端な力を持っている方が、かえって危険を招くこともありますから』

 だけど、アリシアはこうして俺と勉強している。アリシアが魔法を使えるように頑張っても、魔導師としての大成は難しいのに。それなのに母さんは、当たり前のように妹にも魔法に触れさせている。

『それは、ますたーがいることも大きいですね』
『どういうことだ?』
『ますたーはマイスターの資質を色濃く受け継いでいますし、魔導師になるための勉強もしています。それを身近で見ているアリシア様が、魔法に強く関心を持ってしまうことは予想できるでしょう?』
『あっ…』

 確かにコーラルの言うとおりだった。間違いなくアリシアの魔法の関心は俺の影響だ。俺だって身近に魔法を勉強している存在がいたら、気になって仕方がない。自分だってやってみたいと思って当然だ。それを一方的に自分だけ止められたら、危険だからって納得できるわけがない。

 原作のアリシアが魔法に関してあまり関心がなかったのは、環境という要因もあったのかもしれない。彼女は魔法に触れる機会がほとんどなかったのだから。辺境に住んでいたため身近に同年代もおらず、母さんたちは開発者で魔導師とは繋げにくい。

 だけど、この世界には俺がいた。ただ俺自身が魔法を使いたいから、という理由で始まった魔法と関わる日々。母さんはきっと悩んだのだろう。将来的にアリシアを苦しめてしまうかもしれないことに。

『俺、なにもそんなこと考えていなかった』
『あ、決してマイスターはますたーを責めてなんていませんよ。ある意味、時間の問題であったことも事実ですし。マイスターはアリシア様が選ぶのが一番だと言っていましたから』
『アリシアが?』
『はい。魔導師の道を選ぶのかはアリシア様が決めること。周りが勝手に、魔力資質があまりないからと将来を狭めるのは違うって言われていました。当然困難な道ですから、マイスターは最初に止めるでしょう。でも、それでも目指すのなら精一杯背中を押してあげたいって』


「お兄ちゃん、大丈夫? 具合悪いの?」
「あぁ、大丈夫だよ。ちょっとここの制御式を思い出そうと悩んでいただけだから」

 俺は、母さんの考えはすごく共感できた。俺自身アリシアのこれからは本人が決めるべきで、魔力資質で将来を狭めるのはおかしいって思う。思うけど、……それでも俺はアリシアには魔導師になって欲しくなかった。

 ただの俺のわがままだ。魔法を使うだけならいい。でも魔法を使う仕事にはあまり就いてほしくない。それだけ危険がはらむかもしれないのだから。だけど決めるのは妹だから、俺はこれからもアリシアが望むのなら一緒に魔法に触れていくのだろう。

 それは、単純に問題を先送りしているだけなのかもしれない。妹の魔力資質を本人に伝える時だっていつかきっと来るだろう。祈るのならばその時、せめてアリシアが傷つかないでほしいと俺は願った。

 俺はアリシアと問題のやり取りをしながら、勉強を再開した。



******



「あ、チャイムの音だ!」
「……ほんとだ。俺が見てくるから、アリシアは待ってて」
「はーい」

 あれから少し時間が経ち、家にチャイムの音が鳴り響いた。いつもなら母さんが管理局に行ったら、入れ違いにお姉さんが来てくれていた。しかし今日は、おじいちゃん曰くお迎えの人が来るからか遅かったみたいだ。

 もし間違いだったり、不審者ならまずいためドアののぞき穴から覗いてみる。するとチャイムを鳴らしたのが、俺の知っている人物であったことが判明。どうしたのかと思い、俺は扉の鍵を開けた。

「お兄さん、どうしたんですか。母さんに何かあったんですか?」
「そんなに慌てるな。君の母親に何かあったわけではない。迎え……といえば通じるか」

 扉を開けた先には大柄な男性局員さんが待っていた。いつも母さんと一緒に管理局へ向かっていたお兄さんだ。先日はお菓子パーティーに巻き込み、寝癖でモミアゲが変な方向に曲がるのが悩みだと話していた人物である。

 それにしても、まさかお兄さんがおじいちゃんの迎えだったとは。ということは、こちらの事情もある程度知っていたということだろう。全然気づかなかった。

「俺のことも知っていたんですか?」
「少しな。悪くは思わないでくれ。聞こえは良くないかもしれないが、ここの監視も含まれていたのでな。あまり話している時間もなかった」

 監視。思い当る節がないわけではない。俺やおじいちゃんが反撃の準備をしていることを知っているのは少数だ。開発グループのみんなも上層部も多数の管理局員もそのことを知らない。それは大きなアドバンテージとなる。

