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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第28話:ティアナの過去


翌朝,シャマルに許可をもらうと,寮の自室に戻って制服に着替えてから,
食堂で朝食を食べると副部隊長室に行った。
机の上には未処理の書類が山を作っていたが,俺は昨日の戦闘のことが
気になっていたので,ヴィータを呼ぶことにした。

5分程してブザーがなったのでどうぞと返すと,
訓練用のトレーニング服姿のヴィータが現れた。

「おーっす,ゲオルグ。もう大丈夫か?」

「ああ。もうすっかり大丈夫だよ。悪いな,訓練中だったか?」

「いや,ちょうどフォワードの訓練が終わったとこだからいいぞ」

「そうか。来てもらったのはな,昨日の戦闘のことでちょっと
 聞いておきたいことがあったからなんだよ」
 
俺がそう言うと,ヴィータは渋い顔をした。

「あー,あれかー。なんつったらいいかなー」

「とりあえず俺が把握できてるのは,ヴィータが飛行型ガジェットを殲滅して
 スバルとティアナのところに戻ろうとしたところで何かに気づいて
 慌ててたこと。あとは,2人を叱り飛ばして下げさせたこと位だな。
 その間に何があったのか知りたい」

「あんときあたしが戻ろうとしたらティアナが無茶な射撃をやろうとしててな,
 一発がスバルに直撃しそうになってたから,慌ててあたしが
 はじき飛ばしたんだよ。
 後から確認したら,カートリッジを4発ロードしてたみてーだな」
 
「4発!?そりゃいくらなんでも無茶がすぎるだろ」

「ああ。あたしもそう思う。で,あたしがティアナを叱り飛ばしてたら,
 スバルが自分の動きが悪かったからだーなんてティアナをかばうからさ,
 あたしもカッとなっちまって,あいつらにすっこんでろって言っちまった
 ってわけだ」

「なるほどね。まぁヴィータの言ってることは正論だし,
 2人を下げたのもまあ,妥当な判断じゃないかな。
 で?ティアナがそんな無茶をした理由は?」

俺がそう聞くと,ヴィータは腕を組んで少し考え込んでから口を開いた。

「そこは,あたしにもわかんねーな。ゲオルグが気を失ってる間に
 なのはがティアナと話したみてーだけど」

俺は,ヴィータの答えを聞くと少し考え込んだ。

(多分,お兄さんの件が遠因にはなってるだろうな・・・
 隊長たちには話をしとくか・・・)

「わかった。俺もちょっとティアナのことは気にしておくよ」

俺がそう言うと,机の上の電話が鳴った。
俺はヴィータにちょっと待っておくように伝えると,電話をとった。

「シュミットだ」

『あ,ゲオルグくんか?おはよう,はやてやけど』

「おう,おはよう。どうした」

『ちょっと隊長・副隊長陣に集まってもらって話がしたいんやけど,
 私の部屋まで来てくれるか?』

「わかった。ちょうどヴィータも一緒にいるから連れてくよ」

『うん。頼むわ』

電話を置くとヴィータにはやてからの電話の内容を告げ,ヴィータといっしょに
部隊長室に向かった。



部隊長室に入ると,まだはやてしかいなかった。
俺とヴィータは,はやてに勧められるまま部隊長室のソファーに座った。

「ゲオルグくん,昨日は大変やったね。もう大丈夫か?」

「うん。おかげさまでもうすっかりいつもどおりだよ」

「そらよかった。あと,ごめんな」

はやてはそう言うと,深く頭を下げた。

「ん?何が?はやては何も悪いことしてないだろ」

俺がそう言うとはやては首を横に振った。

「部隊長として,総指揮を取る立場にありながら,
 フェイトちゃんとなのはちゃんっていう大きな戦力を会場内に配置したんは
 私の戦術構想が間違っとった。
 要人警護を敵戦力の迎撃より優先するべきやなかったって反省しとる。
 しかも,前線指揮官が負傷する事態になったんやから余計や」

はやては,苦しそうな顔でそう言った。
俺ははやての柔らかそうな頬をつまむと,ムニっと引っ張った。

「ま,そこははやての戦術構想に納得した俺も同じだよ。
 それに,結果論から言えばはやての戦術構想は間違ってたかもしれないけど,
 要人警護が今回の作戦でそれなりのウェイトを占めてたのは事実でしょ。
 あと,俺が怪我したのは俺自身の油断のせい。
 責任を感じるなら前線指揮を引き受けておきながらそれを最後まで
 全うできなかった俺の方。OK?」

俺がそう言うとはやては俺につねられた頬を押さえながら
恨みがましそうな顔をしていた。

「そやけど!」

はやてはなおも言い募ろうとするので俺はまたはやての頬をムニムニした。

「そやけどじゃないの。そもそもはやてはなんでも背負い込みすぎだよ。
 もうちょっと肩の力抜いて行こ!」

「むぅ,判った。そやけど今後はいくらゲオルグくんでも一人で動くんはなし。
 これは部隊長命令やからね。破ったら処分するから」

はやてはウインクしながらそう言った。

「・・・善処します」

「何か言うたか?」

「いえ,今後は単独行動しません,八神部隊長」

「よろしい!」

はやてがそう言うとちょうどドアが開いて,
なのは・フェイト・シグナムが入ってきた。
全員がソファに座ったところで,はやてが真剣な顔で口を開いた。

「今日みんなに集まってもらったんは昨日の戦闘の件でちょっと
 気にかけておいて欲しいことがあるからなんよ」

はやてがそう言うとフェイトが口を開いた。

「それは,ゲオルグが負傷したこと?」

「いや,そっちもない事はないけど,本題やないねん。
 本題は,こっちや」
 
はやてはそう言うとモニターに昨日の戦闘の映像を映した。
それは,ティアナが4発のカートリッジをロードし
自分の制御できる範囲を超えたクロスファイアシュートを撃った挙句,
制御しきれなかった1発がスバルに命中する寸前でヴィータが
弾き返したシーンだった。

