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英雄伝説~西風の絶剣~

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第72話 キャプテン・リード

side:リィン


 俺は姉弟子と共に谷底に落ちていく。このままでは死んでしまうぞ、なにか考えないと……!


 すると底の方に水が溜まっているのが見えた。これなら……いやこの高さからだと如何に水とはいえ硬い石の床と変わらないだろう。間違いなく体がバラバラになってしまう。


「グォォォォォッ!」


 しかも大きな魚のような魔獣が出てきて大口を開けているじゃないか。どのみち絶体絶命に変わりない。


「はっ!」


 俺は近くの岩場にワイヤーを伸ばして間一髪魔獣の口にダイブするのを阻止した。だが……


「嘘だろ!?」


 結構な衝撃だったからかワイヤーが切れてしまった。俺とフィー二人分の体重なら支えられるくらいの強度はあったけど姉弟子だとちょっと重かったか……!


 姉弟子を抱えながら頭から水面にあたった。幸い途中でワイヤーがクッションになったため体がバラバラになることは防げたが……


「姉弟子!?大丈夫ですか、姉弟子!」


 姉弟子が気を失ってしまっていた。どうやら水に落ちた際に気を失ってしまったみたいだ。


「くそっ!早く陸に上がらないと……!」


 俺は姉弟子を抱えて陸地を探す。すると遠くに穴のような場所がありそこに向かうことにした。


「キシャアアアッ!!」


 だが背後からさっきの魔獣が追いかけてきた。急がないと……!


 だが水中では動きにくい上に姉弟子を抱えている、魚型の魔獣である向こうの方が泳ぐのも早くこのままではすぐに追いつかれてしまう。


「姉弟子、雑に扱う事になって申し訳ありません!」


 俺は鬼の力を使い姉弟子を上空に投げた。そして太刀を抜いて上段に構える。


「業炎撃!」


 そして飛び掛かってきた魚型の魔獣の脳天に一撃を喰らわせた。地上じゃないので踏ん張りがきかず威力は落ちているがまさかの反撃に魔獣は怯み逃げていった。


「ふう、何とかなったか……じゃなくて姉弟子!」


 俺は落ちてきた姉弟子を優しくキャッチする……ってマズイ!姉弟子息をしていないじゃないか!


「うおおおおっ!!」


 鬼の力を全開にして必死に泳ぎ穴の中に入る。そしてすぐに姉弟子の状態を確認する。


(水を飲んだのか……なら人工呼吸しないと!)


 俺は直ぐに胸骨圧迫と人工呼吸を始めた。回復アーツもかけながら必死でそれらを続けていく。


「……ゴホッ!?」


 よし、姉弟子が水を吐いたぞ!俺はそのまま応急手当を続けていく。


 それから暫くして姉弟子はなんとか助かった。本当に良かったんだけど……


「……」
「……」


 現在ちょっと気まずい状態にある。というのも濡れた衣服をアーツで起こした炎で乾かしてるんだけど衣服を脱いでいるためお互い下着姿なんだ。


 しかも人工呼吸したって事はその……キ、キスしちゃったことだし……ああするしかなかったとはいえやっぱり気まずいな……


「あ、あの……」
「な、なんですか……?」
「ありがとうね、弟弟子君のお蔭で助かったよ。君は命の恩人だね」
「無事で良かったです、本当に……」
「……そんなに気にしなくていいよ?そうしなきゃ私は死んでいたかもしれないし。それに弟弟子君が初めてのキスの相手なら嫌じゃないし……」
「そ、そうですか……」


 ……よし、気を切り替えよう。姉弟子は助かったんだしこれ以上このことを掘り返すのは良くないな、うん。


「ところでケビンさんは無事でしょうか?」
「どうだろう?急いで合流した方が良いのは分かってるんだけど……」
「水の中にはアイツがいますからね……」


 さっきの魔獣が水の中にいる以上ここから進むのは危険だ。さっきは不意を突いたから追い払えたけど今度は向こうも警戒してくるだろうし奴のテリトリーである水中で戦うのは無謀だからな。


「……あれ?弟弟子君、この穴奥に小さい隙間があるよ?」
「えっ……?あっ、本当だ」


 よく見ると穴の奥に亀裂があり本当にギリギリ人が通れるくらいの隙間があった。


「この隙間通れるかな?」
「ん~……この姿なら何とか通れそうですね」
「えっ、この姿って下着姿の事?」
「はい、じゃないと通れないと思います。無理して通ろうとしたら最悪挟まってしまうかもしれません」


