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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第17話:悪ノリも計画的に


俺となのはは,肩を落として隊舎の方に歩いていくフォワード達を見送った。

「ちとやりすぎたかな。後でフォローしといて」

俺がそう言うと,なのはは苦笑しながら,了解と返してきた。

「で,ゲオルグくんから見てあの子達はどう?」

「たった3週間であそこまで変わるとはね,予想外だよ」

「でしょ?4人とも頑張ってるもん」

なのははそう言うと,だいぶ小さくなったフォワード達の背中に向けて,
慈しむような笑顔を向けた。

「確かにあいつらの頑張りは認めるけど,それよりなのはの教導が
 いいんだと俺は思うよ。お前,マジでいい先生だな」
 
「へ?そうかな」

「うん。情報部に居た頃から,噂では聞いてたけどさ。
 本当にすごい教導官になったんだな。感心したよ」

俺がそう言うと,なのはは少し頬を染めていた。

「なんか調子狂っちゃうな。私いっつもゲオルグくんにはイジメられて
 ばっかりだから,そんなふうに褒められちゃうと照れちゃうよ」

「いやいや,イジメてるんじゃなくてイジってるの」

俺がそう言うと,なのはは頬を膨らませて不満そうだった。

「私にとってはどっちでも一緒だよ。まったく,ゲオルグくんは・・・。
 ま,あんまり度がすぎるようだったら,フェイトちゃんに言いつけるから」

「ぐえぇ。それは勘弁・・・」

俺が本気で嫌そうな顔をすると,なのはは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「にゃはは。だから,あんまりやりすぎないようにね」

なのはがそういうと,キューっという音が鳴った。
なのはの方を見ると,顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。

「・・・聞こえた?ゲオルグくん」

「いいえ,なのはのお腹が鳴る音など,聞こえておりませんが」

「もう!絶対,聞こえてるじゃん!うぅ,恥ずかしい・・・」

なのははそう言うと,肩を落としてシュンとなっていた。

(しゃーねーな。ちょっとだけ気を使ってやるか)

「ところでなのは。俺当直明けで動いたからもう腹減ってさ。
 よかったら朝飯付き合ってくれない?」
 
「え?あ,うん。もちろん」

「よし,じゃあ行くか!」

俺はそう言うと隊舎に向かって歩き出した。



食堂につくと俺はいつもの朝食セットを頼んだ。
ここの朝食セットはおかずが日替わりなので飽きがこないし,
量もほどほどなので,デスクワークがメインの俺にはピッタリなのだ。

空いている席を探して座ると向い側になのはも座った。
なのはのメニューを見ると,俺の1.5倍はあろうかという量だった。

「お前さ,朝からよくそんなに食うよな」

俺がそう言うと,なのははいつものように頬を膨らませる。

「あのさ,ゲオルグくん。女の子にそんなこと言ったらダメだって
 何回いえばわかってくれるのかな?だいたい,さっきまで教導で
 動き回ってたんだから,これくらいはしょうがないと思うの」

「はいはい。そんなに必死にならなくてもわかってるよ」

俺が投げやり気味にそう言うと,なのははとても不満そうだった。

「ふん!いいもん。だいたい,ゲオルグくんはそんなので足りるの?」

「ん?俺は誰かさんみたいに肉体派の局員じゃなく,頭脳労働派だから
 これくらいで十分。足りなきゃ,仕事中に甘いもの食べるし」

「だめだよ,仕事中におやつなんて食べたら。マナー違反だよ」

「俺には副部隊長室っていう鉄壁の城塞があるから大丈夫」

副部隊長室の窓際にあるキャビネットには,書類でなくお菓子が
詰まっているのは,誰も知らない俺の秘密だ。

「ずるーい!私なんかみんなの手前,仕事中は我慢してるのに!
 私も教導官室欲しい!」
 
「個室が欲しけりゃ偉くなれ!というのは,かの3提督の名言です」

「いやいや,それ絶対でたらめだよね。それにしてもいいなぁ個室。
 私にもちょうだい,ゲオルグくん」
 
「はやてに言えよ。というかおやつのために個室をおねだりする
 分隊長というのはいかがですか?スターズ04ことランスター二士」

俺は,たまたまそばを通りかかったティアナに話を振った。

「はい?何の話ですか?」

「うん実はな・・・」

「ティアナ!なんでもないから行っていいよ!」

「は,はい・・・」

「と,俺がなのはの真実をティアナに教えてやろうとすると,
 なのはがものすごい剣幕で邪魔をしたので,ティアナは
 すごすごと去っていったのだった」

「なんでそんな説明口調!?ていうか,ゲオルグくんのおかげで,
 私の威厳が崩壊の危機だよ・・・」
 
「いやぁ,そんなふうに言われると照れますなぁ・・・」

「褒めてないから!!」

そんな感じで雑談をしながらゆっくりと朝食をとっていると,
ピンポンパンポーンとチャイムが鳴った。

『緊急招集,緊急招集。スターズ01・ロングアーチ02は至急部隊長室へ』

はやての声でかかった放送を聞くと,俺となのはは勢い良く立ち上がった。
ちなみに,ロングアーチ02は俺のコールサインだ。

「行くぞ!なのは!」

「うん!」


食堂から全力疾走で部隊長室の前まで来た俺となのはは,
部屋のなかに駆け込んだ。

「どうした,はやて!」

「何があったの,はやてちゃん!」

俺たちが部屋に入ると正面のデスクに座り,デスクに肘をついた両手を組んだ
はやてが,重々しい顔をしていた。
その横には,沈痛な表情をしたフェイトが立っていた。

「大問題発生や。2人ともこれ見て」

はやてはそう言うと,1枚の紙を自分のデスクの上に置いた。
俺となのはは,2人で覗き込んだ。
それは,俺となのはが抱き合い,赤い顔をして見つめ合っている写真だった。

