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エターナルトラベラー

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第七十四話

あれから一週間。

アテナは律儀にも夕飯の時刻にユカリの家にふらっと現れ、共に夕食を囲む。

元がそう饒舌ではないアテナだが、ユカリは特に気にしないようだ。

ユカリにしてみれば久しぶりに出来た家族みたいな認識だろうか。

特に代わり映えの無い日常に見えるのだが、昨日辺りからだろうか。何者かに監視されているような気配を感じるのは。

それと最近、城楠高校に転校してきたイタリアからの留学生がとても美人で華やかだと学校中が浮き出したっている気がする。

廊下で何度かすれ違ったが、彼女が一般人であるとは到底思えない。

眉目秀麗であり、輝く太陽のような金髪に見事なプロポーションは人々の注目を集め、さらに本人が注目されている事に気付いていてもその堂々とした態度からみな強烈に惹きつけられてしまうようだ。

その事を今日の夕飯を共にするべくやって来たアテナに話したら…

「ほう、あの異国の魔術師がこの辺りに居を構えたか。おそらく神殺しであるあの男にはせ参じた騎士と言うところよな」

「神殺し?」

その後のアテナの説明で、この時ユカリは初めて神殺し、カンピオーネの存在を知ることになった。



アテナを逃がした草薙護堂たちはアテナの動向を探っていた。

この日も草薙護堂は学校が終わった後、正史編纂委員会のエージェントである甘粕冬馬と会うべく、媛巫女である万里谷祐理(まりやゆり)の勤める七雄神社にエリカと祐理を連れて出向いていた。

境内に入るとすでに先方は来ていたらしく、軽く会釈をしてくる。

「それで、甘粕さん。アテナの行方は」

と、護堂が3人を代表して問いかけた。

「ええ、すでに足取りはつかめてます」

「本当ですか!?」

「こちらの女性のお宅に夜な夜なお邪魔しているようですな」

と差し出された写真には黒髪の長髪で見事なプロポーションの女性が写っている。

「か、彼女はっ!」

彼女が着ている制服は城楠高校のものなので、在校生で有る彼らならば知っていてもおかしくは無い。

「祐理、あなたこの娘を知っているのね?」

エリカが祐理に問う。

「はい。同じクラスの坂上紫さんです。…どうして彼女が…」

「坂上紫さん。城楠高校一年六組。祐理さんと同じクラスですね。家族は数年前に他界し、現在は両親が残された家で一人暮らしだそうです」

「彼女はこっちの関係者なのか?」

と、護堂は甘粕に問いかける。

この場合のこっちとは魔術師や媛巫女などの裏に関係するのかと言うことだ。

「いえいえ。何代かさかのぼって調べさせていただきましたが、どなたもそう言った職業には就いてなかったようですよ」

「それならばなんで…」

「はてさて。それは本人に直接聞いてみた方がよろしいかと。…ただ、彼女は只者では無い様ですねぇ…」

「どういう事?」

と、エリカが聞き返した。

「いえ、どうやら彼女、こちらが監視の為に差し向けたエージェントに気付いてる気配がするんですよねぇ。とは言え交友関係などを洗ってもそちら関係の方は浮上してこないのですがね」

「それよりも問題はアテナだろ。甘粕さん、アテナはその…坂上さんの家で何をしているんですか?」

と、護堂が問いかけた。

「それが…とても不思議な事なんですが、ただ夕飯をご一緒しているだけなんですよねぇ」

「「はぁ!?」」
「へ?」

「お三方が驚かれるのも無理はありませんな。実際確認した私も驚いた始末でして…」

「護堂、これは一度写真の彼女にコンタクトを取ってみるしかないわね」

と、いつの間にか参謀のように、場を纏め上げるのがうまいエリカがそう提案した。

「そうか?アテナの奴も何か問題を起こしているわけじゃないんだろう?だったら放っておいてもいいんじゃないか?」

その言葉にエリカは分からない子を諭すように言う。

「あのね護堂。まつろわぬ神の顕現はいつ爆発してもおかしくない栓を抜いた手榴弾のようなものなのよ。彼らは自分の欲望に忠実よ。ゴルゴネイオンを手に入れて三位一体となる事を果たした現在のアテナが次に何に執着するのかははっきりさせておかなければならないわ。でなければ対策の立てようもないもの」

