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Fate/WizarDragonknight

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明晰夢

「……夢?」

 自覚があるということは、明晰夢というものなのだろうか。
 ハルト___今は可奈美の体だが___は、周囲の景色を見ながらそう思った。
 どこかの神社だろうか。長い登り階段と、それの門である大きな社。うっすらと霧で包まれたその場所は、ハルトには見覚えのないところだった。

「夢にしては殺風景すぎないかなここ。折角可奈美ちゃんの体なんだから、もうちょっと楽しい夢とか見たかったかも」

 まあ、彼女の見る夢など、剣のことばかりになりそうだが。と、ハルトは思い直した。 
 ならば、どこかに剣でも転がっているのだろうか。そう思いなおしたハルトだが、見渡す限り石のブロックばかりで、剣などどこにもない。
 誰もいない社。目覚めるまですることもなく、ハルトは階段に腰を下ろした。

「ふう……」

 大変な一日だった。
 可奈美と体が入れ替わり、様々な不便を経験した。
 それぞれ不意の会話から、不信感を何度も持たれ、トイレや風呂など性差によって勝手が分からない。願わくば、一連の出来事全てが夢の出来事であってほしいくらいだ。

「あれ? 可奈美じゃないの?」

 そんな声が、階段の上の方から聞こえてきた。
 見上げれば、髪を後ろでまとめた女性が降りてくるところだった。紫でぼさぼさの髪と、何者にも負けることはないという自信が表に出ている顔。黒いセーラー服から、中学生か高校生くらいだろうかとハルトは思った。

「えっと……誰? 俺の夢なのに、知らない人が出てきた」
「俺の夢? 可奈美の夢じゃないの?」

 女性は手に持った剣を左右の手で投げ合いながら尋ねた。
 剣を見て、ハルトは「ああ、これやっぱり本来可奈美ちゃんの夢か」と納得する。

「今、ちょっと色々あって体と精神が入れ替わっているんです。今は、俺の体に可奈美ちゃんが入ってます」
「へー。今時はそんなことも起こるんだ。すごいね」

 女性はまた剣を左右でキャッチボールする。何となくその剣を見ていたら、自然とハルトの口からその言葉が出てきた。

「……千鳥?」
「お? 知ってるの?」

 女性が目を大きくした。
 ハルトは頷く。

「まあ、可奈美ちゃんとは短い付き合いでもないし。何となく、そう思っただけだけど」
「おお。いいねいいね。よし、気に入った」

 女性はうんうんと頷きながら、千鳥を抜いた。

「ねえ。立ち合い……勝負しようよ」
「え?」
「アンタも剣の腕はあるんでしょ?」
「剣っていうか……俺の場合魔法だけど」
「知ってる知ってる」

 女性はまた剣をパスしながら言った。

「魔法使いさんでしょ? 可奈美から話は聞いてるよ。松菜ハルト君。強いんでしょ?」
「うーん、正直可奈美ちゃんからすればそこまで俺強いってわけでもないと思うんだけど」
「そんなことないよ。ほら、構えて構えて」

 女性は千鳥の剣先を向けながら促した。

「久しぶりに滾ってきた。アンタの力、見せてよ」
「……手加減なし、ってことでいい?」

 ハルトは指輪を付けながら言った。その指輪をベルトのバックル、その手のひらの形をした部分に読ませる。すると。

『ドライバーオン プリーズ』

 電子音声とともに、腰に銀でできたベルトが出現する。舌を巻く女性の前で、ハルトはベルトのつまみを動かす。

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』

 思わず口ずさんでしまいそうな音声とともに、ハルトは左手にルビーの指輪を嵌める。備え付けられているカバーを被せ、宣言した。

「変身!」
『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』

 指輪より発生した魔法陣が、そのままハルトの姿を書き換えていく。
 本来の持ち主であるハルトに、今のみ身を移すことができる、赤い指輪の魔法使い、ウィザード。

「おお! これがウィザード! カッコイイね!」

 女性が称賛する。ウィザードはさらに、空間湾曲の指輪を使い、魔法陣より銀の銃を引っ張り出した。

『コネクト プリーズ』

 ウィザードの手に馴染む銀の銃剣(ウィザーソードガン)。その刃先を指で触れながら、ウィザードは尋ねる。

「それで? どうやって勝負を決めるの?」
「いいんじゃない? 普通に戦闘不能で。どうせ夢なんだし」

 女性は千鳥を手の合間でパスし、その手首を回す。千鳥が大きく円を描き、「ほらほら」と促した。

「どうせって……あ、自己紹介してなかったね。改めて、俺は松菜ハルト。お姉さんは?」
「お? 何? もしかしてナンパされてる?」
「じゃなくて。単に、名前聞いておきたいだけだよ。剣術の世界には、そういう礼儀とかないの? 知らないけど」
「あるよ。藤原美奈都(ふじわらみなと)。よろしく」
「美奈都ちゃんね。じゃあ、行くよ」
「ちゃん?」