 お兄さん曰く、油断した相手のしっぽを掴みやすくでき、うまくいけば芋づる式に黒幕をあぶりだせるチャンスだそうだ。さらに裁判で会社と戦っている母さんを、抑え込みたいと思う彼らが母さんの弱点である俺たちを放置するか。そこの危惧も含まれていたらしい。

 そして想像だけど、おじいちゃんがお兄さんのことを俺に話さなかったのは、俺も監視するためじゃないかと思う。さっきお兄さん自身が言ったように、相手に牙を磨いでいることを知られないことが重要なんだ。万が一俺が暴走して上層部に作戦を気づかれたら目も当てられない。こうしてお兄さんが迎えに来て、ネタばらしをするということは少しは信用されたと見るべきだろうか。

「えっと、おじいちゃんには迎えが来たら転移してこい、って言われたんですけど。お姉さんは?」
「あぁ。彼女は何も知らないからな、別の仕事を与えているそうだ。今日は俺が代わりに入ると彼女には伝えてあるから問題はない」

 アリバイ工作ってわけね。アリシアもお兄さんとは面識があるし、これなら俺も安心できる。さぁ、ここからは気を引き締めていかないと。俺は懐に入れていたクッキーを握り締めながら決意を新たにした。


「……とりあえず、まずアリシアになんて言って出ていったらいいでしょう?」
「む……、腹痛とかで医務室に行くとかは…?」
「えぇー、まさかの考えていなかったパターンなの。いきなりは怪しまれないかな」
「ならば、落ちていたものを食べてしまったことにすればいけるな」
「お兄さんが俺をどう思っているのかを小一時間問いただしたい」

 まずなによりも、落ちているものを食べそうな子というレッテルを先に外すべきか真剣に悩んでしまった。



******



「おかしい。なんであんな理由で納得されたの? 俺ちょっと本気でこれからの生き方考えた方がいいのかな…」
「なんでいきなりこんな状態なんじゃ」
『ますたーとしては冗談で拾い食いルートで進んでみたら、妹と家猫に「まったく仕方がない兄だなー」という表情で見送られてきましたので』

 コーラルの説明におじいちゃんから憐憫の眼差しを向けられました。真剣に同情されたみたいです。確かにアリシア達に怪しまれずに外に出られたけど、なんでこんな精神的ダメージを受けなきゃダメなんだ! 後が大変だけど、お兄ちゃんとしてはやっぱり怪しんでほしかったよ!

「日頃の行いではないか?」
「どういう意味ですか、副官さん」
「お前なら道端にキノコでも生えていたら、取って普通に食っていそうな気がする」

 おじいちゃんとコーラル、今納得しかけなかったか。しないからね、そんなこと。俺は部屋の一角に立っている男性に意識を向ける。まず目に付くのが彼の眼だろう。髪と同じ鳶色の瞳。鳥のように鋭く精悍といってもいいかもしれない顔立ちの青年だ。

「……お孫さんのくせに」
「おい待て。今ぼそっと何言った」
「おじいちゃーん、あなたのお孫さんがいじめてきまーす」
「おぉ、すまんなー。後でメッてしておくからのぉー」
「孫言うな! ローバスト総司令官も何のっているのですか!? 私とは一切血はつながっていないでしょう!!」

 あといじると面白い。ちなみにあだ名はお孫さん(命名俺)で、おじいちゃんが完全に孫を見る目線だったので採用させてもらった。命名した時のおじいちゃんの爆笑した姿は今でも覚えている。


 さて、改めて今までの状態を簡単にまとめておこうかと思う。おじいちゃん――地上本部総司令官とその副官さんと出会ったのは、事故が起きたその日のことだった。

 俺は事故が起きる前までずっと、上層部やその関係者の情報を得るために奔走していた。それと同時に考えていたのは、その集めた情報をどのように使うべきかであった。最も効率のいい方法。最も安全な方法。それらを考えて思い至ったのは、やはり管理局に提出することだった。

 俺が公表するという手もあったが、後のことを考えるとあまりいい手ではない。母さんに心配をかけさせてしまうし、何よりも足がつくのが怖かった。俺が追い込んだのだとわかれば、復讐に来るかもしれない。それはできる限り避けたかった。

 だからこそ情報を有効活用してくれて、なおかつ俺たちの隠れ蓑になってくれる存在は管理局しかなかった。ミッドの治安維持を務め、今回の事故の指揮も執っている管理局の地上本部の人の手に渡すこと。だが、実はこれが一番大変だった。なぜなら誰にでも渡していいわけではなかったからだ。