 ミズゴケで滑るし服を着ていない今の下着姿なら何とか通れるかもしれない。俺は乾いた衣服を手に持って隙間を通ろうとする。


「どう、弟弟子君?」
「かなり狭いですね……でも何とか通れそうです」


 俺はなんとか隙間を通って向こう側から姉弟子に返事を返した。


「姉弟子はどうですか?これそうですか?」
「んしょ……うん、だいじょうぶ!かなりキツイけどミズゴケで滑るからイケそうだよ!」


 良かった、姉弟子もこちらに来れそうだな……ってええっ!?


「やったぁ!無事に通れたよ!」
「あ、姉弟子!前を隠してください!」
「えっ?」


 姉弟子が女の子だと言う事を忘れていた!どういう事かというと女の子は男より胸が出てるから……その……


「きゃっ……きゃああああっ!」


 壁に擦れて下着が破れてしまっていたんだ……


「み、見ないで!!」
「見てません!とにかく絆創膏を渡すのでそれ使ってなんとかしてください!」


 俺は後ろを向いて姉弟子を視界に入れないようにした。そして持っていた絆創膏を姉弟子に渡してお互いに服を着る。


 えっ、絆創膏を何に使うのかって?……聞かないでくれ。


「うぅ……まさかこんな事になるなんて……弟弟子君、本当に見てないよね?」
「見てませんよ」
「本当に?」
「本当です」
「……そっか、良かった。私って〇輪が大きいから人に見られるの恥ずかしいんだ」
「えっ、そうなんですか?俺も他人のなんて見た事無いからよく分からないけど多分普通の大きさだったような……」
「……」
「……あっ」
「やっぱり見てるんじゃない!弟弟子君のエッチ!!」
「べふっ!?」


 涙目になった姉弟子のビンタを喰らい俺の右頬に真っ赤な紅葉が咲いた。余裕そうに詩的な感じで言ったけど痛いよ……


―――――――――

――――――

―――


「うぅ……やっぱり違和感を感じるよ……」
「……」


 その後なんとか許してもらえた俺は姉弟子と共に暗い洞窟を進んでいく。幸い俺は防水加工したライトを用意しておいたから何とかなったよ。


 ただそれでも暗いので足元を注意しながら姉弟子と手を繋ぎ慎重に進んでいく。


「……」
「……」


 ただ会話は無い。それはそうだろう、気まず過ぎる。ただ姉弟子の握ってる手が何故かちょっと強いのが分からない。やっぱり怒ってるのだろうか。


 とはいえそんな事も聞けるはずもなくただただ前を進み続ける。すると更に広い空間に出る。


「うわぁ……もはや船の中とは思えないね」
「ええ、秘境を探検してる気分です」


 鍾乳洞の洞窟に光が差し込み流れる滝に反射して綺麗な風景を見せる広い空間を見て俺はそう呟いた。特異点と言うのは何でもありなんだな。


「ここから先は足場も狭いしまた落ちないように気を付けましょう」
「うん、早くケビンさんと合流しないとね」


 広くはなったけど相変わらず足場は悪い。先ほどのように落ちないように気を付けて進もう。


 襲い掛かってくる骸骨の魔獣と新たに出た蝙蝠のような魔獣や蛇のような魔獣を撃退しながら先を進んでいく。


「なんか骸骨の魔獣が強くなってきてない?」
「ええ、罠も使ってくるようになってきましたし銃も持っていましたよ。ただの魔獣とは思わない方が良いですね」


 俺は銃弾を弾きながら骸骨の魔獣を4体切りさいた。道具まで使うとは本当にこの骸骨たちはただの魔獣なのだろうか?