「そうなのか?」

「そう言うものなのよ」

と、エリカに説得されて護堂は一応納得したようだ。

エリカの先導で護堂は祐理を伴い、甘粕に車で正史編纂委員会で調べたユカリの家へと送ってもらう。

「ここですな」

車を道路に路肩駐車し、皆車から降りると目の前には古めかしい一軒家。坂上紫の家である。

時間は既に夕刻。

何処の家からも晩御飯のおいしそうな匂いが漏れ出している。

「……いるな」

護堂の表情が険しいものに変わる。

護堂のカンピオーネとしての力が目の前の家にまつろわぬ神の存在を感知してスイッチが切り替わる。

「そう、アテナが居るのね。祐理、あなたはここで待っていなさい。荒事になるかもしれないから」

「エリカさん…」

「それでしたら私が祐理さんと待っていますので」

と、甘粕が申し出た。

「あら、あなたには一緒に来てもらおうかと思っていたのだけれど」

「いえいえ、まさか。私なんかでは神の前では震え上がって足手まといになるばかりですよ」

「そうかしら…」

と、エリカはいぶかしんでから「まあいいわ」ときびすを返し護堂をつれて敷地内へと入り、ベルを鳴らした。



ピンポーン

インターホンが茶の間に響き渡る。

ユカリは来客を告げるベルに玄関へと向かう。

「はーい。今開けますね」

玄関の扉を開けると既に日も沈んだというのに家の明かりですらその色合いを燻らせない金髪の少女と、どこか所在無さげに立つ少年だ。

エリカ・ブランデッリと草薙護堂である。

「えっと…」

ユカリが来訪者の意図がつかめずに言葉を詰まらせる。

「こんばんは、坂上紫さん。わたしはエリカ・ブランデッリ、今日はあなたと、こちらに居るはずのアテナに用事があるのだけれど、家に上げてもらえないかしら」

他人に自分の意見が通ることを疑わない。その傲慢さもエリカが言えばいやみに聞こえないから不思議だ。

「おい、勝手に上がりこもうとするなっ」

「大丈夫よ護堂。ただ人たる坂上紫に会いに来るアテナがすぐに事を荒立てる事はないでしょう。それに虎穴に入らなければ虎子は得られないものよ?」

「そう言う事ではなくてだな、お前にはもう少し常識と言うものを持ってもらいたい。普通こんな夕飯時は遠慮するもんだ」

と、着いてきておいて今更ながら常識人ぶる草薙護堂。

エリカと護堂の悶着にユカリの後ろから声がかかる。

「ほお、生きていたのか神殺しよ」

アテナが音も無く現れ護堂を視線で射抜いた。

「ああ、なんとかな」

ぶっきらぼうに返す護堂。

しかし、ユカリに自身での自己紹介も挨拶も無しに神が現れたからと会話をするのはいかなるものか。

「こんな所にたずねてきて、そなたは妾を討つつもりなのか。それこそ妾たちと神殺しの逆縁よな」

「まてまて、なぜそんな物騒な話になる。俺達はただ、なんで神様が普通の人と一緒に夕飯なんて取っているのかと疑問に思ったんだよ」

アテナはエリカなんてそこらの路傍の石のようにしか感じないのか視界にも写ってないかのように護堂にのみ問いかける。

エリカもカンピオーネと神との対話に混ざる不敬はしまいと口をつぐんでいる。

とは言え、どうしても聞かねば成らないことがあれば自身で問いただすのだろうが…

「ふむ…今の妾はそこの人間…ユカリの願いを聞き入れている立場ゆえな。彼女の願いゆえ妾はここに居る」

そこで護堂とエリカの視線がユカリに向いた。

「一体どういう願いなんだ?」

と、ここに来て護堂はユカリに問いかける。

ユカリも常識人ぶって実はその場の流れに乗るのがうまい悪癖をもつ少年、護堂の失礼さはとりあえず横においてアテナに話しかけた。

「話してもいいの?」

「よい。こやつらの目的は妾が何故ここに居るのかの調査と言った所よな。その割には神殺しが直々に参るとはなかなか大仰なことだ」

ユカリは了承を得ると護堂とエリカに向き直る。

「私が寿命で死ぬまで一緒に夕飯を取りましょうという願いよ」

「はぁ!?」
「なっ!?」

願いの突拍子さに驚く護堂とエリカ。

「ふふっ…なかなかにズルイ願いよな。たったそれだけの願いの中にこやつは周辺への破壊の禁止を含めおった」

と、してやられたりといった微笑を浮かべてアテナが言った。

「どういう事だよ」

「分からぬのか?妾はその願いゆえ彼女の豊かな夕飯を邪魔できぬ」

エリカはその言葉から持ち前の頭脳で答を導き出した。

それでもありえないと思ったのか「まさか…」と呟いていたが…

訳が分からないと言う護堂へは後で説明するわと言い、今度はエリカ自身が言葉を発する。

「御身はこの周囲で事を荒立てるつもりは無いとおっしゃっているのですね」

「そう申しておるよな。この国で事を起こせば明日の夕食にありつけぬ」

「そうでしょうね。都市機能が麻痺するくらいの神威を振るわれればこの東京など一週間と持ちますまい」

「道理よな」

「あー…えっと、とりあえず、アテナはしばらくは人に迷惑をかけないと解釈してもいいのか?」

と、護堂。

「それは早合点だぞ神殺しよ」

「草薙護堂だ」

「そうであったな。では護堂。妾はユカリの食生活に影響の出ない所ではなんの制約も受け付けぬ」

「なっ!?」

「だが、それがおぬしに何か不都合があるのか?おぬしに何か迷惑がかかるのか?」

「他人に迷惑をかけるなと言っているんだっ!」

「ほう、これは異な事を言う。人間とて誰かに少なかれ迷惑をかけて生きている生き物であろう?草薙護堂、そなたにしてもそうであろう?」

ぐぅっと護堂は息詰まる。

それは護堂でも知る当たり前の事であったからだ。

道理を説かれて護堂は劣勢に陥る。

これ以上の問答は護堂に任せられぬとエリカが口を挟む。

「では、最後に御身にお一つお聞かせいただきたい儀があります」

「ほう、なんだ?魔術師の娘よ」

「御身はなぜ、ただ人たる彼女の願いを叶えているのでありましょうか」

「ふむ」

と、アテナは少し間を置いてから答える。

「ユカリは妾を一度なりとも殺した存在ゆえな」

「なっ!?」

さすがにこれにはエリカも驚いた。

「三位一体の(いにしえ)の女神である妾と対等に武技を争い、空を翔け、星を砕く閃光を用い、最後は剣にて我が首を討ったのだ。妾が不死の女神で無ければ妾の力を簒奪したであろうな」

「まさか彼女はカンピオーネなのでしょうか?」

「いや、ただの人…のはずよな。まつろわぬ神たる妾が神殺しを見間違うはずはなかろう。だが、妾を一度殺した褒美として神たる妾が気まぐれに一つ願いを叶えてやったまでだ。…まぁ、叶える願い事をかような内容にする娘など魔術師の中にはおるまいよ。そう言った点ではなかなかに面白き人間よな」

と、アテナは答えてからその身から放たれるプレッシャーを上げた。

「さて、おぬしは今一つと言いながら二つも質問したな。ユカリの家の前ゆえ手荒な真似はせぬ。疾く去るがよい」

エリカはアテナの放つプレッシャーの中頭を下げ、神の猛りを感じて戦闘体勢へとシフトする護堂の腕を引いて下がり、その場を辞す。

護堂とエリカの帰った玄関でユカリは訳が分からぬと愚痴る。

「なんか私、蚊帳の外だったわ」

「彼らの目的は妾の目的を知る事であったのであろう」

「ふーん」

「何をのんきに構えておる。おそらく遠くなくユカリは騒動に巻き込まれそうなものよな」

「は?」

「神を殺せる人物が神殺しで無く一般人なのだから、彼らのあわてようが目に浮かぶ」

面白い事になりそうだ、とアテナ。

「え?あ、う?…ああっ!…ちょっとっ!もしかしてわざとなの?」

「なに、妾を倒したおぬしにちょっとした意趣返しよな」

「アーテーナー!?」


さて、ユカリの家を出た護堂とエリカは祐理と甘粕が待つ車まで下がっていた。

「ご無事でしたかお二人ともっ!」

神殺し、カンピオーネが居ると言えどさすがに神の居るところに出向いた二人を心配していた祐理。

「あ、ああ。大丈夫。相手が話が通じるやつだったからな」

と、護堂。

「どうでした、何か進展は有りましたかな?」

そう甘粕がエリカに問いかけた。

「そうね、アテナがどうしてここで晩御飯をいただいているのかについては問いただせたわ」

「ほお、…それで、なんと?」

「彼女…ユカリだったかしら?…勝負に勝ったその彼女の願いを叶えているらしいわ」

「なんと、まつろわぬ神に願いを叶えさせる存在が日本に居るとは…」

「彼女を使えばアテナを抱きこめるかも知れないという幻想はやめなさい」

と言ったエリカの言葉で若干甘粕の表情に険がさす。

「どういう事でしょう?」

「アテナ自身に拘束力も影響力も彼女は持っているようには見えなかったもわ。…それに」

「それに?」

「一度とはいえ神を殺した人間に魔術師程度が敵うはずがないわ」

「そんなっ!」

「神殺し…8人目のカンピオーネでいらっしゃるのですか?」

祐理は驚き、甘粕はいぶかしむ。

「いいえ、違うわ。それはアテナも否定している。アテナが嘘を言う必要性は感じないわね。殺されてもアテナが生きているのはアテナが不死の女神だからでしょうし。彼女を殺すにはそれこそ護堂の力(剣の言霊)でその霊核を切り裂かなければならない、と言うことかしら」

