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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第29話

神裂に吹っ飛ばされた後、麻生は「わだつみ」の広間に戻る事にした。
神裂は麻生を吹っ飛ばしたあといかにも怒っていますよ雰囲気を出しながら、どこかへ行ってしまい見張りをする意味がなくなったからだ。
広間に戻ると上条だけしかいなかった。
二階から女の子らしい声が聞こえたので上の階で遊んでいるのだと麻生は考える。
上条はぼ~っとテレビを見ていたが麻生が広間にやってくるのを確認すると視線を麻生に向ける。

「さっき凄い物音が聞こえたんだけど何かあったのか?」

「まぁ大した事じゃないから気にするな。」

麻生は適当に答える。
なぜなら今この場に神裂はいない。
あの時の事を上条に話せば、どこで聞き耳を立てているか分からないので適当に答えるしかなかった。
上条もそれほど興味がないのかそうか、と言って視線を再びテレビに向ける。
ブラウン管の中では小萌先生が原稿を読んでいて、そこに朝も同じニュースが流れている事に麻生は気づく。
そこには火野神作と言う殺人犯が刑務所から脱走したと言うニュースだった。
そのニュースを見て麻生はポツリと呟いた。

「二八人もの無関係の人間を殺害か。
 殺人鬼だな。」

麻生の独り言に上条の耳に聞こえたのか麻生に聞いてくる。

「殺人鬼?」

「ああ、こいつは殺人鬼だ。」

麻生は上条に頼まれたでもないのに説明をする。

「人が人を殺すという事はそれに意味がある。
 それは殺した人の人生、命、道徳などを背負う事だ。
 これが殺人だ。
 だが、殺人鬼は違う。
 これは鬼が人を殺すという語源からきている。
 鬼は人間じゃないから殺した相手の命や道徳を背負う事はない。
 いわば自然災害みたいなものだ。
 殺された二八人の人は運がなかったと諦めるしかない。」

麻生の説明を聞いた上条はテレビに視線を戻す。
その顔はいつになく真剣な表情だった。
上条もよく不幸な目にはよくあっている、彼は彼なりに思う所があるのだろうと麻生は考えて大きく欠伸をした。

「今日は色々あって疲れた。
 俺は寝るから明日の朝になったら起こしてくれ。」

麻生は上条の返事を聞かずにそのまま二階の階段を上がっていく。
二階に上がっている途中で突然「わだつみ」全体の電気が消える。
麻生は停電か?、と考えたがどうせすぐに戻るだろうと思い、そのまま自分の部屋に戻ろうとするが下の方でベギン!!、という何かが爆ぜ割れる音が聞こえた。
麻生は下で何かあったのか?、と思い確認の為に下の広間まで戻る。





麻生が二階に上がってすぐにブツン、といきなり全ての電気が消えた。
停電?と上条は暗闇の中で眉をひそめる。
がさり、と上条の足の下、床板の底から、木の板を軽く引っ掻くような音が聞こえた。
何だ?と思わず腰を浮かせてすぐ足元の床板へと視線を向けた瞬間、ガスン!!と三日月のようなナイフの刃が足元の床下を貫通して突き出してきた。
上条は喉が干上がる。
それもその筈、足と足のわずかなスペースから刃物が飛び出している。
もし床下の音を無視して腰を浮かさなかったら、そう考えただけで全身の皮膚から気持ちの悪い汗が噴き出してくる。
三〇センチぐらいの長さの細長い三日月の刃はぎち、ぎち、と前後に軽く揺さぶられやがて床下へとゆっくり沈んでいく。
一刻も早くこの場から離れるべきなのに上条は動けない。
すると、わずかに空けられた床板の穴の奥からまるでかぎ穴から部屋の奥を覗き込むかのようにじっとりと、血走ったような、泥の腐ったような、狂ったような眼球が見えた。

「ひっ・・・」

上条は情けない声をあげて後ろへ下がった瞬間、後追いするかのようにナイフの刃が上条の足元すれすれの床下から飛び出した。
上条の足がもつれ床下の上に転がる。
ナイフの刃が再び床下に潜り、さらなる一撃の狙いを定める。

(落ち着け、落ち着け!!)