 
 そんな疑問も今は意味がない、とにかく先を進んでいくしかないな。


 足場を飛び越えて段差を駆け上がり前に進んでいく。途中で足場が崩れて姉弟子が落ちそうになったりしたときに俺が手を差し伸べ、俺に目掛けて落ちてきた岩を姉弟子が光破斬で砕く、といった風にお互い助け合いながら先を目指す。


「えへへ、こんな状況なのに何だか楽しくなって来ちゃった」
「どうしてですか?」
「だってこんな風に一緒に助け合って冒険するの初めてだから。エステルちゃんが来るまではみんな先輩ばっかりだったし私は迷惑ばっかりかけちゃってたからさ。弟弟子君に頼ってもらえるのが嬉しいんだ」


 そうか、姉弟子は今まで対等な存在がいなかったんだな。


 同門である兄弟子のカシウスさんとアリオスさんは格上過ぎて雲の上の存在だし、エステルが遊撃士になるまでは姉弟子が一番の後輩だったんだろう。


「俺は姉弟子を頼りにしてますよ。なにせ初めての姉弟子ですから」
「ふふっ、なら弟弟子君の期待に応えないとね」


 俺もフィーが現れるまでは西風の旅団の皆に守られてきた、でも守られるだけじゃなく頼りにされたかったんだ。


 だから姉弟子の気持ちはわかるよ、頼られるのは嬉しいからな。


「うわわ!?なにこれ!?」


 すると俺達がいた足場が急に崩れはじめた、恐らく元凶の仕業だろう。


「でもここは俺に任せてもらいますよ!だって俺も姉弟子に頼りにされたいですから!」


 俺は鬼の力を使い姉弟子をお姫様抱っこする。そして崩れる足場を一気に駆け抜けていく。


「はぁぁぁぁっ!!」


 そのまま足場の先にあった遺跡のような場所にジャンプする。


 ふう、何とかなったな。


「あはは、弟弟子君張り切り過ぎだよー。でもかっこよかったよ」
「ちょっとカッコつけすぎましたね」


 姉弟子を下ろしてハイタッチをする。


「ん……?」
「また地震?」


 だが安心する間もなく地震が再び起こる。すると上から大量の水が流れてきて俺達を押し流した。


「きゃあああっ!?」
「姉弟子!掴まってください!」


 俺は姉弟子と離れないように何とか彼女の手を掴んで抱き寄せた。そのまま流されていき水中に放り込まれる。


(姉弟子!大丈夫ですか!?)


 俺は姉弟子に合図をすると彼女はコクリと頷いた、どうやらさっきのように気を失っていないようだな。


 だがここは穴の中らしく水面が無いようだ、このままだと溺れてしまう。


 俺は姉弟子を連れて水中を進む、早く息が出来るところを探さないと!


 だがその時だった。激しい衝撃と共に壁を突き破って何かが現れた。


(あれはさっきの魚型の魔獣!?ここに来ていたのか!)


 現れたのはさっき俺達に襲い掛かってきた魚型の魔獣だった。幸い俺達には気が付いていないようでしかもありがたいことに奴の空けた穴が丁度空洞になって息が吸える。


「弟弟子君、さっきの奴を知ってるの?」
「俺達を襲ってきた化け物です。姉弟子は気を失っていたから見ていなかったんですよ」
「そうなんだ、あんなヤバそうな奴がいるなら気を付けて進まないとね」
「ええ、見つかったらおしまいです」


 息継ぎをしながら姉弟子にさっきの魔獣について答える。この水中で見つかったら奴には勝てない、とにかくまずは陸に上がらないと。


 そして水中に戻って先を進む。何とか奴に見つからずに進めているな。


(ん?あれは……光?)


 水中に光が差し込んでいた、つまり外に出たのかもしれない。


(姉弟子、あと少しです)


 俺は合図を送ると姉弟子も外が近い事に気が付いたのかコクリと頷いた。だがその時再び激しい衝撃と共に魚型の魔獣が現れた。


(クソっ、見つかったか!)


 俺達は必至で泳ぐがやはり向こうの方が早くこのままでは追いつかれてしまう。


 魔獣が姉弟子に噛みつこうとする、それを見た俺は鬼の力を解放して割り込んだ。


(弟弟子君!?)


 姉弟子を庇った俺は魚型の魔獣の口に挟まれた。幸い噛まれる前に両手と両足でつっかえることが出来たがこのままではいずれ力負けするだろう。


(このまま食われてたまるか!)


 俺は太刀を抜いて魚型の魔獣の目に突き刺した。だが魔獣は怯んだが俺を離そうとはしない、凄い執念だ……!


(弟弟子君、今助けるよ!)
(姉弟子!?)