「しかし、あやつからいきなり連絡をもらった時は驚いたのぉ。儂らとしても世話になっとるし、悪くない話だからこそのらせてもらったが」
「本当にありがとうございます。俺には管理局への伝手なんてなかったから、お願いしたんですけど、……俺も正直総司令官達と面識があったことに驚きました」

 あの人からの了承の返事が来た時なんて本当にびっくりしたからな。ヒュードラのことでどうしても信頼できる管理局員を内密に紹介してほしい、と無茶なお願いをしたのだから。そんなお願いを真剣に考えてくれて、こうして接点を作ってくれたのだから感謝してもしきれない。

「かっかっか。まぁ、今回は管理局の一部の人間も関わっとるようだったからな。下手に局員の人間に情報を渡せなかった坊主の考えも理解できる。今回は儂としても白羽の矢が立ったことに素直に感謝しておるよ」

 俺としても相手が総司令官達で助かったのは事実だ。地位も高く、人脈だって広い。何よりも取引の内容を吟味した上で、6歳児の俺と対等に契約してくれた人物だ。

 俺がおじいちゃんに提供したのは主に2つ。1つはヒュードラの開発情報や関係者の弱みといった映像記録の提出だ。これを渡す代わりに母さん達を助けるために手を貸してもらうことになった。

 そしてもう1つが、映像記録を撮った功績を渡すこと。俺は今回の事件の表舞台には一切出るつもりなんてない。映像を手に入れたのは開発に疑問を持ったローバスト総司令官が、秘密裏に地上部隊の局員を潜り込ませたことで手に入れたものと公表される。お互いの利益が見事に一致したことで作られた協力関係だ。

「しかし、総司令官。この件が終わった後、本局の方に目をつけられる可能性がありますが…」
「ふん、今までのようにあしらわれるだけよりましじゃろ。地上部隊の迅速な対応と力を民衆と本局に見せつけられる。儂ら「陸」の発言力を高められる機会だ。お前も儂の副官なんじゃし、目をつけられる程度、本当はなんとも思ってないだろ?」

 おじいちゃんがにやにやしながら放った言葉に、副官さんも言ってみただけです、と口元に笑みを浮かべる。おそらく副官さん自身も今回の件に反対はしていないのだろう。むしろどんとこいや! という感じの人だと思う。

 出会ってまだそれほど経っていないから、あまりこの人たちのことを俺は深く知らない。おじいちゃんは管理局ができる前から世界を平定し続けていたすごい人で、副官さんもそんな総司令官に認められ、若くして引き抜かれた優秀な人物らしい。

 ……まぁ、普段俺が見ている2人の姿があれなもんだからなんともいえんが。打てば響く副官さんの反応は、おじいちゃん的にツボらしく色々困らせているらしい。要はかわいがっているのだ。そんな様子を見ていたら、俺が祖父と孫の関係を思い浮かべても無理からぬことだろう。そのため命名に関しては、俺は一切後悔していません。



「とりあえず時期や開発状況は間違いないみたいだな」
『そうですね。こちらの映像は去年の秋に撮ったもので間違いありませんし、分布の整合性もとれました。参考にですけど、ファイル13と17は入れ替えた方がより明確に……』


「……今回の件ってコーラルがいれば、俺いらなかったんじゃね?」
「本当だな」

 副官さん、もうちょっと言い方ない? 確かに映像記録を撮ったのもまとめたのもコーラルだから、俺の出番がほとんど必要なかったのは事実だけどさ。

「暇ですねー」
「だまって菓子でも食っとけ」
「いや、この菓子折り持って来たの俺ですから」

 菓子折り用のクッキーを2人でつまみながらおじいちゃん達を待つことになった。一応俺はお客さんなので、総司令官が副官さんに接待をお願いしてくれたのだ。でもこの人、さっきから菓子食ってるだけなんですけど。……太れ。

「そうだ、副官さん。時間つぶしにちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「つまらないこと以外ならな」
「太ももが太い女性は許容範囲ですか」

 そんな噴き出さなくても。

「何聞いてくるんだ!?」
「そのことに真剣に悩む女性がいるんですよ。せっかく年頃の男性が目の前にいますから、聞いておくチャンスかと思いまして」
「もっと他に話題はなかったのか…」