「このフレンドリファイアそのものとティアナが無茶をしたことに関しては
 既になのはちゃんの方から注意してもらっとる。そうやね?」

「うん。ティアナには今後こんな無茶はしないように伝えたよ」

はやての問いかけに対しなのはが答えた。

「ありがとう。そんときなんやけど,ティアナは何か言っとった?」

はやてが重ねてなのはに聞くと,なのはは少し考え込んでから口を開いた。

「そうだね。ティアナとしては,この部隊での自分の立ち位置について
 悩んでるというかコンプレックスを持ってるというか,
 そんな感じだったよ。あと,早く強くならなくちゃって焦ってる感じ」

なのはがそう答えると,はやては頷いた。

「やっぱりそうか。フェイトちゃん」

はやてがフェイトに話を振るとフェイトは頷いて,話し始めた。

「私のほうでティアナの過去について調べてみたんだけど,
 ティアナがなんでそう考えるようになった
 原因らしきものを見つけたんだ」

フェイトはそこで一旦言葉を切り,一枚の資料をモニターに映し出した。

「ティアナは早くにご両親を亡くしてて,お兄さんに育てられてた
 らしいんだけど,そのお兄さんは首都防空隊の魔導師だったんだ。
 で,ある事件で違法魔導士を追跡中に死亡してる」

フェイトがそこまで話すと,なのはが口をはさんだ。

「それがティアナの焦りの原因なの?」

「ううん。実は死亡事故の調査委員会で,管理局員なのに犯罪者を
 取り逃がすなんて役たたずだ。みたいな意見が出たらしくて」

「なるほど,それでティアナは兄が優秀な魔導師だったと証明したくて
 早く強くなろうとしている訳か・・・」

「ひでー言い草だな・・・」

フェイトの言葉を受けてシグナムとヴィータが言った。
周りを見ると全員が沈痛な表情をしている。
その時,はやてと目があった。

「ゲオルグくんはこのこと前から知ってたんとちゃうか?」

はやては確信したような顔でそう言った。

「・・・まぁ,知ってたよ。
 6課設立前にフォワードの身上調査は一通りやったからね」

俺がそう言うとなのはが何かに気づいたように俺を見た。

「それって,スバルとティアナのBランク試験の時に見てた・・・」

「そうだね。あの資料にすべて書いてあったよ。
 ティアナのお兄さん,ティーダ・ランスターの死亡事件についてもね」

「なんで教えてくれなかったの?」

「1つには個人情報だから軽々に話す気にはなれなかった。
 あと1つは,これがここまで大きな問題になるとは認識してなかった」

俺がそう言うとなおもなのはが食ってかかろうとしたが,
はやてがそれを遮った。

「それに関しては今更やし,ゲオルグくんの判断もその時点では
 誤りやったとは言えんやろ。現に問題が顕在化したんは今回が
 初めてやったし。それより,ゲオルグくん」

はやてはそう言うと俺の顔を見つめた。

「さっきゲオルグくんは,事故やのうて事件って言ったな。
 ちゅうことは,ティーダ・ランスターの死亡には何か
 裏があるんか?」

はやてがそう言うと,全員の目が俺に集中した。

「まあな」

「説明してくれるか」

はやてがそう言うと,俺は一度深呼吸をしてから話し始めた。

「細かい話は省くけど,ティーダ・ランスターの遺体に残されていた傷と
 ティーダ・ランスターが追っていた違法魔導師の能力を比較してみると
 両者に齟齬があることが判明している。
 このことは事故調査委員会でも議題に上がってるんだが,
 追加調査をしようとしたところで,何者かの圧力によって
 調査が打ち切られてる。
 で,結局事故原因はティーダ・ランスターの独断先行と
 能力不足という結論で調査は終了。
 挙句に地上本部上層部からさっきのようなコメントが出た訳だ」

俺がそこまで話すと,はやて以外の全員が目を丸くしていた。

「その圧力っちゅうのはどこから?」

「はやての疑問はもっともだけど,さすがにそれは記録に残ってない。
 だからここから話すことは,俺の推測なんだけど・・・」

「ええよ。話して」

「事故調査委員会に圧力をかけられると言えば,地上本部の上層部あるいは
 管理局中央の上層部しかない。本局がこの件に介入する権限はないからな。
 それに加えて地上本部上層部から意図的とも思えるようなコメントが
 出ていることから考えると・・・」

「地上本部のトップに近い何者かが圧力をかけた可能性が高いっちゅうわけか」

「ああ。まぁ,その地上本部上層部の何者かがさらに上から圧力を受けている
 可能性は否定できないけどな」

俺がそう言うとはやては腕を組んで考え始めた。

「そやけど,地上本部の上層部なんてゲイズ中将のイエスマンの巣窟やろ?
 っちゅうことは,圧力の出処は・・・」

「まぁ必然的にそうなるわな」

俺がそう言うと,部屋の中はしんと静まり返った。
しばらく全員が黙り込んでいたが,フェイトが俺に目を向けてきた。

「でも,よくここまでの情報を集められたね。ゲオルグ」

「そら,ゲオルグくんは情報部におったからなぁ。こういうのは得意やろ」

はやてがそういうと,フェイトは納得したように頷いた。

「まぁ,証拠がない以上推測の域を出る話ではないから,みんなこの話は
 他言無用に頼むで」

はやてがそう言うと,全員が黙って頷いた。

 
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