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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpilogueⅡ魔導騎士? その称号は私のではなくbyオーディン

†††Sideオーディン†††

私たちグラオベン・オルデンとエリーゼは今、シュトゥラは王都ヴィレハイムの王城に招待されていた。シュトゥラの王デトレフ陛下が、今回のイリュリア戦争においての私たちの功績を称え、勲章を授与したいのだという。
エリーゼは、私を救いシュトゥラに招き入れ、そして騎士団誕生のきっかけを生んだと言う功績からだ。確かにエリーゼが居なければ私は死んでいたかもしれない。そんな思い出に浸りながらも私はまた別の事を考えていた。

(ガーデンベルグ・・・)

◦―◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦―◦

終戦後、イリュリア王城へと一度集合すると言う旨を開戦前に決めていたため、私は七美徳の天使アンゲルスやアースガルド艦隊の召喚を解き、イリュリア王城へと足を運んでいた。
目指すは“堕天使エグリゴリ”の複製品を製造していたとされる技術室。もちろんどこに在るのか判らないため、適当に見つけた男を脅して吐かせようと考えた。運の良い事にその男は技術部の人間だった。その男の胸倉を掴んで廊下の壁に叩き付ける。

「包み隠さずに答えろッ! どこでエグリゴリと関係を持った! それはいつからだ! 今現在の居場所は! エグリゴリの製造記録はどこにある!」

「げほっ・・・ぅ、あ、ひぃぃ! こ、殺さないでくれ!」

殺さないでくれ、か。「ならば答えろッ!」ニュートラルのランツェフォルムで起動させた“エヴェストルム”で、男の頬スレスレで壁を突く。短い悲鳴を上げる男。「殺さないでくれ、頼む、お願いだ!」を馬鹿の一つ覚えのように繰り返すだけだ。
苛立ちを理性で抑え込みながら“エグリゴリ”について問い質すと、その男は、自分は融合騎の開発者だと言った。融合騎の開発者。なら、アギトやアイリを苦しめてきた連中というわけか。奥歯を噛みしめた後に溜め息ひとつ。

「まぁいい。技術部はどこだ?」

“エヴェストルム”を僅かにズラして刃を男の頬に当てる。男の顔から血の気が引くのが見て判る。声を震わせながら「お教えします。ですから助けて下さい」と懇願してきた。

「なら案内してもらおうか。お前たちの城――技術室に」

胸倉を掴んでいた手を離し、咽ながら壁を背に崩れ落ちようとしていた男の腕を取って無理やり立たせ案内させた。そして辿り着いたのは王城の地下深くの巨大な一室・・・。だが男が「な、なんだこれは・・・!?」と室内へと力なく入って行き、へたり込んだ。
私も続いて入り、「酷いな、これは」かつては技術室だったらしい、ボロボロに焼け落ちた部屋を見回す。手間が省けたと言っていいのだろうか。元より技術室の全てを破壊するつもりだった。ある程度は情報を得たかったが、こうなっては仕方がないだろう。完膚なきまでに壊されている。こんな事をしたのは、この男の態度からして別の技術士ではない・・・おそらく。

「(エグリゴリの誰かが自分たちの足跡を潰したか・・・)おい。大丈夫か?」

へたり込んだ男の肩に手を置き、気遣いの言葉を掛ける。ゆっくりと振り返った男は泣いていた。元気を出すようにポンポンと肩を叩く。男はまさか私がそんな優しさを見せるとは思っていなかったようで、目を点にして私の顔を見る。
そんな私の気遣いに対して「ありがとう」と礼を言った。私は一度頷き、「へぶっ!?」ソイツの顔面を殴り飛ばしてやった。上半身だけを起こして鼻血の垂れる鼻を押さえながら「どうして・・!?」と混乱している男に、

「お前が融合騎の開発者なのだろ? 私はアギトとアイリ――お前たちの言う六番騎ゼクスと七番騎ズィーベンの家族だ。私の可愛い家族を生んでくれた事には感謝しよう。が、それからの苦痛を与え続けた日々には復讐をと思ってな」