上条は呪文のように繰り返すがそれは余計に身体を縛り上げる。
とにかく床の上に倒れているのは危険すぎるので立ち上がろうとした時、ベキン!!と床下が大きく爆ぜ割れてそこから飛び出してきた腕が上条の足首を掴み取る。
得体の知れない衝動に上条の心臓が口から飛び出そうになる。
そして見てしまった、自分の足首を掴み取っている手を。
ある爪は割れ、ある爪は剥がされ、ある爪は黒く固まった血がこびりつき、指は内出血で青黒く変色し、手の甲は大きな傷のカサブタを何度も何度も剥がしてグチョグチョになった肉色の傷口が露出して
それはまるで、得体の知れない人食い細菌に侵された死人のように見えた。

「あ、ぅあ!い、ひっ、あ・・・・ッ!!」

呼吸がもつれ、心臓がおかしな動きを見せる。
襲撃者のナイフの刃が上条の胸に向かって振り下ろされる。
だが、横から別のナイフが襲撃者のナイフを受け止めそのまま上条の胸ぐらを掴み後ろに引っ張られる。
上条は自分を引っ張った人物を見るとそこにナイフを逆手に持っている麻生だった。

「落ち着け、相手は普通の人間だ。
 ステイルや一方通行(アクセラレータ)ような魔術や超能力は使えない。」

若干腰を落とし周りを警戒しながら麻生は言う。
とりあえず危機は脱出できたのを確認できると、少しずつだが上条の呼吸も心臓の動きも落ち着いてくる。
そして、襲撃者のナイフの刃が麻生の顔面に向かって飛び出てくる。
麻生はそれを自分の持っているナイフで受け止め、空いている右手で襲撃者の手首を掴む。

「さて、顔を見せて貰おうか。」

その時だった。
突然、「わだつみ」の入り口から赤い少女が恐るべき速度で飛び込んできた。
赤い少女は腰にあるL字の釘抜き(バール)を引き抜くと麻生が掴んでいる襲撃者の手首に向かって、思いっきり振りかぶる。
麻生は咄嗟に手を放し次の瞬間にはボギン!!、と凄まじく鈍い音と共に襲撃者の手首がおかしな方向へと捻じ曲がる。
それでもナイフを手放さなかったのは襲撃者の執念なのだろうか?

「ぎ、びぃ!ぎがぁ!!」

床下からの咆哮と共に襲撃者の手が床下へと逃げ込む。

「逃がすかよ。」

麻生は床下をダン!、と軽く踏みつけると麻生の前方の七〇センチくらいの大穴が空く。
踏みつけた衝撃を拡散、増加させる事で床下に穴を空けたのだ。
事前に打ち合わせでもしてたかのように、今度は赤い少女が大穴へと飛び込んでいき麻生は上条の前に立ちながら大穴を見つめている。
その大穴からガンゴン!!、と凄まじい音が床下から炸裂した。
すると、ズバン!!といきなり五メートル前方の床下が爆発するように弾け飛びそこから黒い影が飛び出てくる。
一目で内臓がボロボロだと分かるような不健康な肌、汗と泥、血と油によって汚れたページュの作業服、右の手には鉄の爪のような三日月のナイフ、左の手首は折れて青く鬱血している。
その唇から赤い血の筋が垂れていた。
前歯と犬歯、二本の歯が強引に抜かれていた。

「エンゼルさま、どうなってんですか。
 エンゼルさま、あなたに従ってりゃあ間違いはない筈なのに!
 どうなってんだよエンゼルさま、アンタを信じて二八人も捧げたのに!」

