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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第172話

いつもと変わらぬ学校生活。
テストが無くなったが、授業は無くならない。
黒板に書いている字をノートに写す者。
徹夜でゲームをやっていたのか、机で突っ伏して寝ている者。
隣や前後左右の人と小声で話をする者。
授業の時間をそれぞれのやり方で浪費している。
麻生恭介は授業を全く聞かず、窓の外を眺めている。
何を見ているかというと、空を悠々と流れる雲。
その空を羽ばたく鳥。
そんな他愛のない風景だ。
小萌先生の授業なら多少は前に注意を向けるのだが、それ以外はほとんど窓の外を見ている。
今日も平凡な一日が流れていく。
そう思っていた。
それは突然訪れた。
感じる事ができたのはおそらく自分だけだと。
世界がドクン、と脈動した。
眼を見開き、思わず席を立ってしまう。
教室にいる者全員の視線が麻生に集まる。
それを気にはしてられない。
一瞬だが、確かに感じた。
誰かが星の力を使ったのだ。

(俺の他に星の力を扱える者がいる?)

可能性があるとしたらあの猫だ。
だが、麻生の直感が告げていた。
これはあの猫の仕業ではない、と。

「麻生君、どうかしましたか?」

教師が突然立ち上がった麻生に話しかける。
その声を無視して、考えに耽る。
どれだけ考えようと答えは見つからない。
見つからないのなら、直接現場に向かってこの目で確かめる。
窓を開け、身を乗り出す。
その前に麻生は教師の方に向いて言う。

「早退します。」

「な、何を言って。」

教師の言葉を聞かずに、麻生は窓から外に出る。
能力を発動して、その感じた場所に向かう。

「恭介の奴、何かあったのか?」

どこかへ飛び去って行く麻生を見ながら上条は言う。

「どうだろうな。
 ただ、キョウやんが突然立ち上がった時の表情。
 あれはただ事ではない雰囲気だったぜい。」

他の生徒には聞かれないように、上条だけにあの時の麻生の表情について土御門は語る。
生徒がざわつく中、制理だけは手を強く握りしめていた。

「恭介。
 あんたは私の知らない所で何と戦っているの。」

あの化け物に追われていた時、麻生はその首謀者と対峙した時に何かを知っていた。
そして、今回も自分には何も言わずにどこかへ行ってしまう。
一緒に暮らしたり、寝たりしているのに制理は麻生が遠い存在に思えた。



星の力を感じた場所は第一一学区のコンテナ集合地帯。
そこには激闘の爪痕が残っていた。
コンテナの山は片っ端から崩れ、アスファルトはめくれ上がり、所々では地盤そのものが割れて、崖のように盛り上がっている。
まるでこの区域だけ戦争が起こったかのような有様だった。
いや、戦争でもここまでならない。
明らかに高能力者同士の戦闘に違いない。
それも超能力者(レベル5)クラスの能力者が。
底から少し離れた所で、九人ほどの少女達が倒れている。
服装から髪型、身長、体格、果ては顔の作りまでは全て同一の少女達。
麻生はその少女達を知っている。
御坂美琴の体細胞を利用して生み出された『妹達(シスターズ)』だ。
そして、その激闘の爪痕の中心に一人の男がボロボロになって倒れ、一人の男が無傷で立っていた。
ボロボロになって倒れている人物に麻生は見覚えがある。
削板軍覇。
つい最近『根性磨き直すメニュー』というふざけたトレーニングに付き合せた本人。
無傷で立っている男に見覚えは全くない。

「遅かったな。
 一度だけだが、俺が星の力を使ったのを感じたのならすぐに来るべきだ。
 それなのに、君は三分も考え、ようやくここに来た。」

麻生の方をゆっくりと視線を向けながら、男は話す。
話の内容からして、この男は麻生の事を知っていて、さらに星の力も知っている。
頭の痛みがないという事は、ダゴン秘密教団ではない可能性が高い。