「なるほどなるほど。これはまた厄介な状況ですなぁ…」

「そうかしら?あなた達(正史編纂委員会)にはそこまで都合の悪い状態では無いわよ。アテナはどうやら日本での悪さはしないと言っていたし。日本のことわざにもあるでしょ?触らぬ神に祟りなし。放っておくのが最善ね。藪をつついて蛇を出す必要はないわ…あら、わたしうまい事を言ったわね」

アテナがメドューサゆえに。

「そうですなぁ、上にはその線で進言しておきましょう」

「それが賢明ね」

こう言った政治的な話し合いになると護堂と祐理は蚊帳の外だ。

質問されても何か建設的な話が出来るわけでは無いので護堂も黙っているのだが。

「だけど、坂上紫には後でもう一度コンタクトを取って個人的に戦ってみたいわ」

「どうしてお前はそう話を物騒な方向へと持っていくんだよっ!」

「あら護堂。それは仕方が無いわ。運でもなく、まぐれでもなく神を実力で殺した人間なのよ?どれ程のものか計っておきたいじゃない。本当は護堂に戦ってもらいたいのだけれど」

「俺を争いごとに巻き込むな」

護堂が憤る。

「あら、ならばやっぱり仕方ないわね」

「いいですな。決闘の場所は私どもが提供しましょう」

「そう?それじゃお言葉に甘えるわ。広くて人の居ない平地がいいわね」

「善処しましょう」

甘粕もただ善意で言っているわけではない。

彼にしても神を殺せる人物を推し計りたいとは思っているのだ。

自身が危険を犯さずに結果が手に入るならそれくらいの配慮は安いものだろう。




エリカ・ブランデッリは意外とせっかちなのかも知れない。

次の日に学校で一年六組に顔を出したエリカはユカリを呼び出すと用件を伝える。

「今日の放課後、少し付き合ってくれないかしら」

「それはアテナに用があるって言う事?」

「いいえ。わたしは貴方に用があるのよ。神すら殺した貴方にね」

直球であった。

「用って?」

「今日の放課後空いてるかしら。いいえ、例え空いてなくてもきっと空くわね」

エリカは用があったら手を回してでもと言っているのだろう。

「神をも殺しめた貴方に興味があるの。放課後是非ともお手合わせしたいわ」

放課後、ユカリがどうしようかと思っていると、どうやら隣の組の方が少しだけ早く終わったらしい。

出口にはエリカと彼女につれられる形の護堂が待ち構え、後ろには接点の感じられない万里谷祐理がユカリを挟むように立っていた。

「ご一緒願えるわよね」

「…夕飯まで帰してくれるならね」

エリカにつれられ、ユカリにしてみれば結構好みの年上の男性…甘粕が運転する車で人気無いところまでやってくると車を止めた。

「人払いは済んでおります。…とは言え、余り派手に破壊しないでくださいよ」

と甘粕は言いユカリにしては何故ついてきたのか分からない祐理と護堂をつれて距離を取った。

残されたエリカはユカリと対面で距離を置いて向き合う。

「とりあえず、私には貴方と決闘する理由が無いのだけれど」

「あら、あなたは自分の立場が分かってらっしゃらないのね。まつろわぬ神が懇意にする存在。それを利用しようとする魔術組織は多くあるでしょう。今はまだその情報は秘匿されていると言っていいわ。だけど、いつまでも隠して置けるわけではない。一応こちらの正史編纂委員会のエージェントさんは貴方の保護をと考えているかもしれないのだけれど、それもまず貴方の力を見てからになるでしょう」

なにやらユカリは関わると面倒な裏の世界に目をつけられたらしい。

「力って…」

「この試合は大きな意味を持つ事になうと思うわ。この赤銅黒十字(しゃくどうくろじゅうじ)の大騎士でありディアボロ・ロッソたるエリカ・ブランデッリに勝ったとなればこの国の木っ端魔術師は噂を聞きつけまず貴方を利用しようとは考えないでしょうね。いえ、頭の悪い連中は逆に近づくかしら?……そうね、ただで闘えと言われても気乗りしないのなら、赤銅黒十字の大騎士たるわたしが貴方に便宜を計ってもいいわ。自慢じゃないけれど、政治的手腕はかなりのものだと自負しているわ」

「つまり平穏に暮らしたかったらあなたに圧勝しろと言うことかしら?」

「そう言う事よ。…とは言え、そんな事にはならないと思うのだけれど」

と、エリカは強気の発言だ。

ユカリはアテナと会ってから面倒ごとが立て続けにやってくるなぁと感じていた。

「はぁ…分かったわ」

「そう、了承してくれてうれしいわ。…それじゃはじめましょうか」

と、エリカは宣言し、呪文を唱え、自身の武器を召喚し始める。

「鋼の獅子と、その祖たる獅子心王よ、騎士エリカ・ブランデッリの誓いを聞け。我は黒き角笛の後継者、黒き武人の(すえ)たれば、我が心折れぬ限り、我が剣もけして折れず。獅子心王よ、闘争の精髄(せいずい)を今こそ我が前に顕したまえ!」

