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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第75話:アースラ出撃


翌朝,目を覚ました俺は艦長室に向かった。
扉の前に立って、大きく一度深呼吸をすると扉の脇にあるパネルに手を伸ばす。
中からはやての返答があり、扉が開く。

「おはよう。こんなに早くからなんか用?」

「ああ。ちょっと長くなるかもしれないけどいいか?」

「かまへんよ。ほんなら座って」

「いいよ、このままで」

「ええから座り!ゲオルグくんはけが人やねんで!」

眉を吊り上げて有無を言わせぬ口調で言うはやてには勝てず、
ソファに腰掛ける。

「ほんで何なん?今日はアースラをミッドに移動させるんやから忙しいんやで」

「ゆりかごが出現した場合の作戦について話しに来た」

俺がそう言うと、はやては驚いた表情を見せた。

「早っ!昨日お願いしたとこやんか。もう作戦立案完了かいな・・・」

「いやいや、期待にお応えできずに申し訳ないんだけど、
 ゆりかごへの突入メンバーの選定と突入ルートについて決めただけ」
 
「なんや・・・それだけ?」

はやてが不満そうな顔を見せる。

「まあ昨日の今日だからな。とりあえず、そこだけでもはやての認可を
 取り付けておこうと思って」

「ふーん。ま、ええわ。それで?」

俺はディスプレイにユーノが見つけてきたゆりかごの図面を映す。

「まず押さえるべきは、玉座の間と動力炉だ。この2つのどちらかを押さえる
 ことができれば、ゆりかごは停止すると考えられる。
 なので、この2か所を制圧するための要員を送り込む」

そう言って、ゆりかごの図面の玉座の間と動力炉の位置に赤い点をつける。
それを見たはやては即座に顔をしかめた。

「って、めっちゃ離れてるやん。2チーム入れるってこと?」

「そうだ。玉座の間と動力炉、それぞれにチームを送り込む」

「で?そのメンバーは?それが今日の主題やろ」

「それぞれのチームは6課の隊長・副隊長クラスを指揮官にして、
 協力してもらえる航空隊の選抜メンバーによって構成する。
 選抜については作戦に参加する航空魔導師のリストを
 見てからになるけど・・・」

「作戦に協力してくれる部隊と隊員のリストは今日中には上がってくるはずや」

「了解。なら突入メンバーの選抜は突入チームの指揮官に任せるとして
 その指揮官の人選なんだけどな・・・」
 
「うん?どないしたん?」

最後の最後になって言い淀んだ俺に、はやては首を傾げる。
本当にそれでいいのか?その迷いが俺にその続きを言うことをためらわせる。

(クソっ。俺は覚悟決めたんじゃねえのかよ。しっかりしろよ!)

俺は自分の太ももに拳を振り降ろすと、はやてを見る。

「ホンマにどないしたん?エライ怖い顔してるけど」

はやての言葉に首を振る。

「いや、なんでもない。で、突入チームの指揮官だけど、
 玉座の間のチームはなのは、動力炉のチームはヴィータに指揮させたい」

「理由を聞いてもええ?」

「まず動力炉チームだが、動力炉の破壊が最終任務である以上、
 強力な物理的打撃力が必要になる可能性が高い。
 だからヴィータを選んだ」

俺がそう言うとはやては納得したように頷く。

「うん。それは納得。じゃあ玉座チームは?」

「・・・隊長・副隊長陣の中で最も対人戦闘における能力が高いからだ」

「ふーん。フェイトちゃんでもええと思うけど・・・」

「あとは、本人の強い希望だな」

「・・・そっちがメインやろ」

はやてはそう言ってため息をつきながら呆れたような表情で俺を見る。

「・・・そんなことはない。用兵家としての冷静な判断だ」

そう言った後、はやては俺の顔をじっと見た。
俺もはやての目を見つめ続けた。
しばらくして、はやては目を閉じると大きく息を吐く。

「ま、ええわ。なのはちゃんやったらうまくやってくれるやろ。
 で?突入ルートは?」
 
「ゆりかごの外壁には搭載兵器の射出口がある。そのうち、玉座の間と動力炉に
 近い数か所ずつを侵入点に考えてる。それぞれの侵入点から目標地点までの
 ルートもすでに選定した」

俺はそう言って、ディスプレイ上の図面に侵入箇所を表す数個の青い点と
侵攻ルートを示す青い線を表示させる。
それをはやては真剣な表情で見つめていた。

「最短ルートか・・・。まあ、ゆりかご内部の状況が判らへん以上
 中を通る距離は短いほうがええからね。まあ、ええんちゃう」

「了解。ならゆりかごへの突入に関してはこれで進めるよ」

「うん。そやけど、シグナムとフェイトちゃんは?」

「2人とはやてにはゆりかごの外を頼みたい」

「私も?」

はやては不思議そうに俺の顔を見る。

「いざゆりかごが動き出したら、向こうとしちゃ当然俺らに侵入されるのを
 防ごうとするだろ。ガジェットは大量に出てくるだろうし、
 戦闘機人だって出てくるだろう。そうなったとき、ガジェットを一撃で
 大量に蹴散らせるはやての火力は魅力だ」

