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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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青葉時代・終末の谷編<前編>

 
前書き
*残酷表現有* 

 
 うちはと千手の頭領として、戦場にて武を競い合っていた。
 同じ里を守る者同士、互いを高める為に何度か手合わせをした事もある。
 尾を持つ獣との戦いの最中では、共に背中を合わせて強敵に挑みもした。

 そのどれもとも、今晩の戦いは程遠い。

 吐き出される言葉に意味は無い。
 ただ自身を鼓舞するための叫びに過ぎず、同時に己を酔わせるための麻酔。

 かき鳴らされる金属音と、夜に飛び散る赤い雫。
 何日もの日々が過ぎた様にも、一瞬どころか一刹那の交錯の様でもあった。
 時は既に意味を持たず、私達は互いの息の根を止める事だけを考えて、忍術を行使しては刀を打ち合わせた。

*****

「……っ、はぁっ!!」
「――ぐっ!」

 私の拳が相手の鎧の腹を穿つ。
 高密度のチャクラを自身の拳に集める事で、一時的な怪力を発揮した私の拳はマダラが纏っている鎧に皹を入れる。

 このまま一気に追撃する!

 相手が怯んだ隙に、足を前に踏み出す。
 そのまま打撃のために伸ばした腕が、今度は死角から飛び出したマダラの手に掴まれて、捻り上げられた。

「――――ぅぐっ!」
「はぁっ!!」

 そのまま捻った腕を大地へと向けて、マダラが勢いを付けて放り飛ばす。
 宙に浮いた私の体が、遅れて地面へと叩き付けられた。

「かはっ!」

 内臓にまで響くダメージに、一瞬意識が遠くなる。開いた口から血が飛び散ったのが見えた。

 相手の攻撃を利用する返し技。
 この技はどちらかといえば、マダラではなく私が自身の非力さをカバーするためによく使用していた体術だった。
 自分の技に返されるなんて、私も焼きが回ったものだ。

 苦い思いに軽く頬が引き攣る。この思いは自己嫌悪か、それともマダラを軽視していた事への反省なのだろうか。

 自嘲した私をどう思ったのか、マダラが赤い目で私を軽く一瞥する。
 大地に仰向けに倒れ伏した私と、その腕を掴んで馬乗りの体勢のマダラ。

 ――どうしてか、彼と始めて出会った日の事を思い出した。

 あの時は確か私に向けて刀を振るって来たマダラを一喝して、その腕を掴んで大地へと放り投げたんだっけ。そうして、それから私はマダラの腕を掴んで、馬乗りの姿勢で軽く恫喝してやったよな。

 遠い日へと彷徨っていた思考が、突然現実へと引き戻される。

 自分自身を叱咤する。
 今、私の目の前にいる相手は弟を庇うために刀を振るった少年ではない。
 私を殺そうとし、私が守っている物を壊そうとしている――敵なのだ。

 哀しいけれども、それが現実と言う物で……事実だった。

 両目を強く瞑って、感傷を振り払う。
 そうした私をどう思ったのか、マダラの両手が私の首を優しく包み込んだ。

*****

 その手の動きを例えるのであれば、それは愛おしむ様な手つきだった。
 今にも壊れてしまいそうな儚い物を触れる様に、つい先程咲いたばかりの花弁を慈しむ様に――そっとマダラの手が首をなぞる。

 優しい、優しすぎる手つき――だからこそ、触れられた箇所から鳥肌が立った。

「――……柱間」

 睦言を呟く様に甘く、聞くだけで痺れを齎す様な、そんな声。
 しかしながら今にも蕩け出しそうな声音を耳にした途端、私の全身が恐怖した。

 そして背筋が凍ったその瞬間、私の首はマダラの剛力で一気に絞め上げられた。

「――……っあ! は、放し……やが、れっ!!」
「…………」

 それまで難なく喉を通って肺を満たしていた酸素が突然途絶え、視界が赤く明滅しだす。
 嫌な音が口より零れ、私は何とかして呼吸をしようと無様かつ必死に喘ぐしかない。

「っくふ! う、うぁあっ」

 爪でマダラの両手を引っ掻き、私の首を覆う両手を引離そうと、押しのけようとするも意味を為さない。
 マダラの力が増して、私の首に指が食い込んでいく。

 ――男と女の力の差がここではっきりと出てしまった。

 チャクラを操るだけの余裕が持てない私では、力ずくで自分を解放する事が出来ない。
 無意味な抵抗をして、なんとかして死を回避しようと足掻く――息苦しさに目尻に涙が浮かんで、そのまま頬を伝って地へ落ちた。