呪文が詠唱し終わるとエリカの手に刀身の細い長剣が現れた。

「クオレ・ディ・レオーネっ!」

ヒュンと振り下ろしエリカの準備は整った。

「さあ、貴方の武器は何かしら?」

召喚の呪文を使えるものとエリカは思っていたのだろうか。

武器を携帯していないユカリを不審にも思わなかった。

魔術師でなくとも神を殺せる人物ならば自分の武器くらいは携帯していると思ったのだろう。

ある意味それは間違いでは無いが…

「とりあえず、これだけは言わせて?」

「何かしら?」

「……長いわ」

「へ?」

意味が分からずパチクリと二、三度瞬きをするエリカ。

「殺気を感じなかったから見ていたのだけれど、死合いなら今の間で殺されても文句は言えないと思う」

そう言ったユカリはいつの間にか一振りの日本刀を握っていた。

さらにレーヴェがバリアジャケットを展開する。

その展開はエリカと比べれる事すらもはばかられるほどに一瞬だった。

その鮮やかな展開にエリカは少し気圧されながらも武器を構え、戦闘開始の合図を告げる。

「それじゃ、はじめましょうか」

そう言うや否や先手必勝とエリカは翔ける。

「はぁっ!」

細身のクオレ・ディ・レオーネをレイピアよろしく突いて来るエリカ。

ユカリは手に持った日本刀…風竜刀で打ち払う。

ギィンギィン

攻めるエリカに防戦一方なユカリ。

一見エリカが優勢に見える。

しかし、剣の腕では同年代では敵無しと思っていたエリカだが、ユカリを攻めきれずにいた。

魔術がどんなに優れようが、剣の腕では自分の方が上だと密かに思っていたのだ。

しかし実際はどうだ?

エリカの突きは弾かれ、続く袈裟切りもガードされた。

それから何合も切り結ぶが、一向に相手を突き崩すヴィジョンが浮かばない。

「うん、まぁ、その年にしてはなかなかやるんじゃないかな」

ユカリにしてみれば相手は16の小娘だ。

確かに修めた剣技はすばらしいものがあるが、まだまだ剣の道を究めるには遠く及ばない。

エリカは焦る。

しかし、ここで防戦に回ればおそらく攻めきられるのは自分だと言う確信がエリカにはあった。

エリカはユカリの刀を弾き距離を取るとクオレ・ディ・レオーネに呪力を込め、ユカリへと向かって投げつけた。

当然ユカリは弾き返すが、弾かれ空中を舞うクオレ・ディ・レオーネにエリカが言霊を紡ぐとその姿を変える。

「クオレ・ディ・レオーネ。汝にこの戦場を預ける。引き裂け、穿て、噛み砕け!打倒せよ、殲滅せよ、勝利せよ!」

現れたのはに鈍色の巨大なライオンだ。

その巨大なライオンはその巨体を武器にユカリに襲いかかろうと駆けるが…

「ふっ!」

気合一閃。

『流』を使い刀身に7割のオーラを振り、強度と切れ味を強化するとユカリは一刀の下クオレ・ディ・レオーネを引き裂いた。

まさか紙くず同然に切り捨てられるとは流石に思わなかったらしい。

エリカの表情が驚愕に染まる。

しかし、そこで思考を停止しないのは流石にディアボロ・ロッソの名を持つ者だ。

エリカは直ぐに言霊を紡ぐと分かたれたクオレ・ディ・レオーネがそれぞれ獅子の形を取り、二匹の巨大なライオンが現れる。

ガルルと唸り声を上げ威嚇する巨大なライオン。

しかし、数が増えようがユカリにはたいした脅威にはなり得なかった。

エリカの最大の攻撃技は神すら傷つける事が出来るゴルゴダの言霊だ。

位の弱い神獣程度ならカンピオーネならねど殲滅できるだろうとひそかに自負していた。

しかし、高威力の技にはそれにふさわしく長い詠唱と強力な呪力、それと集中力が必要だ。

それは実力が互角以上のものには致命的な隙と言える。

おそらく相手はそんな物を使わせてくれるはずは無いだろう。

なぜなら二匹のライオンを切り裂いたユカリはこの時初めて本気で駆けた。

その姿をエリカはまったく認識できなかったのだから。

神速を発動し、肉体の限界で駆けたユカリは一瞬後にはエリカの首元に刃を突きつけていた。

エリカとて無手での心得はあった。

しかし、目に残像しか残らない敵にどうやって対応できようか。

「まいった。降参だわ」

エリカが小声で負けを認める。

「流石にわたし程度では神を殺したる英傑には程遠い。…だけど、だったら相応しき相手を用意するまで」

「え?」

エリカは妖艶に笑うと、護堂のそばまで干満に、いかにも苦しそうに歩み寄り、護堂にしだれかかる。

「エリカ、大丈夫なのか!?」

「うっ…くっ…ごめんなさい、護堂。…どうやらわたしは彼女の逆鱗に触れてしまったみたいだわ。首に当てた(やいば)から強力な呪詛を貰ってしまった」

そう言ってわざとらしく見せたエリカの首には痣らしきものが見える。

「はぁ…はぁ…くっ…この手の呪詛は相手を気絶させるか呪力を目減りさせれば維持できなくなるタイプだわ。…そしてかけた本人でさえも一度かけたこの呪詛は解く事が出来ない…」

「そんなっ!?」

「ねぇ、護堂。死に行くわたしに…バーチェの餞別くらい無いのかしら…」

「バカっ!そんな事より、何とか助かる方法をっ!」

「…無理ね…相手を倒すしか方法は無いわ」

「……殺す必要は無いんだよな?」

「ええ、だけど、相応のダメージを与えないとダメ…ね」

「待ってろ、直ぐに何とかしてやる」

そう言うと護堂はそっとエリカを地面に横たえさせるとユカリの方へと向かう。

それを見てエリカはしたりと笑う。

そう、これは全て演技だ。

魔術の心得があれば嘘と見破る事も簡単なのだが、草薙護堂は魔術師ではなく、カンピオーネになってからもそれ関係の知識を自ら得ようとする事も無かった。

それゆえに簡単にだまされる。

護堂は以前にも似たような展開でだまされた事が有ったとは言え、その時よりもエリカと親密になったが故まただまされたのだ。

男を操るのはいつの時代も女なのだろう…

倒れたエリカに祐理と甘粕が近づき、戦場から遠ざけた。

「悪いな坂上、こっからは俺がお前の相手をする。エリカの奴は自業自得なのだろうが、だからと言って命を奪う呪詛を掛けるほどだったのか?」

「………」

護堂の問いにユカリは答えない。

答えないのではなく答えられない。なぜなら護堂の憤りの意味が分かって無いからだ。

「…意味が分からないんですけど?」

と、ユカリが問いかけると後ろの方でエリカが盛大に咽た。

「ゴホッゴホッ…護堂…お願い、最後くらい貴方の腕の中で死にたいわ」

「くっ…時間がないかっ!まってろエリカ。今こいつをぶっ飛ばしてお前を助けてやるっ!」

普段ならエセ平和主義を掲げ、まず話し合いをと切り出すだろう護堂だが、エリカの助言により呪詛の性質と解き方を騙されていると分からずに得ていたためユカリに問いかけるまでも無く決め付けてしまった。
エリカの危機とカンピオーネとしての戦闘高揚で戦闘以外の雑事への応対が普段よりはほんの少しだけ乱雑になってしまい、視野が狭まっているのかもしれない。

