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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§27 夜の街での襲撃者

「どうだろう、どうか説得をしていただけないだろうか? 我々が申し上げることは恐れ多いというのは重ね重ね承知しているのだが、ご老公の盟友かつ羅刹の君の友人たる君ならあるいは……」

 結局、九法塚青年(余談だが本人からみっきーと呼ぶことの許可が下りた)の愚痴に付き合うこと数時間。その後で色々雑談開幕。日が暮れるまで食べては喋っていたことに黎斗自身驚きを隠せない。もう今日は昼食と夕食一緒でいいんじゃなかろうか。結局長々拘束したお詫び、という名目で幹彦の車で帰る御一行がそこにいた。そして、その車内で護堂御一行の”見学”とやらを止められないかとひたすら懇願される黎斗がいた。

「うーん……無理ゲーな気がするんだけどなぁ。まぁダメ元でとりあえず言ってみるよ」

 説得できる自信がない。正直、寺社見学くらいべつにいいじゃんと思ってしまうわけで。ここら辺は術者の常識がかけているなぁ、などと自分でも思う。別に直そうとは思わないけど。幹彦側からすれば先祖代々守ってきた神聖な地をぞろぞろと大勢の人間達に踏まれたくない、という心情があるのであろうこともわからなくはない。わからなくはないのだが———やはり見学くらいと思ってしまう。
 そんな思考の堂々巡り。一人頭を悩ませる黎斗を尻目に「大変ですねー」「ねー」などと後ろで和んでいる女子二名。そんな彼女たちに「僕一人に丸投げするな!」と恨みの視線をぶつけるが気付いていないので意味がない。援軍を諦めてふとサイドミラーに目を写し、そこで黎斗の勘が騒いだ。

「……たしかに我々……」

「……ッ!?」

 なおも続く幹彦の言葉の途中で感じる殺気。瞬時に手が影の中に伸びる。沈んだ手は、目当ての物を即座に掴む。そこからの行動も迅速だった。”影”から取り出したブロードソードを、思いっきり車の屋根に叩きつける———!!

「え……ッて、何この気配!!?」

「黎斗君!?」

「マスター!?」

 爆散する屋根。飛び散るブロードソード。上空から飛来した”何か”とぶつかったそれは、相手を押し返すと同時に無理な行動をした代償か限界を迎え粉々になった。突然の黎斗の奇行に幹彦は急ブレーキを力一杯踏み込んでしまう。黎斗に遅れること数瞬、察した恵那が臨戦態勢をとって幹彦を庇う。車体が歩道に乗り上げて、街路樹にぶつかり煙を上げた。三者三様の驚きの中、黎斗は車体から飛び出し闖入者((・・・))を睨みつける。

「敵はリア充疑惑有り、と」

 黒い髪の美青年だ。イケメン=敵、と黎斗の中で図式が成立する。護堂もこの論理だと敵になってしまうのだが、生憎とそこまで黎斗は頭が回っていなかった。咄嗟にしてしまった反応は周囲へ対する配慮を全くしておらず、結果として車を大破させてしまったのだから。余裕を持って攻撃していれば車の屋根を透過して攻撃の勢いを相手に与えられた筈なのに。しかも武器を無駄にすることも無かっただろうに。

(やりすぎたぁ……みっきーごめんよ……)

 心の中で幹彦に謝罪。条件反射で力加減を誤ったことが悔やまれる。とりあえず交通事故にならなくて良かったと心から思う。対向車が来ていたら笑えない事態だった。でも、帰りどうしよう。

「不意打ちは卑怯なんじゃない?」

 情けない気持ちを誤魔化すために、とりあえず話しかけてみる。まつろわぬ神(じこちゅう)(ども)とは違って一応話は出来そうだ。

「……こりゃ驚いたな。屋根に着地する瞬間に一撃当ててくるなんて。一体全体、お兄さん何者だい?」

———強い。気配でそれがわかる。彼とまともにやりあえば幹彦はおろか恵那でもおそらく敵わない。神懸かりをした恵那なら問題ないだろうが、彼はむざむざ神懸かりを許すだろうか。

