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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第2話 今後の考察と告白

 こんにちは、ギルバート・A・ド・ドリュアスです。えっ? Aが何の略かですって? ……一応、アストライオスと言っておきます。

 最近になって、立て続けに色々な事が発覚して知恵熱が出そうです。本当になんでこんな事になったのでしょうか?

 それはそれとして、突然ですが俺に名前をつけました。理由は何かを考えてる途中に混乱して、自分で分けが分からなくなってくるからです。もう一つの理由として、この知識の対外的な言い訳が欲しいと言うのもあります。

 名前は“マギ”にしました。意味は、東方の三博士(賢者)・魔法使い。誰かが「進み過ぎた科学は魔法と変わらない」と言っていましたし、あえて単体系(マグス)にしなかったのは、“俺は私と僕を含めて俺である”という自負があるからです。あとはマギ族にちなんだ、ロマリアに対する皮肉も含んでますが……。

 対外的には『東の世界』ロバ・アル・カリイエから来た私の恩師にして、父上か母上の友人(故人)という事にしようと思っています。いずれ、父上と母上には「冥き途にて、魂を癒し知識をくれた恩人」と紹介するつもりです。彼がいなければ“私は産声を上げる事が出来なかった”と、報告するつもりです。父上と母上は、きっと受け入れてくれると思います。

 さて今後についてですが、いろいろ考えました。まず気になるのが、原作との差違です。私というイレギュラーが存在する以上、原作とまったく同じと言う訳には行きません。また極端な事をして原作から外れ過ぎると、せっかくの原作知識があまり役に立たなくなります。かと言って、原作開始前から準備できると言うアドバンテージを、無駄にする訳には行きません。

 先ずは、マギが持っている原作知識についてまとめます。

 ゼロの使い魔19巻(未完)
 タバサの冒険3巻(短編)
 烈風のカリン2巻(未完)

 以上です。見事にライトノベル一色です。とは言え、十分すぎるほどの武器です。

 現状分かっている差違は、私を別にすると魔の森と言う森です。瑣末過ぎて、原作で名前さえ出て来ないだけなら良いのですが。

 次に目標と今後の方針です。

 目標は“平和で静かな老後をおくる”です。あれ? 私はなんで、こんなに枯れてるのでしょうか? ……まあ、気にしないでおきましょう。

 方針は“戦争を回避し、領民(国民)に負担をかけず原作より状況を改善する”です。「綺麗事を言うな!!」と思うかもしれませんが、私にとってこれは譲れません。

 この方針では、リッシュモンやゴンドランといった腐った貴族の排除が効果的である考えます。またワルド子爵は、裏切らせないのが良いでしょう。味方にできれば心強いですが、敵に回せば厄介な事この上ないです。幸い原作知識という武器がありますし、私は結構嘘吐きですから何とかなると思います。

 どの道戦争を否定した以上、裏工作で切り抜けるしかありません。最大の敵はジョセフ王か?正直勝てる気がしません。それとこの路線でいく以上、目立ちすぎるのはダメです。あくまで“多少腕の立つ青二才”程度の評価が望ましいです。暗殺とか怖いですし。

 とりあえず裏工作を行う上で、足りない物とその対策を考えてみました。

1.資金
 これは解決が難しい問題です。しかしマギの知識を利用すれば、決して不可能ではない問題でもあります。しかし特産品を作るにしても、初期資金と土地の確保がネックになってきます。現状のドリュアス領で、それが可能かが問題です。
2.コネクション
 今のところ、私が知っている有力貴族は、両親の上司にあたるヴァリエール公爵です。ここは、公爵に取り入りコネクションを広げるのが一番の近道でしょう。
3.名声
 兎に角、大きなことを成して周りから認められる事です。これも、マギの知識を利用すれば十分に可能な範囲でしょう。
4.実力(政治手腕)
 これは場数を踏むしかないでしょう。マギの頃は人見知りする為、交友範囲を絞りこみ狭く深い付き合いをしていました。この方面でマギの経験は、ほとんど役に立たないと言って良いでしょう。

 問題点は山積み状態です。特に目立ちたくないという最初の前提に、|悉《ことごと)く反するのがキツイです。ある程度は誤魔化せますが、如何考えても限界があります。資金を稼ぐのは当然ですが、暗殺等は実力をつけて対応するしか手はありません。

 兎に角、赤ん坊の状態では何にも出来ないので、早く大きくなりたいです。



 あれから、かなりの時間が経ちました。

 言葉の方ですが、喋るトレーニングの方は意外に楽でした。最初に喉を鳴らすコツさえつかめれば、マギの頃の要領ですぐ喋れるようになりました。それでも発音には、結構苦労しましたが……。ちなみに目立ちたくないので、出来ない振りをしています。流石にまずいと思い、最初に「まぁまぁ」と口にした時は、母上にめがっさ喜ばれました。

