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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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若葉時代・火影編<後編>

「火影様! 急ぎお耳に入れなければいけない事が!!」

 そう言われて叩き起こされたのは、夜もまだ明け切らぬ頃。
 人が近付いた気配で目覚めてはいたが、なんだってばこんな時間に……。
 そんな不満は報告に上がった次の言葉に、一気に吹き飛んだ。

「マダラ殿が……岩との会談に向かって……それで」
「マダラが!?」

 不味い。岩との会談に強硬手段を取られでもすれば、一気に木の葉との関係が悪化しかねない。
 自身の失態にほぞを噛みながらも、隣の部屋で眠っていたミトに口早に状況を伝える。
 着替える時間も惜しいが、取り敢えず羽織を羽織っただけの格好で、邸から飛び出した。

 ――間に合ってくれよ!

 四尾を封印した後、無殿とオオノキ君との間に今後の木の葉と岩との関係について話し合おうと、同盟を結ぼうと約束して――それを逆手に取られてしまった。

 走りながら報告を聞けば、マダラは兼ねてから伝えていた時間を変更し、別の場所を会談場所として指定したらしい。
 親書を当てた相手が私かマダラかなんて、付き合いの浅い岩の人々に分かる筈が無い。おまけに写輪眼があれば筆跡の偽造なども容易い。

 おそらく、彼らは突如として変わった事に不審を抱きつつも、素直にマダラの指定した場所へと向かっただろう。

 してやられた!
 マダラが私のやり方に不満を抱いていたのは知っていたが、まさかこんな形でそれが暴発されるだなんて……!

「――――先にいく!」
「お待ちください、火影様! お一人では……」

 一緒に来てくれた忍びが叫ぶが、見る見る内にその声は遠くなっていく。

 頼むから、最悪な事態になる前に間に合ってくれ……! そう願いつつも、遠くに見えた土煙にそれが果たされなかった事を悟らざるを得なかった。

「マダラ、お前!!」
「――遅かったな、柱間」

 崩れ落ちた壁や、真ん中から折れた柱の数々。
 廃墟と化した会談場所で佇む人影にひとっ飛びで近寄って、私はその胸元を掴む。
 どう考えても、事後だ。――つまり、私は間に合わなかったという事になる。

「奴ら散々渋っていたが、最終的には意思を折らざるを得なかったな。次期土影候補筆頭だと言うから期待していたのだが、存外に他愛無い」
「……無殿と、オオノキ君は!? まさか、マダラ……!」
「死なせてなどいない。少々痛めつけただけだ――木の葉に逆らおうとする気も起こらない様に、な」

 こんの性格ドSが! 
 やけに愉しそうなマダラに、歯を食いしばる。堪えないと、今にも殴り掛かってやりたいぐらいだ。
 マダラの服の胸元を掴んだ手に力を込める。

「最初からこうすれば良かったのだ。貴様が何日もかけて引き出そうとした条約は、より木の葉が有利な状態で結ばれた」
「彼らの心に根強い反感と憎しみを残して、な」

 かつて無い程低い声が私の喉より零れる。
 そうなるのが嫌だったから、時間をかけて同盟を結ぼうとしていたのに……! ぎりぎりと歯を食いしばって、マダラの目を睨む。
 マダラなりに木の葉の事を考えて行った行為だとは分かっている。だからこそやるせない。

「同盟など必要ない。ただ木の葉の圧倒的な力の前に従わせればいい――そう言った筈だ」
「その手段だけは取るつもりは無い――そうとも言ったぞ」

 噛み締めた歯の隙間から絞り出す様にして、声を出す。ただそれだけの行為が酷く億劫だった。
 大きく息を吸って、吐き出す。そうしてからマダラの襟元を掴んだ指を外した。
 起こってしまった出来事は時を巻き戻す手段が無い限り不可能だ。何とかして岩との間に入った亀裂を埋めなければ。

「――……四尾を岩へ渡す。それしかない」
「柱間、貴様!」

 目を剥いたマダラを無視して、淡々と言葉を綴る。

 次期土影候補ともあろう者がマダラに叩きのめされた事実は、彼らの誇りと自尊心を著しく傷つけ、木の葉への反感を生み出しただろう。それを取り戻すために、彼らは力を求め始める。
 だったら、木の葉の方から彼らの求める物を彼らの前へと投げ出してしまえばいい。

「貴様、貴様はどこまで……!」

 今度は私の襟首が掴まれ、そのまま背後の壁へと叩き付けられる。
 強い力が背中を圧迫し、咳き込んだ。

「何故貴様はそれだけの力を持ちながら、それを使おうとしない! 貴様程の力があれば、何もかもが思い通りにいくというのに!」
「力があるこそだ! 人々は乱世に疲れ切っていた! ならばこそ、我らがすべき事は力からなる抑圧や支配ではなく、言葉に寄る融和や和解を目指すべきだろう!!」

 お互いに睨み合って、至近距離で意見を言い合う。
 私もマダラも譲る気がない事は瞳に宿る意思から理解出来る。襟首にかかる力がますます強まる。
 息が苦しくなるが、それでも視線を逸らす気はなかった。

「人と人が分かり合える時代など来ない! 人が死んだ所で後に遺る物など何も無い、イズナが死んで遺された物がオレの瞳力だけの様にな!」
「そんな事は無い! 死者を悼み、故人に対する感情や思いがなくなる訳ではないだろうが! お前とてそれは同じだ!」
「ああ、そうだろうな。そうして、それらの感情は容易く憎しみに変わる。だからこそ、遺るものがあるとすれば、それは――」