顔を引きつらせ蒼白になる男へと一歩一歩と近づいて行く。男は腰が抜けたのか立てず、「助けてくれ!」座ったまま後退していく。私はその男の胸を踏みつけて仰向けに倒れさす。そして“エヴェストルム”を振り上げ、「殺さないでくれぇぇぇぇええええええッ!!!」その悲鳴を無視して振り下ろす。

「・・・・ま、こんなものだろ」

男の顔の横ギリギリに突き刺した“エヴェストルム”を待機形態の指環に戻す。男は恐怖のあまりに意識を手放していた。殺さないさ。ただ少しばかり灸を据えてやっただけだ。踵を返し、上階へと向かう。地下から地上へと上がると、城内はすでにシュトゥラのみならず他の同盟国の騎士団が居座っていた。
そんな彼らを余所にクラウス達に合流しようと廊下を歩いている時、

「騎士オーディン。我らガレアの代表がお会いしたいとの事です。御同行願えますか?」

ガレアの騎士数人に道を塞がれた。代表と言えば、イクスヴェリアとヴィンツェンツ王子だったな。どの道、あとで一堂に会する予定だ。話ならその時でもいいだろうに。だがイクスヴェリアの顔を思い出すと、「判った。案内してくれ」そう思えてしまう。
ガレア騎士たちに礼を言われ、イクスヴェリアの元へと案内された。案内された部屋の中に居たのは、変身の魔導を使っていない事で本来の姿のままのイクスヴェリアひとりだけだった。椅子に座っていた彼女は立ち上り、スカートの裾を僅かに摘み上げて一礼。チェス盤の置かれたテーブルを挟んでの椅子に座るよう勧められた事で腰掛け、本題へと入る。

「まずは呼びつけてしまった事、申し訳ありませんでした、騎士オーディン」

「いえ、構いません。フィロメーラ王女、それで私に何か用が?」

イクスヴェリアが名乗った偽名フィロメーラと言うと、彼女は少しばかり顔を曇らせたが、しかしすぐに凛とした表情へと戻した。

「一番にお礼を申し上げたくて。ガレアを、エテメンアンキの脅威より救っていただけたこと、ガレアの代表イクスヴェリア陛下に代わりお礼申し上げます」

「わざわざそれだけのために・・・?」

「ご、ご迷惑でしたか? ごめんなさい」

「あぁ、そうではなく、私は私の仕事を果たしたまでですので、礼など不要ですよ」

しゅんとしていたフィロメーラは安堵したようにホッと息を吐いた。

「それでも受け取ってください。貴方様の御力が在ったからこそ、我らは勝てたと思うのです」

「・・・判りました。どういたしまして。・・・フィロメーラ王女、お話はそれだけでしょうか? 失礼ですが、お話がそれだけであれば、そろそろ仲間たちと合流しようと思うのですが・・・」

そう言って立ち上がろうとした時、「あの! まだよろしいですかっ?」と呼び止められた。その必死さに「何でしょう?」と椅子に座り直した。フィロメーラは何かを言いたそうにしているが、言葉にしない。
彼女を落ち着かせて話し易くするために、腰を浮かせてテーブルの向かい側に居る彼女の頭を撫でる。ここで私とフィロメーラは小首を傾げる。フィロメーラの頭を撫でた時、彼女の反応がなんと言うか・・・不思議そうな顔をしたからなんだが・・・。

「あの、騎士オーディン。何をなさっているのですか?」

「え? 何を・・・って、頭を撫でているんですが・・・」

「撫でる・・・何故です?」

「え・・・?」

今まで生きてきた2万年の中でトップ3に入るであろう不可思議な質問をされたかもしれない。撫でる意味か。ふと小さい頃、父様と母様の命令で異世界に飛ばされ、その先で能力や武装を強制複製させられた旅から帰った時の事を思い出す。育ち切っていない子供の精神に負荷が掛かり、当時の私の心が壊れそうだった時、ゼフィ姉様に膝枕された。その時の事が脳裏に過ぎった。