(……なんか良心が、ものすごく痛みます)

 文字の方は単語もかなり覚えました。正直に言うと、習得スピードが尋常じゃないです。マギの時には英語の習得にあれだけ苦労したのに。……すいません。嘘言いました。マギの時に英語は、ちっとも習得できていません。

 そしてやっと一人で、歩けるようになりました。まあ、まだまだ危なっかしいですが。

 そのおかげか……やっと……やっと、我が目の前に待ちに待ったおまるが……。感動で涙が出そうです。あまりに嬉しかったので、下を脱ぎ・おまるに跨り・排泄し・尻を拭き・再び下を穿くと言う一連の流れを、メイドの目の前でやってやりました。かなり驚いて、固まっていました。しかも、それをメイド長にそのまま報告したらしく、寝ぼけるな!! とお説教をもらっていました。

(ザマーミロ。もう、お前に下の世話にならねえよ!!)

 思えばトイレに行きたくなる度に、脱走していました。(屋敷の中ですると、絨毯などの掃除でシャレにならない)しかし毎回パターンが決まっているかのように、同じ事を繰り返しでした。

 トイレに行きたくなる。→脱走→失敗→拘束→漏らす→恥辱の罰ゲーム。

 毎回このパターンなのです。しかも、このメイド10代後半で若いんです。終いには「抱っこすると漏らす」と言う、不名誉な誤解を受けてしまいました。しかし、これでやっと私の名誉は回復する事でしょう。その後何故かトイレの度に、涙目で睨まれることとなりました。こっち見んな、後ろ向け!! ……流石に、ちょっと可哀想か? あとで、何か埋め合わせしよう。このメイドは、たしかミーアって名前でしたね。

 そう言えば、おまる登場直前に事件が有りました。いつも通り、恥辱の罰ゲームを受けた私は寝室で、見慣れない一冊の本を発見したのです。興味本位で開いてみると、それは18で発禁な本でした(注 文章のみ)。そこにミーアが、オムツの処理を終え帰って来たのです。恥ずかしくなり、私は思わずその本を隠してしまいました。その後ミーアが、焦って何かを探していたので、持主は間違いなくミーアだと分かりました。この状況で本をなかなか返せずにいると、なんと母上に本を発見されてしまったのです。母上が、その本をパラパラと流し読みをした後で一言。

「……持主は誰?」

(母上!! 怖いです!!)

 業務内容に私の監視が含まれているミーアは、当然その時同じ部屋に居ました。見るとミーアは、顔を青くしながら変な汗を流し震えています。しかし余程あの本が惜しいのか、それとも後で発覚するのが怖かったのか、震えながら手を挙げ名乗り出ます。

 その後私は、すぐにメイド長に預けられ部屋を追い出されます。帰って来た時には、母上もミーアも何故か笑顔でした。

 ……いったい何があったのでしょうか?



 いよいよ母上の出産が、目前に迫っています。しかし何故か父上が全然帰って来ないのです。思い出してみると、母上が家に閉じこもってから、一度も父上を見かけていません。使用人達も、父上が帰ってこないのを心配しているようです。そこで思い切って母上に聞いてみました。

「ぱぁぱぁ、いない、どこ?」

 その言葉に一瞬驚き、すぐに喜び……そして最後に「王都よ」と呟きながら目を逸らされてしまいました。

(一体何があったのでしょうか?)

 流石にそれ以上は、何も聞けませんでした。

 それから数日後、ようやく父上が帰って来ました。しかも、同僚らしき人に引きずられながら。同僚らしき人に、執事のオーギュストが対応しています。オーギュストは、何度も同僚らしき人に頭を下げていました。同僚らしき人は、笑いながら「気にするな」と言っています。結構良い人のようです。

 少しだけ話が聞こえましたが、名前はゼッサールと言うらしいです。あれ? マンティコア隊の隊長ですか? あんまり、ごつく無かったですし髭面でもないですね。結構若いみたいですが、同一人物なのでしょうか?

 同僚らしき人は忙しいらしく、父上を引き渡すとすぐに帰ってしまいました。

 父上はそのまま母上のところに連行されます。そして、母上の前に立った父上は一言。

「すまなかった。……その、怒鳴ったりして悪かった」

 と言って、頭を下げました。

「……いいの。最初に約束破ったのは、私なのだから」

 母上は、そう言って首を横に振りました。そして、熱い抱擁を交わしています。

(この馬鹿夫婦、この大事な時に喧嘩してたのか?)

