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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第32話:仲直りしましょ


午後になって,俺は副部隊長室になのはを呼び出すことにした。

「ルキノ」

『はへ?あ,すいません。なんですか?副部隊長』

「高町一尉は?」

『ちょっと待ってくださいね・・・寮の自室にいらっしゃいますね』

「副部隊長室に出頭するように伝えてくれ」

『・・・出頭ですか?』

「出頭だ」

『はい,了解しました』



10分ほどして,来客を告げるブザーが鳴った。
俺が入れというと,無表情ななのはが入ってきた。
なのはの右手を見ると包帯が巻かれていた。

(治療はちゃんと受けたみたいだな・・・)

「少しは頭が冷えたか?高町一尉」

「私は最初から冷静です。シュミット三佐」

「言葉を変えようか。少しは俺の話を聞く気になったか?」

俺がそう聞くと,なのはは無言で頷いた。

「まず聞くが,なぜ既に戦闘能力を喪失したランスター二士に
 大出力の砲撃を加える必要があったのか,貴官の見解を聞こう」

「ランスター二士が安全性を軽視した戦術を使用したことと,
 ランスター二士が冷静さを保ち得ていなかったためです。
 あの状況下で,ランスター二士に対して口頭での指導を行なっても
 無意味と判断し,頭を冷やさせるために必要と考えました」

「短絡的だな。頭を冷やさせるというなら時間を置けばいいだろう。
 一旦訓練を中止し,自室で待機させた後改めて口頭での指導を行う
 手段も取り得たはずだ」

「御説もっともですが,戦技教導隊には戦技教導隊のやり方があります」

「では,戦技教導隊においては訓練生に対する虐待行為が推奨されていると?」

「虐待行為というのは語弊があります。撤回してください」

「断る。戦意を喪失した相手に対して大出力の砲撃を加えるのは
 虐待行為以外のなにものでもない」

「見解の相違です」

「違うな,状況認識の錯誤だ。
 百歩譲って戦技教導隊ではあの行為を許容するとしても,
 機動6課では許容できない」
 
「理由をご教示下さい」

「機動6課が実戦部隊だからだ」

「仰る意味がわかりません」

「戦技教導隊とは,優秀な能力を持つ魔導師であり,更なる能力向上の意志を
 持つ者に対して,短期に濃密な戦技指導を行うことにより,
 より高いレベルの戦闘能力を獲得させることを目指す機関だ。
 即ち,戦技教導隊の実戦への出動機会はよほどのことでもない限り皆無だ。
 故に,一時的に一部の構成員が戦力として機能しなくなることを許容できる。
 一方,実戦部隊においては,つい先日我々も経験したように,
 いつ緊急出動が必要になるかわからん。
 常に実戦に即応できる態勢を整える必要がある。
 我々機動6課においては若いフォワード陣を訓練していく必要があるが,
 それはあくまで隊の戦力向上を第一義とするべきであって,
 構成員が短期的にあっても戦力として機能不全に陥るような行為は
 厳に慎むべきだ。いかに戦技教導とはいえ戦技教導隊のやり方を
 そのまま踏襲すればいいというものではない」

「仰ることは理解できるつもりです」

「では,以後注意するように。以上だ」

俺がそう言うとなのはは回れ右をして部屋を出ようとした。

「なのは」

「なにかな?」

俺がなのはを呼び止めると,なのははドアの方を向いたまま返事を返した。

「ここからは,友人としての話をしたいんだけどいいかな?」

「うん」

「なのははさ,自分がスバルやティアナにとっての何だと思ってる?」

「戦技教導官で分隊長だと思ってるよ」

「でもさっきのなのはの話を聞いてると戦技教導官の立場での話しか
 出てきてないよね」

「だって,教導中のできごとの話だもん」

「じゃあ,分隊長としてはどう考えてるの?」

「わかんない・・・」

「わかんないって・・・」

「だって,そんなふうに分けて考えたことなんかないんだもん。
 どっちの立場でも私は私だし・・・」

「じゃあ,なのはは分隊長の役割って何だと思う」

「・・・戦場で2人を引っ張ること」

「それじゃ0点だよ」

「じゃあゲオルグくんはどう考えてるの?分隊長の役割」

「戦場では作戦の目的達成のために隊員各人の能力・性格を考慮した上で
 それぞれに役目を割り当てて,状況に応じた指示を出すこと。
 平時には,隊員の能力・性格・健康状態・精神状態・隊内の人間関係を
 できるだけ細かく把握し,分隊が常にベストパフォーマンスを
 発揮できるように丁寧にケアしていくこと」

「私はそんなふうに具体的なイメージは持ててなかった」

「そっか」

「ゲオルグくんは,私がスターズの分隊長として失格だと思ってる?」

「少なくとも今回の件に関しては」

俺がそう言うとなのはの肩がビクッと震えた。

「・・・そうなんだ」

「なのははさ,ティアナが自分の能力に対して焦りを感じてることと
 その原因について知ってるよね」

「うん」

「じゃあ,この間の戦闘の後からスバルとティアナが早朝と夜に
 過剰とも思える自主トレをしてたことは知ってた?」

「そうなの?」

「うん」

「なんで教えてくれなかったの?」

「なのはは当然知ってると思ってた」

「そっか・・・」

「今日の模擬戦でやってた新しいクロスシフトさ。
 きっとティアナがなのはに勝つためにはどうすればいいか
 一生懸命考えに考え抜いた結果の戦術だと思うんだ」

「うん・・・」

「俺は戦術教官として,この姿勢を全否定する気にはなれない。
 だって,敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うでしょ。
 ま,今回のティアナとスバルは己を知らなかったわけだけど」

「私は,全否定したつもりなんてない」

「でも,ティアナはそう感じてるんじゃない?
 さっきの模擬戦の記録映像を見たけど,なのははティアナになんて言った?」
 
「なんで訓練通りやらないんだって言った」

「うん。それさ,取りようによっては”なんで私の言いなりにならないんだ”
 って言ってるようにも聞こえるよね」

「私,そんなつもりで言ったんじゃない」

「わかってる。俺もあれを見たときは,技術が未熟なくせに
 余計なことやるなって思ったよ。
 でもさ,自分が一生懸命考えて,一生懸命練習したことを
 全否定されちゃったらさすがにヘコむでしょ」

「うん」

「だから,ティアナとお話して,なのはがどういう思いでいるのかきちんと
 言葉で伝えてあげてほしいんだ」

「うん」

俺は席を立つと,ドアの前にいるなのはの包帯に包まれた右手をさすった。

「モードリリースしたのか・・・無茶しやがって」

「ゲオルグくん」

「ん?」

「ありがと」

「どういたしまして」

「あとさ,ちょっとだけ胸かりていい?」

「どうぞ」

俺がそう言うと,なのはは俺の方を振り返り,俺の胸に顔をうずめて
声を殺して泣き始めた。



「ごめんね。制服汚しちゃって」

「まったくだよ。クリーニング代よこせよ」

俺が冗談でそう言うと,なのはは泣きはらした真っ赤な目をしていたが,
満面の笑みを浮かべた。

「やっと,いつもの私たちだね」

「おう。まったく俺にらしくないこと言わせんなっての」

「ごめんごめん。じゃあ私行くね」

「おう。頑張れ!」

「うん!」

そう言ってなのはは部屋を出た。

 
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