男の言葉を聞いて追撃をかけようとした麻生の足が止まる。
上条と麻生は今日一日流れていたテレビニュースを思いだす。
男の服装からして死刑囚などの犯罪者が着るような服を着ているので、彼が火野神作である事は分かる。
なのに、どうして火野神作は誰とも入れ替わっていないのか?
御使堕し(エンゼルフォール)によって誰もが入れ替わっていなければおかしいのに。
火野神作はナイフを振り上げて麻生に斬りかかるのかと思ったが違った。
火野は自分の胸に三日月のナイフを突き立てたのだ。
メチャクチャに振るうナイフは作業服を引き裂き、汗にまみれたシャツを切り裂き、あっという間に血に染まる。
一見して乱暴に見えた無数の傷は机に彫ったラクガキのような文字の形を取っていた。
GO ESCAPE(とりあえずにげろ)
ただ英単語を並べただけの「言葉」、しかし火野はその言葉を見ると壮絶な笑みを浮かべる。
瞬間、麻生と火野の間に割って入るかのように床板が大きく爆ぜ割れ、赤い少女が飛び出してきた。
その手にあるペンチには何か白く小さな物が挟んであった。
人間の前歯のように見えたそれは赤い少女がペンチを握る手に力を込めるとそれはあっさりと砕け散った。
麻生は火野を見た時不自然に欠けている前歯と犬歯に気にも留めなかったが、あの少女がペンチで強引に引き抜いたのだと分かる。
火野は少女の動作に思わず一歩二歩と下がり、湿った革布を取り出し刃から塗れた血を拭い去ると手の中にある三日月のナイフを赤い少女に向かって投げつけた。
赤い少女はその三日月のナイフを簡単に避ける。
すると、ナイフは少女の後ろにいる麻生の顔面に向かって飛んでくるので麻生も簡単にかわす。
すると、ナイフは麻生の後ろにいる上条の顔面に向かって飛んでいく。

「え?」

思わず呟く上条。
麻生もしまった、と思うが既に遅くナイフは上条の目前へと迫り来ていた。

「うわっ!!」

とっさに転がるように回避したが三日月のナイフは上条の頬を浅く切り裂いた。
それだけの筈なのに次の瞬間には上条のバランス感覚が揺らいだ。
全身から嫌な汗が噴き出して船酔いみたいな吐き気が襲いかかる。

(ど、く?くそ、刃物に何か塗って・・・っ!!)

麻生は上条の様子がおかしい事に気づき上条の名前を呼ぶが、既に上条の耳では麻生が何を言っているか分からない。
火野神作は笑い声をあげて海の家の外へと飛び出していき、赤い少女も追うかどうか迷ったようだが上条の方へと駆け寄りナイフでできた切り傷に唇を当てる。
傷口から毒を吸い出しているのだと麻生は考えていると、入り口から騒ぎを聞きつけたのか神裂と土御門がやってくる。
二人は広間の惨状と赤い少女が上条の頬に唇をつけている事に驚いたが、麻生が説明すると納得の表情をする。
赤い少女は上条の頬から唇を離す。
どうやら毒は全て吸い出したようだ、改めて麻生は赤い少女を観察する。
緩やかにウェーブする長い金髪に白い肌、これだけを見ると可愛らしい少女なのだが身につけているモノ全てが異様だった。
本来なら修道服の下に着るインナースーツの上に外套を羽織っただけ、しかもインナースーツと言ってもほとんどワンピース型の下着みたいなもので華奢な身体のラインを誇示しているように見える。
しかも身体のあちこちに黒いベルトや金具がついていて拘束衣としても使えるように作られている。
さらには太い首輪から伸びた手綱(リード)、腰のベルトには金属のペンチや金槌、L字の釘抜き(バール)やノコギリなどが刺さっていた。
それらは決して工具ではない、魔女裁判専用の拷問具だ。
良く見れば工具とは違い改造が施されているのが分かる。

「あなたは何者ですか?」

神裂は突然やってきた赤い少女に話しかける。

「解答一。
 私はロシア成教の殲滅白書所属のミーシャ=クロイツェフ。」

「あなたは何をしにここに来たのですか?」

「解答二。
 世界中に展開されている御使堕し(エンゼルフォール)の儀式場、及び術者を見つけ御使堕し(エンゼルフォール)を解除する事。」

ミーシャの機械的な答えを聞いた神裂は警戒を解く。
どうやらミーシャは同じ目的なので敵ではないと判断したのだろう。
すると後ろの方でゴト、と何か物音が聞こえ四人は一斉にその音の方に振り向く。
そこには御坂妹が怯えた表情で立っていた。

