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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  一話 楽園

2022年11月6日 san 午後4時42分頃

「らっぁ!!」

 振り下ろされた白いライトエフェクトを纏った両手槍が敵モンスターの紫色で丸太のような身体をまともにとらえ、赤いエフェクトが飛び散る。
敵モンスター、名称「ワーム」は苦しげに身体をのけ反らせ、ほんの少しの時間硬直する。俺はそのままライトエフェクトの消えない槍を、振り下ろした勢いを殺さずに身体ごと回転させ、連撃を見舞う。
重両手槍、初級連撃技「クロス」
 槍を文字通り十字を描くように縦横に薙ぎ払う技で、初級の技だが一発の威力がなかなかに高く、二撃とも命中すれば相手を若干硬直させる事が出来る優秀な技だ。
……外すと隙がでかく、ほぼ間違いなく一撃もらうのが玉に傷だが。

 瞬間、ワームの頭上のHPバーが消滅し、ワームはのけ反った体制のまま一瞬硬直すると、ガラスを割り砕くような音と共にその身体を完全に消滅させた。

「……ふぅ」
 だいぶ剣技《ソードスキル》にも慣れてきたか。とか思いつつ、俺は槍を地面に突き立てて指先の人差し指と親指を揃えて縦に振り、緑色のメニューウィンドウを開く。

 俺がこのゲームに入ってから、そろそろ四時間近くが経とうとしていた。
 その間に俺は、初めて使うソードスキルの初動をほぼ完璧にマスターしていて、モンスターとの戦いも慣れた物になってきていた。(それが結構凄い事だったと理解するのはだいぶ後になってからなんだが。)

『そろそろいったん戻って、手に入れたドロップ品を売るのもいいか。』
 だいぶ溜まってきたモンスターの素材などを見ながら、俺はそんな事を思いメニューから顔を上げ……と。
「ん?」
再びメニューに顔を戻す。なんとなく、さっきまで見ていたメニュー画面との微妙な違和感があった様な気がしたからだ。
……が、すぐには「それ」に気がつけなかった。当然「それ」が、俺がどうしようもなく不幸な事件に巻き込まれている事を知らせている事にも、俺は気がつくわけも無かった。

 第一層の主街区、「始まりの町」
ファンタジーゲームの代名詞を思わせる、中世ヨーロッパ風のレンガと木で造られた建築物が大通りから裏通りの細い路地まで軒を連ね、このゲームの中で、名実ともに全てのプレイヤーが最も初めに訪れる事になる町だ。
そこは、今も今とてたくさんのプレイヤーやNPC商人の声で賑わっていた。
皆、今日正式サービスが始まったばかりのこのSAOの世界を存分に楽しんでいる。

「これが仮想だなんてなぁ……」
 信じられない。そう思ってしまうほどこの世界はリアルだ。
建物や草木や人々等、目に見えるものはもちろん。足の裏の石の感触や、屋台の旨そうな臭い、回復用ポーションの味まで。唯一NPCが奏でる街のBGMと、上を見上げると存在する巨大な鉄の天幕以外に此処がバーチャルな世界だと感じる外部からの刺激はほとんどない。恐らく、このゲームの舞台である浮遊城アインクラッドの全百層全て、いや、それがこの世界なのだ。

 それは自分の身体にしても同様だ。アーガス社が開発した、「ナーヴギア」と言うヘッドセットをつけることで「完全《フル》ダイブ」と呼ばれる状態に入ったプレイヤーは、現実世界の自分の肉体から抜け出し、この世界での肉体を持つことになる。
 分かり易くに言うなら、現実の世界で自分の脳から身体へと送り出された電気信号がナーヴギアによって脊髄に伝わる前に延髄でデジタル信号に変えられて、現実の身体の代わりにこの世界での自分の身体を動かすのだ。

 そしてその、現実との完全な隔絶によって作り出されたこのバーチャルの世界で、何千、何万ものプレイヤーが共に冒険することができる。そんな数年前まで空想の話でしか無かった様な事を今俺は、世界初という早さで自分の身をもって体感している。

 ちなみに、今日は初回限定の一万本を買う事の出来た者たちしかこの世界には入ってきていない。そしてその一万人は大体が、このゲームソフトを買うために徹夜してまで並ぶような重度のネットゲーム中毒者だ。かく言う俺も学校休んでまで土曜発売ソフトをの木曜から二日間並んだので人のことは言えないのだが……。
まぁ、それだけの魅力があるソフトだったのだ。
そして期待通り、この世界は俺達ネットゲーマーにとって正に「楽園」だった。