――ルシルはこんなに小さいのに偉いね~。お姉ちゃんが、頑張ったルシルにご褒美をあげよう♪――

確かその時・・・額にキスをされ、頭を撫でられたんだった。ついでにハグをされ、豊満な胸に鼻を塞がれて窒息しそうだった。その時のゼフィ姉様は泣いていたんだ。私の事を想ってくれて。でも努めて笑ってくれた。その時に教えてくれた。頭を撫でる行為が示す意味。頑張ったこと、それが偉いこと、良い子だということ、それはつまり大まかに言えば・・・

「褒めているんですよ。頑張ったね、良い子だね、と」

「はあ・・・?」

フィロメーラがイクスヴェリアとして今回の戦争を頑張った事を暗に褒めてみたが、彼女は意味が解らずと曖昧な相槌を打つのみ。そのままフィロメーラの頭を撫で続けるていると、「でも、頭を撫でられるのは気持ち良いですね」と目を細めた。
リラックス出来たようで何よりだ。そしてようやく「お話がまだ・・・あるのです」と話してくれるようになった。だったら座り直そう、そう思って頭の上に置いていた手を離したら、フィロメーラは「あ・・・!」と引いた私の手を見た。

「・・・いえ・・・何でもありません」

撫でてほしいと目が口ほどにものを言っているから、「少しは我が儘を言ってもいいのでは?」ともう一度撫でる。安心しきったように頬を緩ませたフィロメーラだったが、すぐに悲しげな表情へと変えた。

「お礼ともう1つ、お別れを言いに来ました」

「お別れ? あぁ私がベルカを去る前に――」

「いいえ。あの、信じてもらえないかもしれませんが、私の本当の名はイクスヴェリア。フィロメーラは偽名なのです。ごめんなさい。あなたを騙していました」

心底申し訳なそうにカミングアウトしてくれたイクスヴェリアに、「知っていましたよ、陛下」とこちらもカミングアウト。すると「えっ? いつからですかっ? あ、御冗談を・・・?」と混乱、私が騙しているのかと疑ってきた。

「初めてお会いした時より判っていました。変身の魔導によって貴女がイクスヴェリア陛下のお姿になっているものだと。私の魔道の1つに、魔導による変化の真贋を見極めるものがあります。ですから陛下が魔導を使って変身している事に気付きました」

「そうなのですか・・・? さすがは異界の魔導、と言ったところなのでしょうね。ですが、信じてもらうための手間が省けたのは幸いです。あまり時間が無いので」

それからイクスヴェリアは、先ほどの別れの話について語ってくれた。クラウスは言っていた。時代を超えて現れるイクスヴェリア。その真実を、本人から教わった。表世界に出ていない時、彼女は眠りについている。起きた時にはマリアージュを生み出しては戦場に送ると。それが兵器である自分の存在意義なんだと。そしてイクスヴェリアの活動時間は短いとも。

「私が起きていられる時間は、おそらくあと数日ほどになると思います。一たび眠れば、次に起きるのは何年先か判りません。ですから永遠の別れとなる前に、あなたにお礼とお別れを告げておきたかったのです。改めて、ありがとうございました。そしてさようなら。どうかあなたの戦いが、あなたの望む形で終わるよう祈っています」

イクスヴェリアは、自分の頭の上に乗っている私の手を大事そうに両手で取って包み込み、そっと額に当てた。少しの間、その体勢のまま互いに無言。私の手を離し、「ありがとうございました」と踵を返したイクスヴェリア。
見た目は本当に幼い少女だと言うのに、その小さく細い肩に課せられたのはあまりにも重い責務。スバルと出逢う前に、少しでも軽くしておきたい。だが今の私には何も出来ない。出来る事と言えば、