「そういうキミは、誰? 辻斬りは今時流行らないって。恵那、エル。みっきーを連れて後退を。ただし僕のカバー出来る範囲内で」

 脇腹から軽く血を流す青年から目を逸らさずに、影から短剣(ダガー)をいくつか取り出す。右手と左手に一本ずつ。一本をエルに、残りとやはり影から取り出した日本刀を恵那に。無いよりはマシだろう。こんなことになるのなら恵那に刀の所持を許可しておくべきだった、と少し後悔する。手の中のそれを弄びながら相手を見据え、周囲の気配に探りを入れる。この青年と同等の実力者が他にいると厄介なことになる。流石に非常事態なので恵那が攻撃に参加したところで文句は言われないだろうがエルと幹彦、二人も足手まといが居ては恵那も満足に戦えまい。せっかくの戦力を遊ばせておく余裕は残念ながら無いのだが、とりあえず当面は遊び駒にしておくしかなさそうだ。

「ま、結局考えるだけ無駄、かな?」

 なんだかんだ考えたところで、相手の実力次第ではこの青年だけでなく敵対者全員を黎斗が受け持たなければならない可能性も低くは無い。なんでこんなことしでかしたのか聞かないわけにはいかないし、死者に聞くような技術(スキル)も習得してはいない。蘇生させるのは二度手間だ。つまりは不殺(ころさず)で全員倒せるだろうか、という話であり果たして出来るか思い悩むがとりあえずやってみようと決意する。無理なら無理で色々(・・)出来るし。

「おっとこいつは失礼、陸鷹化だ。アンタらが居るのは想定外だが関係ない。悪いがそこの若旦那以外に用は無いからご退場願おうか。兄さんもエリカの姉さん程度にはやるようだね。そこの姉さんと二人がかりでこられたらちょいと面倒かな」

 身体能力を強化している時は確かに彼女達と同等くらいにしか強化してない。それ以上する必要なんかほとんどないし。だから彼の発言は事実といえば事実なのだが、なんだか少し納得がいかない。

「陸鷹化……掌力絶大、か。噂だけは聞いたことがある」

「へー。みっきー、つまりソレって”すごく強い”って認識でいいの? みっきー何人分くらい?」

 緊張を孕んだ硬い表情の幹彦に黎斗が投げかけた言葉は、とても軽い。そんな黎斗に対し「落ち着いている場合じゃない!! 彼はすごく強いどころの騒ぎじゃない!!」と叫ぶ余裕すら本来幹彦には存在しない、のだが。

「れーとさん、恵那がいこうか? わざわざれーとさんが戦わなくても。多分イイ線いけると思うんだけど」

「んにゃ、それでもいいけど陸鷹化だっけ? 彼と恵那の実力って贔屓目に見てほぼ拮抗、ぶっちゃけしんどいっしょ。叢雲でもあれば話は別だろうけど。まぁ任せなさいな」

 見た感じ強さは恵那とどっこいといったところか若干彼の方が上だろう。叢雲が手元になく神憑りが出来ない現状では危険すぎる。

「恵那もれーとさんの役に立ちたいんだけどなぁ」

「まぁ、とっとと終わらせて帰りましょ。早くしないと明日になっちゃって狩りの約束に間に合わない。あのクエスト多分時期限定だから急がないとなのに」

「まーたやるの? ハンバーガー食べながらそんなこと、毎日やってたら身体壊すよ」

 ここ数日堕落しきった生活を送っている黎斗に監督者(えな)からチェックが入るのだが。

「馬鹿は風邪ひかない。だから大丈夫」

 キリッ、そんな擬音が似合う表情で黎斗が言い切る。

「今の時代に風邪ひくのは体調管理も出来ない馬鹿だ、っておじいちゃま言ってたよ?」

 そんな反論をバッサリと切っては捨てる恵那。一撃である。

「スサノオォ…… 大体アイツに今の時代も昔の時代もあるもんか。ネット環境皆無テレビ無しラジオ無しの環境で生きられる時点で今の時代を生きてないだろ。これで今の時代を謳歌してたら青春に生きるリア充だろ。爆発しろと言わざるを得ない。まぁ学ラン来て応援団とかそっち方面の青春かもしれないけどさ」