 なんと魔獣の体に剣を刺して姉弟子も付いてきていた。姉弟子は魔獣の体を剣を使ってよじ登っていく。


 そして魔獣の顔に到着すると剣を構えて反対の目に突き刺した。


 これにはさすがに耐えられなかったのか魔獣はのたうち回って壁に激突した。同時に俺も放り出されるがそこに倒れてきた魔獣の体によって足を挟まれてしまった。


(くそっ、早くどかさないと!)


 魔獣の体を動かそうとするが酸素がそろそろ切れそうで力が出ない、このままじゃ窒息してしまう!


 すると姉弟子がこっちに泳いでくる。


(姉弟子!貴方だって酸素がもう持たないはずです!先に上がってください!)


 俺はそう合図をするが姉弟子は首を横に振って俺の側まで来た。


(弟弟子君、今助けるからね!)


 姉弟子は俺の側に来るとなんと俺にキスをしてきた。すると俺の肺に空気が流れこんでくる。


(姉弟子は俺に空気を渡しに来たのか!でもそんなことをしたら……!)


 俺に酸素をくれた姉弟子はニコッと笑うと意識を失った。俺は再び鬼の力を発動させると魔獣の体をどかして姉弟子を抱えて急いで浮上する。


「ぷはっ……!姉弟子!しっかりしてください!」


 俺は姉弟子に声をかけるが後ろから魚型の魔獣が襲い掛かってきた。


「しまった!まだ生きていたのか!?」


 魔獣は死ぬとセピスになるが慌てていたからそのことを忘れてしまっていた。


 俺はせめて姉弟子だけでも守ろうと盾になるが、そこにアーツが飛んできて魔獣を吹き飛ばした。


「今のはストーンインパクト!?ということは……」
「アビス・フォール!!」


 魔法陣が現れてそこから召喚された異界の存在が闇の魔力を投げつける。魚型の魔獣に当たると魔法陣が発動して魔獣を闇に引きずり込んでいった。


「二人とも、大丈夫か!」
「ケビンさん!」


 ケビンさんだ!無事だったんだな、良かった。


 俺はケビンさんと合流して姉弟子の様子を確認する。どうやら命に別状はないみたいだな。


「そうか、そないな事があったんやな。ホンマよう無事でおったわ」
「ケビンさんは大丈夫だったんですか?」
「まあな。俺は仕事柄一人で行動しとるし幸い魔獣が多いだけでそこまで厄介なことはなかったんや」


 そんな会話をしながら姉弟子が目を覚ますのを待つ。暫くすると姉弟子が目を覚ました。


「あれ、ここは……」
「姉弟子!」
「わわっ!?」


 起き上がった姉弟子を見て俺は嬉しくなり彼女の抱き着いてしまった。


「姉弟子、なんであんな無茶したんですか!ヘタしたら死んでいたんですよ!」
「ごめんね。でもあの状況じゃ私達二人とも酸素が切れて死んじゃう可能性が高かった、だから弟弟子君を信じて任せようって思ったの」
「信頼してくれるのは嬉しいですけどもうあんなことはしないでください。怖くて心臓が止まりそうでしたよ……」
「弟弟子君……」


 泣きそうになる俺を姉弟子は優しく抱き返してくれた。


 姉弟子に偉そうに言ったが俺もフィーや西風の旅団の皆にこんな思いをさせてきたのかもしれないと思い、俺はもう一人で絶対に無茶はしたくないと思った。


「二人とも、そろそろええか?」


 ケビンさんに言われて俺と姉弟子は状況を思い出してバッと勢い良く離れた。お互い顔も真っ赤だ。


「実はこの先に怪しい扉があるんや。そこに元凶がおるかもしれん」
「本当ですか?てっきりあの魚型の魔獣が元凶かと思いましたが……」
「奴が元凶ならとっくに解放されとるわ。ボスは間違いなくその扉の先におるで」


 あんなヤバそうな魔獣ですら雑魚だったのか……ボスって言うのはどれぐらいヤバいのか想像もつかない。


 だがそいつを倒さない限りココから出ることはできないなら挑むしかない。


 ケビンさんに案内された先には確かに禍々しい雰囲気を醸し出す大きな扉があった。


「二人とも、準備はええか?」
「俺は行けます」
「私も大丈夫だよ」
「ほな行くで、気を引き締めや」


 ケビンさんが扉を開けて中に入っていく。暗い空間をまっすぐ進むとそこは……


「あれ?ここって最初に乗り込んだ船の上だよね?」


 俺達が出た場所は最初に乗り込んだ幽霊船の甲板だった。戻ってきたのか?