「イクスヴェリア陛下。おやすみなさい。またお逢いしましょう」

「え? あ・・・・はい。おやすみなさい。いずれまたお逢いしましょう」

さようならではなく、たとえ叶わない事だとしても再会を約束する。これは残酷な事かもしれない。でも振り返って応じてくれたイクスヴェリアが見せてくれたのは、偽りのない微笑み。そしてイクスヴェリアは去って行った。私もまた部屋を後にし、改めてクラウス達と合流するために廊下を歩きだす。

「オーディン先生!」

「(よく呼び止められるな)・・・オリヴィエ王女殿下。それにリサと・・・」

振り向いた先、オリヴィエとリサ、エレス・カローラ、セリカ・グラシア、アンジェリカ・ド・グレーテル・ヴィルシュテッターの5人が居た。

「オーディン先生。その、ガーデンベルグ・ブリュンヒルデ・エグリゴリという方から言伝を預かりました」

「え?・・・・・・なっ、あの子と会ったのですか!?」

最初何を言われたのか解らずに呆けてしまったが、理解できると同時にオリヴィエに駆け寄って両肩を掴み、「どこで会ったのですか!?」強く揺さぶった。

「っ、痛い、です・・・オーディン・・先生・・・」

「教えてくださいオリヴィエ王女殿下ッ!!」

「オーディンさん、落ち着いてください!」

「いくら何でもそれ以上の無礼は許しません・・・!」

「ぅぐ・・・!」

私とオリヴィエの間に無理やり割って入ってきたエレスに頬を殴られ後退させられた。痛みで我に返る。オリヴィエを護るかのように私の前に立ち塞がるエレスとセリカとアンジェリカ。リサはオリヴィエの肩を支えて、僅かな非難の目を向けて来ていた。

「・・・申し訳ありませんでした。先ほどの無礼、どうかお許しを・・・」

確かに無礼が過ぎたため、その場で土下座する。彼女たちが息を呑むのが判った。すぐに「お止め下さい!」とオリヴィエが私を立ち上らせようと腕を引っ張る。土下座と、オリヴィエの心遣いによって、私が働いた無礼は不問となった。そして改めてガーデンベルグからの言伝を承った。要約すると、

「必ず私を殺しに行くから、それまで待っていろ・・・か」

「いけ好かない奴だったわね」

「オリヴィエ様に向かってなんとも無礼極まりない人でした」

「見た目では好青年でしたけど」

「オーディンさんのご家族を殺害した者となれば、敵一択です」

それからオリヴィエやリサは“堕天使エグリゴリ”との戦いに力を貸すと言ってくれたが、丁重に断った。相手はテウタやヨハンなどより圧倒的に格上の実力――と言うより火力が違いすぎる。それに、対“エグリゴリ”戦は空戦能力が必須となる。2人は空を自由に飛び回れない。“エグリゴリ”が陸戦に付き合うわけもなく、空から狙い撃ちにされて終わりだ。
元より誰も堕天使戦争に巻き込むつもりはない。“エグリゴリ”とは私独りで戦う。あの子たちの父としての責任。未だに終わらないヴァナヘイムとの因縁を、アースガルドの人間として終わらせるための義務を理由としているのだから。

◦―◦―◦―◦回想終わりだ◦―◦―◦―◦

案内された玉座の間は六角柱状で、上座には段差が在り、その段上に背もたれの高い肘掛椅子が3つ。王と王妃と王子が座するためのものだ。
右の玉座には初めて見るが王妃、左にはクラウス、中央にデトレフ陛下が座っていた。入り口から玉座までには金糸の刺繍が美しいレッドカーペットが敷かれている。その両側に整列したシュトゥラの近衛騎士団。

「此度、イリュリアとの戦争において大きな功績を上げたグラオベン・オルデンと、その誕生のきっかけを作りしエリーゼ・フォン・シュテルンベルク男爵。彼らの功績を称え、シュトゥラ勲章を授与する! 皆、盛大な拍手を!」