 命のやり取りをするべき場において、呑気なやり取りが恵那と黎斗で行われる。挙句信じられない発言が黎斗の口から飛び出したことで幹彦の緊張は何処かへ吹き飛び、二人にむかって怒声を飛ばす。

「ふざけている場合じゃないだろう!!」

「……幹彦さん、マスターがどうもすいません」

 眩暈を抑えるかのように、エルが幹彦に謝罪した。悲哀に満ちた彼女の表情は幹彦をとりあえず正気に戻し、場の状況を整理することに成功する。

「い、いや、エルさんのせいでは……」

「なんだかどうして余裕だねぇ、と思ったけれどそうか、兄さんが噂に聞いた須佐之男命の眷属か。それならこの余裕も頷ける」

 落ち着いた幹彦の代わりに今度は陸鷹化が緊張した面持ちでこちらを見やる。

「ねーねー、なんで戦いに来たワケ?」

 呑気な黎斗に答える様子はもうない。否、殺気が答えた、というべきか。

「……さっきの一撃といい兄さんの力はよくわかった。こっちも本気をださなきゃダメっぽいね。師父に仰せつかっている手前こっちは後に引けないんだ。刺し違えてでもアンタをどうにかする。でないと師父に殺される。幸い、アンタさえ落とせればこっちのものだ」

 余裕モードから一転。悲壮感溢れる決死隊モードへ。いったい彼の中で何があった。

「いや師父て誰よ……」

 疑問符が黎斗の脳裏を駆け巡る。そんな彼を放置して青年は行動を開始した。足元の小石を蹴り飛ばす。散弾銃のようなそれと共に、一気に距離を詰めてくる。小石の群れを風を蹴って相殺、掌底と次いで放たれる蹴りを左腕で黎斗は防ぎ、後退しようと試みるが鷹化は逃がすまいと追いすがる。

———疾く、重い。

 確かに掌力絶大と言われるわけだ。ここまでの使い手など黎斗もほとんど戦った記憶がない。これ以上の遣り手ともなると皆無だろう———ただしその「強い」という評価は冠詞として人間にしては(・・・・・・)というフレーズを必要とするのだが。

「うん、っと。しっかし、強いなぁ」

———つまるところ、黎斗の敵にはなりえない。

「———!?」

 突如、鷹化が動きを止める。はたしていつから刺さっていたのか。両肘の関節に刺さるのは短剣。最初に対峙していた時に黎斗が持っていたものだ。恐らくは先ほどのタイミングで仕掛けたのだろうが、鷹化どころか観戦者達(ギャラリー)すらその挙動の察知を出来てはいないだろう。

「ちっ……」

 舌打ちと共に後退する鷹化に追いすがりつつも、黎斗が更に己の影へ手を伸ばす。影から抜き出すは、鈍い輝きを放つ漆黒の大鎌。纏う気配の質が違う。おそらく相当高位の魔術武器。このままではまずい。それを察した青年は勝負に出る。飛鳳十二神掌。師より授かりし究極の武技は、しかし黎斗を捉えることなく空を切る。攻撃を外した、そう認識した次の瞬間には黎斗の姿が消えていた。

「!?」

 黎斗を見失い動揺したのは僅か一瞬。その一瞬の間に、響くのは大地にナニカが打ち付けられる音。鷹化の背後に大鎌の柄が打ち下ろされる。大地に垂直に立った(ソレ)を軸にして。

「よっ、と」

 彼は気の抜けた返事と共に蹴り飛ばされた。呪力を込めた黎斗の蹴りは普段とは比べ物にならない威力を叩きだす。大地と平行に吹き飛ぶ鷹化。高層ビルの壁に激突した彼の両足に、棒手裏剣が突き刺さる。

「ぐ、ぁ……」

 煙が晴れると同時に崩れ落ちる鷹化を見やり、黎斗は己の服の裾を軽く払い埃を落とす。大鎌についた鎖がじゃらりと鳴った。既に趨勢は決している。幹彦が唖然としているのがこちらからでも良く見えた。