猛る護堂だが、その反面、護堂が行使できる神から簒奪した能力、権能の発動条件を満たしているものがほとんど無かった。

草薙護堂が倒し、その権能を奪った神の名前は東方の軍神ウルスラグナ。

護堂はウルスラグナからその10の化身を簒奪し、その化身に通じる能力を10個持っている。

しかし、一人の神を殺して10もの権能を発現させた彼にはそれに見合う使用条件の厳しさがあった。

最大のデメリットは一つの化身を一日一回しか使用できない事だろう。

つまり次の化身に切り替えれば今まで使っていた化身は使えなくなるのだ。

次に難しいのは使用条件。

すべての化身が、~な時、~出来るという条件下でしか使えないのだ。

前述の第一の化身、『強風』の化身は護堂と彼を呼ぶ側が風の吹く場所に居て、呼ぶ側がかなりの危機に陥っていると言う物だ。

まぁ、こう言った条件なので先に「ピンチの仲間の呼ぶ声を聞きつけ風のように駆けつける能力」と略したのではあるが…

今、護堂が使える化身と言えば『雄牛』の化身くらいだろうか。

相手が常識外の腕力を持っていたときに発動できる怪力の力。

護堂は雄牛の権能を発動し地面を掛ける。

何か誤解が有ると感じつつも相手はすでに戦闘を開始し、こちらに掛けてくる。

護堂にしてみれば一秒ですら惜しいのだ。

ユカリはやむなしと最小の動きで護堂の首元に剣を突きつけた。

相手はカンピオーネであり、怪力の化身になったとしても、武術の心得があるわけではなくその動きは素人そのもの。

護堂にしてみれば下手に武術を習うより自分の力、その場の流れを掴むなどして優位に事を進めれば何とか打倒できるだろうと、付け焼刃では役にたたない武術を嗜むを良しとしなかった。

15歳のただの怪力少年と、すでに200年を越える研鑽を積むユカリ。

この結果は当然の事だろう。

どうする?と、護堂は考える。

ユカリの剣術の腕前はエリカすら凌ぐ剣豪だ。

対して護堂の武器は何だろうか。

そこにきてこの数ヶ月でいやと言うほど思い知った自身の呆れるくらいの頑丈さを思い出す。

痛いだろうけれど、負った傷は時間を掛ければ痕も残さず治る。

なれば自身の身を犠牲に攻撃あるのみ。

それに、重傷を負えば、条件を満たし使える化身もあるのだ。

護堂は左腕でユカリの刀を打ち払う動きと同時に右足でのローキックを相手の左脛へと繰り出した。

しかし、ユカリは特に動かず護堂の蹴りを受けた。

「がっ!?」

蹴った護堂がその痛みに悶絶する。

硬を使い自分の左足にオーラを集めたのだ。

その結果威力負けしたのは護堂の方だ。

この雄牛の化身。対象が大きく重いほどその怪力の度合いが跳ね上がっていくと言う特徴があるが、それを言えばユカリはどうだろうか。

身長は155cmほど、体重もその平均と言った所だ。

つまり、普通の人間となんら変わらない。

なので雄牛の化身で力強さを増した護堂だが、その権能を最大威力では行使できない状態の攻撃はユカリの硬を突き破るほどの威力は無かったのである。

しかし、この攻撃でユカリも相手を倒すべき敵と認識するに十分だった。

今の攻撃は常人ならば複雑骨折どころか千切れ飛んでもおかしく無い威力だったのだから。

ユカリは持っていた刀をひるがえし逆刃にすると護堂目掛けて振り下ろした。

それをカンピオーネの直感と護堂本人の機転で転がって避けた。

転がって避けた護堂に袈裟切りで切りかかるが、護堂は尚も転がり避けるとユカリはその鋭さを増した。

かかったっ!と護堂は思った。

ユカリの剣速は上がり、ついに『(おおとり)』の化身が使えるようになったのだ。

『鳳』の化身の発動条件は高速の攻撃を受ける事だ。

故に護堂はユカリの剣速を上げるように誘導したのだ。

とは言え、重症を負う事で発動条件を満たせる『駱駝(らくだ)』の化身でも状況を打破できると思っていたので攻撃を食らえば食らったで良かったのだが…

とは言え、神速の速度で転がりユカリの攻撃を避けた。

鳳の化身で行使できるこの高速移動は神速とも呼ばれるが、御神流の神速とは趣が違う。

護堂が使う神速は簡単に言えばA地点からB地点までかかる時間を操れる能力だ。

速く移動しているように見せかけて時間制御の方が似ているかもしれない。

つまり、落下中の速度すら加速させて高速落下、逆に緩めて止っているかのような落下も可能なのだからやはり時間制御なのではなかろうか。いや、固有時制御と言うべきか?

つまり不恰好でも転がるままに神速を発動させればそのまま高速で転がり、今のようにユカリの攻撃を避けることも可能と言う事だ。

とは言え、高速で立ち上がり護堂は攻めに転じる。

この神速での速度を理不尽な心眼とも言うべき技で打倒しめたのは同じカンピオーネであるイタリアの剣の王、サルバトーレ・ドニ位なものだ。

しかしまぁ、彼との戦いでこの力のデメリットにも気付けたわけだが…

高速でユカリに駆け、コブシを見舞おうと繰り出すが、目標を誤り、ユカリにはかすりもしない。

そう、鳳の弱点は速過ぎて細かな動きが取り辛いと言う点だ。

止っている目標ならば苦も無く攻撃を当てられるだろうが、相手は動いているのだ。

そのズレが護堂には修正できづらく、結果としてそのコブシは空を切る。

が、今回はそれで終わらなかった。

サルバトーレ・ドニがそう出来たようにユカリも護堂の神速に反応するように剣を振り下ろしたのだ。

しかし、鳳の速度をさらに加速して護堂はユカリの攻撃を辛くも避ける事に成功した。

避けることに必死になる護堂だが、ここに来て彼が急成長する。

この鳳の能力は発動条件以外にもデメリットが存在する。

長く使うと心臓が痛み出し、最後は行動不能に陥る。

固有時制御と言う離れ業の反動だろう。

つまりこの鳳を使った護堂は短時間で相手を打倒するしか他が無いのだが、自分の攻撃は速過ぎて相手に当たらない。

そこで護堂は神速の能力を限定的に使用し、神速と通常時間のオンオフの緩急をつけることで自身の攻撃の正確さを増すと言う行動にでた。

使用時間が減ったお陰か鳳の使用リミットも若干伸びたようだった。

これなら行けると思った護堂だったが、護堂がコブシを繰り出したときユカリに変化が起きていた。

ユカリが持っていたはずの日本刀が何処にも無いのだ。

さらにユカリは直前の何合かの組み合で自分の剣速を緩めていた所で一段速度を上げて行動したのだ。

護堂はユカリに腕をつかまれそのまま地面に背負い投げの要領で叩きつけられた。

「ぐはっ…」

投げ飛ばされた護堂の衝撃でバキィとアスファルトにひびが入り砕ける。

ユカリは昨日アテナからカンピオーネのゴキブリ並みの生命力と力強さを聞いていたので、とどめとばかりに護堂の頭を引っつかみ、硬で右腕を強化し引き上げると間髪入れずにもう一度アスファルトにたたき付けた。

