戦国異伝
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第十六話 正装その十四
「さらによ」
「さらにとは」
「都まで辿り着かれるというのですか」
「まさか」
「そのまさかよ。蛟はさらに昇るぞ」
信長の通り名についても話す。尾張の蛟龍である。
「さらによ」
「ううむ、それではですか」
「この度の会談はそれを見極められた」
「それは大きいですか」
「やはり」
「大きいのう。それではじゃ」
ここでだ。己の前にいるその彼等にまた話した。
「わしに何かあればじゃ」
「はい」
「その時は一体」
「どうされよと」
「まさかと思いますが」
「あの婿殿に」
「いや、それはすぐには動くでない」
家臣達は止めた。しかしこうも話すのだった。
「すぐにはじゃ」
「それは何故ですか」
「一体」
「先程のお言葉とは違いますが」
「それはどうしてですか」
「そなた達もより見極めるのじゃ」
それでだというのである。
「それでじゃ。すぐには動くでない」
「婿殿にはすぐにはつかずにですか」
「我々もまたあの方を見極めろと」
「そういうことですか」
「左様、そなた等も見極めるのじゃ」
こう告げる道三だった。
「よくな」
「では我等」
「まずは婿殿を見させてもらいます」
「そしてそのうえでどうするか」
「それを決めさせてもらいます」
三人衆や不破、竹中ばかりではなかった。他の者達も言うのだった。
そうしてだ。さらにであった。竹中が言うのであった。
「今天下は次第に大きな勢力にまとまりだしています」
「それぞれでじゃな」
「はい。武田然り上杉然り」
こう道三にも話す。
「次第に力のある家に集まってきています」
「そして尾張もよ」
「あの婿殿に」
「そしてさらにじゃ」
尾張に止まらないとだ。ここでも話す道三だった。
「天下やもな」
「では我等はです」
「それを見させてもらいます」
「是非」
「そうしてくれ。それではじゃ」
こうした話をしていたのだった。道三達も何かが動こうとしていた。
そしてであった。信長は清洲に戻るとすぐに帰蝶のところに向かった。そうして会見のことを彼女に対して笑いながら話すのであった。
「とまあそういうことじゃ」
「左様ですか」
帰蝶は夫の言葉に静かに返すのだった。
「わかりました」
「何じゃ、それだけか」
「何かありますか?」
「いや、驚いたりはせぬのか」
彼が言うのはこのことだった。
「わしが傾いた後で正装で出てみせてじゃ。そのことは」
「考えられましたので」
ここでも静かに返す彼女だった。
「ですから」
「何とも思わぬのか」
「はい」
その通りだというのであった。
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