ソードアート・オンライン stylish・story
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第十八話 S級食材を探せ!!
シュウはシリカとピナを連れて、アルゲードの南にある【嘆きの森】にやって来た。
この森はその不気味な名前のせいもあるのか、光が密集された木々達によって遮られおり、森の中は暗闇とまでは行かなかったが、一面に暗さが広がっていた。そして木々の幹の形はまるで叫び声上げている人間の顔を思わせるような形をしており、それは一層、周りの雰囲気を不気味立てていた。
「嘆きの森か・・・初めて来たな。て言うか、薄暗いな・・・ここは」
シュウが一人で愚痴っていたがシリカに至っては周りの雰囲気の怖さに少し顔を悪くし、身体を震わせていた。それもそうだろう。シリカは女の子で、こう言った薄気味悪い所は慣れいなくて当たり前だった。それに気付いたシュウはシリカを慰めるように声をかける。
「どうした?シリカ。怖いのか?」
「だ、大丈夫です!さあ、先に進みましょう!!」
シリカは強がっているのかそんな態度を取っていた。
それを感じ取ったシュウは頭の中で好からぬ事を思い浮かべると、さっそくその行動に出る。
「・・・あれ?シュウ・・・さん?」
自分の心を知られるのを慌てたシリカは急ぎ足で、シュウの前を早歩きで歩いていたが、途中から足音が自分のものだけになった事を感じ、急いで振り返るがそこにシュウの姿はなかった・・・
「ピナ。シュウさんの居所って分かる?」
「キィ・・・」
本来ピナは主やパーティメンバーを定期的に回復してくれる、言わばヒーラーだった。それによってピナは感知などの能力を備えてはいなかった。使い魔と言えど、そこは万能ではなかった。
「分かんないよね。シュウさ~ん・・・」
シリカはシュウに呼びかける声を上げるが、返って来たのは自分の声の木霊だけだった。そして・・・
ギャアギャア!!!
「キャッ!!」
シリカの大きな声に反応したの鳥のようなモノの声が一斉に森の中に響き渡る。それを聞いたシリカは悲鳴を小さく上げるとその場に蹲る。それを見たピナは心配するようにシリカに近寄った。
「大丈夫だよ、ピナ。今はシュウさんと探さないと・・・」
シリカがゆっくり立ち上がり、問題ない事を言い聞かせた途端・・・
ガサガサ・・・
とシリカの背後の茂みが大きく揺れた。
シリカは咄嗟に自分の腰に刺してあったタガーの柄を手に取る。音も大きかったため大型のモンスターと取って間違いないだろう。しかし一体ならまだしも集団で来られるとかなりやっかいだった。ましてはレベルの低いシリカにとっては泣き面に蜂だった。段々シリカの心は恐怖に蝕まれていった。そして葉と葉の間から鋭い眼光が見えるとそこから・・・
「グワァァァ!!!」
「イヤァァァ!!!」
シリカは飛び出してきた大きな影と大きな声に悲鳴を上げると腰を抜かし、その場にへたり込み嗚咽を出し始める。しかし、何時になっても襲われた感覚に陥る事はなかった。何故なら・・・
「あっははは。俺だ、シリカ」
「えっ?」
飛び出してきたのはシュウだったのだ。これがシュウの頭の裏に過ぎった好からぬ事の全貌だ。要するにシリカを脅かす事が狙いだったのだが、シリカにとっては少し強すぎたらしく未だに涙を流していた。
(これは・・・少しやり過ぎたか?)