 私はこの状況に呆れてしまいます。見るとオーギュストさんは溜息をついていました。他の使用人達も一様に疲れたような顔をしています。

(まあ、一件落着かな? 後は、赤ん坊が無事産まれてくれれば……)

 そう思い、母上と弟か妹の無事を祈りました。

 まあ、メイドに抱っこされたたままじゃ格好つかないんですけどね。



 それから、二日後に陣痛が始まったのです。早々に父上と私は、部屋の外に放り出されます。心配ですが父上と私には、待つ事以外に出来ません。正直に言わせてもらえば、父上の挙動不審ぷりは目を見張るものがあります。

 先程から立ったり座ったり。扉の前をウロウロしたり。私を抱き上げては下ろしてみたり。トイレに行っては直ぐに戻ってきたり。何故か、星に向かって祈り始めたり。(何をやっているんでしょうか? この人は)

 そして終には、私を連れて隣室へ入ります。話をしていれば、気分がまぎれるとでも思ったのでしょう。私に向かって、今の自分の思いを吐露して行きます。正直に言わせてもらえば、勘弁してほしいです。

 そしてヒートアップしてきた父上は、危険な発言(始祖ブリミルの否定)をし始めます。

(この……似た者夫婦)

 気が済むまで話を聞くと、父上は少し冷静になったようです。

「本当は、もっと大きくなってから話すつもりだったが……」

 と、区切りました。

(はいはい、どうせまた同じ話を聞かせるつもりでしょう)

 私が投げやりにそう思っていると、父上はぽつぽつと話し始めました。

 最初の話は、母上が気にしていたあの子の話でした。あの子の名は、ユリア・マース・ド・ドリュアス。そしてその子は、産まれても産声を上げる事なく逝ってしまったそうです。その時の事を思い出したのか、手が僅かに震えていました。

 次に話し始めたのは、母上と何故喧嘩になったかです。なんでも私を身ごもった時も、母上は妊娠を隠したそうです。しかしその時は、使用人が気付き直ぐにバレました。今後絶対に、妊娠は隠さないと約束したそうです。

 しかし今回も、母上は言い出せませんでした。一人目で知った絶望は、消えたわけではなかったのです。そして、二人目の時の周りの過剰な反応も、母上を引かせました。言わなければと思いつつも、言い出せなくなってしまったのです。そうこうしている内に、前回発覚した時より経過が進んでしまい、更に言い出せなくなる悪循環に陥ります。結局父上が気付くまで、母上は言い出せませんでした。そこから口論になり、大喧嘩に発展。しかし当然ながら父上は、妊娠した母上を攻撃できませんでした。結局母上は、一方的に父上をボコボコにして家に逃げたそうです。

 あまりの内容に、絶句してしまいました。

 しかも上司と同僚は、かなり初期の段階で母上の妊娠に気づいていたそうです。父上が気がついた時には、フォローは全て終わっていたのが、その証拠となるでしょう。

「私はそんなに鈍いのかな?」

 そんな父上の言葉に、目を逸らすことで返事をしてあげました♪

 話は私の事に移りました。私が産まれた時も、すぐに産声を上げなかったそうです。あまりの事態に私ごと母上を抱きしめ、当てつけのように爛々と輝く星に向かって叫んだそうです。「我が子を返せ」……と。

 その瞬間星が強く光り、私が泣き始めたと言うのです。父上は私の事を「星の奇跡の子」と、言いました。その時の父上は、本当に嬉しそうでした。

(だから先ほど星に祈っていたのですか。……それよりも気になるのは、僕と姉で死亡状況が酷似し過ぎている事ですね。とても偶然とは思えません)

 私はそう思いがらも、話を止めようとは思いませんでした。

 続いて上司や同僚達が、如何に無理をして協力してくれたか長々と話してくれます。

(父上は、本当に良い上司と同僚に巡り合えたのですね)

 そこでは、私も感謝の念で胸が一杯になりました。まだ父上の話は続きます。

 次はある商人の話でした。その商人は、王宮に出入りを許される程の大商人だそうです。その商人ペドロは、平民を差別しない父上と母上を気に入ったらしく、いつも割引をしてくれるそうです。

 母上が一人目を妊娠中に、体調を崩した事があったそうです。ペドロはどこかでその話を聞きつけ、態々妊娠中でも使用できる珍しい秘薬を持ってきてくれたそうです。しかも料金半額で譲ってくれたと言うのです。母上は、秘薬を飲むと随分と楽になったと言っていたそうです。

 ペドロは私の時も今回も同様に、同じ秘薬を半額で売ってくれたそうです。

(母上が妊娠中に秘薬を飲んだのですか? 商人がそんなに値引きするのでしょうか? むしろ今回の様なケースなら、吹っ掛けて来るはず。そんな甘い商人が、王宮に出入りできるほど出世できるのでしょうか?)