「護堂!?」
「草薙さんっ!?」

これには流石にエリカと祐理の絶叫が響く。

「うん?」

ユカリがまだ四肢に力が入っている護堂にいぶかしむと、護堂は両足を抱えるように曲げ、力強く両足でユカリを蹴った。

護堂は重症を負ったときに使える駱駝の化身を使ったのだ。

駱駝の化身の力はキック力の上昇、格闘センスの向上に回復力とダメージに対する耐久力の上昇だ。

流石に条件が厳しいだけにその能力はすさまじい。

「くっ…」

ユカリは咄嗟に腹部を堅でガードし、自らも後ろに飛ぶ事で威力を和らげるが…

「かはっ…」

口から少量の血を吐いた。

内臓の一部が傷つき出血したのだろう。

ユカリにカンピオーネほどの超人的な回復力は無い。

ユカリが常人でなかったためにそこまでのダメージでは無いが、普通の魔術師が食らえば間違いなく即死ものだっただろう。

腹部の少し上であった事をユカリは心底安堵した。

なぜなら子宮が潰されたなどと言われれば息子を産む産まないの話では無くなるからだ。

しかし、腹部への攻撃でユカリの理性が吹き飛んだ。

勝負であればユカリが刀を護堂に突きつけた時点で終わっている。

終わっていないのであればこれは死合いだ…

「今まであなた達に合わせてきたんだけど…ごめんなさい。まさか私の未来(息子)を奪われるかもしれない事になるとは思ってなかった。私自身の油断もあったんだろうけれど…少しあなた達が煩わしくなりました」

ゾクゾクゾク…

ユカリの殺気に護堂は震える。

震える体にどうにか命令を出してユカリを打倒しようと駱駝の化身の脚力で距離を詰める護堂。

「レーヴェ…」

『レストリクトロック』

距離を詰める護堂の体が突然硬直する。

バインドによって拘束されたためだ。

「なっ!なんだこれはっ!」

さらにバインドを操って護堂の四肢を大の字に拘束するとユカリは空を見上げた。

『フライヤーフィン』

肩甲骨の辺りから下方向に四枚の翅が現れる。

ユカリが空に飛び上がるのに引きずられるかのように護堂は拘束されたまま空中へと浮遊する。

「な、なんだよこれはっ!」

必死に呪力を高めてレジストしようと試みる護堂だが、一向に外れる気配は無い。

呪力にめっぽう強い…と言うよりも特殊な方法、経口摂取以外での魔法に耐性のあるカンピオーネだが、別の手段を用いられればこれほど容易に拘束できるものなのか、いやそれは既にアテナの時に明らかだろう。

四肢を拘束されては駱駝の化身では何も出来ない。

他に何か無いかと必死に考える語堂。

駱駝ではもうだめだ、雄牛、鳳はすでに使った。

戦士の化身などは神様相手以外ではなまくらもいい所だ。

護堂の最大の攻撃力を持つのはおそらく白馬の化身だろう。

しかし、その使用条件は民衆を苦しめるような大罪を犯している事だ。

この条件にユカリは当てはまらない。護堂も使える気はしなかった。

次に攻撃力のあるのは猪の化身だ。

猪、これは20メートルを越える巨大な猪の神獣を呼び出して対象を破壊する能力だ。

しかし、その条件は巨大な物を破壊しようと護堂が決意した時ゆえにその対象がしっかりと認識できなければならない。

空中に浮かばされ、さらに護堂よりも上に飛んでいるユカリの斜線上には空しかなく、なにも破壊できるような大きなものは存在しなかった。

ユカリは右手の籠手に付いている三発のカートリッジを抜き出す。

すると腰に元に吊るしてあるポーチから新しく3発カートリッジを取り出して入れ替える。

装填してあったのは息子が用意したオーラ製のカートリッジ。入れ替えたのは普通の魔力カートリッジだ。

『ロードカートリッジ』

薬きょうが排出され魔力がその手で爆発する。

周りの魔力がユカリの右手に集束し始めた。

収束打撃。

その技そのものは現代ミッドチルダで生まれたものではない。

戦争技術を発展させるのはいつだって戦争だ。

古代ベルカの時代。その時すでに完成していた技術なのであった。

「一発は一発で許してあげるわ」

そう言ってユカリは右手に硬をしてさらにブースト。カンピオーネの呪力耐性でユカリは散らされるオーラを何とか留め、さらに徹を使いダメージを内部に浸透させる。

普通の人間ならば上下真っ二つになるかもしれないが、カンピオーネの頑丈さは折り紙つきだ。

空を落下するよう隕石のように輝きながら空を翔けるとそのコブシを護堂の腹部に打ち込んだ。

「がはっ…」

打ち込むと同時にバインドを解除された護堂はそのまま地上へと激突する。

護堂の体は地表にクレーターを作りながらも千切れる事は無かった。本当にカンピイオーネの体は不条理だ。

護堂は激痛で意識を失う前に雄羊の化身を行使するのだった。



時間は遡って護堂がユカリに向かっていった頃、祐理と甘粕によって保護されたエリカはと言うと…

「エリカさんっ!大丈夫ですか?」

心配そうに声を掛ける祐理。

「大丈夫よ、祐理。あれは護堂をその気にさせる為の演技だから」

「はぁ!?」

「ああでもしないとエセ平和主義の護堂の事だもの。彼女と戦う事に了承しないじゃない?」

「ええ!?もしかして草薙さんをだましてユカリさんと戦わせたんですか?」

「そうなるわね」

「貴方は!なんて事をしたんですか。羅刹の君は他の追随を許さないからこそ我々は魔王と恐れ、まつろわぬ神を打倒せしめる故敬っているのですよ!?そんな方に幾ら多少剣術に優れようと、敵うわけ無いじゃないですか!」