 女性改め美奈都は、鼻を掻いた。

「やめてよ。ちゃんなんて柄じゃないし」
「リゲルみたいなこと言うなあ……じゃあ美奈都」
「うん……可奈美だったらここで師匠って言ってくれるんだけど……今はそれでいっか。じゃあ、行くよ! ハルト!」

 美奈都の合図で、ウィザードもソードガンとともに、美奈都へ挑んだ。
 回転しながらの、ウィザードの銃撃。牽制技としての有用性はかなり高いが。

「ほっ! よっ!」

 掛け声とともに、美奈都の刃が横切る。彼女の千鳥が斬った空間の後には、ポロポロと銀の銃弾が落ちていた。

「……やっぱりとんでもないな、刀使ってのは」
「そう?」

 美奈都はすでにウィザードの目と鼻の先に迫っていた。
 ウィザードは即座にソードガンに仕組まれていた刃を展開し、銃身を立てる。銃から剣となって美奈都へ反撃するが、美奈都はそれを当然受け止める。

「はっ!」

 さらに続く、ウィザードの蹴り。体を回転させながらの、美しいとも取れる動き方。
 だが美奈都は、いとも簡単にそれを受け流して見せる。さらに、美奈都はそこから千鳥による反撃を開始する。
 ウィザードは体勢を立て直し、防御態勢。だが、素早い連撃にどんどんウィザードは追い込まれていく。

「っ!」

 ウィザードは、美奈都の攻撃を受け止めることを諦め、飛びのいた。

「すごいな……剣のレベルが違いすぎる……」
「へへっ、ありがとう!」

 美奈都は肩に千鳥を当て、満面の笑みを見せた。
 ウィザードはホルスターに手を伸ばし、新たな指輪を取り出しながら尋ねた。

「さっきも言ったけど、俺は魔法使いだから。剣以外の攻撃も、してもいいよね?」
「どうぞ?」

 美奈都は剣で指しながら答えた。
 そして。

『ビッグ プリーズ』

 巨大化した剣は、ほんの一か所の弱点を突かれて崩壊し。

『フレイム シューティングストライク』

 炎の銃弾はアッサリと切り開かれた。

「ほらほら。本気って、こんなもん?」

 美奈都は千鳥を肩にかけながら挑発する。

「じゃあ次は、こっちの番かな?」

 刀使の動き、迅位と呼ばれる異能。
 その速度は、ウィザードも重々承知している。
 すぐ目の前に現れた美奈都。
 ウィザードは反射的にウィザーソードガンで応戦するものの、その速度相手では、ウィザードは止まっているも同然。何度もその身を切り裂かれ大きく火花を散らし、ウィザードは倒れた。

「だったら……!」

 起き上がりながら、ウィザードは新たな魔法を発動させた。

『ウォーター プリーズ スイ~スイースイースイ~』

 中腰のウィザードの体を青い魔法陣が通過する。力を落とした代わりに、魔力に秀でる水のウィザードは、新たに指輪を入れ替える。

『バインド プリーズ』

 改めて発生した、無数の水の鎖。

「へえ、色々あるんだ、ねっ!」

 美奈都は千鳥を一振り。すると、水の鎖は発泡スチロールのごとく粉々になった。

「すごっ……」

 ウィザードが舌を巻いている内に、美奈都はまた迫って来る。
 水のウィザードは、即、専用魔法を選択した。

『リキッド プリーズ』

 発動したのは、液状化の魔法。
 まさに言葉通り、ウィザードの体は固体から液体へその姿を変える。液体となれば、当然美奈都の斬撃も通用しない。彼女の斬撃を一つ受けるたびに、ウィザードの液体の体は一時的にその体を崩し、また元に戻っていく。