「お前、何者だ。
 あいつらの仲間か。」

「一つ一つ答えるとしよう。
 俺はオッレルス。
 かつて魔神になる筈だった男だよ。
 しかし、これは()の俺の話だが。」

オッレルスの言葉を聞いて疑問に思う所が出てきた。

「表、だと。」

「あいつらと言うのはダゴン秘密教団の事だろう?
 奴らと俺の関係を言い表すなら、敵同士だな。」

嘘を言っているかもしれないが、麻生はこのオッレルスの言葉は信じてもいいと思った。
理由はない。
自身の直感と言い様のない自信があった。

「表の俺ってどういう事だ?」

「答える必要はない。
 というより、答える権利がない。」

「どういう事だ?」

「そもそも、今日俺が君に会う事はなかった。
 表の俺の仕事を終え、速やかにここを去る。
 しかし、つい最近になって予定が一気に崩れ、独自の判断で君を呼んだ。
 分かりやすい餌を出す事でね。」

「完璧に俺は釣られた訳か。
 最後に聞きたい。
 俺に会ってどうするつもりだ。」

オッレルスはうっすらと笑みを浮かべて言った。

「別にどうこうするつもりは全くない。
 ただ、君に知ってもらった方が良いと思ってね。
 その力を扱えるのは君だけじゃない事を。
 そして、今のままでは駄目だ。」

「そうかい。
 後の詳しい話はそっちのやり方に合わせて聞いてやるよ!」

能力を発動して地面を蹴る。
音速を超える速度で接近した後、左拳でオッレルスの顔面を捉える。
完璧に捉えた。

「なっ・・・」

思わず息を呑んだ。
音速を超える速度で突撃して、さらにベクトル操作で倍以上に威力を増幅した拳を受けても、オッレルスは一ミリも動かず、その拳を受け止めた。
手で直接ではない。
顔面で受けたにも拘わらず、まるで麻生が寸止めしたように微動だにしていない。
もちろん、寸止めしたつもりはない。
咄嗟に後ろに跳んで、距離を置く。

「いつまで人の戦いをしている。
 本気を出せ。」

「それだけお望みなら。」

麻生は身体に蒼い炎を纏う。
星の力を全身に展開しているのだ。

「リクエストに応えてやるよ!」

さっきと同じ様に地面を蹴って、オッレルスに左の拳を顔面に向けて突き出す。
今の麻生なら聖人ですら凌駕する力を有している。
速度も威力もさっきとは段違いだ。
明らかに直撃すれば、オッレルスの命を奪うかもしれない。
それでも麻生は拳を突き出すのを止めなかった。
心の奥底では分かっていたのかもしれない。

「こんなものか。
 今の君の力は。」

オッレルスは麻生の全力を簡単に防ぐ事ができる事を。
突き出された拳をオッレルスは左手だけで受け止めた。
そこでようやく気がついた。
オッレルスの身体にも自分と同じように蒼い炎を纏っている事に。
右手を握り締め、オッレルスは麻生の顔面に一撃を加える。
少しも反応できなかった麻生は地面を滑りながらも、吹き飛ばされるのを堪える。

「くぅ!」

すぐさま治療しようとした。
術式が発動しても、傷や痛みが治る事はなかった。

「自分の能力を把握していない君は知らないだろう。」

「まさか・・・」

口の中が切れたのか、口の端から血が流れる。

「その通り。
 ダゴン秘密教団が扱う術式以外にも治療不可能の場合も当然ある。
 星の力を使った攻撃は自然治癒を除く、全ての治療魔術、体質などを無効化する。
 科学医療による自然治癒も可能だが、あれも一瞬で治せるものではない。
 あくまで自然治癒を少しだけ促進しているだけに過ぎない。
 不死者でも瞬間回復を持った能力者でも、この力の前には無意味だ。
 故に彼らにはこの力を扱う者は天敵とされている。
 まぁこれ以上に、彼らにとってこの力には厄介な効果があるんだけどね。
 これは同じ力を扱う者同士でも変わらない。
 君の頬の痛みは自然治癒以外では治らないよ。」