「それはどうでしょうね。ほら、見てみなさい」

と、エリカに言われて視線を向ければその首元に刀を突きつけられて身動が取れなくなった護堂がいた。

しかし流石にカンピオーネ。直ぐに反撃に転じていた。

自身のダメージを厭わない戦闘が出来るのは人類の中で彼らだけだろう。

それからの展開は終始ユカリ優位に行われた。

エリカも鳳の速度に反応できるのはサルバトーレ・ドニ位のものだと思っていたのでこれには本当に驚いたものだ。

「まさかあの速度で動く草薙さんにまったくの互角の勝負を挑まれるとは…」

と甘粕も驚愕の声を上げたものだ。

「……確かにカンピオーネにはあれ位しなければダメージは無いのだろうけれど、それを本当に出来る人間が居るとは思わなかったわね」

そう呟いたエリカの視線の先で草薙護堂はアスファルトにその頭を埋め込まれていた。

しかし、彼女の存在か強烈から恐怖に変わる瞬間が来る。

強烈なダメージを負った事によって発動条件を満たした駱駝の化身を使いユカリを蹴り飛ばした後だ。

ユカリの雰囲気が変わった。空気が変わった。纏う呪力が攻撃性を増した。

護堂はなんとかその雰囲気の飲まれずに駆けた。

駱駝の化身を使っているならばそれは正しい判断だ。

駱駝の化身は武術の達人並みの反応を身につけるからだ。

しかし、その突進は止ってしまった。

いや、止められたのだ。突如現れた光るキューブによって。

光る半透明なキューブは次々に現れ護堂の四肢を空間に固定する。

「…あり…えない…」

そう、エリカが呟いたように魔術師の世界では有り得ないのだ。有ってはいけないのだ。

カンピオーネを拘束する魔術なんて…しかもそれが詠唱すら無いなんて…

エリカは驚愕する。

横を見れば甘粕も祐理も同じ顔をしているだろう。

そんなものは100年に一人の天才魔術師が使おうがその呪力耐性の高さからカンピオーネには効果を発揮しないか、例え発揮してもものの数秒で破棄されるはずなのだ。

だというのに、目の前のこの現象はなんだ?

さらに驚愕する事態がエリカの目の前で展開する。

ユカリの背中に光る翅が出現したかと思うと、空を飛ぶのが当たり前のトンボのように自然に空中へと上っていく。

エリカは魔術師だが魔女ではない。

魔女にしか使えない飛翔術。しかしそれは目的地までを一直線に飛ぶものでしかない。

目の前のユカリのような、自由飛行が出来る術ではないのだ。

そして抵抗を封じられ死に体の護堂目掛けてユカリが輝くコブシを振り下ろす。

護堂は落下する隕石のごとく地表に激突すると地表にクレーターを作り、辺りは粉塵で覆われた。

「まっまさかっ!」

「くっ!草薙さん!?」

「いやはや、まさかカンピオーネが神か同属のカンピオーネ以外に負けるのをこの目で見る日が来るとは…」

焦るエリカと祐理。甘粕も調子こそ軽いがやはり信じられないと言った感じだ。

エリカと祐理は護堂の落下地点へと走る。

途中体を動かす事が苦手な祐理はエリカに置いて行かれる。エリカは引き離した祐理を振り返らずに護堂を探す。

ザザーーーッ

クレーターの(へり)を滑り降りエリカは中心へと急いだ。

エリカは瓦礫を身体を強化して掘り起こし、やっとの事で護堂を見つける。

「ぐっ…かはぁっ…」

肺が勝手に呼吸を求めた結果、護堂は息を吸い込んだ。

「良かった、死んではいないわね。流石カンピオーネと言いたい所だけれど…」

しかし、護堂は気絶し、もはや戦える状態ではない。

護堂の10の化身の中で一つだけ、死ぬようなダメージからも短時間で回復できる化身がある。

いや、実際は一回きっちり死んでから生き返る能力らしい。

雄羊の化身だ。

しかし、それは護堂が死ぬ前に自力で発動しなければならず、即死には効果が無い。

エリカは焦った。

護堂は雄羊を使っただろうか?

意識の無い今の状態で殺されたら生き返れるだろうか?

妖精のような翅を羽ばたかせ、ゆっくりと、しかし油断無く空からやってくる女性。

そんな彼女をエリカは見上げた。

しかし彼女の纏っている漆黒の竜鎧が妖精よりも悪魔を連想させてしまう。

武に精通し、空を翔け、魔術師達が打倒し得ないカンピオーネを打ち砕く。まつろわぬアテナすら一度殺した存在だ。

エリカは以前誰かにカンピオーネに勝てるなんて思っている奴はバカだと講釈した事がある。

カンピオーネを打倒できる魔術師なんて実際何処にも居ない。

しかし現実はどうだ?