「はあっ!」

 逆に、ウィザードの斬撃は明確な刃となり、美奈都を斬り弾いていく。
 写シと呼ばれる刀使の能力が、美奈都へのダメージを肩代わりする。

「いい剣だね!」

 美奈都は斬られた肩口を抑えながら、笑みを浮かべる。

「ほらほら。次は?」
「折角だし、どしどしリクエストにお答えしましょうかね」
『ライト プリーズ』

 閃光。目潰しとなった光に、美奈都は目をつぶった。

「よし!」

 ウィザードはその隙に、攻勢に入る。
 だが、目の利かないはずの美奈都は、ウィザードの剣を的確に防御した。

「……驚き通り越して呆れてきたよ」
「そりゃどうも。もう目も慣れてきたよ」

 美奈都は目を擦りながら言った。

「さすがに魔法使いを名乗るだけあってトリッキーだね。次はどんなものかな?」
「こんなものだよ」
『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 水のウィザードの最強技。氷の波動を放つ。
 だが。

「おお、冷たいの来たね!」

 美奈都は地面に千鳥で斬りつける。切り出したブロックを足蹴りでウィザードへ放つと、ブロックは氷に閉ざされ、そのままウィザードの腕を叩く。

「痛っ!」
「隙あり!」

 さらに、攻めてくる美奈都。
 ウィザードは距離を取りながら、サファイアとエメラルドを入れ替える。

『ハリケーン プリーズ フー フー フーフー フーフー』
「おお、やっぱり飛べるんだ」

 風のウィザードとなり、空中へ回避するウィザードを見上げながら、美奈都は呟いた。

「そりゃ、魔法使いだからね」

 ウィザードはさらに、魔法の指輪を使った。

『チョーイイネ サンダー サイコー』

 その魔法は、雷鳴。
 魔法陣という雷雲より降り注ぐ雷が、神社の境内に容赦なく炸裂していく。

「おお、これはすごいね!」

 だが、そういう美奈都は、目まぐるしい動きで雷を回避する。あたかも雷という固形物を避けて通るように、その動きに無駄はない。

「だったら……!」
『エクステンド プリーズ』

 攻撃力よりも、範囲を優先するべき。そう判断したウィザードは、体を回転させた。伸縮の魔法により長大な攻撃範囲となった風の斬撃は、コマのように回転しながら美奈都を襲う。
 だが、美奈都の表情に不安はない。
 襲ってくる風の刃一つ一つを、余さず打ち返していく。

「ほらほら! そろそろこっちからも行くよ!」

 美奈都はそう言って、千鳥を持ち直す。
 風のウィザードの優位性。それは、機動力と速度。だがそれでも、刀使の速度には敵わない。
 何度か打ち合ったウィザードは、ウィザーソードガンの手のオブジェを開きながら、美奈都の剣を防御する。

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
「お? また何かするのかな?」

 美奈都はウィザーソードガンへの力を強めながら、ウィザードの次の手を待つ。
 ウィザードはそのまま、エメラルドの指輪を読み込ませる。

『ハリケーン スラッシュストライク』

 攻撃の予備動作として、ウィザードは一度緑の刃を振って、美奈都を引き離す。
 刹那、切り裂く風を纏わせた刃を、ウィザードは解き放った。

「へえ……」

 舌を巻いた美奈都は、そのまま千鳥を握り直す。
 そして。

「うりゃああああああああああ!」

 風の刃を、千鳥で斬り落としていく。
 風の刃は、文字通り見えない刃。一迅一迅が刃物となり、相手を切り刻むものだが、美奈都はそんな見えない刃を全て斬り伏せていたのだ。

「そんな……! 風のウィザードじゃ、相性が悪すぎる……!」
「そろそろこっちから行こうかな?」

 美奈都は両手で千鳥をパスし、挑みだす。
 彼女の本領が発揮される。
 その危険性を察知したウィザードは、大急ぎで左手の指輪を入れ替える。

『ランド プリーズ ドッドッ ド ド ド ドンッドンッ ドッドッドン』

 飛び退くと同時に、発生した魔法陣を通過する。エメラルドの宝石がトパーズに入れ替わる。さらに、攻撃してくる美奈都に対し、その攻撃を鈍らせるという判断を下した。

『チョーイイネ グラビティ サイコー』

 地面に発生した魔法陣が、重力操作を可能にする。
 ウィザードを除いた神社の境内が、通常とは比べ物にならない重力に支配される。

「うおっ! これはすごい……!」

 美奈都のスピードがゼロとなる。重力に折れた美奈都は、そのまま膝を折った。

「ごめんね。このまま終わらせる!」
『ランド シューティングストライク』

 黄色の銃撃が、動けない美奈都へ飛んで行く。

「いい戦術だね!」

 そう言いながら、美奈都は土の弾丸を切り裂く。破裂した地の魔法は、そのまま爆発。
 さらに、美奈都の千鳥は、そのまま重力の魔法陣へ突き刺さる。雷光とともに魔法陣に亀裂が走り、破裂する。