流石のシュウもシリカを見ていると罪悪感に襲われて行った。
幾ら悪戯とは言っても相手を泣かせてしまう程の物はシュウにとってはそれは悪戯ではなかった。
「悪ぃ、シリカ。まさかここまで怯えるなんて思ってなかったからよ。どうするれば許してくれる?」
シュウが慌ててシリカに謝り、どうすれば良いか聞くとシリカは涙を拭い、シュウに近寄る。
「ひっぐ。じゃあ・・・私と手を繋いでくれたら許してあげます。後二度とこんな事はしないで下さいね」
「分かってる。俺もガキっぽいことやって悪かったな。ほらよ」
シュウがシリカに自分の左手を差し出すとシリカは泣き顔からパアと笑顔になるとその手を取った。シュウの手は大きく、そして温かいもので、握っているだけで安心感を覚える程だった。
「シュウさんの手・・・温かいです」
「そう言ってくれると嬉しいぜ。んじゃ、このまま獲物を探すとするか?」
「はい♪」
シリカはご機嫌の表情を浮べるとシュウ達は目的のモンスター【フリット・ラピッド】を探し始めた。
~~~~~~~~~~~~
シュウ達が探し始めて、三~四時間位が経った。しかし【フリット・ラピッド】は見つける事は出来ずに、そこらにいるモンスターと鉢合わせる事しか出来なかった。それに関してはシュウが相手をしてくれたため、大きな問題とはならなかった。
「シュウさん。もう帰りませんか?これだけ探してもいないんですから」
「Now then(そうだな)。今日は日が悪かったみてぇだな・・・悪ぃな、シリカ。こんな事に付き合せてしまってよ」
「大丈夫です。今日はシュウさんと一緒に冒険をする事が出来ましたから♪」
「そう言ってくれると嬉しいってモンだ。んじゃ、転移結晶で帰るか」
シュウがシリカに提案するとそれに頷き、同意する。そして転移結晶をポーチから取り出し、アルゲードに転移しようとしたその時・・・
「ん?」
感知スキルがMAXのシュウが何かに感ずいたのか転移結晶を使用せずに、ポーチの戻す。それを見たシリカも宣言しようとしていたが慌てて、結晶を戻し、シュウに尋ねる。
「あの・・・どうしたんですか?シュウさん」
「しっ・・・静かに」
シュウは自分の口に人差し指を置き、声を出さないようにジェスチャーを送るとシリカも分かったかのようにコクンと頷く。そしてシュウが大きな木の根元を凝視すると一匹の白いウサギが居座っていた。このウサギこそ、目的の【フリッド・ラピッド】だ。
このモンスターに危険性はないが兎に角、疾かった。見つけて仕留めようと思ってもその場に居なくなるほどのスピードで、狩猟するには闇討ちを狙うしかなかった。
シュウはリベリオンからルシフェルに替えると両手に二本の起爆剣を作り出し、それぞれの手に持った。そして小声でシリカとコミュニケーションを取る。
「どうやら最後で運が回って来たみてぇだな。シリカ、俺が仕留めてくる」
「分かりました」
「んで、シリカ。少しお願いがあるんだが良いか?」
シュウがシリカに自分の願望を言い聞かせるとコクンと頷いた。
シリカの同意を聞くと投擲の出来る位置にゆっくりと足を忍ばせた。そしていい距離になるとまず利き腕じゃない左で起爆剣をラピッドの周りに投げる。
ドス!!
と音が響き渡るとラピッドは驚き、その場を飛び跳ねた。第一投は音による陽動で、意識を投げた剣に向かせるためだった。そしてそれを見たシリカはシュウの言われた通り、一本目の剣が投げられ、ラピッドが見えた瞬間シュウに言われた事を言った。
「決め台詞は?」
それを聞いたシュウはニヤリと笑みを零し、右手の剣を振りかぶり・・・
「Jack pod(大当たり)!!!」
投擲すると見事にラピッドを貫き、消滅させた。ラピッドの身体はそんなに大きいものでは無かったが投擲スキルもMAXなシュウにとってそれは容易な事だった。そして習得アイテムを見るとS級食材の【フリット・ラピッドの肉】が表示されていた。
「狙った獲物は逃さねぇ・・・ハンターの鉄則だ」
「やりましたね?シュウさん」
「ああ!んじゃ、アルゲードに戻るか。シリカもお腹が空いただろう?」
「そんなことないで・・・」
クゥゥゥ・・・
シリカがシュウの言葉に反論しようとした瞬間、お腹の音が可愛く鳴った。それを聞いたシリカは顔が真っ赤になり、シュウから視線を背ける。
「あっははは。身体は正直みてぇだな?シリカ」
「あうぅぅぅ」
シュウはシリカを宥めると転移結晶でアルゲードに転移した。
~~~~~~~~~~~~
目的のS級食材【フリット・ラピッドの肉】を入手したシュウ達は転移結晶でアルゲードに飛んだ後にシュウのホームに戻った。
そしてシュウは何時もの仕事着・・・真紅のコートから赤を中心とした動きやすい私服に着替えた。シリカも自分の私服に着替えたみたいだった。
「シュウさんって私服も赤なんですね」
シリカはシュウの色の趣味を尋ねたが人それぞれなのでシリカもこれ以上とやかく言うつもりは毛頭ないみたいだった。そして応接室の奥にあるリビングとキッチンが一緒の部屋に移動すると手に入れた【フリット・ラピッドの肉】を取り出し、調理台の上に乗せるとシリカに何が食べたいかを聞く。
