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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第40話:若者たちは休暇だそうで


潜入任務から戻って1週間ほどたち,俺の生活は元の日常に戻っていた。
むしろ,シンクレアを手足としてつかえるようになった分,仕事量自体は
減っていると言っていい。
ただ,シンクレアにはクレイから受け取った情報の分析をメインで
やらせているので,部隊運営関係の事務仕事はほとんど減っていない。
しかも,前にフォワード陣と模擬戦をやって以来,なのはが俺を
訓練に引っ張り出すことが多くなったので,肉体的な疲労は増えている。

今日も朝からなのはに訓練スペースに引っ張り出されていた。
訓練の最後に模擬戦をして,訓練スペース脇の森に全員が集合した。

「みんな今朝もお疲れ様。今日の模擬戦はどうだったかな?」

今日の模擬戦はフォワード陣4人対なのは・ヴィータ・俺の3人という
形式だった。フォワードの4人は一様に疲労困憊といった表情だった。
なのはは全員の表情を確認すると,少し表情を緩めた。

「ところで今日の模擬戦はみんなの訓練の第2段階終了の
 みきわめだったんだよね」
 
なのはがそう言うと,4人は驚いた表情に変わった。

「で,ヴィータちゃんとゲオルグくんの意見は?」

なのはに話を振られた俺とヴィータは少し顔を見合わせると,合格だと伝えた。
それを聞いたなのはは俺たちに向かって頷いた。

「私の意見も同じ。なのでみんな晴れて2段階終了だよ」

「まー,あたし達がこんだけしごいたんだから,合格しねーと
 問題だってことだな」

なのはに続いてヴィータがそう言うと4人の表情は一様に明るいものに変わった。
「で,明日からの訓練はセカンドモードをメインにすっからな」

「明日から・・・?」

ヴィータの言葉に疑問を感じたのかティアナがそう呟いた。

「みんなこれまで休みなしで訓練漬けだったからね。今日一日はお休みだよ。
 明日からはもっと厳しい訓練になるから,しっかりリフレッシュしてね」

なのはがそう言うと4人は声をあげて喜んでいた。



シャワーを浴びて朝食を食べた後に,補給品の確認をしようと格納庫に行くと,
ヴァイスとスバル・ティアナが話しているのが見えた。
3人に近づいてみると,1台のバイクが目に入った。

「スバルにティアナ。こんなところで何やってんだ?」

俺が声をかけると,スバルとティアナが俺の方を見た。

「あ,ゲオルグさん。これからティアと街に出かけようとおもって,
 ヴァイス陸曹にバイクを借りようとしてたんです」
 
「へー。じゃあこれはヴァイスのなの?いいの転がしてるね」

俺がそう言うと,バイクを整備していたヴァイスがなぜか恨みがましそうな
顔を俺に向けてきた。

「何いってんすか。ゲオルグさんの方がいい車転がしてるじゃないですか」

「え?ゲオルグさんの車ってどれなんですか?」

スバルが聞いてきたので俺が格納庫の隅にある自分の車を指さすと,
スバルとティアナは目を丸くしていた。

「え!?あれですか!すごくいい車じゃないですか」

「そうか?フェイトもいいの乗ってるよ」

「でも,ゲオルグさんののほうがかっこいいですよ。一回乗せてください!」

「いいよ。今度機会があればね」

俺がそう言うとスバルは飛び上がって喜んでいた。
そうしているうちにヴァイスの整備が終わったようで,ティアナとスバルは
バイクにまたがると走っていった。

「やれやれ。若いってのはいいね」

「何言ってんすか。ゲオルグさんもまだまだ若いじゃないですか」

「ん?あいつらに比べたら俺なんかおっさんだよ」

「またまた。あ,そういえば」

ヴァイスはそう言うと俺に向かって手を合わせた。

「一回だけでいいんで,ゲオルグさんの車貸してください」

「いいけど,ぶつけたりしたら実費請求だぞ」

俺がそう言うと,ヴァイスは固まってしまった。

「ちなみにいくらぐらいになるんです?」

ヴァイスが硬直した顔で聞くので,前にちょっとした修理に出した時の
修理代を耳打ちすると,ヴァイスは目を見開いていた。

「・・・マジっすか?よく維持できますね」

「まぁ,情報部にいるとさ。長期の出張任務とかで色々手当がもらえるから」

情報部時代の俺の給料は,3等陸佐としての基本給以外に部隊長手当や
危険手当・出張手当・秘密任務手当などなど様々な手当のおかげで,
基本給の3倍以上に膨らんでいた。
しかも,ほとんど休みなしでたまの休みには家で寝ているという生活をしていた
おかげで,俺の貯金額は家一軒くらいは軽く買える額になっていた。

