ソードアート・オンライン～神話と勇者と聖剣と～

「シッ！」

　キリトが二刀を構え、地面を蹴る。同時に、刀身に真紅のライトエフェクト。

　《二刀流》剣技、《ダブル・サーキュラー》。

「おっと」

　キリトの全身全霊をかけた初撃。

　しかしそれを、シャノンは軽いステップだけでかわす。

「な……」
「見せてあげるよ。これがレベル278の力さ」
「に……278ィ！！？」

　278。

　SAOにはレベル上限(キャップ)はない。

　しかし、レベルが上がって行けば上がって行くほど手に入る経験値は少なくなり、レベルは上がりにくくなってくる。

　現時点でも最高レベルはハザードの123程度で、二百に届いたプレイヤーの話など聞いたことすらない。


　シャノンが両手を広げる。

「ビットスタンバイ」

　呟かれた言葉に呼応するかのように、袖口から出現する、無数の投剣。

　どうやら《ビット》と言う名前らしいそれは、いかなるロジックかによってシャノンの周辺を回り始めた。

「く……」

　旋回するビットが行く手を阻み、うまく攻撃ができない。キリトはじりじりとシャノンの出方を伺う。

「あれ？来ないの？じゃぁ―――――こっちから行かせてもらおうかな」

　シャノンが煙るような速さで両手を動かす。

　ゴォッ！！と大気を震わせる音と共に、背中に吊られた二本の剣が引き抜かれる。

　
　巨大だ。

　カテゴリ的には《大剣》に入るのだろうが、しかしそのサイズは大剣の1.5倍ほどはあった。

　
　《両手剣》の上位エクストラスキルに所属する、エクストラ武器。名は《巨剣》。大剣を凌駕する重量と攻撃力、強度を有する、非常に癖の強い武器だった。使い手はアインクラッドにはほとんどいないと言われるほどのマイナースキル。

　シャノンの二本の武器は、それに分類される剣だった。

「紹介するよ。僕の剣、《オズワルト》と《ヴェヴィティエール》だ。どっちも自慢の剣さ」

　オズワルトと呼ばれた赤い剣の方を前にして、シャノンは二本の剣を構え、腰を落とす。

「……《ドレイク・ヴォルケイノス》」

　ズバン！！と大気が震える。

　一瞬にしてシャノンはキリトの目の前に出現していた。

「―――――！？」

　キリトは飛びのいて回避をしようと、体を動かそうとして――――驚愕した。


　キリトの足の要所要所を、《ビット》が押さえつけている。てこの原理か何かなのか、キリトの足は全く動かない。


「くっ……」

　
　仕方なくキリトは、両手を使って剣をクロスさせ、シャノンの攻撃に備える。


　二振りの巨剣が迫る。

　キリトの剣がはじかれる。

　威力を多少減じさせた剣が、キリトの肉体を吹き飛ばす。


「がはぁ！？」

　宙を舞うキリト。視界端には、ぎりぎりグリーンゾーンを保つHPバー。
　

「「キリト！！」」
「キリト君！！」

「くっ……」

　キリトは地面に着地すると、跳ね上がって身体を起こし、二刀を構えなおした。

　二刀流剣技、《シャイン・サーキュラー》の突進が、シャノンに迫る―――――


　しかし、キリトの《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》、その二本の剣の刃は、シャノンには届かなかった。

「――――っ」

　またしても、《ビット》だった。

　十を超える数のビットが、二本の剣の刀身をしっかりと抑えつけている。

「くそっ！」
「おや、遅いよ？キリト君」

　戦慄する。

　いつの間にか、シャノンはキリトの真後ろに立っていた。

「なんで……っさっきまであんなに遠くに――――」
「だ～か～ら～……レベル278なめるなって」

　とにかく逃げなければ……キリトは二刀を引かせようとする。

　しかし、無数のビットたちはいつの間にか剣だけでなく、キリトの足や腕、胴体までを押さえつけていた。

「くっ……！？」
「Goodnight,《黒の剣士》」

　シャノンの二本の巨剣が、金色の光を宿し、振り下ろされ―――――


　漆黒の大剣に阻まれた。


「ハザード！？」

「――――何のつもりだい」
「そこまでだ、シャノン。キリトを殺すつもりだったな？」
「……冗談。そんなワケないでしょ？」

　するとシャノンはおとなしく巨剣を背中に収め、そしてビットたちを下がらせた。

「あ～あ。もっと遊びたかったのになぁ。ハザードにとめられたら仕方ないか。……まぁイイや。あ、そうだセモン」
「……何だよ」
「今度は君とも戦いたいな。君なら僕の挑戦を受けてくれるでしょ？まっすぐすぎる生き方が君に不幸をもたらすって教えてあげるよ」
「―――――！！？」

　セモンが怒りで顔を染める。

「なんだと！？」
「あはははははは！それでこそセモン！――――じゃぁね、キリト君。みんな。また会おう！」

　あははははは！あははははははははは！！！

　と、シャノンの哄笑が響き渡る中、彼は再び崖の上にジャンプで着地すると、そのまま走り去ってしまった。 

　次回は過去を語る系の話になると思います。