手で血を拭い、再び接近する。
今度は大振りではなく、オッレルスの反撃を警戒した軽いジャブのような攻撃を放つ。
それらを全部受け止め、避けられていく。
一撃も当たらない事に次第に苛立っていく。

「この力は単に身体能力を促進させるだけではない。
 このように」

それは『説明のできない現象』だった。
気がつけば麻生は吹き飛ばされていて、肉体の表面から芯まで、その全てに均等なダメージが襲う。
ワンポイントの打点から、そこから衝撃が広がった訳ではない。
布を水に浸すように、不自然なダメージが全体に浸透している。

「本来、これを()の俺が普通に君に使えば、この術式の正体が分かっただろう。
 それも無傷でね。
 だが、星の力を混ぜる事でその術式をさらに昇華させ、『北欧王座(フリズスキャルヴ)』をさらに進化させている。
 何が起こったのか君は何も分からない筈だ。
 加えて。」

何とか立ち上がろうと、腕に力を込めるが全く力が入らない。
全身は傷だらけで、服もボロボロだ。

「星の力により、治癒は不可能。
 分かったかい?
 星の力とは単に身体能力を爆発的に向上させるだけではない。
 このように術式や霊装と連携させる事で、さらに進化する。
 この力で武器を創るのもありだが、その場合確固たるイメージを持ってやらなければ、中途半端な武器になり本来の性能を引き出せない。
 君があの天使と戦った時もそうだ。
 確固たるイメージを持って武器を創れば、もう少し戦えただろう。」

北欧王座(フリズスキャルヴ)』自体の原理は分かる。
しかし、オッレルスが星の力で昇華させているのなら、麻生の持っている知識では何の役にも立たないだろう。
まさしく、『説明のできない現象』になっている。
星の力を使い、無理矢理立ち上がろうとするが、オッレルスはそれを許さない。
北欧王座(フリズスキャルヴ)』を放ち、麻生はさらに吹き飛ぶ。

「君が本来の力を扱えたのなら、存在を認知されただけで俺は負ける。
 しかし、その程度なら俺も充分に対処できる。
 もっとも俺自身、この力は全て把握はしていないがね。」

そう言って、オッレルスは踵を返す。
用は終えた、とそう思って学園都市から出ようとした時だった。
背後から圧倒的な存在感を感じた。
慌てて振り返ると、麻生恭介が立っていた。
普通に立っているだけならオッレルスは驚きはしない。
だが、傷も完全に治っているのはどういう事だろう。
服も元に戻っているが、それは些細な事だ。
麻生の能力を使えば、いくらでも新品に変換できる。
傷の方はそうはいかない。
さっきもオッレルスが言ったが、星の力で攻撃されれば自然治癒を除き、治癒は不可能だ。
しかし、これには一つだけ例外が存在していた。
同じ力を使う者同士がぶつかり合った時だけに適応される。
それは星の力を扱う技量差だ。
両者の間で星の力をどれだけ扱う事ができ、熟知しているか。
この差で大きく事情が変わる。
相手の星の力で攻撃を受けても、自分が相手より星の力を扱い慣れ、熟知していればその傷を治癒する事ができる。
これを判断するのは星自信だ。
さっき、麻生がオッレルスの攻撃を受けて治療できなかったのにも、この差があったから治療できなかった。
オッレルスはこの事を知っている。
麻生に教えなかったのは、今回の事で教えても意味がないと思ったからだ。
それらを踏まえてオッレルスは思う。
眼の前に立っているこの男は誰なのか、と。
傷を治しているという事は、オッレルス以上に星の力を扱え、熟知している事になる。