「アースラの指揮は?」

「俺がとるさ。どうせ俺は現場には出れないんだ。
 現場の指揮をはやてに取ってもらうほうがいいだろ」

俺がそう言うと、はやては少し考えた後俺の顔を見て頷いた。

「ええよ。ま、当然の用兵策やもんね。そんときはアースラは任せるわ」

「了解」

「あとはスバルたちはどうすんの?」

「あいつらは地上で戦闘機人との戦闘にあてるつもりだ」

俺の言葉にはやては厳しい表情をする。

「大丈夫やろか?」

「なのはやフェイトとも話したけど、反対はされなかったぞ」

「判った。あの2人がええんやったらええんよ。話は以上?」

「ああ」

俺が頷くと、はやては立ち上がった。
それに合わせて俺も立ち上がり、はやてに背を向ける。

「なあ、ゲオルグくん」

はやてに呼びとめられて振り返ると、はやては真剣な顔で俺の顔を見ていた。

「なんだよ」

「自分で言うたからにはアースラの面倒は最後まで見てや。
 途中でグリフィスくんとかに押し付けるんは無しやで。
 私の言うてる意味、判ってるよね」

「前線には出るなって言ってるんだろ。判ってるよ」

俺がそう言うとはやては満足したように笑みを浮かべた。

「わかっとんのやったらええんよ。ほんならね」



艦長室を出た俺はそのまま艦橋へと向かった。
このアースラをミッド上空に転移させる作業に立ち会うためだが、
実際のところ俺になにか役割があるわけでもない。
実作業はすべてロングアーチの優秀なオペレータ達がやるのだから。
いまは主のいない艦長席の傍らに立つ俺はただの傍観者にすぎなかった。

やがて、艦橋にはやてが現れ俺のそばを通って艦長席に座る。

「転送準備の進捗は?」

はやてが俺の方を見て尋ねる。
俺は手元の端末の情報に目を走らせる。

「機関は始動済み、転送座標の算出も終了。
 あとは、転送先の安全確保が完了すればいつでも転送可能です」
 
「ほんならとりあえずドックから出そか」

「アイ、マム」

俺ははやての方に向けていた身体を正面に向ける。

「出航準備。全ハッチ閉鎖、係留装置解除!」

俺の指示に何人かのオペレータが復唱する。
出航準備の作業が進んでいるなか、はやてが小声で話しかけてくる。

「何?”アイ、マム”って」

「任官した時に配属された次元航行艦の副長が言っててさ、
 一度真似してみたかったんだ」

俺が目線を正面に向けたまま小声で答えると、はやての方からくくっという
抑えた笑い声が聞こえてくる。
思わず俺ははやての方に目を向ける。

「なんだよ・・・」

「いや・・・ゲオルグくんも意外とかわいらしいところあるんやなと思って」

はやては笑いを押し殺しながらそう言った。

やがて、すべてのハッチが閉鎖され、アースラをドックにつなぎとめていた
ロックボルトが外れたことをオペレータ達が報告してくる。
俺は手元の端末でもそれを確認し、はやての方に向き直る。

「艦長。全ハッチ閉鎖完了。全係留装置も解除完了しました。
 出航準備完了です」
 
「了解。アースラ発進!」

はやての掛け声とともに、操舵手を務めるルキノが機関の出力をわずかに上げ
アースラはゆっくりと前進する。
そのまま、船体が完全にドックを離れるまで進むと、アースラは徐々に
スピードを上げていく。
本局の港湾区画を出ると、ミッドへの転送準備に入った。
転送準備が整ったとの報告を受けるとはやては、艦橋をぐるりと見回した。

「よっしゃ、アースラ転送開始!」

はやての命令を受けて、担当のオペレータが転送を開始すると
真っ暗だった外の景色は真っ白に輝いていく。
やがて、その輝きが収まってくるとそこには見慣れたミッドチルダの
青い空が見えた。

「転送完了です。船体・周囲ともに問題ありません」

オペレータの報告にはやてはふぅっと大きく息をつく。
そして、6課の隊舎があった区域に向かうように指示を出すと、
席を立って艦橋を出て行った。

「ゲオルグさん。ここは僕が見てますからゲオルグさんも副長室に戻られては
 いかがですか?ずっと立ちっぱなしですよね・・・」

グリフィスが下から俺を見上げてそう言った。

「いや・・・」

そうはいかない、と続けようとして俺は言い淀む。
確かに立ち続けで身体のあちこちに鋭い痛みを感じていた。
俺はグリフィスの言葉に甘えることにして艦橋を出ると、副長室に戻った。

 
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