 ――――憎しみだけだ。

 荒々しい語調が一変して鬱蒼と呟かれた言葉に、戦慄が走った。
 炎を映し込んだ様な写輪眼なのに、覗き込んだ先の双眸は酷く冷たい。

「うちはのためと思い、同盟にも参加した。だが、所詮オレと貴様の道は交わる事は無い様だな」

 ――うちはのためで、木の葉のためではないのか。
 こいつがもっとうちはだけでなく、木の葉全体を守ろうとする意思があれば、喜んで火影の座をこいつに渡したのに。
 軽く頭を振って、掴んでいる腕を引離す。
 向こうもそれ以上に引き止める気はなかったらしく、簡単にその腕は外れた。

「火影様! それにマダラ様!!」
「……これから土影殿との会談に向かう。悪いが、このまま付いて来てくれるか?」
「は? ――はっ!!」

 追いついて来た木の葉の忍び達が差し出した火影の衣装を手に掴む。
 それまで羽織っていた羽織を脱ぎ捨て、火影の衣装を纏って、『火』と書かれた笠を被った。

 マダラへと背を向けて、そのまま歩き出す。
 ――私達の視線が交わる事は無かった。

*****

「やはりな。温厚派で知られるあんたにしては変な真似をすると思ったが、予想通りうちはマダラの独断か」
「……あなた方には、本当に申し訳ない事をした」

 土影との会談を終え、向かった先の宿舎。
 包帯でぐるぐる巻きの格好であった無殿は、今度は怪我のせいで包帯をあちこちに巻いていた。
 その体に手を伸ばして、治療を開始する。

「オレは噂に名高いうちはの頭領とやり合えたからお互い様だが、うちの小僧がな」
「……オオノキ君にも、済まない事をしてしまったな」

 手を翳せば、見る見る内に怪我が治っていく。

 あの時、会談場所には無殿の他にオオノキ君もいた。
 マダラの事だ、相手が子供だからといって容赦を見せる様な真似はしなかっただろう。

「――あんたはオオノキには会わない方がいいだろうな。あいつは……どうやら捩じ曲げられちまったらしい」
「……そうか」

 純真な眼差しで私を見上げていた少年の姿を思い起こして、頭を振る。
 マダラが撒いた種はそんな所でも芽をつけていた――つくづく、自分の至らなさが身に滲みる。

「気を付けろ、火影。お前がなんと思っているのかは知らんが、あの野郎があんたに対して抱いている感情は生半可な物じゃない。下手すりゃ本人をも焼き尽くしかねない代物だ」
「憎まれているのは、知ってるよ。何とかして、それを解消したいと願ってはいるのだけれども」

 そっと息を吐いて、立ち上がる。
 治療も終わったし、四尾を封印した巻物も無事に渡し終えた。これ以上土の国にいたところで、人々の感情を逆撫でするだけだろう。

「憎しみか……。そんな単純な物で済まされる様な物とは思えなかったがな」
「やけに分かった様な口を利くんだな、無殿」
「ククク……。気を損ねさせた様だな、悪かった」

 ちっとも悪いと思っていなさそうだね、おい。

「――――今度会う時は戦場かもしれないな」
「そうはしないさ。――……少なくとも、オレが生きている限りはな」

 静かに囁かれた一言に、思わず足が止まる。
 しかし、それ以上言葉を続ける気もなく、私は部屋を出た。

*****

 岩との会談を終えて、私達は木の葉へと戻った。
 私とマダラの方針に決定的な違いがある事に関しては、もう誤摩化しようがなかった。
 互いに互いの主張を譲る気もない。
 マダラが武力に寄る木の葉の――ひいてはうちは一族の利権拡大を望むのであれば、私は話し合いや同盟に寄る平和の実現を願っていた。

 会話はどこまでも平行線を辿り、既に入ってしまった亀裂が修復される事は困難だった。

 ただでさえ戦に疲れ、争いの毎日を倦んでいた人々。
 そんな彼らを再び戦場に送り出す様な真似を私はしたくなかったし、するつもりもなかった。
 その主張は木の葉の人々にも受け入れられ、火の国全体が木の葉と言う大きな隠れ里が出来た事でようやく訪れた平穏な毎日に微睡みの日々を送っていた。



 そんなある日。
 私は固い顔の桃華から、一つの知らせを受け取った。

「――――なんだって? もう一回言ってくれるか、桃華」
「……うちはマダラが、一族から……引いては木の葉から去りました。火影様、如何なされます?」

 手にした筆に力を込めれば、嫌な音がする。
 うちはマダラが木の葉から去った。言葉の表面上だけを聞くのであれば、なんともない。
 ――しかし、その言葉が意味する物は重い。

「うちはの人々は何と言っている? 戦国の世を共に駆け抜けた頭領が去ったんだ、かなり動揺している筈だ」
「いえ、それが……。寧ろ、安堵している様にも見えました」

 安堵している? どういう意味だろう。
 唇を噛み締める。考えなければいけない事が山ほど有った。 
 

 
後書き
原作でどう考えてもバリバリのタカ派のマダラを一人で岩との会談に向かわせた原作柱間の考えが分からなかったので、ここでは敢えてマダラが柱間を出し抜く形で同盟を結ばせた……と言う事にしました。
多分ですけど、二人の最大の違いは里単位で考える事が出来たのか、一族単位でしか出来なかったのか、だと思います。 
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