カンピオーネでないものが運でもまぐれでもなくカンピオーネを打倒した。

彼女はとんでもないイレギュラーだった。

その存在はエリカに恐怖を与えるに足る存在と言える。

故にエリカはユカリが何かを言う前に言葉を発する。

「貴方に護堂をけしかけてしまった事を心の底から謝るわ」

そう言ってエリカは膝を着き(こうべ)を下げた。

カンピオーネやまつろわぬ神に対するような礼儀正しさだった。

エリカは護堂の騎士として、彼を守るためにユカリに膝を着いたのだ。

「勝手な事を言うようだけれど、護堂を見逃してもらえないかしら。もちろん、見返りは用意します。どうかこの場は矛をお納め願えないかしら」

エリカにしても勝手な事を言っていると思う。

護堂とユカリを死合わせたのはエリカ。可能性の一つとして護堂が負けるかも?とは考えていたが、まさかここまで圧倒的だとは思いもよらなかった。

つまりこの場での圧倒的な強者はユカリであって、自分達は圧倒的な弱者だ。

「そう。それじゃ私とアテナをほうっておいて貰える?貴方の力で私とアテナの事を隠すの。出来るかしら」

ユカリも結構な時間を生きているし、前世は戦争のただ中を生き抜いた。

譲歩するだけでは自分を守れない。

そう言ったことを学ぶには長すぎる時間だった。

「貴方と、そこの人達だけの中にしまっておいてちょうだい。お願いするわね」

ユカリは煩わしいから、組織だとか、裏のネットワークの全てに口止めせよと命令しているのだ。

まぁ、出来るとはユカリは思ってはいないが、努力はしてくれるだろう。

「仰せの通りに…」

エリカがさらに深く頭を下げた。

「レーヴェ、今何時かしら?」

『5時32分です』

「いけないっ!アテナとの夕食に間に合わなくなっちゃうっ!」

ユカリは時間を聞いてあわてた。

この場所からは車で飛ばしても家まで一時間以上はかかるだろう。

人の迷惑にならない場所と言う事を考えれば仕方の無いことだったが、夕飯に間に合わないのはよろしくない。

最初は興味も無かったアテナであるが、最近は食事の楽しみを覚えてきたころなのだ。

ユカリのご飯が出来上がる前には既にユカリの家に上がりこみ、ユカリが作り置きしていたお菓子を食べながら待っている姿がユカリには少し微笑ましく思えるのだ。

「当然私が送らせていただきます」

と、いつ現れたのか。音も無く現れた甘粕がそう提案した。

それを見てユカリは目を細めた。

目の前の男は中々の男らしい。

「えっと、あなたは?」

「正史編纂委員会、甘粕冬馬と言います。以後お見知りおきを」

「正史編纂…えっと、オカルト組織ですか?」

「いやいや、日本で起きる怪異事件を調停する組織と言いますか…いわゆる一つの公務員と言いますか」

「公務員さんなんですか?」

「ええ、まあ似たような物です」

それを聞いてユカリは少し考える。

「ご結婚はされていますか?」

「は?……いやいや私なんぞは、未だ独身ですよ」

ユカリの虚を着く質問に甘粕は鳩が豆鉄砲を食らったかのようだ。

その答えにユカリはふむりと笑う。

「あなたとご一緒できるその提案はとても魅力的なのですが、今日は時間が無いので今回は自力で帰らせていただきますね」

そう言うとユカリの足元に転移魔法陣(トランスポーター)が現れる。

「では、おやすみなさい。甘粕さん」

次の瞬間ユカリの体は光となって消えうせた。

「今の、どう思われますか?」

と、甘粕が近くに居るエリカに問いかけた。

エリカは熟考の末信じたくないと言った表情で答える。

「………転移魔術でしょうね。…いえ、そもそも魔術じゃないのかもしれないわ。呪力を感じなかったもの」

魔術師の世界では人一人を空間転移させる事は出来なくは無いが、呪具や秘薬、触媒の用意と、かなりの労力が掛かる。

どれも安い物ではない。そんな物にお金をかけるくらいならば少し不便かもしれないが車や飛行機を利用した方が手っ取り早い。

それをユカリは何の気無しに使用したのである。

「ですなぁ……いやはや、これは益々参りましたな…」

「彼女が秘匿を望むなら、それを実行するべきでしょうね。それに、まだ若輩とは言え護堂はカンピオーネなのよ。その彼を一方的に打倒しうるのが一般人と言う事はこっちの世界に要らぬ火種を撒く事になるわね」

「でしょうな…もしかしたら自分達もなどと思われては困りますな」

「ええ、この件は慎重に対処しましょう。あなたも貴方のボスの器量が浅いのならば報告を控えた方が良いわよ」

「いえいえ、私の上司は中々の見識をお持ちですから。ユカリさんと同じ結論を出すでしょうな」

「そう、ならばこの事は緘口令を敷きましょう。アテナは護堂が追い払った。そう言う事にするのが一番波風が立たないわ」

「了解しました。そのように報告してみましょう」

神を殺せば殺した神の権能が手に入る。護堂がアテナの権能を手に入れていないのを隠すのは難しいかもしれない。故に追い払ったと言う事にしか出来ない。

「魔王たるカンピオーネを倒す人間。新しい称号が必要かしらね。…最初に発見されたのが日本なのだし、日本語ではなんて言うのかしら?」

と、エリカの問いに甘粕が答える。

「そうですなぁ。…勇者ですかねぇ、やっぱり」

この時甘粕の頭に浮かんだのはナンバリングを今でも重ねている日本のTVゲームである。

魔王を倒すのはいつだって勇者なのだ。

「勇者?ヒーローの事よね?」

「いえいえ、ヒーローは日本語では英雄になります。現在では同一視されていますが、勇気ある者の事をさす言葉ですね」

「なるほど。勇気ある者…か。いい言葉ね」

と、エリカがが頷いたとき、遠くから息を切らせて走ってきた祐理。

「はぁ…はぁ…はぁ…くっ…草薙さんはっ…はぁ…大丈夫…なんですか?」

「大丈夫よ。カンピオーネだもの。このくらいの怪我なんて直ぐに治るわ」

「そうですか…良かったです。……あの…ユカリさんは…」

「帰ったわ」

「そ…そうですか…魔王たる草薙さんが負けましたか…」

「ええ。しかし、祐理、あなたもこの件については口をつぐみなさい。頭のいいあなたには分かるわよね?」

「……えと…はい、わかりました」







家に転移で帰ってきたユカリ。

リビングには既にアテナがおり、ソファに座り朝に焼いたマフィンを食べていた。

「む、…もはや驚くまいよな。ユカリの非常識は最初に会ったときからの事である故」

突然魔法陣と共に現れたユカリを見たアテナの感想である。

「しかし、どうした?そのような術で帰宅するとは。何か有ったと言う物よな」

「ええ。草薙護堂。カンピオーネ…だったかしら?エリカさんの策略で彼と一勝負してきたのよ」

「ほう…結果は…聞くまでも無いことよな。妾を殺した人間が、若輩の、まだ一柱しか神を殺していないような輩に負けるはずが無い」

「過大評価ありがとう。…今すぐ夕飯を作るからもう少し待ってて」

「ゆっくりで構わぬよ。時間は妾にしてみれば人間ほど貴重ではない故な」

さすがに不老不死の神様と言う事なのだろう。

「それで、相手の神殺しはどうであった?」

と、アテナがやはり少しは気になったのか問いかけた。

「うーん。今はまだ強い力を持っているだけの子供ね。あれじゃ10回やって10回は勝てるわ。…まぁ、実戦の中で急成長を遂げると言う可能性も有るけれど、今のままじゃ10年経っても負けないわ」

「カンピオーネをそう評価できる人間なんてユカリだけよな」

しかしカンピオーネの実戦における成長は目を見張る物がある。

護堂がこの後まつろわぬ神々と幾度も戦う事になれば10年と言わずにユカリをと打倒できる日が来るだろう。
 
 

 
後書き
長くなりましたが、VS護堂でした。主人公は巻を置く事ににレベルアップする物ですよね。護堂も後半は強くなっているのでしょうが、初期の護堂はそこまででもないような…怪力だけでどう戦えと言うのでしょうか…やはり石柱を引っこ抜いてぶん殴るとか…? 
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