 私は思考の海に落ちそうになりましたが、なんとか踏み止まります。

「まあ、……今回は使う暇が無かったがな」

 と、父上は笑いました。

「せっかく譲ってもらったのだがな」
 
 そう呟きながら、父上はポケットから小瓶を取り出しました。

(現物が有る? 確認できないかな?)

 そんな事を考えていると……。

「おぎゃゃゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!」

 突然、赤ん坊の泣き声が部屋に轟きました。父上は驚いて、小瓶を取り落とします。

 しかし父上は、私と小瓶をほったらかしにして母上の元へ走って行ってしまいました。

(それから、父上。……マースは男性名です)

 そんな事を考える私の目の前に、父上が取り落とした小瓶が転がっていました。



 ただ今、屋敷の中はお祭りムードです。産まれたのは女の子でした。父上は先程から目尻が下がりっぱなしです。

(私の時もこんな感じだったのかな?)

 等と感慨にふけってしまいました。

「坊ちゃん、仲間外れでお寂しいですかな?」

 声をかけて来たのは、老執事のオーギュストでした。その隣には、メイド長のアンナもいます。二人とも、笑顔を隠し切れていませんでした。

(プロ根性か? 仕事中とは言え、こんな時くらい堂々と笑えば良いのに)

 等と思ってしまいました。

「坊ちゃんの時は、もっと大騒ぎだったのですぞ。旦那様曰く、星の奇跡の子ですからな」

(その星の奇跡の子って、恥ずかしいから止めて欲しいのですが……)

 オーギュストは、とうとう笑顔が隠しきれなくなりニヤニヤ笑いだしました。つられたのか、アンナも笑顔になります。オーギュストの話は、まだまだ続く様です。

「今回も旦那様は、私達使用人にご温情を下さるでしょう。恐らく坊ちゃんの時と同じ、特別手当と交代での休暇ですかな。私も急に孫娘の顔が見たくなりました」

(あーあ。嬉しそうな顔しちゃって)

「おぎゃゃゃぁぁぁーーーーーー!!」

 その時、赤ん坊の泣き声と共に、和やかなムードが吹き飛びました。爆心地は父上と母上の様です。何故か思いっきり睨み合っています。

「あなたは、ネーミングセンス無さ過ぎなんです」

 妹をあやしながら、母上が平坦な声で言い切ります。

「そんなことは無い」

 声を荒げる事なく、父上が負けじと言い返します。

「この子を見て。どうしてレオなんて名前が出てくるんですか?」

「何を言う、子猫のように愛らしいではないか。そして、名前にするなら強そうな方が良いではないか?」

(父上。いくらなんでも流石にそれは無いです)

 私は思わず心の中で、突っ込みを入れてしまいました。父上はこのままでは言い負かされると思ったのか、オーギュストに視線で援軍要請をしました。流石のオーギュストも、目を逸らして拒否しました。アンナも同様に目線を逸らします。

「そもそもマースとレオは男性名。アストレアは女性名です。どうして性別と反対の名前を付けたがるのですか?」

 母上が畳みかけます。平坦な声が非常に怖いです。

「子猫ならキティでは駄目なのですか?」

 父上はぐぅの音も出ません。母上の完全勝利で決着がつきました。そして私は、父上に止めを刺します。黒い笑みが出ないように注意しながら父上に近づき、その服を手で引き振り向いてもらいます。自分を指さし、首をかしげながら……

「女の子?」

 と、聞いてやりました。父上、完全撃沈。ザマーミロ。

 その後、すぐに父上と母上で話し合い。妹の名前が、決定しました。

 アナスタシア・キティ・ド・ドリュアス

 うん。まとも? と言うか許容範囲内です。キティ(キャサリンじゃないのと言う突っ込みは控えます)は如何かと思いますが、意味は目覚める子猫もしくは復活する子猫でしょうか?