「――貴様は覚えているのか、千手柱間? オレ達が初めて出会った時の事を」

 何かをマダラが呟いているが、聞き取って理解するだけの余裕はない。

 脳が酸素を求めて必死に警報を鳴らし、なんとかしてそれを達成しようともがき続ける。
 足が地を蹴ったところで、軽く地が削られただけだ。

「どうせ、貴様は覚えていないだろうな」

 目元に涙を浮かべながらも、それでも私を見下ろすマダラを睨み返す。
 死に瀕した人間特有の必死さを浮かべた私の顔を見つめて、何を思ったのかマダラが軽く微笑む。

 暗く翳りの有る微笑みは、かつての彼が浮かべていた物とは全く違う物だ。

「――前とは完全に位置が逆転したな。オレは貴様に見下ろされ、ただ呆然としていた」

 愉しそうなマダラの顔を睨んで、必死で辺りに手を這わせる。
 左手でマダラの両手に抵抗しながら、右手で地面の上を探れば――固くて冷たい物にその指先が触れた。

「あの時はイズナがいたが、今はオレと貴様だけだ。……思えば随分と遠くへ来たものだな」
「っひゅ、ぐ……っ!」

 視界が赤から白へと変わる。

「あの時、オレ達を助けなければ貴様の父が死ぬ事も、この様な事も起きなかったものを。――結局の所、貴様は貴様自身の甘さに殺される」
「だ、まれ……!」

 遠のく意識をたぐり寄せて、霞む視界に目を凝らす。
 そうすれば、白く成りつつある世界に真っ赤な光が見えた。

「――うぅ、あ。あぁぁぁああっ!!」
「……っ!?」

 右手で掴んだそれを赤い光へと向ける。
 体に掛かっていた重みが外れて、一気に私の身はマダラから解放された。

「っはぁ、はぁ、ひゅ……っ! げほっ、ごほ!」
「あのまま抵抗せずにいれば楽に死ねたものを……」

 憎々し気にマダラが呟いているが、それどころではない。

 求めていた酸素が供給され、脳と全身が歓喜の声を上げていた。
 ふらつく足を叱咤して、必死に地面に立ち上がる。
 焦点の合わない瞳に力を込めて敵の姿を探せば、赤い目がじっと私を見つめていた。

「己の武器に救われたか……。悪運が強い」
「げほっ、げほっ! 悪運が強くて……結構! そう簡単に、くたばって堪るか!」

 私が手にしたのは、マダラとの激戦の最中に周囲に突き刺さっていたクナイの一本だった。
 金属の確かな手触りに、自らが九死に一生を得た事を思い知る。締め上げられた首が痛んだ。

「……っあ、はぁ」

 ふらふらとする足下に舌打ちしながらも、何とかして視界を固定させる。
 ――かつて無い程最悪な気分だ。
 今までにもひやりとする場面には何度か襲われた事はあったが、死をここまで身近に感じたのは初陣以来ではないだろうか。

「――木、遁・樹縛……栄、葬!」
「技の切れが落ちているな。この程度で……!」

 勿論、その程度でマダラを倒せるとは思っていない。これはただの一段階だ。
 避けるためにマダラが飛び退いた先で、前々から仕掛けていたブービートラップの起爆札を一気に発動させる。

 万華鏡が輝いて、瞬時に紫の炎がマダラを包む。
 対・マダラとの戦いに置いて、最大の障壁と成るのは彼が纏う攻防一帯の絶対防壁・須佐乃乎だ。
 完成形では無いとは言え、それを崩さない限りマダラへの決定打は当てられない。

 未だに素手での須佐能乎の破壊には成功した事はない。以前、皹を入れたきりだ。
 おまけに私も疲弊しているから、これ以上大技を使用する事でのチャクラの浪費を行えない。
 ――だからこそ、敢えて素手での破壊に挑むしかない。

 意を決して、マダラを睨む。

「――その鎧の中から、出て来てもらうぞ! うちはマダラ!!」

 僅かに残っている木遁の樹木の波を操って、私も前へと踏み出す。
 二面四腕の鬼が奔る木々を薙ぎ払う中を、ただ真っ直ぐにマダラ目がけて走って手に力を込める。

 ――――そしてそのまま、紫の炎を纏う鎧へと拳を打ち込んだ。 
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