「いや、周りを見てみい。雰囲気が変わっとるで」
「本当だ、さっきは霧で何も見えなかったのに今は晴れてるね」



 姉弟子の言う通り今は晴れて先が見える。だがすぐに雨が降ってくると海が荒れて嵐が起こった。


「わっ!?急に嵐になったよ!」
「二人とも、来るで!」


 嵐の海から何かが飛び出してきた、それは長い髪を付けた人間の頭の骨だった。目玉は無いが代わりに赤い光が灯されており俺達を睨みつける。


「わあっ!?髑髏のお化けだぁ!!」


 だが大きさが尋常じゃなかった。頭だけで俺達より大きいからだ。

 
 髑髏の頭が船の上に来ると海から大量の骨が出てきてその怪物に集まっていった、そして骨が重なり体になっていく。


 そして最終的には四本の腕と二本の足を持った人型の化け物になった。四本になった腕には海賊の武器であるサーベル、フック、銃、レイピアがそれぞれ装備されている。


「アナライズ!」


 俺はまず魔獣の情報を解析する。名前はキャプテン・リード……ってこの名前は灯台のお爺さんが言っていた海賊の名前か!?


「つまりキャプテン・リードが悪霊になってこんなバケモンになったっちゅうことか!」


 振り下ろされたサーベルを回避しながらケビンさんがそう話す。


「弱点は特にないです!でも水系のアーツは耐性があるので使わないでください!」
「なら別のアーツで攻撃すればいいんだね!ファイアボルト!」


 姉弟子が炎の塊をキャプテン・リードにぶつける。効果はあるらしく苦しそうなうめき声を上げた。


「そこだ!紅葉切り!」


 怯んだ隙を突いてサーベルを持っていた腕を斬りさいた。


「やった!この調子で……」
「いや、そう簡単にはいかんようやで」


 斬られた腕が浮き上がって再びくっ付いてしまった。普通に斬っただけでは駄目なのか!?


「そんな……無敵って事なの!?」
「いやこういう場合は必ず何らかの弱点があるはずや。それをまず探すんや!」


 この手の現象に詳しいケビンさんが弱点があるというが……こうなったら全身を切り裂いて弱点を暴いてやる!


「疾風!」
「八葉滅殺!」


 銃での射撃をかわしながら四本の腕を疾風で斬って姉弟子が足に集中攻撃をする。だが直に再生して襲い掛かってきた。


「どうやら腕や足は関係ないらしいな。つまり弱点は頭や!」


 フックとサーベルの同時攻撃を回避したケビンさんが頭目掛けてボウガンを放つがキャプテン・リードはそれをレイピアで弾いた。


「攻撃を防いだ!?」
「ビンゴや!二人とも、そこに集中攻撃するで!」


 頭への攻撃を防いだことでそこが弱点だと分かった俺達は頭に攻撃を仕掛ける。だがキャプテン・リードは体の骨をバラバラに分解して攻撃を避けた。


 しかも分解した骨が俺達に襲い掛かってきた。


「きゃあっ!?」
「ぐっ、一筋縄ではいかへんな……!」


 防御しながら反撃のチャンスを伺うがキャプテン・リードはさっきとは違う姿をしていた。それはまるでドラゴンのような巨大な体格をした化け物だった。


 骨しかない翼で器用に飛びながら青い炎の球を吐いてくるので回避する。


「姿が変わったよ!」
「本体は頭やから姿形は自由自在って訳やな!」
「地味に早くて厄介ですね!」


 放たれた青白い炎のブレスを回避しながら緋空斬や光破斬、ボウガンの矢で攻撃を仕掛けるが全部回避されてしまう。


「駄目、攻撃が当たらないよ!」
「何とかしてアイツの動きを止めへんと……でもアーツを使おうにもあんなに激しく炎を吐かれていたら使う隙もあらへんわ」


 確かにあれだけ早く飛ばれると攻撃も当たらない、アーツを使おうにも激しい攻撃で使ってる暇がない。どうすれば……!