クラウスが玉座より立ち上ってそう言うと、割れんばかりの拍手が両側に居る騎士たち、そしてクラウスと王妃からも贈られる。アギトとアイリが「おお!」と耳を塞ぐが、煩わしそうではなく喜色満面だ。私とエリーゼを先頭に二列縦隊で玉座の段前まで向かい、着いたところで横一列に並んで片膝をついて礼の姿勢を取る。

「グラオベン・オルデン団長、オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード」

「はいっ!」

クラウスに呼ばれて立ち上り、段上に立つデトレフ陛下の前に行く。陛下は、隣に立つクラウスが持っている50cm四方の薄い箱の上よりあるモノを取った。それはマルタ十字(4つのV字の底部を結合させた形)に赤いリボンを付けた十字勲章だ。陛下は「有言実行。期待以上の働きであった」というお褒めの言葉と共に、

「そなたには勲章と共に、魔導騎士の称号を授ける」

聞き覚えのある称号を授け、私の正装(白色に変更した戦闘甲冑だが)の右胸に十字勲章を付けた。称号を授かるとは聞いていなかった上に称号名にも驚いた事で呆けそうになったが、「ありがとうございます」なんとか一礼をする事が出来た。
魔導騎士。はやてが持つ、二つ名のようなものだ。ミッドとベルカの魔導を扱う騎士であるはやてに相応しい二つ名。まさか私がその二つ名を貰う事になるとは。遥か未来、今の私が得た魔導騎士の二つ名を、私と同じように得る事になるはやてはどう思うか。それが少しばかり楽しみだったりする。

「シグナム・フォン・セインテスト」

「はい!」

元の位置へと戻ると同時に騎士甲冑姿のシグナムが呼ばれ、私と同じように十字勲章を上着の右胸に付けられた。唯一違うのは、陛下からではなく王妃の手によって付けられたと言う事だ。さすがに男である陛下が、女であるシグナムの胸付近に手を伸ばすのは憚れるというわけで、王妃が勲章授与に名乗り出た。

「ヴィータ・フォン・セインテスト」

「はいっ!」

続いてヴィータ、それからシャマルにシュリエルにアギトにアイリ、最後にザフィーラと勲章授与が行われた。ちなみに、みんなにフォン・セインテストを名乗らせたのは、ファミリーネームが無いと不便だと言う事もあるが、この際、家族としての証を立てておこうという考えからだ。
シュゼルヴァロードは残念ながら名乗らせるわけにはいかない。最下層魔界の貴族の性だ。名乗るには資格と覚悟が要る。現当主のルリメリアとリルメリアに認められると言う資格と、基本的に天上と仲を違えている魔族の名を負うと言う覚悟。彼女たちにはそのどちらも無い。だから私のファミリーネームを名乗らせた。

「では最後に。ラキシュ領はアムルを治める、エリーゼ・フォン・シュテルンベルク男爵。貴女には陞爵、そしてラキシュ領の下地域とイリュリア最北部のベクスバッハを合併する事で生まれる新たな領地・アムル領領主の任を授ける」

「・・・・・・・・ええええええええええッ!!?」

絶叫したエリーゼ。陞爵(しょうしゃく)(功績で爵位が上がる事だな)くらいはあるかなぁとは思っていたが、1つの街の主から複数の街を治める領主に抜擢されるとは。周りから苦笑が起きた事でエリーゼは顔を真っ赤にして「申し訳ありません」と謝った。
それからエリーゼにも子爵を証明する勲章が授与され、式は終わった。拍手喝采で包まれた玉座の間を後にした私たちは、女中に応接室へと案内される。城に訪れてすぐクラウスと約束したからだ。茶を飲みながら待つこと十数分。クラウスが姿を見せた。