「お前は誰だ。」

最大まで警戒しつつ、オッレルスは尋ねた。
少し俯き加減だった麻生の顔が上に上がり、少しだけ笑った後に。

「ひっさしぶり、オッレルス!」

シュタ、と片手を挙げて太陽のような笑顔を浮かべて、馴れ馴れしく話しかけた。
それを聞いてオッレルスは思わず、ずっこけそうになった。
何とか体勢を整えて、彼は言う。

「お久しぶりです、ユウナ様。」

「ユウナ様なんてやめてよ。
 貴方と私の仲じゃない。」

「それ他の人にも当てはまりますよ。」

少し驚いたが、オッレルスは先程とは違い『麻生』に話しかけている。
ここにいる麻生恭介ではない。
〇九三〇事件の時、麻生の身体を借りてバルドと戦った、初代星の守護者ユウナだ。
麻生を少しでも知る人なら明らかに別人だと分かるだろう。
あまり人前では笑わない麻生が普通に笑い。
親しげに声をかける所など、あの麻生からすればありえない事だ。

「驚きましたよ。
 ユウナ様がその身体を使って、現れてくるなんて。」

「それは私の台詞。
 オッレルスがわざわざこの子に喧嘩ふっかけるなんて、本当に驚いたわよ。
 本当ならあそこでこの子は眠る筈だったんだけど、私は私でやる事があるから少し身体を借りているの。」

「星の予言が完全にずれた事を、彼から聞いて、ここからは独自の判断で動く事を言われ私はここに来たのですよ。
 少しでも彼が覚醒するように。」

「全部伝えない所が偉いわ。」

「伝えたくても、制約で話せませんよ。」

さて、とユウナが言葉を区切るとその場の空気が引き締った。

「貴方にも伝える事があるから、好都合だったわ。」

「内容はなんですか?」

「バルドが動いた。」

その言葉だけでオッレルスは大きく目を見開いた。

「あいつがですか。」

「星の予言が完全にずれたのはあいつが原因よ。
 本来、私が出る筈がなかったのに、出る羽目になった。
 あのままだと根源に到達されそうだったからね。
 これまで、何度がダゴン秘密教団の妨害や接触があった。
 星の予言にない所で。
 これらを踏まえて言わせてもらうと。」

「まさか・・・」

「ええ、守護者である貴方達の誰かに裏切り者がいる。」

ユウナの言葉にオッレルスは言葉が出なかった。
信じられないようなそんな表情をしていた。

「守護者の覚醒は強制じゃない。
 私自身も誰だ覚醒しているか分からない。
 そもそも、接触すらできないからね。
 私の知っている限りの守護者にこの事を伝えるつもり。
 それだけを伝えたかったの。」

そう言って、ユウナは地面に手を当てる。
すると、戦闘の余波でボロボロになったコンテナや地面を治していく。
さらに倒れている『妹達(シスターズ)』や削板を治療を始める。
といっても、彼らに致命傷のような傷はないが、倒れているのなら少しでも治療したいと思うのが彼女だ。

「ユウナ様。」

オッレルスの声に反応して振り返る。
その仕草はまさに女性のモノだった。
身体が男なので何とも違和感しかないが。

「私は、私が知っている守護者を疑っていないわよ。」

オッレルスが聞こうとした質問の答えを読んだのか。
質問する前に答えられ、少しだけ驚く。

「貴方を含めた三人は前から知り合ってたからね。
 信じているのよ。
 まぁ、他の守護者が裏切っている事は悲しいけどね。」

本当に悲しそうな顔を浮かべながら、ユウナは小さく思いを口にする。
その表情を見て、どんな言葉をかければよいのか迷っていると、ユウナがあっ、と何かを思い出した。
何やら、ニヤニヤ、と笑みを浮かべつつオッレルスに近づく。

