| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

#38 "gap between ideal and reality"

 
前書き

"理想"ってのは実力が伴う者のみ口にできる"現実"だ。




ークロコダイルー




 

 
【11月2日 PM 9:35】

Side レヴィ

「俺がこの街で生まれたってのは話した事があったか?」

「いや、初耳だな」

ゼロは意外と素直に語り始めた。下らない茶々を入れてくることもなく。今夜はそういう気分なのかもしれないな……

真顔で本気なのか、冗談なのか分からない事をほざく奴だが、割合根は真っ直ぐな奴なのかもしれない。
最近はそういう風にも思えるようになってきた。

「お前も知ってるかもしれないが、俺が生まれた頃はまだ寂れた港街でな……」

ベッドが置かれた窓際から聞こえるゼロの声に耳を傾けながら、手元ではカトラスのチェックを続けていた。
一挺目を終わらせ、二挺目へと。
この街に来てから出会ったアタシの銃を。

シャワーを浴びて着替え直したわけだけど、今夜はコイツらの出番はないらしい。
残念にも思うけど、あくまで"今夜は"だ。
どうせまだまだ決着(けり)は着かねえ。

「俺が初めて銃を握ったのは未だガキの……」

もっと街の火が燃え広がってから飛び込んだ方が面白えだろうしな。
地味なパーティーは性に合わねえ。
夜中にこそこそ出掛けていって、ガキ共のケツを追っかけ回すなんてアタシらしくもねえかな、考えてみれば。

「この街を出て世界を見て回ったよ。さすがに銃は手放せな……」

二挺目のチェックを終わらせ、横目で窓際を見る。
ゼロは静かに語り続けてる。
その横顔からは奴が何を考えているかは読み取れねえ。
自分の過去を聞かれても構わねえのか、構わねえ程度の話しかしてねえのか……

「自分自身を銃だと思い込もうとしてい……」

冷蔵庫から新しいビールを取り出そうと椅子から立ち上がる。
それほど買い込んでる訳でもねえし、酒が切れたら『イエロー・フラッグ』でも……

いや、切れたらそれまででいいか。

冷蔵庫から二本ばかり取り出しながら、そんな風にも思う。
相棒からじっくり話を聞くのもいい。
こんな機会滅多にないことだしな。

「またこの街に帰ってきたのは、今からもう 十年は前になるか……」

ベッドに近付き、窓から外を眺めたままのゼロにビールを手渡す。
あたしが近付くのに気付いたか、一旦言葉を切り黙ってビールを受けとる。
アタシは元々座ってた椅子にではなく、床にそのまま座り込みベッドを背凭れ代わりにする。

「戻ってきたこの街は様変わりしてい……」

頭のすぐ上からゼロの声が降ってくる。それを聞きながら缶のビールを一口飲む。その一口がやけに美味く感じられた……















【11月2日 PM ??:??】

Side ロック

ああ、これは夢だ。それとも俺は死んだのか。

俺の目の前には"俺"とレヴィがいる。
俺は何故だか少し地面より高いところから "二人"を見ている。
レヴィが"俺"に銃を突き付けている場面を。

実際に俺が経験したそれと違うのは、まず二人がいる場所だろう。
店に囲まれ二人の間にはテーブルがあることから考えれば、恐らくカオハン・ストリートの辺りか?
俺がレヴィに連れられていった路地裏とは全く違う場所だ。

それに二人の表情もまるで違う。
互いに歯を剥き出すように怒りに染まる顔は、俺は勿論あの時のレヴィにも見られなかったものだ。
今思えばレヴィは怒るどころか、何とも思っていなかったんだよな、俺のことなんて……

やがて俺の目の前でレヴィはいよいよ銃を撃とうとしている。
"俺"は目を閉じようともせずレヴィと銃を睨みつけたままだ。

「………」

俺は何も言えずにただ見ていただけだ。
仮に何かを言えたとしても二人に伝わるとは思えなかったけど。

そして、

レヴィが引き金を引く。

全く音は聞こえなかったが。

だが"俺"の頭に穴が開く事はなかった。

レヴィが外したわけじゃない。

"アイツ"の時のように外したわけじゃない。

"俺"が外させたんだ。

銃から弾が撃ち出される瞬間、カトラスの銃身を掴んで弾を逸らさせたんだ。

"俺"はそのままレヴィの胸元を掴んで、何か言い出す。声は相変わらず聞こえないままだが。

「………」

それ以上見ていられなくて目を閉じる。固く、固く、しっかりと。

音も聞こえない、何も見えない、暗闇の世界で自分の身体がぐるぐると回りだすような錯覚を覚える。
気持ちが悪い、吐きそうだ。

俺が見たものは一体なんだったのか。
あまりにも俺の現実とはかけ離れたあの光景は。

あそこにいた"俺"こそが"ロック"なのだろうか。

俺が理想とした自分自身の姿。あんな風になりたいと思っていたのか。レヴィの顔を正面から見据えて、銃にも脅えたりしない、あんな自分に。

………分からないな、今ではもう。

第一今の自分が生きているのか、死んでいるのかすら分からないんだ。
あの光景が夢なのか、何なのかすら。

俺は一体どうなるんだろう?
いや、どうなってしまったんだろう?

わからない わからない わからない

俺には何にもわからない。

何をすればいいのか 誰を頼ればいいのか 何もしなくていいのか 誰も頼ってはいけないのか この街に残った方が良かったのか この街に残らない方が良かったのか 日本に帰るべきだったのか そんなこと考えるべきですらないのか 家で大人しくしてれば良かったのか あの二人にまた会いたいなどと思ってはいけなかったのか

俺には何にもわからない。








 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