「ちょちょちょちょっとはやてちゃん!これどうしたの!!」

なのはが真っ赤な顔をして言った。

「ある筋から私にタレコミがあったんよ」

はやてがそう言うと,フェイトが続いた。

「なのは。2人はいつから付き合ってるの?」

「え?え?え?フェイトちゃん?ちょ,それ誤解・・・」

「言ってくれれば私だって,ちゃんと2人のことお祝いしたんだよ」

「いや,だからフェイトちゃん。誤解なんだって!」

「・・・ゲオルグくんの見解はどうなんや?」

はやてがそう言ったところで俺の意識はなくなった。


・・・10分後。
俺は,目を覚ました。
体を起こして部屋の中を見回すと顔を真っ赤にしたフェイトと,
机を叩きながら爆笑しているはやてと,頭を抱えているなのはが見えた。

「何があったんだ?」

《マスターは,なのはさんとマスターが抱き合っている写真に興奮して
 倒れたんです》
 
「・・・そうだ!はやてもフェイトもそれは事故だぞ!
 俺となのはは付き合ってないぞ!」
 
「うん,もうなのはから事情は聞いたよ。ゴメンね誤解して・・・」

フェイトが赤い顔のまま,小さな声で言った。
その横で,相変わらずはやては爆笑している。
その様子を見て,俺はすべてを把握した。

「・・・はやて」

「ん?なんや?ゴメン今腹筋痛くて・・・」

「・・・なのは」

「うん,そうだね。はやてちゃん。悪いけど今回ばかりは勘弁できないよ」

「ああ,いくら部隊長でもやっていいことと悪いことがあるよな」

俺となのはがうつむいて小声でそう言うと,はやては急に焦り出した。

「ちょっ,待ち!二人とも。謝るから!ゴメンって!やりすぎたのはゴメン!」

「・・・ちなみに写真を提供したのはレーベンだな」

俺は,はやての言葉に反応せずにそう断定した。

《・・・マスター?》

「・・・そうだな,レーベン」

《・・・はい,私が撮影し,はやてさんに送信しました》

「・・・2人とも,覚悟はいいよね」

俺はなのはのその言葉を聞くと,
はやての制服の後ろ襟を掴みそのまま引きずって窓から外に出た。
俺の後にはなのはが続いている。
はやてが何か言っているが俺には聞こえない。

「・・・レイジングハート」

《All right》

「・・・はやて。コイツを持って行ってくれ。三途の川の渡り賃がわりだ」
俺はそう言うと,待機状態のレーベンをなのはのバインドで縛られた
はやての首にかけた。はやての口が何かを言おうとしてパクパクしているが,
残念ながら俺には届かない。

「・・・スターライトブレイカーでいいかな?」

「・・・ディバインバスターで十分だろう」

「・・・しょうがないなぁ。じゃあ行くよ」


「本当に,すみませんでした!」

部隊長室で手を腰に当てた俺となのはの前ではやてが土下座をしていた。
結局,なのはは撃たなかったのだが,はやては十分肝を冷やしたようだった。
俺となのはは,はやてに2度とこのようなことはしないことを誓わせると
満足して部隊長室を後にした。


その日の夜,おれはクレイの店を訪れていた。
いつもの会話を店で交わしたあと,店の裏にあるスペースに入ると
クレイは,一枚のチップを俺に手渡した。

「ご注文の品はそのチップの中に全部入ってますんで」

クレイはそう言うと,自慢げな笑みを俺に見せた。

「足はついてないだろうな」

「旦那,俺がそんなヘマすると思います?アクセスログなんか
 残すわけないでしょ」

「そうか。ならいい。邪魔したな」

「へいへい。また何かあったらいつでも言ってください」

俺は,店をあとにすると,自分の車で隊舎に戻った。
自室に入ったあと,個人用の端末で簡単にデータを確認した。
俺がクレイに盗ませたのは,新暦67年の地上本部のすべての通信記録と
すべての公式文書,そして時空管理局中央の庁舎の図面だった。
その両方がきちんとあることを確認すると,レーベンに話しかけた。

「レーベン。公式文書からゼスト隊の作戦計画書をすべて抽出するのと,
 6月分の通信記録をすべて抜き出すのにどれくらいかかる?」

《1晩あれば十分です》

「そうか,じゃあ明日の朝には見れるな」

《はい》

「それと,レーベン」

《はい》

「度を過ぎた悪ノリは今後一切禁止だぞ」

《悪ノリはマスターも好きではありませんか》

「・・・レーベン」

《はい,了解致しました。マスター》

俺はレーベンの返答に満足すると,眠りについた。

 
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