「さて、と。まぁこんなもんで……って今度は誰よ」

 黎斗が声の主を探して頭上を見上げれば、目に映るのは亜麻色髪の少女が降下してくる姿。今日は千客万来だ。彼女に向かって大鎌を軽く(・・)薙ぐ。生じた鎌鼬をギリギリで避けて、少女は戦闘不能となった鷹化の元へ駆け寄った。血を滴らせているということは完全回避は出来なかったのだろう。

「情けないぞ小僧っ!!」

 真っ向勝負は不利、と瞬時に悟ったアーシェラは鷹化を復活させる方を急ぐらしい。足止めに放たれた無数の使い魔を片っ端から叩き落とす。周囲を破壊してしまう大技は使えないから、ぷちぷち君潰しをしている気分になってきた。

「め、めんどくせー……」

 思わずつぶやいた彼を誰が責められよう。雑魚戦闘(エンカウント)が終わったので次の一歩を踏み出したらまた雑魚戦闘(エンカウント)、そんな気分だ。しかもこの場合相手は大量の小物を連れての登場である。こっちは全体技禁止。まったく、やっていられない。
 げんなりする彼の目の前で少女は青年に突き刺さった短刀を軽々と引き抜いていく。その光景を見て、思わず黎斗の目が点になった。高位の魔術師ですら呪詛のルーンを刻まれているこれは容易に引き抜けない筈なのだが……

「まつろわぬ神……ではないな。そんな気配微塵もない。っかそれなら僕とガチればいいだけだ。じゃあ何? 神獣には……見えないしなぁ。神祖の類かな」

 さて、困った。本性を出されてここで暴れられると面倒だ。大騒動にすると言い訳が思いつかないではないか。主に鎮圧方法の。まったく、やっていられない。

眠れ(・・)

 ディオニュソスの精神を操る能力葡萄の誘惑(マイナデス)。黎斗の言葉を聞いたアーシェラは、抗うことも許されずに意識を深い奈落へと落とされる。糸の切れた人形のように、彼女は大地に倒れ伏す。この状況に陸鷹化はたまらず悲鳴を上げた。

「おいおいおいおい冗談だろ!?」

 ようやく自分たちの手に負える相手ではない、と理解したのだろう。アーシェラを連れて陸鷹化は飛び上がった。戦略的撤退、もしくは逃げると呼ばれる行為。その判断は本来ならば致命的に遅すぎるのだが———

「逃がして親玉に情報を与えた方がいいかなぁ?」

 ここで潰すよりは失敗を知らせて企てを断念させた方がよいのではないか。そんな思いに駆られた黎斗は追撃という選択肢を破棄する。だが、このままむざむざ逃がすつもりも毛頭ない。

「とりあえず授業料代わりにその腕、貰い受けるよ」

 左手から繰り出されたワイヤーは宙を駆ける青年に容易く追いつき絡みつく。彼はそれに、気付かない。

「があああああああああ!!!」

「手を出してよい相手と悪い相手の区別はしっかりつけましょー」

 黎斗の声は届かなかっただろう。が、逃げる青年の声はこちらまで届いた。宙を舞う極細ワイヤーは、陸鷹化の左腕を易々と切断する。月夜に只々、鮮血が舞う。

「……血を垂らしながら飛んでくる人間の腕って怖いな」

 ワイヤーと共に飛んでくる腕を見て、黎斗は少々顔を引きつらせた。今切断したばかりの、生々しい腕が新鮮な血を伴ってこちらへ向かって来ているのだから。正直不気味だ。少し離れたところで幹彦が盛大に顔を引きつらせていることに、気付かない。





「いやー、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」

「はい、甘粕さん。コレお土産」

「うえぇぇ!? こんなモノ入りませんよ!! 黎斗さん持っててくださいよ」

 事情を聞いて急行してきた甘粕に渡そうとしたのは襲撃者(ようか)の左腕。持っていてもしょうがないので渡そうとしたら断られた。交渉に使えそうなものだと思うのだが。まったく、自宅まで持ってくるのにはとても精神を使った。職質を受けたら間違いなく終わりだったのだから。上着に包んで持ってきたせいで上着が血でべちゃべちゃだ。