「そうだ、シルビアは今どこにいるの?」

突然の質問の意図に分からず、少し小首を傾げながら答えた。
シルビアとはオッレルスとコンビを組む長身の女性。
彼女はとあるアパートメントで、オッレルスの帰りを待っている。
今は彼女だけではなく、人身売買組織を壊滅させた際に、一緒に連れて来た子供達もオッレルスの帰りを待っている。
その話を聞いて、ふむふむ、と頷くと拳を握り何故か準備体操をし始める。
オッレルスはとてつもなく嫌な予感がした。

「な、何をしているのですか?」

嫌な予感が外れてくれ、と心の底から願いながら訪ねる。
ユウナは今までにない素晴らしい邪悪な笑顔を浮かべて言った。

「二回も『北欧王座(フリズスキャルヴ)』を喰らったからね。
 お返しをしないとって思ってね。」

「でも、あれは麻生恭介に向けたのであって、ユウナ様に向けた訳ではッ!!」

「問答無用!!
 この身体に私がいるのだから、私に向けたのも同然よ!!」

逃げようと思ったが身体が動かない。
既にユウナが能力を使い、逃げれないようにしている。
原理はさっぱり分からない。
オッレルスよりユウナの方が何倍も星の力を扱え、熟知している。
だからこそ、迫り来る拳をただ見るだけしかできないオッレルスは、唯一動く口だけを動かして叫んだ。

「この悪魔野郎がああああああああああああッッッッ!!!!!!」

ユウナの拳を喰らったオッレルスは凄まじい速度で飛んでいき、一瞬で空の彼方へと飛んでいった。
それをちゃんと確認してから、ユウナはその場から消えた。



雲川芹亜は貝積継敏が個人的に用意したホームシアターにいた。
彼女は学園都市統括理事会所属の一人、貝積継敏のブレインを務める天才少女。
先程、世界中に散らばっている『原石』を秘密裏に回収し、実験しようとした輩を粛清した所だ。
傍にいた貝積は事後処理の為にどこかへ立ち去っている。
永眠できそうなほどふかふかな革張りの椅子に座り、サイドテーブルにある飲み物を飲んでいる。

「仕事、終わった?」

それはいつの間にかそこに居た。
三〇〇インチを軽く超える、高密度ディスプレイの前に立っているのは一人の男。
芹亜と同じ高校の制服に身を包み、白髪の髪をした男を芹亜は知っている。
『麻生恭介』。
しかし、その身体は麻生恭介であっても精神(なかみ)は違う。
それを芹亜は一目して判断した。

「たった今な。
 その身体で出てくるのを見るのは久しいな。」

「ちょっと伝えないといけない事があったからね。」

ユウナはオッレルスに伝えた事と同じことを芹亜に伝える。
その話を聞いて、芹亜は顎に手を当てて考える。

「裏切り者か。
 ユウナが知っている二人以外、私も守護者は知らない。」

「だよね。
 まぁ、目的はこの事を伝えるだけだからね。
 一番その情報を知っている人に聞くしかないか。
 話は変わるけど、()の方はどう?」

「私のペースでやらせてもらっている。
 それでも、立場上止めれない悲劇が多くあって、不甲斐なさに苛立つのが多いがな。」

「くれぐれもこっちの顔と力は使わないでよ。」

「分かっている。
 それも制約だからな。
 使えるのなら、あの魔神のなりそこないに手を貸してもらっている。」

「オッレルスを部下にできたら色々と解決するよね。」

「部下という枠組みに入る男ではないと思うがな。」

それもそうね、と笑いながら同意する。
少しだけ雑談した後。

「さてと、そろそろ行くわね。」

「ああ、また逢えたらないいな。」

「できれば会うのは少ない方が良いわ。
 私は遠い過去の人間。
 本当はこの問題も貴方達で解決してほしいと思っている。
 でも、バルドがああなったのは私に原因があるし、何よりこの子が本調子じゃないから。」