 まずぱっと思い浮かんだのがこれなんだから仕方がない。同僚さんのために今の年頃の男性の好みが知りたいんです、と伝えてみる。

 ちなみにお願いの時のポイントは、なんらかのグループの1つの意見が欲しいみたいに言うと答えてもらいやすい。アンケートみたいな感じで尋ねるとなお良し。

「先に言っておくが、あくまで俺ぐらいの年齢の意見だぞ。俺は、というより参考としての言葉だからな」
「はい、もちろんです」
「……まぁ、それほど気にしなくていいんじゃないか」
「太いのも細いのもいけるって意味ですか?」
「そう言ってるだろ」

 そっぽを向きながらぶっきらぼうに答える副官さん。横顔だが、赤みが少し見える。この人って、口調はきついところはあるけど、根は素直で真面目な人なんだよね。質問にもなんだかんだでちゃんと考えて答えてくれるし。だからこそ―――

「なるほど。副官さんはどんな足も許容範囲のばっちこーいな人である……と」
「おい、待て! 何勝手に脚色したものをメモしてやがる!?」
「そうか、そうか。太いのも細いのもいけたとはのぉ」
『いい映像が撮れましたねー』
「いつから話を聞いていたんですかッ!? やめてください! その言わなくてもちゃんとわかっている、みたいに親指立てるの!! あと盗撮するな、デバイスッ!!」

 この話し合いが終わった後、ひっそりとおじいちゃんにダビングを渡しておいたのは余談である。さらにこれがきっかけで、おじいちゃんが孫ビデオ収集に嵌りだしたのも蛇足である。

「俺、今ならお前をしめても問題ない気がする」
「そうなったら、目薬さして服乱れさせて本部に転移して、『助けて! ゲイズさんがぼ、僕をッ!!』と涙ながら叫びまくってやる」
「おまっ! それは悪質すぎるだろッ!!」



******



「話し合いは一応これで終わりなんですよね?」
「あぁ。わざわざすまんかったなぁ」
「いえ、そのできれば俺から総司令官達に要望があるんですけどいいでしょうか」
「坊主がか? そんな堅苦しくならずとも、言えばいい。それだけのものももらっとるからのぉ」

 おじいちゃんの独特な笑い声を聞きながら、俺は静かに息を吐く。大丈夫、さっきまでのようにリラックスしたらいい。言っちゃなんだけど、副官さんのおかげでいいガス抜きもできた。

 ここまでくれば、母さん達は助かるだろう。総司令官達の手によって、ヒュードラの事件は原作とは違う形で終えられるはずだ。そうなれば、もう俺たち家族を壊すものはなくなる。母さんもアリシアもリニスも幸せに生きていく道が出来上がるんだ。

 ずっと待ち望んでいた未来。いつものような日々を、当たり前のようにこれからもいられる日々を俺は願い続けた。そして、それがもうすぐ叶う。だけどこの願いが叶い続けるということは、同時に最悪の未来を進む少女達もいることになる。

 さぁ、ここからだ。俺は俺の未来のために頑張ってきて、これからもそれは続いていくけど。それにもう1つ頑張りを増やそう。幸せな俺の望む未来をもう1つ作るために。

「それでは、どうして俺がそのことについて触れるのかには、一切問わないでほしいんです」
「……どういう意味だ」
「俺への報酬です。この提案を受け入れてくれるかはおじいちゃん達に任せます。だけど、受け入れても受け入れなくても、なぜそのことについて俺が問うのかには一切触れないでほしい。それだけです」

 俺からの言葉に2人も隣にいたコーラルも無言になる。警戒されるのはわかっていたけど、これが前提条件だ。聞けば絶対に何故かと問われるとわかっている。だけど、俺は理由を話すことができない。話したくないんだ。

「……聞こう」
「総司令官」
「聞くだけならいいみたいだからなぁ。それを受け入れるかは儂ら次第。ただ内容については触れるな、というだけだ。そうだろ?」

 総司令官の声は、先ほどまでと声のトーンは変わっていないはずなのに、俺はうなずく動作1つにも緊張が走った。副官さんは総司令官の言葉に小さく相槌を打ち、静観の姿勢をとる。

『ますたー、頑張って』
『……ありがとう』

 わざわざ念話で応援してくれた相棒に感謝する。そして、俺は一度そっと目を閉じた。

 俺にできることを考えた。俺が相対すべき相手を見据えた。俺がしなければならないことを見つけた。ならば、進んでいこう。手探りでゴールなんてわからないけど、それでも歩いていくって決めたのだから。


「俺が、……『闇の書』に関する知識を調べることに許可を下さい」

 これからの未来に向けて、俺は足を踏み出した。

 
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