 アナスタシアは、目覚める女・復活する女という意味があったはずです。この名前には、父上と母上のトラウマが多分に反映されているのに私は気付きました。

 妹を囲み、幸せそうにしている父上と母上……そして使用人達。本来なら、5年前には既にあったかもしれない光景。

 これ以上、この家が踏みにじられては堪りません!! なら、危険だろうと何だろうとやります。父上と母上は、絶対に受け入れてくれる筈です。元々、話す予定だったのです。もう、躊躇何か出来ません。今更“可能性があるだけかもしれない”なんて、言い訳も出来ません。

 そうです。もしこの小瓶の中身が原因で姉上と僕が死んだのなら、もうこの家は目の敵にされています。一刻の猶予も無いと言って良いでしょう。

 父上が軍務に戻る前に、マギの事を話します。

 そして、この小瓶の中身を調べてもらいます。

 ……そう。絶対に。絶対にです。

 小瓶を握る手に、ギュッと力がこもりました。

 ……認めます。手が震えているのです。やはり私は拒絶されるのが怖いのです。



 次の日から父上と母上は、妹に独占されてしまいました。正直に言うと、ちょっと嫉妬を覚えます。こちらとしては“心の準備をする事が出来る”ので、ある意味ありがたいのですが、今なら妊娠を打ち明けられなかった母上の気持ちが少しだけ理解できます。

 父上と母上が話しているのを聞きましたが、父上が王都に出発するのが5日後らしいです。

 “つまり5日の有余が有る”と、思うのは間違いです。実際には父上と母上にも、落ち着いて考える時間が必要ですし、こんな荒唐無稽な話を信じてくれるかが疑わしいです。

 ですが、説得力を持たせるのも難しいです。唯一異常と確認できるのが、私自身が突然流暢に喋り出す事位しか無いからです。ならば話術で論破するしかありません。それで信じてもらった上で、受け入れてくれるのでしょうか?

(……弱気になるな!! もう後がないと思え。……そうだ、実際父上が薬を使わなかったのは今回だけですが、これが悪意ある毒薬なら前回と今回の2回使わなかった事になる。犯人は父上が見破っていると思うかもしれない。そうなれば良くて証拠の隠滅。最悪の場合、家族全員死ぬ事になってしまいます)

 私は“自分が言い出せなかった場合に生じる最悪のパターン”を考え、自分に発破をかけます。

 これからする話は、当然使用人達まで巻き込めません。純粋に、父上と母上だけに聞いてもらわなければなりません。それならば、狙うは母上が乳母と交代する就寝直前が良いでしょう。万が一を考え、最初にサイレントで聞き耳封じをしなければなりません。

 話すのは今夜です。出来るはず! いや、やるんだ!!



 ……そして、夜の帳が下りました。

 いつもなら眠くなる時間ですが、今日は全く眠気が訪れません。一度寝たふりをして、ミーアを部屋から追い出します。寝室には、十分な量の月明が差し込んでいました。ベットの上で窓の月を眺めながら、父上と母上の帰りを待ちます。

 暫くすると、父上と母上が寝室に帰って来ました。父上と母上は、私がまだ起きているのに驚いた様です。そして私がまとう雰囲気に、戸惑いを見せ……。

 母上は、私に眠るように促しました。

 父上は、私を睨みつけて来ました。

 通常なら母親の方が、子供の微細な変化に敏感なはずです。しかし母上は、私の変化を理解するのを拒否しました。父上は優秀な軍人のようです。いつもの柔和な感じが消え失せ、私を強く警戒しています。

 その場の空気を否定するように、母上が数歩前に出て口を開きました。

「ギルバートちゃん。もう夜も遅いから寝ましょうね」

 母上の目には、懇願するような色が有りました。ひょっとしたら、私の事を一番理解しているのは、母上なのかもしれません。しかし理解出来る事と、受け入れられる事は全くの別物です。そんな母上の声無き懇願を、私は踏みにじらなければなりません。

 私は意を決すると、口を開きました。

「父上。母上。大切なお話が有ります」

「「ッ……!!」」

 母上は呆然としながら、首を僅かに左右に振るだけでした。目には涙が浮かんでいます。

 一方で父上の警戒心は、一気に跳ね上がり杖に手が伸びました。

「人に聞かれたくありません。サイレントをお願いします」

「!!……分かった」

 父上は呆然と立ち尽くす母上を促し、サイレントをかけさせようとします。母上がたどたどしく呪文を口にし、魔法を唱えました。すると部屋の中に、僅かな圧迫感を感じるようになったのです。

「これで聞き耳の心配はないぞ」

 父上の声に、私は正直驚きを隠せませんでした。

(あの精神状態でも、魔法が確り発動するのか? もしそうなら、母上は本当に優秀なメイジなんだな)

 3人でテーブルに着きます。父上と母上が、寄り添うように椅子に座り。そして対面方向にある椅子に私が座ります。

 さあ、まずは自己紹介から始めましょう。 
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