「そんなもの持ってたら昔話の鬼よろしく彼が取り返しに来るじゃないですか!! 陸家の御曹司をボロクソに出来るのなんてカンピオーネの方々(くさなぎさん)除けば黎斗さんくらいしかいませんよ……」

「まぁ確かに強いけど、隻腕の彼ならどうにかなるんでないですか?」

「片腕だけなんてハンデにもなりませんよ…… エリカさんやリリアナさんならわかりませんが、少なくとも私達では「腕の数が一本か二本か」なんてのは誤差の範囲内です。それこそボンバー男が青兎に乗ってるかどうか、くらいは」

「いやそれ大きいでしょ。四人プレイとかで対戦やってみました? 爆弾喰らっても一回なら青兎が身代わりになってくれるじゃないですか! 最大火力&ボム大量における状態でハイパーアーマーとってボム連続で置きながら動いてみてくださいよ。あの連鎖爆発で俺TUEEEEE!が味わえるアレ。普通にやってると絶対に無敵時間(ハイパーアーマー)切れたの気付く前に死にますから。青兎君が居ないと自滅しますって」

「ちょっと何言ってるかわからないですね」

 ヒートアップして三流ゲーマーのプレイスタイルを言い始める黎斗に対して冷めた目でエルが口を挟む。豹変した黎斗に若干後退していた甘粕もこれ幸いと黎斗説得に動き出す。陸鷹化(ばけもの)に腕を取り返しに来られたらたまったものではない。余裕で退治できる人に持っていてもらうべきなのだ。

「……こほん。とにかく無理ですよ無理」

「じゃあコレどうすんですか!?」

 困った。どうしよう。冷凍庫の中に片腕を保存するのはグロいから却下。幽界(あっち)には冷凍保存できる環境は無いし、須佐之男命や黒衣の僧はともかく、玻璃の媛にまで押し付けるのは良心が痛む。倉庫に押し込んだらロンギヌスをはじめとしてブーイングの嵐になりそうだし、万が一偉人から貰ってきた物に返り血がついたら泣くに泣けない。チンギス=ハンの帽子とか間違いなく世界に一つだけ(オンリーワン)だ。それよりなにより、防腐処理が出来ないから、倉庫に放置したら絶対腐る。そしてそれはとっても困る。やっぱり護堂に押し付けるしかないか? 消去法で選んだ最後の選択肢だが、これも微妙だ。想像してみてほしい。

……兄がコソコソと何かを隠している。ナニカを部屋に隠す姿を。それを見つけた静花(いもうと)は、ひっそりと兄の部屋を漁る。そこで彼女が見つけたのは———新鮮で血色の良いダレカの片腕。

「ダメだこりゃ…… 草薙一家家庭崩壊、なんてコトになったら困る」

 さて困った。死体の長期保存はお茶の子さいさいお手の物なのだが、生きている人間の一部の保存は研究してこなかったし関連資料を漁った記憶も全くない。冷凍保存とか民間の冷蔵庫で出来るのだろうか?

「封印とか面倒くさいしなぁ。あーあ、失敗したよ。腕もいでくるんじゃなかった」

 燃えるごみに出してやろうかいやそれだとゴミ回収業者の人が仰天する、コンポストに突っ込んで肥料にしてやろうかいやそれだと今度はコンポストの持ち主が悲鳴を上げる。もうどうしろと。

「オブジェにして飾るには趣味が悪すぎる。返してくるべき……?」

 「馬鹿にしているのか!」などといって攻撃されそうだけどしょうがない。置き場がなく捨てられない、オマケに持ってるだけで周囲に引かれる、とくるような物騒な代物は下手なゴミよりもタチが悪いのだ。

「ついったーとか大型掲示板で処理方法急募してみるべき?  「【生の肉】ゴミ捨て方法教えてくれ【拾っちゃった】」みたいなカンジで 」

「「それでマトモなレスが来たら奇跡でしょうねぇ」」

 甘粕とエルの声が綺麗にハモった。黎斗としても望み薄なのはわかりきっているので落ち込むことはない。

「じゃあどうするよ……」

 頭を抱える三人。試合に勝って勝負に負ける、そんな単語が脳裏に浮かんだ。 
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