駄菓子菓子(だがしかし)

 俺のその認識はすぐに真逆の認識にすり替わる事になる。
その最初のきっかけは、そんな事を思いながら従兄弟に教えてもらっていた安売り武器屋の戸を叩こうとした時だ。

────

 俺が簡素な木製の扉のノブに手をかけ押し開こうとする……と、殆ど同時に内側から扉が開かれ、俺はそのままつんのめってしまう。
「おっと!」
「うわっ!」
俺の声とドアを開けた人物の声とが重なる。
「すいません、まさか向こう側に人がいるとは……」

 申し訳なさそうにしゃべっている声が聞こえ、そちらを向くと、シンプルで軽そうな革が主体の鎧と、ヘルメットの様な頭の上部を守る兜に身を包んだ青年が立っていた。
人が良さそうな顔で、なかなかの美形だ。まぁこの世界にいる人間は皆作られたアバターなので、むしろブサイクに遭遇する方が難しいが。(それどころか性転換している奴もいるから性質が悪い)

「ああ、いや。俺も不注意でしたから、気にしないでください。」
俺はそう言って頭を下げ、「では。」と通り過ぎようとする。が、

「あ、あの!」
急に呼び止められ、俺はあわてて振り返る。そこには先程の萎れた顔とは打って変わって目を輝かせている青年が居た。

「な、何か?」
突然全く違う雰囲気になった彼の前に俺は多少たじろぐ。すると。
「あ、いや、その武器もしかして、ドロップ品かなぁ……って」
「え?あ、ああ、はい。」
 うなずいた俺を見て青年は「やっぱり!」と、笑顔になる。
確かに、今俺の持つ槍は一時間くらい前に倒したモンスターからドロップした物だ。性能が初めに買った物より良かったので装備したのだが……

『見ただけで判別付くって……武器収集者≪アームコレクタ≫か?』
 話を聞くと、青年のHN(ハンドルネーム)はスデンリィというらしく。結論からいえば俺の予想どうりだった。
何でも、他のMMORPGでも武器集めが趣味で、SAOでも、自分のメインで使う予定である槍だけでもなるべく沢山集めるつもりらしい。ちなみに、既に此処「始まりの町」の武器屋も周りまくった後なのだとか。

 話をしていて(まぁほぼ聞き役だったが)俺はちょっと気になったことを聞いてみた。
「そんなに武器ばっか集めてどうすんだ?」
既にタメ語なのはVRMMOなればこそだろう。歳も近そうだったし。
「そりゃあ、僕だけの至高の一振りを見つけるのさ!何しろ、《剣がプレイヤーを象徴する世界》だからねー。今からどんな武器に出会えるか楽しみだよ!」
目を眩しいほどにキラキラさせながらスデンリィは言う。
《剣がプレイヤーを象徴する世界》と言うのは、SAOの歌い文句の一つで、文字通りこの世界にはそれこそプレイヤー一人一人が全員別々の武器を持てるほど多くの武器が設定されているらしい。それらを集めていけば、いずれ自分だけの一振りも見つかる。と言う事だろう。
「なるほどな。俺も探してみようかな、自分だけの一振り。」
「リョウも?うん!絶対そうした方がいいよ!いや、そうしなきゃもったいない!」
拳を握りしめて熱弁するスデンリィに苦笑しながら、俺はスデンリィとフレンド登録を提案した。少し癖があるが、悪い人物ではないらしいし、こういうやつが知り合いにいるのも悪くないだろう。
スデンリィも快く了承してくれ、俺はめでたくこの世界に来て初めての友人を持つ事になった。
言い忘れていたが、俺の反HNはリョウコウという。みんなは略してリョウと呼ぶが。

 その後、俺は此処(武器屋)に来た本来の目的を思い出し、いったんスデンリィと別れることにした。が、店の奥へ行こうとするとスデンリィがこんな事を聞いてきた。

「そういえばその武器はどのモンスターから?」
元々それを聞くために話しかけて来たんだろう。いつの間にか有耶無耶になっていた初めの質問に、俺もスデンリィも苦笑する。

「ああ、これは……」
俺が答えようとした、刹那、スデンリィのアバターが一瞬硬直し、
ばしゃあ!と言うガラスを割り砕くような音と共に……消滅した。

「……は?」
 
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