「どうやらさっきまでの戦いを見られたようだな。」

「なぜあなたが此処にいるのですか?」

腰にある刀に手を触れながら御坂妹に質問する神裂。
さらに怯えた表情をした御坂妹は怯えながらも答える。

「わ、わた、私達従業員は一階で寝泊まりしているから、何か凄い音が聞こえたから様子を見に行こうとして・・・・」

「店主はどこに?」

「と、父さんは二階で作業している。」

それを聞いて神裂は少し申し訳なさそうな顔をする。

「すみません、従業員も含めて皆が二階にいると思い二階だけにしか「人払い」の魔術をかけていませんでした。」

「それに関しては仕方がないにゃー。
 俺も神裂のねーちんと同じことを考えていたからな。
 何事にもイレギュラーはあるもんだぜよ。」

土御門と神裂がどうするかを考えていると上条がゆっくりと目を開ける。
そしてふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がる。
周りを見てなぜ御坂妹がいるのか疑問に思ったが、神裂から説明を受けると納得したようだ。
そして、ミーシャの素性もミーシャのおかげで助かったのだと上条に説明する。

「そうなのか、ありがとう。
 お前が助けてくれなかったら今頃」

上条がかろうじて浮かべた笑みは唐突に凍りついた。
少し離れていたはずのミーシャがノコギリを引き抜いて、一瞬で上条に接近してノコギリの刃を上条の首筋に当てていたのだ。
誰も反応できなかった。
神裂も土御門もあの麻生ですら反応する事が出来なかった。
彼女は上条に機械的な声で質問する。

「問一。
 御使堕し(エンゼルフォール)を引き起こしたのは貴方か?」

「ちょ、ちょっと待ってください。
 ミーシャ=クロイツェフ、あなたは上条当麻が御使堕し(エンゼルフォール)の犯人でないと踏んでいたから、上条の体内にある毒を吸い出したのではないのですか?」

神裂の言葉にミーシャはジロリと眼球だけを動かして神裂の顔を見る。

「解答一。
 私は御使堕し(エンゼルフォール)阻止の為にここまできた。
 そして先ほどこの少年が犯人か否か、解を求められなかったため保留とした。
 だからこそ今こうして問いを質している。」

彼女は神裂から視線を外し上条の眼球を観察するかのように視線を向ける。

「問一をもう一度。
 御使堕し(エンゼルフォール)を引き起こしたのは貴方か?」

「違う。」

「問二。
 それを証明する手段はあるか?」

「証拠なんて、ねーよ。
 そもそも俺は魔術なんて何も知らねーんだし。」

上条の言葉にミーシャは理解できていないのか首を傾げている。
神裂はため息をついて言った。

「一応、我がイギリス清教必要悪の教会(ネセサリウス)の公式見解ぐらいなら解答できますが。」

そう言って神裂はミーシャに説明を始める。
上条は魔術知識がなく、御使堕し(エンゼルフォール)を引き起こせるとは思えない事、超能力者が魔術を使うと肉体に負担がかかるがそれが見当たらない事、上条が御使堕し(エンゼルフォール)の影響を受けないのは彼の右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)の作用によるものだと。
ミーシャはそれらの説明を聞くとジロリと上条を、正確には上条の右手に視線を向ける。
どうやら、幻想殺し(イマジンブレイカー)と言うフレーズに引っ掛かっているらしい。

「数価。
 四〇・九・三〇・七.合わせて八六。」

ズバン!!とミーシャの背後で床下から噴水のように水の柱が飛び出した。
どうやら水道管が破れたらしい。

「照応。
 水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ(メム=テト=ラメド=ザイン)。」

ミーシャが続けて言葉を続けると水の柱が蛇のように形を変えると、何本も枝分かれして槍と化した水流が勢いよく襲い掛かる。
その内の一本が迷うことなく上条の顔面の真ん中へと向かってきた。

「うおっ!?」

上条は咄嗟に右手でガードすると、水槍は水風船のように弾けて四方へ飛び散った。
ミーシャは注意深く床に飛び散った水を観察して言う。

「正答。
 イギリス清教の見解と今の実験結果には符合するものがある。
 この解を容疑撤回の証明手段として認める。
 少年、誤った解の為に刃を向けた事をここに謝罪する。」

上条は全然謝っているように見えないミーシャに色々ツッコもうとしたが出来なかった。
なぜならミーシャは麻生にノコギリの刃を首筋に当てていたからだ。
対する麻生もミーシャの首筋に手に持っていたナイフの刃を当てている。
しかし、ミーシャは驚く事無く先ほどと変わらない機械的な声で言った。

「少年にした問一を再度聞く。
 御使堕し(エンゼルフォール)を引き起こしたのは貴方か?」 
 

 
後書き
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