「姉弟子、ケビンさん!俺に作戦があります!」
「作戦?」


 俺はある物を見て作戦を思いついた、二人に作戦の内容を話す。


「上手くいくかなぁ?」
「でも現状それくらいしかやれへんで、ならやってみる価値はあるんとちゃうか?」
「そうだね。弟弟子君の作戦にかけてみようよ!」
「なら早速行動開始です!」


 俺はそう言うと船のマストをジャンプで登っていき張られているロープを斬っていく。それを姉弟子に渡して網を作ってもらう。


 その際キャプテン・リードが襲い掛かってくるが俺は孤影斬を連続で放ちケビンさんのボウガンの矢と共に相手を牽制する。


 因みに何故緋空斬じゃないかというと孤影斬の方が威力は低いが連発できるし速度もあるからだ。まあそれすらも回避されたが今はそれでいい。


「弟弟子君、出来たよ!」
「姉弟子、ありがとうございます!」


 そして完成した手作りの網を分け身を使い持って広げる。そして再び突っ込んできたキャプテン・リードを追い込むように他の二人がボウガンの矢と光破斬を放った。


 それを回避しようと翼をはばたかせて上に上がろうとするキャプテン・リード、そこに俺は奴目掛けてジャンプした。


「喰らえ!」


 そして網を奴の頭に被せて動きを封じた。こんな網じゃ直に破られてしまうが狙いは動きを少しでも封じる事だ、後は……


「そこや!」


 ケビンさんの正確な射撃で放たれたボウガンの矢がキャプテン・リードの額に突き刺さった。

 
 眉間を貫かれたキャプテン・リードはバラバラになって海に落下していった。俺は体勢を整えて甲板に着地する。


「やったの……?」
「アカン!アネラスちゃん!それフラグや!」


 姉弟子によく分からないツッコミを入れるケビンさんだったけど、海に落ちたキャプテン・リードは頭だけになって飛び上がってきた。


「噓!?まだ生きてたの!?」
「いやあれはもう死んどるで」
「そんなツッコミをしてる場合ですか!来ますよ!」


 キャプテン・リードは雄たけびを上げると海から骸骨の魔獣が複数体現れた。最後の抵抗って訳か。


「決着を付けてやる!」


 俺は襲い掛かってくる骸骨たちをかわしながらそのうちの一体を踏み台にしてキャプテン・リードの頭に斬りかかった。


 キャプテン・リードは俺を嚙み殺そうと大きな口を開けるが歯の隙間に太刀を差し込んでそれを足場に上に飛び上がる。


 まさか武器を足場にするとは思っていなかったのかキャプテン・リードは一瞬動きを止めた。その隙をついて眉間に刺さっていたボウガンの矢に拳を叩き込んだ。


「破甲拳!!」


 ボウガンの矢が更に深く刺さりキャプテン・リードの頭から赤い目の光が消えた。俺は太刀を回収すると再び甲板に着地する。


 キャプテン・リードの頭はボロボロに崩れていき消えてしまった。


「どうやら勝ったみたいやな」
「やったね!弟弟子君!」


 ケビンさんは安堵のため息を吐き姉弟子は嬉しさのあまり俺に抱き着いてきた。


 すると空間そのものが揺れ始めた。


「きゃあっ!?また地震!?」
「いやこれは……特異点が崩壊し始めたんや」
「つまり脱出できるって事ですか?」
「そういうことや」


 また何か起きるのか身構えたがケビンさんの話を聞いて安心する。漸く帰れるみたいだ。


「良かったね、弟弟子君。これで帰れるよ!」
「はい、色々ありましたけど姉弟子のお蔭で何とかなりました。ケビンさんもありがとうございます!」
「礼なんてええよ。しっかし……」
「うん?どうかしましたか?」
「いや……リィン君も罪深い奴やなぁって思ったんよ。だってフィーちゃんがいながらアネラスちゃんとそんな熱いハグしとるんやからな」
「ふえっ……?」


 そういえばさっき姉弟子が抱き着いてきてそのままだったな。俺もその直後に地震が起こった時警戒して姉弟子を守れるように抱き寄せてるから密着してる。


 ……というか確か姉弟子は今衣服の下はなにも着けていない……!!


 それに気が付いた俺達はさっきよりも素早い動きで離れた。それを見ていたケビンさんはゲラゲラ笑っている。最後まで閉まらない状況で俺達の意識は白い光に飲まれていった。

  
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