「それでは改めて。おめでとうございます、皆さん。エリーゼ子爵も陞爵おめでとうございます」

「あ、あの、クラウス殿下・・。子爵になったとは言えわたしはまだ16歳の小娘。アムルの街ひとつ治めるのも一苦労しているのが現状です。それがいきなり領主なんて・・・」

「それについてはご安心を。王都(こちら)から教育係、もちろん女性の方を派遣します。アムル領の初代領主として何分大変かと思いますが、我々が全力で補助いたします」

「そ、そうですか。それなら大丈夫・・・だといいのですが」

エリーゼはチラチラと私に視線をやってくる。ああ、私がただの人間ならこれからも一緒に過ごして、エリーゼを手伝ってやりたい。でもダメなんだよ。私の最期は徐々に近づいて来ている。

「それでですね。皆さんに集まってもらったのは、あるお願いをしたいからなのです」

「お願い?」

「はい。・・・実は、皆さんの肖像画を描かせていただきたいのです」

話を聴けば、私たちをシュトゥラの後世に語り継いでいくために、私たちの肖像画が欲しいのだと。どうせ居なくなる私は問題ないが、シグナム達はどうしようか。もし肖像画が後世――“闇の書事件”の時にまで残った場合、何かしら問題が起きないだろうか。

「(まぁ何とかなるか)私は構わないが。みんなはどうだ?」

「オーディンがよろしいのであれば、断る理由などありません」

「我もシグナムと同意見です」

「あたしもいいぜ。下手に描かなけりゃな」

「私も綺麗に描いてもらえれば、それで満足です♪」

「マイスターと一緒なら、あたしもいいよ」

「アイリも、マイスターと一緒に描いてくれるならね❤」

「だそうだ」

「ありがとうございます。では早速。画家はすでに待たせていますので」

クラウスは私たちとの間に置かれている足の短い長テーブルの上にある呼び鈴をチリンチリンと鳴らした。それを合図としたように女中数人が入ってきた。それから私たちは画家が数人と居る部屋に案内され、そこで1人1人の肖像画を描かれた。そして最後に、

「オーディンは椅子に座り、我々は椅子の傍に控えましょう」

「そうね。我らが主、オーディンさんは将らしくどっしり構えていてください」

「アイリ、マイスターの膝の上に座る!」

「ああ! ズルい! あたしも膝の上が好い!」

「おーい、喧嘩すんな~。オーディンの足は2本あるんだから、仲良く片方ずつの膝の上に座れ」

「「は~い♪」」

とまぁ騒がしいながらもグラオベン・オルデンの集合画が描かれた。
私はバルーンバックアームチェア(背もたれの形状が風船を側面から見たようなやつだ)に腰かけ、右ももにアギトを、左ももにアイリを座らせ、右隣にシグナムとシャマル、左隣にヴィータとシュリエルを控えさせ、背もたれの後ろに一番背の高いザフィーラを、といった感じの構図で描いてもらった。

「むぅ、わたしだけ仲間外れ・・・。あのっ、わたしとオーディンさん2人だけの絵を描いてくださいませんか!?」

「ええ、構いませんよ」

「やった❤ オーディンさん、一緒に描いてもらいましょうっ❤」

「それなら次は、私とオーディンさんでお願いしま~す♪」

「シャマルずるい! あたしも」

「アイリもっ!」

エリーゼのこの言葉が発端となって、夜が更けるまで絵のモデルが続いた。安請け合いするものじゃなかったな。体のあちこちが悲鳴を上げてしまってるよ・・・トホホ。

「楽しかったな、本当に・・・」

でもま、悪くはない時間だった。
 
 

 
後書き
ニ・サ・ヤドラ、ブラ、ニ・サ・ボンギ。
今話では、未来ではやてに付けられる二つ名的な称号・魔導騎士を、オーディンが得ました。
次元世界の歴史に名を、称号を、姿が描かれた肖像画すらも残った。このメチャクチャ感を、後々のエピソードで上手くで使いこなせるか、大いに不安です。
 
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