「これがS級食材か。さてと、シリカは何が食べたい?」
「それはシュウさんにお任せします♪」
「そうか。・・・んじゃ、久しぶりにシチューでも作るか」
そう言うとシュウは三徳包丁を持つと食材を刻んで行った。ここでシリカがシュウに質問をする。
「シュウさんはリアルでも料理をするって言ってましたよね?と言う事は、家族に作ったりしてたんですか?」
「家は両親が多忙だったからよ。変わりに俺や兄貴がたまに作っていたんだ。俺はカレーやシチューみたいな煮込み系の料理が得意だからな。そんで妹が『お兄ちゃんが作れるのに私が作れないなんておかしい!!』って、何張り合ってんのか知らねぇが、自分でも料理するようになったんだよ」
「あはは♪妹さんは負けず嫌いなんですね」
「兄貴にはそんな風じゃないのに何で俺ばっかに突っ掛かってくるんだ?アイツは」
シュウは自分の疑問を口にしながら、食材を刻んで行った。
しかしシリカにはシュウの妹・・・アスナが何故シュウに突っ掛かるのか前の話と連想させて自分なりの答えを導き出していた。
「それは妹さんがシュウさんの事が大好きだからだと思いますよ?」
「アイツが俺の事を?」
「そうですよ。何の理由も無しに突っ掛かるなんて変ですよ。シュウさんが妹さんを想っているからこそ、妹さんはシュウさんの事が大好きなんですよ、きっと」
シリカの自信満々な言葉と曇りの無い笑顔を見ていたシュウは、共感せざるを得なかった。
シュウ自身はそんな事を微塵も考えていなかったため、少し驚きの表情を浮べて、内心では嬉しさがあった。アスナが少しでも自分に心を開いてくれると嬉しいと願ってきたがあまり感じ取ってはいなかった。しかしシリカの言葉で考えてみるとそれは別の意味でシュウに心を開いている証拠でもあった。
「シリカ。ありがとな?慰めてくれてよ。お陰で気が楽になったぜ」
「えへへ。どういたしまして」
シュウはシリカにお礼を良いながら、自分は調理に専念して行った。
「まあ。本当だったら手順やら味の調節があるがSAOの料理は簡略化されすぎだな」
シュウは切り終えた食材を鍋の中に入れ込み、オーブンのような物に入れるとタイマーをかける。リアルなら、ここから色々工夫する事により、味を一層良い物に変えることが出来るがSAOではそこまで具体的には再現する事は出来なかったようだ。自分で素材を研究し、調合すればそれなりの調味料を作る事も出来るだろうがシュウはそんな事をやろうとは思っていないみたいだった。
「後は付け合わせのサラダとピナ用のステーキを作るだけだが、そう時間は掛からねぇから先に座っててくれないか?」
「分かりました。行こう?ピナ」
「キィ♪」シリカとピナはシュウに促されて、リビングのテーブルに腰掛けて料理が運んでくるその時までゆっくりと待っていた。
そして十分後、両手に二つの皿を持ったシュウがキッチンから出てきた。一つはピナ用に小さく切ったフリット・ラピッドの肉のステーキ。そしてもう一つはデミグラスソースで彩られたシチューだった。
「待たせたな?出来たぜ」
「うわぁ♪美味しそうです」
「キュー♪」
シリカとピナはその出来栄えに目を光らせていた。
シュウは自分の分と付け合せのサラダを持って来ると自分の席に着き、各自に皿が回っていることを確認すると・・・
「「いただきます」」
「ピィ♪」
感謝の気持ちを捧げ、食事を始めた。シリカがシチューを口に運び、その味を確かめると・・・
「美味しい!とても美味しいです、シュウさん」
程好い旨みが口全体に広がり、シリカを笑顔にして行った。ピナに至っては無我夢中でステーキにがっついていた。
「そう言ってくれると嬉しいモンだな。後、サラダもちゃんと食べろよ?」
「分かってますよ」
これはリアルでもそうだったが、シュウは食事をする際には必ずバランス良く取る事を心がけており、好き嫌いも殆ど無かった。そのためシリカにはちゃんとサラダを食べるように促すが、シリカは文句一つ言わずにそれを食した。
そして食後にはシリカの大好きなチーズケーキまでシュウが作っており、大満足だったみたいだ。シュウはテーブルの食器を一つに纏め、キッチンに持って行き、食器洗い機に入れて戻ってくると・・・
「スゥ・・・スゥ・・・」
流石に今日の探索に疲れたのか、シリカはテーブルにうつ伏せながら寝息を立てていた。そしてピナはそれに寄り添うように羽を閉じて、見守っているようだった。
それを見たシュウはフッと軽い笑みを零すとシリカを起こさないように抱き抱えると自分のベッドに寝かせ、毛布をかける。
「今日はお疲れ様。ゆっくり休めよ?シリカ」
シュウは応接室のソファーに横になると天井を見ながら自分の疑問を思い浮かべる。
(そういや。キリトとアスナはどうしてんだ?最近連絡がねぇが・・・まあ、考えてても仕方ねぇか。あいつ等はあいつ等でやってると思うし・・・俺が気に病む必要はねぇか)
自分の疑問に終止符を打つとシュウも疲れたのか、意識を手放した。
後書き
次回はあの子の登場です♪
感想と指摘。よろしくお願いします!!
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