「麻生はどうしている?」

「今は眠っているわ。
 オッレルスにボコボコにされたからね。
 それと、彼を狙うのなら積極的にした方が良いわよ。
 ライバル結構、いやかなり多いから。」

「なっ!?」

ユウナの言葉に顔を真っ赤にする。
否定の言葉を言おうとしたが、その前にユウナはどこかへ消え去ってしまう。
自分以外いないホームシアター。
照れを隠そうと、飲み物を口にする。
しかし、中身は空になっているがそれに気がつかないほど、テンパっている芹亜はそれに気がつかず何度もストローを思いっきり吸い上げるのだった。





アリゾナ砂漠。
大雑把な道が一本だけ伸びている道の途中で、停車しているオフロードカーのボンネットに腰かけている一人の男が居た。
御坂旅掛。
世界に足りないものを提案する事で、暴力に頼らずに世界をより良い方向へ導いていく事を生業とする男だ。
旅掛は通話を終えた携帯電話をポケットに入れる。
彼は先程、学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーと会話していた。
内容は世界中に散らばっていた『原石』の事。
そして、自分の娘にそっくりの少女が世界各国で目撃された事だ。
旅掛はアレイスターに自分の娘や妻に手を出したら、自分はどんなことをするか分からないぞ、と警告して通話を終えた所だった。

「娘と妻を愛し、守る為に世界に足りないもの提案する男。
 これって何かの記事にできると思わない?」

「こういうのはひっそりと頑張ってこそ、輝くものだと思うがな。」

オフロードカーのボンネットを下りた所に、一人の男が立っていた。
始めからそこに居たかのように会話をするが、旅掛は一切動じず、会話する。
とある高校の制服に身を包み、白髪の男。
『麻生恭介』は親しげに話しかける。
正し、外見は『麻生恭介』だが精神(なかみ)はユウナという人格だ。

「久しいな、ユウナ。
 こんなむさ苦しい所まで来る用事は何だ?」

その事も旅掛は分かっているのか、彼をユウナとして話しかける。
アリゾナ砂漠で冬服を着ているユウナだが、汗は一切掻いていない。

「ちょっと話さないといけない事があってね。」

オッレルスや芹亜に話した内容と同じ事を伝える。
それを聞いて、旅掛は神妙な面持ちで答える。

「世界を渡り歩いているが、守護者とは会った事がない。
 覚醒しているのなら俺を一目見ただけで分かる筈だ。」

「つまり、成果はなしと。
 旅掛なら一人くらい出会っていると思ったんだけどな。」

男性の身体なのだが、仕草は完璧に女性ものだ。

「その身体、麻生恭介はどうだ?」

「この子?
 まだまだね、根本的に星の何たるかを理解していない。
 今ならダゴン秘密教団の幹部はもちろん、そこそこ強い奴でも勝つのは難しいわ。」

「ユウナが蘇れば済む話じゃないのか。」

「駄目よ。
 芹亜にも言ったけど、私は遠い過去の人間。
 こうやって外に出る事は星に負担をかけるし、何よりこの子の為にならない。
 今は緊急事態だから、動いているだけ。
 私が動くとき、それはバルドと戦う時だけよ。
 それが星と交わした契約。」

確固たる決意を胸に秘めて、ユウナは言う。
何より、と言葉を続ける。

「この子は私を超える力を持っている。
 私にはなくてこの子にあるモノがあるからね。
 私も到達できなかった領域に行ける筈よ。
 何より、貴方達守護者はこの子のサポートがメインだってことを忘れないでね。
 あくまで私は代理よ。」

「その事は重々承知している。
 ただ、少し心配でな。
 その年齢で厳しい運命を背負わされているんだからな。」

少し憐れむような視線でユウナを、いや『麻生』を見る。

「最終的にどうするかは、この子次第。
 っと、そろそろ時間のようね。
 旅掛も表の仕事も頑張ってね。」

「足りないものを提案する。
 それが俺の人生だからな。
 そうだ、最後に言いか?」

旅掛の言葉を聞いて、能力を中断して再び旅掛に近づく。

「ユウナではないんだがな。
 まぁ、聞こえていないだろうし自己満足だ。」

そう前置きを言って彼は言う。
ユウナではなく、彼の身体に眠っている麻生に向けて。

「ウチの娘を頼んだぞ、若造。
 しっかりと守ってやってくれ。」

そう言って、『麻生』の身体を乱暴に撫でる。
ユウナはそれを聞いて、少しだけ笑みを浮かべて、その場から消える。
それを見送ってから、彼も世界の暗部へ潜り込む。
この星の為に。