「何!?」
「私考案のすごい技、見せてあげる!」
「来る……!」
『ディフェンド プリーズ』

 ウィザードの最大防御の土の壁。それを美奈都の方向に三枚はり、体勢を整える。
 だが千鳥を構え、ウィザードを見定める美奈都は、笑っていた。
 そして、美奈都の足が、境内を蹴る。

「無心烈閃!」

 直線状に切り裂く斬撃。
 それにより、土壁の大半は立ち消えた。

「嘘……っ!」

 さらに、美奈都の攻撃は続く。トパーズの鎧から火花が散り、力に秀でたウィザードが倒れ込む。
 さらに、二発目。傾いていくウィザードの体へ、逆方向から美奈都の斬撃が襲う。
 三発目、四発目。次々と襲い掛かる斬撃に、ウィザードは踊らせるように体を流すことしかできなかった。
 そして、最後の一発。美奈都が、全身に力を込めて放つ突き技。
 だが。

「見切ったっ!」

 最後の一撃。
 ウィザードはウィザーソードガンを、その一点に立たせる。
 美奈都の最大の一撃。だがそれは、腕をもぎ取られそうな衝撃を代償に、美奈都の剣を受け流すことが出来た。

「おおっ……!」

 驚きを顔に表す美奈都。
 土から火へ戻ったウィザードは、そのまま美奈都の懐に潜り込む。そのまま体を反転させ、美奈都を蹴り上げる。

「うわっ!」

 両腕を交差させて防御したものの、ウィザードの蹴りがそのまま美奈都を上空へ飛ばす。

「これで終わりだ!」

 ウィザードはそのまま、その指輪を入れかえる。
 それは、決して人に使うことがなかった魔法。だが、彼女に対してこれを使わないのは、失礼にあたると判断した魔法。

『チョーイイネ キックストライク サイコー』
「おお……! 本気が来た……!」

 空中で体を捻り、迎撃態勢を取る美奈都。
 そんな彼女を見上げながら、ウィザードは足元に発生した魔法陣へ足を広げる。右足に火の魔力が集約していくのと同時にジャンプ。
 一方、興奮を隠すことのない美奈都は、その写シを赤く染めていく。
 それはまさに、可奈美の主力技、太阿之剣を放つときの動作とよく似ていた。

「だあああああああああああああああああっ!」
「火砕迅風撃!」

 美奈都の一撃。
 全力を刀身に乗せた一撃。それは、空中でキックストライクと激突し、爆発。
 大きくたちこめていく煙の中。

「ぐはっ!」

 変身解除(・・・・)したハルトが、地面に落ちる。
 同時に、着地した美奈都がハルトを見下ろした。彼女の腕には、キックストライクで付けた焦げ跡が残っており、彼女に少なからずのダメージを与えていた。

「いやー、強かったね」

 だが、そんなダメージを全く顧みることもなく、美奈都は笑顔を見せる。

「私の勝ち! で、いいよね?」
「それ以外の結果だったらむしろ反発していたよ」

 ハルトは持ち上げかけた首を倒す。
 夢の中だというのに、ずっと疲労感が抜けない。息も絶え絶えになり、意識が朦朧としてくる。

「あれ……? この夢も、終わりか……?」
「ありがとうね! 魔法使いと立ち合いするなんて初めてだったから、本当に新鮮だった!」
「そりゃよかった。満足していただけたようで」

 ハルトの視界がだんだん朧げになっていく。瞼が重くなり、今にも閉ざされようとするとき。

「あ、そうそう……」

 美奈都は、顎に指を当てた。
 彼女は腰を曲げ、ハルトの頭上に顔を持ってきた。

「私、結構剣で人と対話したりするからさ。相手のこと、分かったりするんだ?」
「……?」

 何がいいたいのだろう。そんな疑問がハルトの中に湧いてくるのと同時に、美奈都の表情が変わった。

「で。アンタはいつまで隠しておくわけ?」
___いつまで黙っているつもりなのかな?___

 何で、あの蒼い宿敵のことを思い出す。
 ハルトがもう一度瞬きをした時にはすでに。
 可奈美の体となり、ベッドから飛び起きたところだったのだから。

「……」

 可奈美の体のまま、ハルトの精神は頭を抱える。
 もう、夢で出会ったあの少女を、思い出せないのだから。
 
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