「うらやましい話ですね。俺なんか階級も陸曹だし手当も飛行手当くらい
 しかないんで,ゲオルグさんとは比べるのもバカらしい額ですから」

「だから親は言うんだよ。子供の間はきちんと勉強しなさいってな」

「・・・すげえ胸に突き刺さるんですけど」

「ま,自業自得だね。じゃあ,またな」

「はい・・・」

少しヘコんだ様子のヴァイスと別れて補給品の確認を終えた俺は
副部隊長室に戻った。



副部隊長室でいつものように事務作業をしていると,シャーリーがやってきた。
シャーリーはほくほくした顔で俺に話しかけてきた。

「ゲオルグさん。予定よりかかっちゃいましたけど,完成しましたよ!」

シャーリーはそう言って,机の上に小ぶりな箱状の物体を置いた。

「これが,携帯用AMFC発生装置の試作品です!」

シャーリーはそう言うと胸を張った。

「おっ!待ちかねたよ。で?効果は?」

「稼働時間はカートリッジ1発あたり5分です。
 範囲は打ち消すAMFの強度にもよりますけど,実験用に製作した
 AMF発生装置の最大出力時でも装置から半径3m圏内は完全にAMFを
 打ち消せます。その範囲外でも徐々にAMFの強度は上がりますが,
 AMFCの効果自体はあります」

「そうか,上出来だね。さっそく使ってみたいんだけど実験用の
 AMF発生装置ってどこ?」

「案内します」

シャーリーに案内されたのはデバイスルームの近くにある倉庫の1つだった。
シャーリーがドアを開けると,部屋の中に巨大な装置が置かれていた。

「今装置を起動するのでちょっと待ってくださいね」

シャーリーはそう言うと,端末に向かって何かを調整していた。
しばらくして,部屋に鎮座するAMF発生装置が小さく唸りをあげ始めた。

「今,この部屋の中にこの装置が発生できる最大出力のAMFを展開してます。
 まず,AMFCなしで魔法を使ってみてもらえますか」

俺はシャーリーに頷いてから,レーベンをセットアップすると,
レーベンに魔力をまとわせようとする。が,まったく魔力を結合できなかった。
試しに,砲撃のチャージをしてみようとしたが,こちらも同じだった。

「すげえ強度のAMFだな。まったく魔法が使えないぞ」

「そうですか?じゃあAMFCを起動してください。カートリッジを装填すれば
 勝手に起動しますから」
 
シャーリーはそう言いながらカートリッジを一発放ってよこしたので
俺は装置にカートリッジを装填した。すると装置は甲高い音を立てて起動した。
さっきと同じようにレーベンに魔力をまとわせようとすると,
何の苦もなくレーベンは俺の魔力で青黒い光をまとった。
さらに,右手の上に魔力弾を生成してみると,こちらも難なく成功した。

「すごいな。フルスペックの魔法が使えるぞ」

少し感動しながらシャーリーにそう言うと,シャーリーは自慢げに笑った。

「よかったです。これでずいぶん楽になりますよね?」

「ああ,これは助かるよ」

「何か問題はありそうですか?」

「片手がふさがるのは困るな」

俺は,今も装置を左手に握っている。

「じゃあそこは考えておきます。とりあえずはポケットにでも入れて
 おいてください。あとはないですか?」

「今のところはないよ。あとは実戦で使ってみてからだね。
 とりあえず,計測結果をまとめて報告書をあげといてくれる?
 前線メンバーへの導入は,俺からはやてに進言しとくよ」
 
「解りました。じゃあその試作品はゲオルグさんに預けておきますね」

「うん。じゃあよろしく」

俺がそう言って部屋を出ようとすると,アルトから通信が来た。

『副部隊長。発令所までお願いします』

「何かあったのか?」

『こちらに来られてからご説明します。とりあえず発令所にお越しください』

「解った。すぐ行く」

通信を終えるとシャーリーが心配そうに俺を見た。

「何かあったんですか?」

「詳しくはわかんないけど,そうらしい。シャーリーも早めに発令所に来いよ」

「解りました。ここを片づけたらすぐ行きます」

そして,俺は発令所へと走った。


 
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