シルビアはアパートメントの廊下で掃除機をかけていた。
どっかの馬鹿が連れて来た子供達の大半は教会に預けられ、新たな里親に引き取られて第二の人生を歩んでいるようだが、自らの意思でどっかの馬鹿の帰りを待っていたいらしい。
彼女は息を吐く。
どうして自分が此処にいるのだろうか。
ポンヌドダームとしての腕を磨くための長期海外研修はもう終わり、イギリスからは再三にわたって帰国命令が出ている。
給料をもらっている訳でもないし、むしろ自分の生活費は自分で稼いでいる現状だ。
こんな所にいる必要はどこにもない。
縛られる必要もないのだから、さっさとイギリスに帰るなり何なりと色々と方法はある。
それなのにここを離れようと思わない。
理由はくだらないものだ。
言葉に出すのも馬鹿馬鹿しい。
そう思いながら、玄関近くを掃除していると。
ドォォン!!、という音と共に玄関の扉が吹き飛んだ。
いきなりの展開に反応が遅れ、飛んできた扉に押し潰されてしまう。

「いてて。
 ユウナ様、ピンポイントにここまで吹っ飛ばすなんて酷いです。」

あの時、ユウナがオッレルスにシルビアの場所を聞いたのは、ここにピンポイントに彼を吹っ飛ばすためである。
後頭部を抑えながら、壊れた扉はどうしようか、と考えようとした時だった。
扉の下からどす黒い殺意を感じた。
ゆっくりと扉をどかすと、そこには悪魔より怖い女性が下敷きになっていた。

「ま、待ってくれ、シルビア。
 これにはユウナ様が・・・・」

シルビアもユウナの事は知っている。
だからこそ、理由を話せばちゃんと分かってくれるとオッレルスは思った。
しかし、それは相手が言葉に耳を傾けてくれた時の話。
シルビアはオッレルスの言葉なんて聞かずに、その怒りをぶちまける。

「この大馬鹿野郎がああああああああああああああああああああああ!!!!!!
 帰ってきていきなり扉を吹き飛ばすったぁ、いい度胸じゃねぇか!!
 そんなに死ぬほど恐怖を味わいたいって言うのなら、味あわせてやるよぉぉぉ!!!」

「望んでもいない事を実行されそうになっている!?
 ま、待て、話を聞いて」

「聞くかこのぼけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ひぃぃぃぃぃ!!!」

そんな二人のやり取りを、馬鹿の帰りを待っていた子供達は笑いながら見届けるのだった。 
 

 
後書き
今回、たくさんの伏線が出ましたね。
オッレルスは原作でも重要な立ち位置でしたが、この小説でも結構重要です。
芹亜や旅掛もそうですね。
ちなみに原作では削板とオッレルスの戦闘は夜ですが、制理が麻生との距離感を感じる為に敢えて昼にしました。
さて、ここら辺でオリジナルな話を書くか検討中です。
クトルゥフな要素は出ると思いますが、あまり本編に関わりあるかは微妙な所。
魔術編と科学編と二つくらい考えようかな、と思っています。
魔術編はステイル達と一緒に事件を解決する。
科学編は佐天達と事件を解決する感じですね。
本編をさっさと進めて欲しい人もいると思うので、ここら辺で皆様の意見を聞きたいと思います。
自分で決めろという人もいると思いますが、皆さんに少しでも楽しんで読んでもらいたいので。
ご意見お待ちしています。

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。  
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